第3話 「テスト」
学校生活には避けては通れないものがいくつかある。
その一つがテストだ。
そして…俺は今それに焦っている。
なぜなら俺は先輩と遊んでばかりで勉強をまったくしていなかったからだ。
このままではまずいと思い、机へ向かって、まずは授業の内容を振り返るためにノートを開いた。
しかしそこにあったのはマス目だけが書かれたノートであった。
そう、授業中も先輩のことばかり考えてしまって、気づけばノートは真っ白だったのだ。
(まずいぞ…)
テストはもう三日後に迫っていた。
幸い、テスト範囲はプリントに書いてあったので知ることができたが、今から勉強して間に合うかは分からない。
今日は金曜日だったので勉強は明日の自分に任せて、眠ることにした。
──目覚まし時計が鳴り小鳥がさえずっている
気持ちのいい朝だ、テストのことがまったく解決していないことを除けば。
俺は朝ご飯を食べながら、考えていた。
(どうしよう?勉強しても間に合う気がしないし)
(いや…だとしても勉強するべきだろう、しかし一人だとやる気が出ないな…)
そこで俺は閃いた、先輩に教えてもらえばいいのだと。
この状況の原因は半分くらい先輩のせいだ。
とりあえず俺は先輩にメールを送ってみた。
【まくらぎ】「テストが迫っているので勉強を教えてください」
【先輩】 『かまわないよ、これでも僕は勉強には自信があるからね』
『それでどこで勉強するのかな?』
しまった、それを考えていなかった。
近くの図書館は持ち込みでの勉強が禁止だし、カフェなどで長時間居座って勉強するのも俺は嫌だ。
家で勉強するのもまず俺の部屋が片付いていないし、そもそも先輩と知り合ってからお互いの家に行ったことはない。
だが図書館もカフェもダメな俺には選択肢はこれしかなかった。
【まくらぎ】 「俺の家で勉強しませんか?」
既読が付いたあと、しばらく返事はなかった。
俺は「やってしまった、流石に家に呼ぶのは早すぎた」と思いつつ、後悔で悶絶しながら床に転がっていると、通知音が鳴った。
【先輩】 『いいよ、そしたら何時にしようか』
俺は驚いた。
もう少しまだ家に行くのは〜みたいな反応があると思っていたがあっさりOKされた。
俺が友人の家に行くことを深く考えすぎていただけなのだろうか。
なにはともあれ、俺は先輩と12時に会う約束をし、俺の家の場所を伝えて、部屋の掃除に取り掛かった。
現在時刻は9時50分。急げば部屋の掃除も終わるだろう。
だがここで俺は余計なことを考えてしまう。
カッコつけたくなってしまったのだ。
先輩が来るんだからいいところを見せたい…と。
そして俺は掃除もせずに、近くの店でリードディフューザーとかいうオシャレっぽいアイテムを買い、無駄に部屋のレイアウトにこだわっていた結果12時になってしまった。
(もうこんな時間になってしまった、まだ片付いていないのに…)
(少しでも片付けなければ…!)
そう思った瞬間、チャイムが鳴った。
来てしまったと思いつつ、俺は急いで玄関へ向かい、ドアを開けた。
『やあ、こうやって家に来るのは初めてだね』
『今日は僕に任せて』
そう言った先輩の姿はとても綺麗だった。
制服ではない私服姿の先輩だった。
いつもとは違う服装に、なぜか胸がドキドキしてきた。
思わず見つめていると先輩が、
『君はいつまで僕のことを見つめているのかな?』
『今の君の状況を考えれば、僕を見ている暇はないはずだけれど』
と言い、俺はハッとして本来の目的を思い出し、部屋に向かった。
「あんまり片付いてないですけどどうぞ…」
『本当に片付いていないね』
「お…お茶とか持ってきましょうか」
『大丈夫だよ、それよりテストの範囲を教えてくれるかな』
俺はテスト範囲と現実の状況を全て話した。
すると先輩はふぅんと言いながら少し黙って考えた後、こちらを見つめながら口を開いた。
『予想以上だね、悪い意味で』
『まさか今からこの量をやるつもりだとは思わなかったよ』
今から勉強することへの無謀さが改めて分かり、少し凹んで下を向いていると、パンッパンッという手を叩いたような音が聞こえた。
『凹んでいる暇はないよ、なってしまったものは仕方ないさ』
『それを解決するために僕が来た訳だしね』
先輩の方を見るといつの間にかメガネをかけ、手には参考書が握られていた。
いつもとは違って見えて可愛かった。
『じゃあ始めようか、まずは現代文からね』
「はい!」
先輩の教え方は優しく、そして分かりやすかった。
先輩がいれば家庭教師は要らないと思えるくらいに。
そして優しく教えてくれる時の目元や表情も素晴らしかったが、見つめているのがバレると少し笑いながら『今はその時間ではないよ』と怒られた。
そんなこんなありつつ、17時のチャイムが鳴る頃には、なんとか範囲の半分を終えることができた。
「やっと半分終わりました」
『よく頑張ったね、このままもう半分…と言いたいところだけど、17時になってしまったね』
『残念だけど僕はそろそろ帰って夜ご飯の支度をしなければならないんだ』
「そうですか…」
俺は少し悲しい気持ちになった。
先輩とみっちり勉強をしたのに終わらなかったこと、そもそもこんな状況になったこと。
なんて俺は情けないんだろうと。
すると先輩が言った。
『そしたら今日は帰るけれど、明日は時間あるかな?』
「え?」
『ん?別に今日は土曜日なのだから明日もやれば終わるよ』
そうだった。
俺は明日も同じ時間に先輩と約束をし、日曜日も勉強し、付け焼き刃ではあるが、無事に範囲を終えることができた。
『ふふっ、よく頑張ったね、でも次からはちゃんとこうなる前に学ぶべきだね』
「はい…」
『でも君は本当に頑張ったと思うよ、テストも頑張ってね』
「はい!教えてくれてありがとうございました!」
──そしてテスト当日
(おっこの問題は先輩とやったところだ、どう解いたっけな)
そして俺は土日の記憶を蘇らせようとした。
だが、蘇ってきたのは先輩の姿だけだった。
そう、俺は先輩ばかりを見て、それ以外は忘れてしまっていた。
付け焼き刃の勉強より先輩の姿の方が、俺の頭には焼き付いていたのだ。
当然そんな状態で良い点数が取れるはずもなく…。
後日、先輩に『テストどうだった?』と聞かれた俺は「先輩が綺麗でした」としか言えなかった。




