第2話 「気になること」
俺が学校に入学してしばらく経って、学校生活にも少しずつ慣れてきた。
そんな学校終わりの帰り道であった。
校舎は綺麗だし、学食も美味しい。
先生たちも優しいし、クラスメイトは…あまり合わなさそうだが別に構わない。
だって俺には先輩がいるから………。
先輩は俺に優しいし、一緒にお昼を食べてくれる。
先輩なしの学校生活なんて考えられない…。
そんなことを考えながら帰路についていた時にふと、疑問が生まれた。
(どうして先輩は俺なんかと仲良くしてくれているんだ?)
その疑問が生まれてからは意識のすべてがその疑問に持っていかれていた。
具体的には電柱に何度もぶつかり、何度も通った帰り道を間違えるほどに。
別にそんなことをここまで気にする必要はないのかもしれない、だがずっとボッチだった俺にはそれが気になって気になって仕方がなかった。
(と…とりあえず家に帰ってから考えよう…)
そんなことを考えながら、電柱にぶつかりすぎてフラフラになった頭のまま家へ帰り、部屋へと駆け込み、息を切らしたままベッドにダイブした。
少し時間が経ち、冷静さをある程度取り戻した俺は、改めて疑問について向き合うことにした。
(先輩が俺にここまで付き合ってくれる理由ってなんだろうか…?)
(俺は別になにかお金があるわけでもないし、顔が特別良いわけでもないのに…)
(先輩に直接聞いてみようか…いやそれは少し気持ち悪いか…?)
なんてくだらないことを考えているうちに夜になってしまった。
俺は急いで夕食を済ませ、風呂に入り、
湯船に浸かりながらまたあのことを考えていた。
(そもそも入学式のあの日から、距離が近かったような…)
(L◯NEで…いや明日、直接聞いてみるか…)
そう決心し、歯磨きを済ませ眠ることにした…。
ただ結局また考えてしまい、寝不足のまま学校へ行くことになってしまったが、そんなことは些細な問題だった。
なぜなら先輩の顔を見たら、緊張のあまり言葉が出なくなってしまったからだ。
お昼ご飯を食べている時に言おうとしていたのに結局言えなかった。
昨日の決心はなんだったのだろうかと落ち込みつつ放課後まで時間が過ぎていった…。
(また今日もモヤモヤしながら帰ることになるのか…)
そう思った時であった。
ポンッという感触を背中で感じ、振り向くとそこには先輩が少し笑いながら立っていた。
『やあ、少し驚かせてしまったね』
「せ…先輩、驚かせないでくださいよ…」
『ごめんごめん、君と少し話をしたくてね』
そう言うと、先輩が俺の顔を見つめてきた、相変わらず綺麗な顔だ。なんてことを思っていたら──
『君は僕に何か聞きたいことがあるんじゃないかな?』
と言ってきたので自分の考えを覗かれたようで、また驚いてしまった。
「な…なんで分かったんですか」
『ふふっ、当たりかな?お昼の時から少し気になっていたんだ』
『聞きたいことがあるなら言ってくれて構わないよ』
そう言われたので思っていたことを全て言った。
なんで俺に構ってくれるのか、そもそもなんで俺に入学式の日に話しかけてくれたのか、気になっていたこと全てを。
それを聞いた先輩は驚いて少し目を丸くした後こう言った。
『ふふっ、君がそんなことを気にしているとは思わなかったよ』
『友達ってそういうものじゃないのかな、特に理由はないけど一緒にいたくなる』
『でもあえて言うなら君といたいからかな』
先輩が俺のことを友達だと思ってくれていた、その事実だけでずっと一人だった俺は嬉しかった。
「ほっ…よかったです、実は何が裏があるのかとずっと思ってて…」
『君は僕のことをなんだと思っていたのかな?』
「い…いやそれは…」
『ふふっ、別に気にしてないよ』
「よ…よかったです」
そんなことを話した後、お互いを見つめながら少し笑った後に気づいた。
「あれ?構ってくれる理由は分かりましたけど、あの日話しかけてくれた理由はなんだったんですか?」
『おや?聞かれないからもう忘れていたと思っていたよ』
『ふむ…改めて考えるとどう答えればいいか難しいね』
先輩がなんで話しかけてくれたのかようやく分かる…!そう思うと胸がドキドキしてくる。
心の中でもしかしたら俺がカッコよすぎて声をかけたのか?
実は先輩は俺に一目惚れしたんじゃないのか?なんて気持ち悪い妄想をしているとついに先輩が口を開いた。
『なんとなくかな』
それを聞いた俺はズッコケてしまった。
勝手に俺は先輩はもっと何か、深い理由があるんだろうと思いすぎていたのかもしれない。
『確かに話しかけたこと自体に深い理由はないけれど…』
『今は、あの時君に話しかけて良かったと思ってるよ』
『君と出会えて良かったよ』
その言葉を聞いてまた俺は、嬉しくなった。
先輩も俺といて楽しいと思ってくれていて…出会えて良かったと思ってくれていて。
そして俺も出会えて良かったですと言おうとした時だった。
『ところで…』
『君はいつ僕のことをマオと呼んでくれるのかな』
「えっ」と思わず声が出てしまった。
『僕は入学式の日からずっとマオと呼ばれるのを待っているのだけど』
確かにあの日そんなことを言われたような気がする…。
だがいきなり名前を言うのが恥ずかしく、ずっと先輩と呼んでいた。
『僕は君の質問に答えたのだから、僕のにも答えてほしいな』
「名前を呼ぶのが少し恥ずかしくて…」
『じゃあ一回だけでいいから言ってみてほしいな』
確かに自分の悩みだけ解決してもらって相手には何もしないというのは情けない。
しかも先輩は一回だけでいいからと言ってくれている。
俺は決心し、名前で呼ぶことにした。
「ま…ま…」
先輩が微笑みながらこちらを見ている、俺の恥ずかしがる姿が好きなのだろうか?それとも名前で呼ばれることがそれほど嬉しいのだろうか。
だがなんにせよここまできたら言うしかない。
「ま…ま…ま…」
『ま?なにかな?あと少しだよ』
「ま…先輩」
言えなかった。
俺の決意というのはまったく意味がないことが分かった。
なんて情けない男なのだろう。
怒っていないだろうかと恐る恐る先輩の顔を見ると笑っていた。
笑いがおさまった後に先輩が喋った。
『君がそんなに恥ずかしがるとは思っていなかったよ』
「すみません…」
『でもこれ以上無理に言わせるのも可哀想だしね』
『いつ呼んでくれるのか楽しみに待つことにするよ』
『じゃあ今日はそろそろ帰ろうかな』
先輩はそう言うと学校の外へと歩き始めた。
自分もそろそろ帰るかと思い歩いていると、先輩が引き返してきた。
『大事なことを言い忘れていたよ』
『また明日ね、枕木くん』
「また明日会いましょう、先輩」
そして先輩は俺に手を振りながら帰っていった。
俺も帰路につきながら昨日のように考えていた、ただし昨日と違うのは今回はポジティブなことだ。
(先輩も俺といて楽しいと思っていて良かった)
(先輩が声をかけてくれた理由も分かったし…)
(そういえば先輩は名前で呼んで欲しがっていたな…)
(次こそは……ちゃんと「マオ先輩」って呼ぼう)
そう決心したのであった。




