第1話 「出会い」
俺は枕木遊星、いわゆる陰キャと呼ばれる高校生だ。友達も一人もいないし、会話も授業のグループワークなど最低限しかしない。
彼女なんて夢のまた夢だ。
友達なんて時間の無駄だし彼女はお金の無駄で一人でいる時の方が気楽で楽しい…そう思ってた。
あの「先輩」と会うまでは…。
そう…「先輩」と出会ったのは入学式が終わった後の部活勧誘の日だった。
──体育館の中で様々な部活が新入生に部活の魅力をPRする…賑やかで正直に言うと騒がしいくらいだ。
もちろん俺もいくつかの部活を見てみたが、正直どれも入ろうとは思わなかった。
元から部活に入るつもりがなかったのもあるが、一番の理由は俺の興味を惹くような、心や目を奪うような…そんな刺激的なものがなかったからだろう。
「─やっぱり見つからないか」
そう独り言を呟きながら体育館の喧騒から逃れるように校庭に出ていった…。
歩きながら俺は少し前の独り言について考えていた、元より部活なんか入るつもりがなかったのになぜ俺は落胆しているのだろう、なぜ興味を惹くようなものがなくて落ち込んでいるのだろう。
もしかして心の底では何か部活に入りたかったのではないのか?本当は友達や彼女が欲しいんじゃないのか?
友達や彼女が要らないと思っていたのも、酸っぱい葡萄のように自分が手に入らないものを下げて、悔しさを誤魔化していただけじゃないのか。
そんなことを考えながら物陰に座り、やはり体育館に戻るべきだろうかと考えていたその時だった。
『やあ、新入生の子かな?』
一瞬思考がフリーズした、まさか外で声をかけられると思っていなかったからだ。
しかもかなり綺麗な見た目をしていたので余計にフリーズしてしまった。
白色で綺麗な長い髪、まつ毛も長くて瞳も青く、その姿はまるで妖精のようだった。
『どうやら驚かせてしまったようだね』
『僕は月城 真央二年生、君の先輩さ』
『マオと呼んでくれて構わないよ』
俺は急に話しかけてくるし、初対面なのに距離が近い人だな…そんなことを思ったがすぐに、これこそ俺が望んでいた刺激的なことなのではと思い直し、自己紹介をした。
「俺は枕木遊星、新入生です」
『枕木遊星…良い名前だね』
『─ところで、ここでなにをしてたんだい?』
『今の時間、新入生は体育館にいると思っていたけどね』
俺は言葉に詰まった、良い部活がなかったから抜け出してきましたなんて恥ずかしくて言えないからだ。
そんな事を考えていると、先輩が俺の顔を覗き込んできた。
『もしかして部活でなにか悩んでいるのかい?』
急に心を見透かされたようで、また一瞬フリーズした、そんなに顔に出ていただろうかという表情をするとまた先輩が話す。
『新入生が体育館から抜け出してるのは、部活関係かと思っただけさ』
『ふふっ、別に心を読んだわけじゃないよ』
そう言われて俺は正直に心の内を話した、初対面の相手に何を言っているのだろうと思いつつ、全部心の中を空っぽにする勢いで。
『ふーん…それなら無理して入らなくていいんじゃないのかな』
『僕もどこの部活にも入っていないしね』
そう言われて安心感と同時に少しの落胆を感じた、もしかしたらこの先輩が何かの部活の部員で、そこに誘われて色んな人と共に様々な思い出を作れる…そんな夢物語を妄想していたからだろう。
よく考えたら当然だ、部員ならPRのために体育館にいるはずだからだ。
するとまた先輩が俺の顔を覗いてきた。
『がっかりさせてしまって申し訳ないね』
「いや…いいんです、先輩は悪くない、期待した俺が悪いんです」
『でももし君が部活ではなく刺激的なものを求めているのなら…』
『僕がそのお手伝いをしてあげるよ』
先輩は艶めかしい表情で少し微笑みながらそう言った。
小中高と生きてきて、初めてだった。
自分を理解してくれる人が現れた気がした。
その時からだろう。俺が先輩に心を奪われたのは──。
まるで懺悔を聞いてくれる聖職者のような、それでいて堕落させようとする悪魔の誘惑のようなそんな先輩に──。
「ぜひお願いします!」
急に声が大きくなって自分でも少し驚いた、学校でこんな声を出すのは初めてかもしれない。
そのくらい心の底から出た声だった。
『ふふっ、元気になったみたいで嬉しいよ』
『じゃあ連絡先でも交換しようか、L◯NEやってるかい?』
「はい!…うぅ」
俺は急に涙が出てきてしまった、嬉し泣きという言葉は知っていたがそれを体験するのは初めてだった。
まさかこんな綺麗な女の子と連絡先を交換できるだなんて。
『そこまで感動しなくてもいいよ』
「グスッすいません、人と…女の子と連絡先交換するの、初めてで…嬉しくてつい…」
すると先輩が不思議そうな顔で言った。
『僕は男だよ』
その日は人生で初めてなことばかりだった。
だが俺は、また新たな“初めて”を経験することになる。
こんな綺麗で可愛い人が男…?
今日一日の出来事を全部まとめてもかなわないような衝撃が、一気に押し寄せてきた。
その新たな扉が開くようなあまりの衝撃にフリーズを通り越して気絶してしまった。
しばらくして目が覚めると頭の下が柔らかくて暖かく、保健室に運ばれたかと思ったが、周りの風景はここは部屋ではなく屋外であることを示していた。
すると急に声が聞こえてきた。
『お、ようやく起きたね。おはよう』
『隠していてごめんね、こういうことは初めに言うべきだったね』
「いや、いいですよ、こちらこそ申し訳ないです。枕まで用意してもらって…」
そんなことを言いながら起き上がろうと枕の方を見ると、
それは枕ではなく、先輩の膝枕だった。
『枕が硬いと君に申し訳ないと思ってね』
驚いている俺の顔を見ながら先輩はまた少し微笑みながらこう言った。
『それじゃあ…改めてこれからよろしくね、枕木君』
あまりの先輩の破壊力に俺はまた気絶してしまった…。
それから…その後の記憶はない。まるで夢のような時間だった…。
──キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴った。
ハッと目が覚める、授業中だというのに俺はいつのまにか寝てしまっていた、なんであの時のことを……。
そんなことを思いながら帰りの準備をする。そこに一件の通知がスマホに入ってきた。
『やあ、学校も終わったことだし君がよかったらどこか行かないかい?』
そう、あの日のことは夢のようだけど夢じゃない。
こんな夢より素晴らしい現実があるなんて、
俺の学校生活はまだまだ始まったばかりだ──。
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ちなみに枕木の身長は173cm、先輩は149cmです。




