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第28話 「ガラガラ声」

『……けほっ、おはよう、枕木君』


俺は校門にいた先輩に話しかけられた。

だが、マスクを着けているし、いつもと声が違う。

普段の透き通るような声に比べて、

今日の声は濁っていて、声がガラガラになっている。


「ど、どうしたんですか先輩」

『昨日、少し歌いすぎてしまってね』


話を聞くと、

どうやら昨日リオさんとカラオケに行き、

歌いすぎたのが原因らしい。


「どんだけ歌ったんですか……」

『5時間くらいかな、お姉ちゃんと一緒に外出するのが久しぶりだから、テンションが上がってしまったんだ』

「はあ、そういうことなら今日はあんまり喋らない方がいいですよ」

『でも挨拶はしないと……けほっ、けほっ』


俺は先輩の背中をさすったあと、

心配なので、先輩の教室まで送った。


「体力ないくせに5時間も歌うからこうなるんですよ」

『ごめんね、でも助かるよ、枕木君』

「はあ……ほら、着きましたよ先輩」


先輩は俺に感謝したあと、教室へ入っていった。

しかしなぜ5時間も歌ったのだろうか。

先輩はときどき天然というか、

抜けている気がする。


だが、そんなところも可愛い……。

そんなことを考えていると、授業の時間が近づいてきた。

俺は急いで自分の教室へ向かい、席へ着いた。


そして授業の前にホームルームが始まり、

竜崎がクラス委員長として連絡事項を話している。


そこで、俺はある違和感を覚えた。

竜崎もマスクをしていて、少し声がガラガラだ。

思い返すと先輩もガラガラだった……。

そして昨日、先輩はカラオケに行っていた……。


もしや……竜崎も先輩たちとカラオケに行っていたのだろうか?

いや、そんなはずはない。

俺は昨日、誘われなかった。


まさか、俺だけ誘われなかった……?

その考えに辿り着いた時、

俺は深く絶望した。

竜崎の話も次の授業の内容も、頭にまったく入らないほどに。


だが、こんなことを先輩がするはずがない。

というより、そうであってほしい。

俺は昼休みに竜崎と先輩を問い詰めることにした。


──昼休み。


「あら、先輩も喉の調子が悪いんですか?」

『そうなんだ、まさかりゅりゅも喉の調子が悪いなんてね』


竜崎と先輩が会話をしている。

お互い、調子が悪い理由は分からないようだが、

俺に嘘をついているのかもしれない。

問い詰めなければ──。


「それで、最近乳液を変えてみたら、肌の調子が良くなったんです。先輩はスキンケアとかはしているんでしょうか?」

『僕は洗顔くらいかな』

「それは羨ましいですわ。それと、先輩が前に言われていたお店に、この前行ってきて……」


──二人が楽しそうに会話をしていて入れない。

喉の調子が良くないというのに。

話題も俺が入れないようなスイーツやら化粧品の話ばかりだ。

「竜崎のやつ、俺が入れない話題ばっか振りやがって……」と思って、

うつむいていると、

先輩が俺に話しかけてくれた。


『ごめんね、二人だけで盛り上がってしまって』

「違くはないですけど……そうじゃなくて」


俺は先輩に考えていることをバレたくなくて、

顔を背けた。

すると先輩が『カラオケのことかな?』と言ってきた。

先輩に隠し事はできないらしい。


バレてしまったし、俺は二人への疑いを正直に話した。


「その…俺だけ誘われなかったのかなって……」

『ふうん、まあ、確かに君が疑うのも無理はないかもね』

「先輩も私も喉の調子が悪いですからね」

『でも、君だけ仲間はずれになんかしないよ』


俺はその一言を聞いた瞬間、涙が出てしまった。

すぐに二人を疑った俺は、なんて醜いんだろう。


「うう…」

『まさか、泣いてしまうなんてね。ほら、涙を拭いて』


先輩は俺にハンカチを貸してくれた。

なんて優しいんだろう。

そのあと、俺は先輩のハンカチで涙を拭いた。


『……落ち着いたかな?』

「はい……」

『ふふっ、ならよかったよ』

「先輩、竜崎……疑ってごめん」

『別に気にしてないよ』

「私もですわ」


二人とも……優しい。

俺はいい先輩とクラスメイトに恵まれたんだ──。

だが、落ち着いてくると気になることがある。

竜崎がガラガラ声な理由はなんだろう。


「竜崎……」

「なんでしょうか」

「ガラガラ声になった心当たりとかってあるのか?」

『僕も気になるね』

「それは……その」


竜崎は一瞬、間を置いたあと声を出した。


「昨日、休日の先輩を観賞していたらカラオケに入っていくのを見て、私も歌いたいと思いまして……」

「えっ」

「先輩がカラオケを出るまでずっと歌っていたのが原因かと……」

『いたなら話しかけてくれればよかったのに』

「いえ、お姉さんと楽しそうにしている先輩の邪魔はできませんわ」

『ふふっ、そっか』


俺は「先輩を観賞ってなんだ?ただのストーカーじゃないのか?」と思ったが、

めんどくさいので言うのはやめておいた。


「というか、二人とも喉の調子が悪いのにそんないっぱい喋って大丈夫ですか?」

『このくらい平気さ』

「ええ、平気ですわ」

「ならいいですけど……」


次の日──。


『悪化じてじまっだよ』

「私もでずわ」


大丈夫じゃなかった──。


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