第27話 「暑い」
暑い。とにかく暑い。
朝、起きたときに真っ先に感じたのはそれだった。
暑さのせいで目覚ましより早く起きてしまった。
俺はクーラーをつけ、登校の準備を進めた。
朝ご飯を食べているときにテレビをつけると、
どうやら今日は40度を超えているらしい。
正直こんな暑さで登校したくはないが、
俺はいやいや支度を終え、学校へ向かった。
当然だが、家より外の方が暑い。
それは蝉すらも鳴かなくなるほどに。
日光も強烈に照りつけてきて、
学校へ行くだけでその日の体力のほとんどを消費してしまった。
校門にたどり着いたが、先輩もいない。
暑すぎるからだろうか。
へとへとになり、いったん、
校門近くの日陰で座って、
水分補給しようとすると、
日傘を差した先輩がやって来た。
『やあ、日焼け止めを塗っていたら遅れてしまったよ』
「先輩……俺もう疲れちゃいました」
『今日は暑いから仕方ないね』
正直、動く気力が湧いてこない。
登校しただけで汗でびしょびしょで、
不快感もかなりある。
だが、遅刻するのも嫌だ。
そういえば近くに先輩がいる。
先輩になんとかしてもらおう。
「先輩」
『ん?なんだい』
「なんかやる気の出ることをしてください」
俺がそう言うと、先輩は周りを見回して少し悩んだあと、
俺の耳元へ近づいてきた。
なにか元気の出る言葉でも言ってくれるのだろうか。
少しドキドキしていると、突然、耳に息を吹きかけられた。
思わず変な声が出そうになったが、
ここは校門近くだということを思い出し、
グッとこらえることができた。
「なんですか、今の!?」
『ふっ、ってしただけさ』
「これで元気なんか出ませんよ!?」
『そうかな、ツッコむ元気が湧いてきたじゃないか』
確かに、さっきまでよりは元気が出たかもしれない。
あまり納得はしていないが、
一応、先輩に感謝したあと、教室へ向かった。
教室の中はクーラーが効いていて涼しい。
校門で先輩に息を吹きかけられるくらいなら、
最初から教室に来ていればよかったのかもしれない。
だが、先輩のおかげで元気が出たのも事実だ。
それに、息を吹きかけられたとき、少し興奮してしまった。
……やはり校門にいてよかった。
そして午前の授業が終わり昼休み──。
今日は暑すぎるのでいつもの外の場所ではなく、
食堂に来ている。
「ふう〜、疲れましたよ先輩」
『頑張ったね。あとは午後の授業だけだよ』
「もう先輩、今から午後のこと考えさせないでくださいよ」
『ふふっ、ごめんね』
なにか違和感がある。
なぜだろう、何か足りない気がする。
『そういえば、りゅりゅがいないね』
俺は先輩の一言でようやく思い出した。
いつも三人で食べているから、足りない気がしたのだろう。
だが、いない理由は分からない。
「あいつ、クラスにはいましたけどね」
『じゃあ、クラス委員の仕事なのかもね』
そんなことを話していると、竜崎からメールが来た。
【竜崎】 「残念ながら、私は食堂には行けません」
【まくらぎ】 「どうしてだよ」
【竜崎】 「以前、一度来たことがあるのですが……」
竜崎からのメールによると、前に来たときは竜崎が来ただけでパニックが起きたらしい。
俺はそうは思わないが、
竜崎は、学校で一番綺麗な女子と言われているからだろう。
そのときは、騒ぎのせいでご飯を食べられなかったり、
知らない男子に告白されたりで大変だったらしい。
だから竜崎は食堂を避けているんだろう。
『人気者というのも大変だね』
「竜崎でパニックが起きるなら、先輩でもパニックが起きないとおかしいですよ」
俺は本音を漏らしてしまった。
『ふふっ、それは僕が綺麗ってことかな』
「……そうですよ」
『嬉しい言葉だね。でも、パニックが起きたら僕は知らない人に告白されてしまうね』
その瞬間、俺の全ての思考が停止した。
知らないやつが先輩に告白する……?
そんなの、そんなの、
「そんなの嫌だあっ」
思わず、声が出てしまった。
『枕木君、声が大きいよ』
「あっ、すいません」
『ふふ、まあ君がそんなに僕のことを思ってくれているのは嬉しいよ』
先輩は優しい。
そしてお昼ご飯を食べ終わり、教室へ戻ったあと、
先輩からメールが来た。
【先輩】 「放課後、校舎裏に来てほしいな」
俺は「なんだろう?」と思った。
そのことを考えていると、午後の授業が終わり、放課後になった。
朝よりはましだが、まだ暑い。
そして校舎裏へ向かうと、先輩がすでに待っていた。
『やあ』
「なんですか先輩」
『枕木君、僕のいつもとの違い分かるかな?』
「な、なんですか急に」
『いいから、答えてみてほしいな』
急にそんなことを言われても分からない。
髪を切ったとかだろうか。
「髪、切りました……?」
『違うよ』
違った。
俺にはまったく分からない。
「ひ……ヒント、ヒントください」
『……君がいつも見ているものだよ』
俺がいつも見ているもの……?
先輩の顔だろうか。
とても綺麗だが、いつもとの違いは分からない。
──よく見るといつもより赤い気がする。
夕焼けの光だろうか?
いや、違う。
わざわざ校舎裏に俺を呼んだんだ。
校舎裏といえば告白。
お昼に告白についての話をしたし、顔が赤いのもそういうことだろう。
気づいた瞬間、俺は胸の鼓動が高まるのを感じた。
確かに先輩のことは大好きだ。
だが、いきなり告白されては俺の心臓がもたない。
「わ、分かりましたよ、先輩。俺に告白するつもりなんでしょう!」
『違うよ』
「えっ」
だんだんと胸の鼓動が静まっていく。
「じゃ、じゃあなんですか。これ以外の答えがあるんですかっ」
『……制服』
「へっ?」
『今日は、ブレザーを着ていないんだ』
言われてみて、先輩の服を見ると確かにブレザーがなく、
シャツだけだ。
朝はへとへとで、お昼は……先輩の顔ばかり見ていて気づかなかった。
『いつもと違うから、君は気づくかなって』
「……もしかして俺が気づかなかったから放課後に呼んだんですか?」
『うん、本当に気づいてないのかなって』
「い、いやそれは先輩の顔が良すぎてずっと見てたからで……」
すると先輩が急に笑った。
『ふふ、服が見えなくなるくらい僕の顔を見てたのかい?』
「す、すいません」
『いいよ、気になっただけさ』
確かに、ブレザー有無に気づかれないのは、
気になってしまうかもしれない。
「次からは体も見るようにします」
『その言い方だと、スケベな人みたいだね』
そして少し笑ったあと、先輩は俺に近づいて、
ハグをしてきた。
『これからも、僕のことを見ててね』
先輩は温かい──。
「先輩」
『ふふっ、どうしたのかな』
「あ、暑いです……」
先輩のハグは暑かった──。




