第26話 「ずぶ濡れ・下」
今、リビングには気まずい空気が流れている──。
俺が行動を間違えてしまったからだ。
「す、すいません」
恥ずかしくなり、服を着ようとすると、
先輩が笑った。
先輩の顔を見ると、笑いすぎたのか涙が出ている。
少し経って、落ち着いたあと、先輩が口を開いた。
『……はあ、君は面白いね』
「な、なら、よかったです」
空気が和んでよかった。
俺は安心し、服を着ようとした。
すると先輩が、俺の腕を掴んだ。
「な、なんですか」
『ねえ、触ってみてもいいかな』
「えっ」
予想外の答えに戸惑ってしまう。
俺の鍛えてもいない体を触りたいだなんて、
相変わらず、先輩の考えることはよく分からない。
「まあ、少しなら……」
『ありがとう。じゃあ、触るね』
先輩は、優しく撫でるように触ってきた。
少しくすぐったい。
一通り触ったあと、今度は人差し指で押してくる。
変な感じだ。
先輩がずっと触ってくるので、思わず声が出た。
「あ、あのもういいですか」
『おっと、集中しすぎてしまったね』
「そんなに俺の身体が好きなんですか、先輩〜?」
『……そうかもね』
その声は照れ隠しのような声色だった。
いろいろ話したあと、俺はようやく、服を着ることができた。
「はあ、ようやく着れましたよ」
『ふふっ、ごめんね』
そのあと、俺は浴室へ行き、制服が乾いているか確認した。
だが、乾くまでにはもう少し時間がかかりそうだ。
「先輩、もうちょっとかかりそうです」
『そっか……ねえ枕木君』
「ん、なんですか先輩」
『君は、僕の身体触ってみたい?』
今日、何度も衝撃を受けていた俺は、
さすがに、今回は驚かなかった。
どうせこれは冗談だろう。
「冗談ですよね?」
『違うよ』
「えっ」
『僕は君に触ったんだから、君も僕に触っていいんだよ』
俺は驚いた……が、今日はそれ以上に、
触りたいという気持ちが強かった。
いつもなら断っているはずなのに、なぜだろう。
きっと雨のせいだと、俺は責任転嫁した。
「触り……たいです」
『いいよ』
そう言うと先輩は、着ていた上の服をまくり上げようとした。
それを見た俺は冷静になってしまい、
まくり上げようとしている手を掴み、止めた。
『どうしたのかな?』
「そ、その直で見るのは恥ずかしいというか……」
『じゃあ、服の中に手を入れるのはどうかな。これなら見えないよ』
俺はその提案に乗ることにした。
冷静になりはしたが、やはり触りたいのだ。
そして服の中へ手を伸ばした。
すると、柔らかいものに当たった。
おそらく先輩のお腹あたりだろう。
先輩のものは、柔らかくて俺の手に吸いついてくる。
それと雨で濡れたからだろうか、少し、しっとりとしている。
先輩を見ると、上目遣いでこちらを見ている。
誘っているのだろうか。
俺がさらに上へ手を動かすと、
なにやら、濡れたものに当たった。
少し戸惑っていると、先輩が口を開いた。
『それはブラだよ、さすがに下着はつけておきたかったからね』
先輩の下着に触れ、心臓の鼓動が高まっていくのを感じる。
このままでは、俺はおかしくなってしまう。
そろそろ服から手を抜かないと。
そう思っていると、先輩が挑発するように話しかけてきた。
『もう終わるのかな?』
「い、いやだって」
俺が続きを喋ろうとすると、
先輩は俺の口に指を当て、耳元で囁いてきた。
『僕の下着の中、君なら触ってもいいよ』
その言葉で、俺のタガが外れた。
ドクン、ドクンという心臓の鼓動が自分にも聞こえてくる。
俺はゆっくりと、指を下着の中に入れ、
中のものを触った。
柔らかくて、ずっと触っていたくなる。
先輩の体温も、感触も、全て感じる。
手のひらから頭に伝わってきて、それ以外のことを考えられなくなりそうだ。
その後も、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと触り続けた。
それ以外のことを全て忘れ、触ることだけに集中した。
『ふふっ、触りすぎだよ』
俺はその一言で冷静さを取り戻した。
俺は……なにをやっていたんだろう。
「あ、あっ、すいません」
『いいよ、あっ、そろそろ乾いたかな』
時計を見ると、浴室へ行って乾いているか確認したときから、
1時間も経っていた。
俺はそんな長時間、触っていたと思うと、
恥ずかしくて、頭から煙が出そうだ。
そして俺は、乾いた制服を先輩に渡し、
先輩は制服に着替えた。
外を見ると、雨も止んでいる。
『今日はありがとうね、枕木君』
「あっ、いえ……」
先輩が帰る時も、俺はさっきのことを思い出していた。
まだ手には感触が残っている。
そんなことを思っていると、先輩が俺の腕を持って、
自分の胸に当てた。
「えっ、あっ」
『ふふっ、枕木君、またね』
そして、先輩は家へ帰っていった。
俺はその日、ずっと先輩のことを考えてしまい、
眠れなかった。
そして次の日──。
『やあ、おはよう』
校門で俺を待っていた先輩は、
昨日のことなんて、なかったかのように、
いつも通りだった。
「お、おはようございます先輩。その……昨日は」
そう言いかけると、先輩が昨日のように俺の口に指を当て、
俺の言葉を遮った。
『ここで話したら、他の人に聞こえてしまうよ』
「えっ」
『あれは……僕たち二人だけの秘密だからね』
先輩の表情は、天使と悪魔が混じったような、
優しく、そして誘惑的な……笑顔だった。
そのとき、分かった。
俺はもう先輩から離れられないと──。




