第23話 「プール」
日差しが強くなり、蝉が鳴き始めている。
夏だ。
そして学校の夏といえば……プールの授業だろう。
だが俺はプールの授業は好きではな…。
『もう分かったよ、枕木君』
俺は朝、校門で会った先輩にプールのことを愚痴ろうとして、
途中で止められてしまった。
「いや、なんで嫌いなのかを今から説明しようと…」
『どうせ人の視線が気になるんだろう?』
『君は嫌いな授業ばかりだね、好きな授業とかないのかい?』
「だって…」
『僕はプールの授業、好きだけどね』
「はあ」
『暑いなか、泳ぐのは気持ちいいよ』
『まあ、頑張ってね枕木君』
そう言って、先輩が教室へ向かった。
今日の先輩は対応が適当な気がする。
だが、何度も何度も愚痴られていれば、
こうなるのも仕方ないのかもしれない…。
俺も少し落ち込みながら、自分の教室へと向かった。
そして時間が経ち、プールの時間になってしまった。
帰りたい。
俺は負の感情を抱えながら、
悪夢のような時間を過ごした。
そして昼休み──。
『どうだったかな、プールは?』
「楽しくないです…」
「私は気持ちよかったですわ」
「竜崎は泳げるから楽しいんだあっ」
俺は昼休み、プールのことを愚痴っていた。
先輩も竜崎も「またか…」という表情で、
俺を見つめている。
『君は暗いね、枕木君』
「だって、だって…」
『……』
すると先輩が、急に俺に近づいてきて、
俺の頭を両手で持ったあと、
自分の胸に押さえつけた。
「な…なんふぇふか、ふぇんぱい」
胸に押さえつけられているせいで、
思うように声が出ない。
『君が愚痴ばかりだから、口を塞いだんだ』
「なっ、ずるいですわ、私もされたいです」
『ふふっ、じゃあ今度してあげるよ』
先輩と竜崎が楽しそうに会話をしているが、
俺はそれどころではない。
先輩の感触や匂い、それと息苦しさでおかしくなりそうだ。
すると先輩が、手を離してくれた。
「ぷはっ、はあ…はあ…」
『どうだったかな』
「どうって…キツかったですよ」
『お仕置きだからね』
先輩のお仕置きは恐ろしい。
だが、先輩の胸に顔を埋められるなら、
もう一度くらいやられてもいいかもしれない。
『でも君が抵抗しないのは意外だったな』
『僕の力なら、君は抜けられたはずだからね』
確かに、先輩の力なら俺が抵抗すれば、
すぐに抜けられただろう。
もしかして俺は心の中で、
先輩にお仕置きされたがっていたのだろうか。
『まあいいや、それより僕もプールのことを考えないとね』
「先輩も今日、プールあるんですか」
『うん』
「先輩の体力で泳げるんですか?」
『多分、大丈夫だよ』
そのあとも、三人でプールのことを話した。
そして俺は話しているうちに、疑問が生まれてきた。
「あれ、先輩、今日プールがあるんですよね」
『そうだよ』
「プールってことは水着に着替えますよね」
『うん』
「……他の男子と一緒に……?」
その瞬間、俺は脳が壊れるような衝撃を受けた。
他の男子がいる中で先輩も着替える…?
そんなの嫌だ。
俺だって先輩の着替えは見たことないのにいっ。
『着替えはいつも個室だけどね』
「ふう…」
俺は一安心した。
「あれっ、そういえば前、三人でプール施設に行きましたよね」
『そういえばそんなこともあったね』
「あ…あの時はま…まさか他の男とい、一緒の…」
『あそこも個室で着替えたよ』
「私が先輩のリクエストで、個室で着替えられる施設を選んだんですわ」
「あっ、そうでしたか…」
知らなかった。
先輩と竜崎がそんなやりとりをしていたなんて…。
嫉妬でおかしくなりそうだ。
『おや、そろそろ昼休みも終わりだね』
『僕はそろそろ行くよ、二人とも、またね』
先輩は教室へ行ってしまった。
そして俺たちも自分たちの教室へと向かった。
午後の授業が始まったが、頭に入ってこない。
授業中、俺はずっと先輩の水着姿を考えていた。
この学校はジェンダーレス水着を採用していて、
俺はそれを着た先輩を想像していた。
先輩の水着を何回も見れるなんて…、
先輩のクラスの男子は羨ましい。
今からでも頑張って飛び級して2年生になりたいくらいだ。
そんなことを思っていると、午後の授業が終わってしまった。
俺はほとんど授業が頭に入らなかったが、
成績が落ちると先輩に怒られてしまうので、
なんとかノートだけは取ることができた。
そして俺が帰ろうとすると、
先輩が校門に立っていた。
「待ってたんですか先輩」
『そうだね』
「まさか、プールで疲れたから一緒に帰ってほしいなんて言わないですよね」
『僕だって学習するからね、体力を残しながらやったのさ』
一緒に帰れると少し期待していた俺は、
ガッカリした。
「じゃあなんで待ってたんですか」
『君が元気かなって』
「なんですかそれ…」
『僕が他の子とプールに入っているから、嫉妬で血涙を流してないかと思ったんだ』
先輩は俺のことをなんだと思っているのだろうか。
『まあ、いつも通り元気そうでよかったよ』
『じゃあ、僕は帰ろうかな』
「あっ、待ってください」
『ん?どうかしたのかな』
「先輩、こっちに来てもらってもいいですか」
『別にいいけれど』
そして、俺は近づいてきた先輩を、抱きしめ、
先輩の顔を俺の胸に当てた。
『……ふふっ、お昼の仕返しかな』
『やっぱり君は面白いね、枕木君』
そしてしばらくしたあと、俺は先輩を離した。
『君がこんなに大胆にくるとは思わなかったよ』
「す…すいません」
『いいよ』
『じゃあ、またね』
そう言うと、先輩は帰っていった。
やっぱり先輩と話していると楽しい。
嫌いな授業も多いが先輩がいるならやっていける気がする──。
後日──。
「プール嫌です、先輩。帰りたい〜っ」
『……』
先輩がいても嫌なものは嫌なのだった──。




