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第22話 「新たな自分」

俺は今、先輩に誘われて、

先輩の家に来ている。

なにか聞きたいことがあるらしい。


「で、なんですか聞きたいことって」

『そのことなんだけどね』


そう言うと先輩は、段ボールを持ってきて、開けた。


『これ、いるかな?』

「こ…これは…」


そこに入っていたのは女子の制服だった。

だが、先輩が着るには大きいサイズだ。


「なんですかこれ」

『昨日、掃除していたらこれが出てきてね』

『入学前に、一回サイズを間違えて買ってしまったんだ』

「はあ」

『ずっとしまっておくのもあれだし、サイズも君にちょうどよさそうだと思ってね』


俺は驚いてしまった。

なぜ俺に渡すんだ…。


『まあ、君がいらないなら大丈夫だよ』

「うーん…」


悩んでしまう。

タダで貰えるなら、貰ってもいいような。

別にいらないような。

先輩の着用済みなら喜んで貰ったのに…。


「というか俺が貰ってもどう使うんですか」

『女装とかかな』

「はあ」

『よかったら今、試着してみたらいいんじゃないかな』

『新たな自分が見つかるかもしれないよ』


なんだそれ、と思いながら

俺は先輩に言われるがまま、

試着してみることになった。


そして数分後──。


『似合ってるね』


俺は女子の制服を着てしまった。

スカートのせいで下はすーすーして、

落ち着かない。


「……いやお世辞ですよね」

『そんなことないよ、鏡を見てごらん』


鏡を見ると、女子の制服を着た自分がいる。

その顔は、恥ずかしさで少し赤く、

それを見ていると、変な気持ちになってくる。


『可愛いよ、枕木君』

「や…やめてくださいよ」

『本当だよ』


そう言われた瞬間、なぜだろう、

俺は心の中で嬉しく感じた。

これはまずい、新たな扉が開いてしまう。


「じゃ、じゃあもう着替えますね」

『え〜、可愛いのに残念だね』

『……どうせならもっと可愛くなってみないかい?』

「えっ」

『僕がメイクしてあげるよ』

『まあ、君が嫌なら無理強いはしないけどね』


どうせここまできたなら、行くところまで行ってみたい。

それに…もっと可愛くなってみたい。


「……や…やります…」


俺は小声でそう言った。

それを聞いた先輩は、小悪魔のような表情で微笑んだ。

これは先輩にハメられているかも…、

そう思ったが、もう自分の気持ちに抗えない。


『じゃあ目を瞑っててね』

「はい…」


そしてしばらく経ち──。


『できたよ、枕木君』

『ほら、鏡だよ』


そして俺が鏡を見ると、

そこにいたのは、可愛い女の子だった。

まるで俺の要素をそのままに女子になったような…。


『どうかな』

「か、可愛いです」

『ならよかったよ』


俺はそのあと、その場で小躍りしたり、

仕草を女の子っぽくしてみたりした。

自分の身体なのに、自分ではないような感覚。

その時にはもう、俺は新たな自分に出会っていた。


「これ、いいですね」

『ふふっ、制服はあげるよ』


もうずっとこの姿でいたい。

だって今の俺…いや、私はこんなに可愛いんだから。

そんなことを考えていると、リオさんの声が聞こえてきた。


(やばっ、リオさんに女装してるのバレたくないな…)

『おはよう、お姉ちゃん』

「おはよ、マオ。遊星君が来るのに寝過ぎちゃった…」

『ふふふっ』

「というかマオ、そこにいる女の子は誰?遊星君に似てるね」

(ま、まずい…バレてしまう)

『……この子は、枕木君のお姉さんだよ』

(えっ?)


先輩の嘘が炸裂した。

リオさんも口を開けて止まってしまっている。

さすがにこんな嘘は…。


「だから似てたんだね」

『そうだよ、お姉ちゃん』

(バレなかったーっ)


俺は衝撃でずっこけそうになったが、

なんとか耐えた。


「あ…あの…そのお名前はなんて言うんですか」

(まずい)

枕木星羅まくらぎ せいらさんだよ』


また先輩が嘘をついた。

よくもまあ、こんなに嘘をつけるものだ。


「星羅さん…わ…私はリオです。よろしくね」


声を出すと男とバレるので、

俺は微笑みながら、握手をした。


「へへへ…遊星君のお姉さんだからかな、手も遊星君みたい」

(ぎくっ)

『……そうだ、お姉ちゃん冷蔵庫にプリンがあるから食べていいよ』

「えっ、そうなのマオ。じゃあ食べてくるね」


そう言うと、リオさんは走って冷蔵庫へ向かっていった。


『よかったね、バレなくて』

「助かりました先輩…」

『ふふっ、じゃあ今のうちに着替えようか』

「……」

『どうかしたのかな?』

「あっ、いやなんでもないです」


そして俺は急いでメイクを落とし、制服も脱いで、着替えた。

だがなぜだろう、大きな喪失感がある。

いつもの姿に戻っただけだというのに…。


鏡を見ても、そこにいるのはさっきまでの女の子ではない。

ただの…いつもの俺だ。


「先輩、戻っちゃいました」

『うん』

「俺…本当は女の子に生まれたかったのかも…」

「女装してる時、星羅でいる時は、なんか満たされてたような…」


俺がそんなことを言うと、先輩が口を開いた。


『僕はいつもの枕木君の方が好きだよ』

「えっ」

『いつもの枕木君はカッコいいからね』


そう言われた瞬間、心の霧が、

綺麗に吹き飛んだ。


「先輩…俺やっぱいつもの俺が好きです」

『枕木君は分かりやすいね』

「……今なんか言いましたか?」

『いや、なにも言ってないよ』


そのあと、先輩と話していると、

プリンを食べ終わったリオさんが来た。


「あっ、遊星君だ」

「こんにちは、リオさん」

「遊星君にお姉さんがいたなんて知らなかったよ〜」

「ははは…」


その後、先輩にこの制服を貰って帰るか聞かれ、

悩んだ末に貰うことにした。


『ふうん、貰っていくんだね』

「なんか…いつかまた着たいなって…」

『……じゃあこれはあげるね』

「ありがとうございます」


そして俺は段ボールを抱えながら、家へ帰った。


〈ふふっ…枕木君の女装を見る作戦は成功だったね〉

〈わざわざ枕木君に合う大きさの制服を買っておいてよかったよ〉


先輩の手のひらで踊っていたことを、俺はまだ知らない──。


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