第17話 「水着」
『やあ』
「なんですか、先輩」
俺は今、先輩に呼び出され、二人きりで校舎裏にいる。
『次の休みは暇かな?よかったら一緒に買い物に行かないかい?』
「はあ、まあいいですけど、なに買うんですか」
『水着だよ』
「え゛っ」
思わず変な声が出てしまった。
先輩の水着…?想像しただけで胸がドキドキする。
鼻血も出てしまいそうだ。
『そろそろ夏だろう?だから水着が欲しいと思ってね』
「は、はあ」
『あ、最初に言っておくと、今回は二人きりで行くよ』
「え゛っ」
またもや変な声が出てしまった。
先輩と水着を見るだけでも、おかしくなりそうなのに二人きり…?
俺は鼻血が出てしまう前に、顔をハンカチで押さえた。
『相変わらず君の反応は可愛いね』
「い…いやだって急に二人きりとか言われたら」
もしかしてこれは遠回しなデートのお誘いなのだろうか。
先輩ならやりそうだ。
『だって恥ずかしいじゃないか』
「はい?」
『りゅりゅは女の子だからね、異性と一緒に見に行くのは少し恥ずかしいからさ』
(先輩に恥ずかしいという感情があったのか…)
デートの誘いではなくて少しがっかりはしたが、
先輩と二人きりで行くというのなら、行かない理由はない。
俺は誘いをOKし、その日は一度別れた。
そして後日──。
「すいません、お待たせしました」
『やあ、僕もちょうど来たところさ』
『じゃあ、行こうか』
そして俺たちは水着売り場へと向かった。
向かう道中、俺にはある疑問が浮かんできた。
(先輩の水着ってどっちの性別なんだ…?)
(男?それとも女?いやジェンダーレス水着かも…)
そんなことを考えていると、先輩がこちらをチラッと見てきた。
「な…なんですか」
『どれだと思う?』
「はい?」
『君が今考えていたじゃないか、僕の水着のことだよ』
「また俺の考えていることを…」
『ふふっ、あっ着いたよ、答えはお預けだね』
先輩と話していると、いつのまにか水着売り場に着いていた。
ここには様々な水着が売っている。
可愛いもの、カッコいいもの、セクシーなものまで置いてある。
『いろいろあって悩んでしまうね』
『君もよかったら、僕に似合いそうなものを探してほしいな』
「えっ、いいんですか」
『一緒に来たんだから当然だよ』
『あっ、あまりセクシーなものはダメだよ』
「なっ、そ…そんなの選ぶわけないじゃないですか!」
『ふふっ、じゃあ探そうか』
そうして俺と先輩の水着探しが始まった。
どうやら、まず男性用の売り場を見るらしい。
「へえー、男水着にするんですか?」
『まだどんな水着を買うか決めてないからね』
「えっ、決まってなかったんですか」
「答えはお預けって言うから決まってると思いましたよ」
『まあいいじゃないか、おっ、これとかどうかな?』
先輩が選んだのは、少しゆったりとしたサーフパンツだ。
「サーフパンツですか、いいです…」
そう言いかけた瞬間、俺の頭をよぎったのは、
白い砂浜に佇む、サーフパンツを穿いた先輩…。
そしてその上半身は…。
「だあああああっ、せっ先輩それはセンシティブすぎますっ」
『ん?これにするなら上にラッシュガードを着るに決まっているじゃないか』
『枕木君はスケベだね』
やってしまった。
早とちりした結果、俺のいやらしさがバレてしまった。
『うーん、ここにはなさそうかな、次は女性用へ行くよ』
「ううっ…」
『まだ落ち込んでるのかい?ほら、行くよ』
そう言うと、先輩は俺の手を握って、女性用売り場まで連れて行った。
『やっぱり女性用の方がデザインがいろいろあっていいね』
『ほら枕木君、これとかどうかな?』
その水着は、タンクトップのようなデザインだった。
「俺はもっと…その肌が見えた方が…」
『やっぱりスケベなんだね』
「うっ」
その後もいろいろ探したが、先輩と俺が納得するような水着はなかった。
「なかなか見つからないですね」
『そうだね…というか探してるのは僕ばかりじゃないか』
『君にも探してほしいのだけど』
「だ…だって俺が選ぶやつはその…多分あれですから」
『露出が多いってことかな?』
「…はい」
またスケベだと思われてしまった。
もう俺はダメかもしれない。
だが次の先輩の一言は俺の予想とは違っていた。
『じゃあ一回それを選んできてほしいな』
「えっ」
『せっかく一緒に来たんだから、君の選ぶものが知りたいんだ』
「じゃ…じゃあ」
俺が選んだのはフレアビキニという、
胸の部分にフリルがついていて可愛らしい水着だ。
それに加えて、パレオという、
腰に巻いて着用する布がついているものだ。
『へえ、こういうのが君の好みなんだ』
「あっ…嫌なら全然、気にしないでください」
『それいいね、気に入ったよ』
『せっかくだし試着してこようかな』
「えっ」
そう言うと先輩は俺が選んだ水着を手に取り、
試着室へ向かった。
『一応言っておくけど、見たらだめだよ』
「しませんよそんなこと!」
『ふふっ、じゃあ着替えるね』
そして少し時間が経ったあと、
声が聞こえてきた。
『着替え終わったよ』
そう言ったあと、先輩は試着室のカーテンを開けた。
『どうかな?似合っているだろうか』
「すごく…すごく似合ってますよ先輩!」
黒を基調とした水着は、先輩の白い髪と合わさり、
美しい色合いに感じる。
そしておへそと肩が出ているのが、俺的には素晴らしい。
だが、パレオのおかげで露出も多すぎず、いい塩梅だ。
『あまり、こういう水着は着たことがないから恥ずかしいね』
「いやでも、いいですよ!ほんとに」
『……じゃあこれを買おうかな』
『君が選んでくれたんだからね』
そう言った先輩の顔は、少しだけ赤く見えた。
『それと…』
「なんですか?」
『恥ずかしいから閉めていいかな』
「あっ、はい」
そして少し時間が経ったあと、先輩が試着室から出てきた。
その表情は満足そうだった。
そして俺たちはレジへ向かい、水着を買って店を出た。
『今日はありがとう、枕木君』
「自分も楽しかったですよ」
『いろいろといやらしいことを考えていたもんね』
「それは忘れてください…」
『ふふっ、じゃあまたね枕木君』
「さようなら、先輩」
今日もいい一日だった──。
そして後日──。
「先輩とプールに行けるなんて、私幸せですわ」
「はあ」
今日は先輩とプールに来ている。
竜崎もいるがまあいい、なぜなら先輩の水着は俺が選んだものだからだ。
おそらく竜崎は驚くだろう。
「おや、先輩が来たようですわ」
『ごめんね、遅れてしまったよ』
「いや、いいですよ、せんぱ…」
水着が違う。
サーフパンツの上にラッシュガードを着ている。
俺の選んだものじゃない。
「せ…先輩、あの水着はどうしたんですか!?」
『……だって』
「だって?」
『露出が多くて恥ずかしいじゃないか』
その日、俺の選んだ水着が見れることはなかった──。




