↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/34

第12話 「趣味」

いつものように学校でお昼ご飯を食べている時だった──。


『突然だけどさ』

「ん?なんですか先輩」

『君って趣味はあるのかい?』


返答に困ってしまった。

俺は趣味なんか特にないからだ。

だからといって、正直に特にないですというのは恥ずかしい。

俺は頭を回転させ、少しでもかっこつけられる言葉を考えた。


「先輩、趣味なんかなくたって人は幸せに暮らしていけるんです」

「そんなことにこだわるのって…意味のないことだと思いませんか」


自分でもよく分からないことを言ってしまった。

先輩も少し呆れ顔で空気が凍っている。

趣味があるか?と聞かれているのに、

これでは、空気の読めない気持ち悪いやつだ。


『ふうん、そっか』

『そうだ、りゅりゅは趣味あるのかな?』

「私は休日にビリヤードをするのが好きです」

「他にもゴルフだったりいろいろしていますよ」

『へえ、いろいろあっていいね、もっと聞かせてよ』


先輩は竜崎と二人で楽しそうに話をしている。

俺だけ蚊帳の外にいる気分だ。

だがそれも仕方ない、こんなつまらない男と話などしたくないだろう。

なんであんなこと言ってしまったんだ、と思いながらうつむいていると、

昼休みが終わってしまった。


『じゃあ、またね』

「私もそろそろ教室へ戻ります、さようなら先輩」

「あっ、じゃあ俺も…」


そうして、次の授業が始まったが、気分は落ち込んだままだ。

なんとか授業を聞き、ノートを取ることはできたが、

俺の頭は後悔でいっぱいだった。


(あそこでかっこつけたりせず、素直に無趣味って言えば…)

(でも、それは恥ずかしいし…)


そんなことを考えながら、授業を受け、今日の学校が終わった。

家に帰ろうと、とぼとぼ歩いていると校門に先輩が立っていた。


「あ…どうも…」

『まだ落ち込んでいるのかい?』


バレている。

別に隠そうとしていなかったから当然ではあるのだが、

落ち込んでいるのがバレて恥ずかしい。


「だ…だって」

『分かっているよ』

『君はカッコつけたがりで考えすぎだからね』

「うう…励ましたいのか貶したいのかどっちですか」

『もちろん励ましさ』


あまり励まされた気はしないが、やはり先輩と話すと元気が出る。


『それで…聞きたいのだけど』

「……なんですか?」

『君は趣味を作りたいのかい?』


俺は悩んだ。

別に趣味が欲しいわけではないが、無趣味が嫌なのと、

かっこつけたい気持ちの方が強いからだ。


『別にいらないならそれでもいいと思うけど』

『もし君が趣味を作りたいのなら…僕が手伝ってあげるよ』

『それに…』

「それに?」

『僕は趣味を持ってる人はかっこいいと思うなあ』

「やります!俺、趣味作りたいです!」

(……枕木君は単純だね)


先輩は俺を見て少し笑っていたが、

俺にはその顔の真意は分からなかった。

それはともかく、先輩の一言で、俺は趣味を作ることにした。


「でもなにがいいんですかねえ」

『それは君が決めることだけど、アドバイスするなら継続できるものかな』

「継続できるもの…継続…あっ」

『何か思いついたかな?』

「料理とかいいかな…って」

『それはいいね』


俺は、親があまり家に帰ってこないので、よく料理をしている。

お弁当なんかも俺が作っているし、料理を趣味にするのはちょうどいいと思った。


「先輩、おかげで趣味できました。ありがとうございます」

「じゃ、今日は帰ります。また明日」


そう俺が言うと、なぜか先輩は少し頬を膨らませ、不満げな表情になった。


「えっ、俺なんか変なこと言いましたっけ」

『ん〜?だって解決するのが早いじゃないか』

「そんなこと言われたって…」

『……そうだ、今日、君の家に行ってもいいかな』

「別にいいですけど…なんですか急に」

『君の料理が食べたいんだ、食材費は僕が出すから』

「えー…」

『趣味を作るのを手伝ってあげたお礼ということさ』


そんなこんなで俺は先輩に料理を作ることになってしまった。

まず、食材を買うためにスーパーへ行くことにした。


「先輩、なんか食べたいものとかあるんですか」

『特にないけれど、強いて言うなら鮭のムニエルかな』

「ムニエルですか、作ったことないな」


そして俺は食材を買い、家に帰った。


「そういえば先輩、家帰らなくていいんですか」

「18時には帰って、ご飯を作るんじゃなかったんですか?」

『すぐ食べて帰れば間に合うよ』

「はあ、じゃあ作りますね」


人に料理を作るのは初めてだ。

俺はとりあえず、フライパンに油を引き、鮭を焼いた。

その後、なんやかんやして、仕上げに野菜を添えて──。

鮭のムニエルの完成だ。


「できましたよ、先輩」

『わあ、とても美味しそうだね』

「まあ盛り付けとかも多少こだわりましたから」

『では、いただくね』


そう言うと先輩は料理を食べ始めた。

緊張する。初めて自分の料理を人に食べられているからだ。

しかもその相手は先輩。

もしまずかったらどうしようという不安が募る。

先輩は上品に、そして静かに食べている。

なにも言わないのは、あまり美味しくないのだろうか?

そう思っていると、先輩が口を開いた。


『美味しいよ』

「ほ…本当ですか」

『うん、表面は香ばしく、それでいて中はふっくらでジューシーだ』

『それになにより…』

「なんですか?」

『君が作ってくれたから、より美味しい気がするよ』


先輩は嬉しそうな顔でそう言った。

俺まで嬉しくなってくる。

その後、先輩は俺の作ったムニエルを、美味しそうに全て食べた。


『ごちそうさま』

「おいしかったならよかったです、最初喋らないからダメなのかと思いましたよ…」

『ふふっ、君は相変わらず考えすぎだね』

「ははは…」

『……こんなに美味しいご飯が食べられるなら、ここに引っ越してしまおうかな』

「えっ」

『冗談だよ』


頬に軽く手を当て、少しからかうような表情で先輩はそう言った。

けれどその頬は少し赤かった。

毎回、先輩の冗談は本気か嘘か分からない。


『おっと、もうこんな時間だね』

「本当ですね、そろそろ帰りますか?」

『うん、今日は急に来てごめんね』

「ほんとですよ」

『ふふっ、じゃまた明日ね、枕木君』

「さようなら、先輩」


今日、俺は趣味ができて、さらに目標もできた。

次は先輩に、もっと美味しい料理を作ってあげたいという目標が──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。