第12話 「趣味」
いつものように学校でお昼ご飯を食べている時だった──。
『突然だけどさ』
「ん?なんですか先輩」
『君って趣味はあるのかい?』
返答に困ってしまった。
俺は趣味なんか特にないからだ。
だからといって、正直に特にないですというのは恥ずかしい。
俺は頭を回転させ、少しでもかっこつけられる言葉を考えた。
「先輩、趣味なんかなくたって人は幸せに暮らしていけるんです」
「そんなことにこだわるのって…意味のないことだと思いませんか」
自分でもよく分からないことを言ってしまった。
先輩も少し呆れ顔で空気が凍っている。
趣味があるか?と聞かれているのに、
これでは、空気の読めない気持ち悪いやつだ。
『ふうん、そっか』
『そうだ、りゅりゅは趣味あるのかな?』
「私は休日にビリヤードをするのが好きです」
「他にもゴルフだったりいろいろしていますよ」
『へえ、いろいろあっていいね、もっと聞かせてよ』
先輩は竜崎と二人で楽しそうに話をしている。
俺だけ蚊帳の外にいる気分だ。
だがそれも仕方ない、こんなつまらない男と話などしたくないだろう。
なんであんなこと言ってしまったんだ、と思いながらうつむいていると、
昼休みが終わってしまった。
『じゃあ、またね』
「私もそろそろ教室へ戻ります、さようなら先輩」
「あっ、じゃあ俺も…」
そうして、次の授業が始まったが、気分は落ち込んだままだ。
なんとか授業を聞き、ノートを取ることはできたが、
俺の頭は後悔でいっぱいだった。
(あそこでかっこつけたりせず、素直に無趣味って言えば…)
(でも、それは恥ずかしいし…)
そんなことを考えながら、授業を受け、今日の学校が終わった。
家に帰ろうと、とぼとぼ歩いていると校門に先輩が立っていた。
「あ…どうも…」
『まだ落ち込んでいるのかい?』
バレている。
別に隠そうとしていなかったから当然ではあるのだが、
落ち込んでいるのがバレて恥ずかしい。
「だ…だって」
『分かっているよ』
『君はカッコつけたがりで考えすぎだからね』
「うう…励ましたいのか貶したいのかどっちですか」
『もちろん励ましさ』
あまり励まされた気はしないが、やはり先輩と話すと元気が出る。
『それで…聞きたいのだけど』
「……なんですか?」
『君は趣味を作りたいのかい?』
俺は悩んだ。
別に趣味が欲しいわけではないが、無趣味が嫌なのと、
かっこつけたい気持ちの方が強いからだ。
『別にいらないならそれでもいいと思うけど』
『もし君が趣味を作りたいのなら…僕が手伝ってあげるよ』
『それに…』
「それに?」
『僕は趣味を持ってる人はかっこいいと思うなあ』
「やります!俺、趣味作りたいです!」
(……枕木君は単純だね)
先輩は俺を見て少し笑っていたが、
俺にはその顔の真意は分からなかった。
それはともかく、先輩の一言で、俺は趣味を作ることにした。
「でもなにがいいんですかねえ」
『それは君が決めることだけど、アドバイスするなら継続できるものかな』
「継続できるもの…継続…あっ」
『何か思いついたかな?』
「料理とかいいかな…って」
『それはいいね』
俺は、親があまり家に帰ってこないので、よく料理をしている。
お弁当なんかも俺が作っているし、料理を趣味にするのはちょうどいいと思った。
「先輩、おかげで趣味できました。ありがとうございます」
「じゃ、今日は帰ります。また明日」
そう俺が言うと、なぜか先輩は少し頬を膨らませ、不満げな表情になった。
「えっ、俺なんか変なこと言いましたっけ」
『ん〜?だって解決するのが早いじゃないか』
「そんなこと言われたって…」
『……そうだ、今日、君の家に行ってもいいかな』
「別にいいですけど…なんですか急に」
『君の料理が食べたいんだ、食材費は僕が出すから』
「えー…」
『趣味を作るのを手伝ってあげたお礼ということさ』
そんなこんなで俺は先輩に料理を作ることになってしまった。
まず、食材を買うためにスーパーへ行くことにした。
「先輩、なんか食べたいものとかあるんですか」
『特にないけれど、強いて言うなら鮭のムニエルかな』
「ムニエルですか、作ったことないな」
そして俺は食材を買い、家に帰った。
「そういえば先輩、家帰らなくていいんですか」
「18時には帰って、ご飯を作るんじゃなかったんですか?」
『すぐ食べて帰れば間に合うよ』
「はあ、じゃあ作りますね」
人に料理を作るのは初めてだ。
俺はとりあえず、フライパンに油を引き、鮭を焼いた。
その後、なんやかんやして、仕上げに野菜を添えて──。
鮭のムニエルの完成だ。
「できましたよ、先輩」
『わあ、とても美味しそうだね』
「まあ盛り付けとかも多少こだわりましたから」
『では、いただくね』
そう言うと先輩は料理を食べ始めた。
緊張する。初めて自分の料理を人に食べられているからだ。
しかもその相手は先輩。
もしまずかったらどうしようという不安が募る。
先輩は上品に、そして静かに食べている。
なにも言わないのは、あまり美味しくないのだろうか?
そう思っていると、先輩が口を開いた。
『美味しいよ』
「ほ…本当ですか」
『うん、表面は香ばしく、それでいて中はふっくらでジューシーだ』
『それになにより…』
「なんですか?」
『君が作ってくれたから、より美味しい気がするよ』
先輩は嬉しそうな顔でそう言った。
俺まで嬉しくなってくる。
その後、先輩は俺の作ったムニエルを、美味しそうに全て食べた。
『ごちそうさま』
「おいしかったならよかったです、最初喋らないからダメなのかと思いましたよ…」
『ふふっ、君は相変わらず考えすぎだね』
「ははは…」
『……こんなに美味しいご飯が食べられるなら、ここに引っ越してしまおうかな』
「えっ」
『冗談だよ』
頬に軽く手を当て、少しからかうような表情で先輩はそう言った。
けれどその頬は少し赤かった。
毎回、先輩の冗談は本気か嘘か分からない。
『おっと、もうこんな時間だね』
「本当ですね、そろそろ帰りますか?」
『うん、今日は急に来てごめんね』
「ほんとですよ」
『ふふっ、じゃまた明日ね、枕木君』
「さようなら、先輩」
今日、俺は趣味ができて、さらに目標もできた。
次は先輩に、もっと美味しい料理を作ってあげたいという目標が──。




