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52.手紙とガルド戻ってのお話し

第五十二話「手紙とガルド戻ってのお話し」




 澪の事を「嬢」を付けて呼ぶ人は、一人しか心当たりが無い。手紙をもらうような仲だと思われるのも、その人、ひとりだけ。


 澪は小窓を閉めると、ベッドに腰掛けて恐る恐る手紙を開封した。封蝋がパリパリと割れて落ちてしまい、床に落ちてゆく。

 澪はそれを複雑な思いで、丁寧に拾い上げて室内のごみ捨ての中に入れた。手紙の封が破られて、中身があらわになる。ザラザラとした繊維質の厚紙だ。澪が子供の頃、牛乳パックで手作りした紙と少し似ている。


 二つ折りの手紙を開いてみると、英語ではないもののカリグラフィーのような美しい字で短い文章が書かれていた。


『……敬愛なるミオ・ハナモリ嬢。お話しした通り、我がベルディス侯爵邸の秘密の場所にお招きしたく存じます。エレクトラもまた貴方の〈とりみんぐ〉を受けるのを楽しみにしています。お越しになる日にちをお知らせ下さい。お待ちしています。レオンハルト・ベルディス侯爵』


 レオンハルトの達筆らしき署名の後ろに、大きな大きな肉球が押されている。この独特な形の肉球は、エレクトラのものだろう。険しい岩山をものとせず駆け回れるよう、肉球の作りが独特なのだ。

 手紙を書き終わったところに、エレクトラも出て来て一緒に署名したいと意思表示したのだろうか。澪とルーチェのように直接言葉で意思疎通ができるわけではないレオンハルトとエレクトラが、どんな風にお互いの気持ちを伝え合っているのか、それを想像して澪はくすりと笑った。


 もう夕方だ、窓の外がだんだんと夕闇に包まれ始めている。

 澪は髪と服を整え、寝ぼけ顔を水洗いすると、まだベッドでウトウトしているルーチェを抱き上げた。


「随分長いお昼寝しちゃったね、ルーチェ。起きた? 手紙の事、ガルドさんに相談してみなきゃね」


(うー、おはよう、みおぉ)


 ルーチェは明らかに寝ぼけてる。そのまま抱っこして、部屋を出た。階段を降りて行くと、一階の食堂には灯りが灯っている。まだ夕食には早い時間だが、数人のお客がお酒とつまみを食べながら談話している。


「澪ちゃん! おはよう、よく眠れた?」


 女将が真っ先に気付いて声を掛けてくれた。澪は大きく頷いて、ガルドの姿を探す。それに気付いた女将が、ニコニコしながらガルドのいるテーブルを指し示してくれた。


「さっきちょうど帰って来たところよ。良かったわね。あ、アンジュは手紙の配達できたかしら?」


「はい! アンジュちゃんお利口さんでした」


 澪は笑顔で答えると、ガルドの座る席に向かった。一眠りしたからか、朝ほど彼の事を意識しないで済んでいる。


「ガルドさん、お帰りなさい!」


 澪は明るく声をかけ、彼の正面の席に座った。ガルドはあくびを噛み殺しながら、頭を掻いて澪を見た。寝不足か、二日酔いか、それとも商業ギルドへ行った疲れか。


「あぁ、澪。過労で寝てたって聞いたぞ。大丈夫か?」


 澪は恥ずかしそうに頭を掻いて、笑った。


「寝過ぎちゃいました。もうバッチリ元気ですよ! ガルドさんはどうでしたか? 私の店のことなのに、行ってもらっちゃってすみません」


 ガルドはハァーと大きな溜息をついて、首を横に振った。


「良いんだ、オデリーは澪がいると変に絡んで大騒ぎして面倒だったろ? そういうのが嫌いなんだよ、俺は。だから今日はさっさとあの建物の契約を進めようと思ってな」


 そう、ガルドは昨日のウンザリするオデリーとのやり取りが面倒で、澪に会わず朝イチで契約のためにオデリーに会ってきたのだ。澪を連れて行けばオデリーは嫉妬するし、契約の話も拗れかねない。


「いえ、オデリーさんを不安にさせるような事しちゃって、申し訳ないなと思いました。ガルドさんの事ばかり気にしていて、すごく好意を持ってるんだなって……」


「分かってる。だが俺はああいう仕事がデキて、男を尻に敷くタイプの女は苦手なんだよ。だからずっと、オデリーの片思いだな」


(そうだったんだ……)


 報われない恋をずっとするって、どんな気持ちなんだろう。澪はそんな事を考えながら、自分が勘違いした事をガルドに詫びた。二人はそれなりに仲良しなのだと思っていたから。


「まぁ、それはいいんだ。そんなことより、あの建物だけどな、契約できそうだぞ」


「本当ですか!?」


 澪は大声を上げて、喜んだ。やっぱりあそこがいいなと、何度も思い出していたのだ。まだ城下町の商業ギルドへは行っていないが、買い物に行った時の城下町の店舗の数々の雰囲気は、ちょっとお高めというか、澪が一人で切り盛りするサロンがあるような場所ではない気がする。

 その点、あの建物は見た目も場所も良いところにある。自分があそこでトリミングサロンを開いているイメージが浮かぶのだ。


「嬉しい!! 私、あの場所でやりたいと思ってたんです!ー


 ガルドはふわっと優しく笑うと、手を伸ばして澪の頭をわしゃわしゃと撫でた。


「澪がそう言うと思ってな。契約を急いできたってわけだ。俺もあの場所がいいと思うぜ。家賃も値切ってきたからな、急いで店の内側外側の準備、やってこうな」


 はいっ! と澪は満面の笑みで答えた。

 二人は女将に声を掛け、晩御飯に好きなメニューをいくつかと、昨日よりは控えめにお酒を頼んだ。飲み過ぎるとガルドが潰れてしまうので、少ししか飲ませないほうが良さそうだ、と澪と女将は密かに同じような事を思っていた。


「あ、そうだ……ガルドさん。実は今日、レオンハルトさんから手紙が届きまして」


「はぁ!? 手紙?」


 澪のテーブルに置かれたそれらしき紙を見て、ガルドはバッと紙を取ってすぐに中身を確認する。


「秘密の場所だぁ? なんだこりゃ? 澪だけ呼ぼうってのか!? あいつめ!」


 テーブルをドンドンと叩きながら、ガルドは手紙を見て憤慨してる。本当に怒っているのか、半分冗談なのか、澪には見分けがつかない。困ってヴァルクの方を見る。


(……嫉妬だな)


 ヴァルクはそれだけ言うと、伏せて眠そうに目を閉じてしまった。


「えーと、この手紙への返事の仕方を、教えて欲しいんですけど?」


 澪が控えめに聞くと、ガルドはハァと小さくため息をついた。困ったような顔をして、また頭を掻くクセが出ている。


「従魔に手紙を持たせて侯爵家に届けてもいいし、侯爵家の人に伝えるでもいい。伝言を頼むってやつだ。澪、お前は読み書きできるのか?」


 澪は手紙を見てうーんと首を傾げ。


「あ! 読めはするんですけど、書けないかも!」


 と今日一番の発見をして、それが面白かったらしく、ガルドと二人でクスクス笑ってしまった。

なかなか書く時間とれず!

頑張ります!!!諦めるなー!

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