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49.お店の候補物件

第四十九話「お店の候補物件」





 レオンハルトは渋々「仕事に戻る」と消えていき、ガルドと澪は二人で下町を歩いていた。下町の商業ギルド〈虹硬貨(ピアコリン)〉自体も、城下町にほど近い場所にあるため、これから見に行く店舗の候補物件も近くにあるそうだ。


 2人が居る王都は、王族が住む王城を中心地とした、放射状の形をしている。王城の内郭には王立騎士団本部、王立軍本部、行政部があり、外郭には訓練場や兵舎など軍事関係の施設がある。

 そこからやっと外に出ると城下町があるが、その中の高級住宅地エリアには貴族街があるそうで、先日行ったレオンハルトの侯爵邸も貴族街の中にある。

 ちなみにガルドは名誉男爵になった際、貴族街に屋敷を下賜されたらしいが、すぐ売り払ったらしい。


「貴族街なんて、魔道具の納品に来るだけで充分だ! 俺はこんなとこには住めねえ!」 


 と本人は(のたま)っていたそうだ。元々国境近くの戦闘地帯で生まれ、一家皆が兵士という生まれである、いきなり貴族扱いされても無理なものは無理。下賜されたものを売り払うというのは大変な無礼らしいが、ガルドのような貴重な職人は居ないため、王国が常に戦時中という事もあり上の方々は目を瞑る事にしたらしい。この話は後から本人に聞いて澪はびっくりの連続だった。


「俺はな、心ゆくまで剣を鍛えたいんだよ。後世に残る名剣をこの手で鍛えたい。そのために騎士団もさっさと辞めたし、好きなだけ鋼を打ってても苦情が来ない城門脇に店を構えたってわけだ」


 二人で連れ立って歩いていて、ガルドがそんな事を話してくれたので、澪はワクワクしながら返答した。


「私もガルドさんが鍛えた剣を見たいです! それに、出来るなら、私が使うシザーも鍛えて欲しいなあって思ってます。でも、こんなに付きっきりでお世話になってたら剣を作る暇も無いですよね、ごめんなさい」


 澪の言葉は最もだが、ガルドは首を横に振った。


「あー、剣は今日レオンハルトが下げてたな。多分俺に手入れを頼みたいところを、言い忘れてまた下げて帰ってったな。今度見せてやるよ。もちろん、澪が使うシザーも俺が作ってみたいさ。神様が造ったシザーに俺の技が敵うかどうか、わくわくする。それに、もう少し使いやすくしてやれる気がするんだよな、そのシザー自体も」


 神鋼で作られた、世界で一つだけのトリミングシザー。澪もできる事ならセニングやボブ、カーブなどバリエーションを増やして行きたいところだ。

 だが、ガルドと出会ってからというもの、彼は澪と殆ど毎日一緒に過ごしている。寝る時間以外の殆どずっとだ。まるで家族のように、当たり前のように朝になると眠る仔羊亭に来てくれていて、夜になれば共に夕食を食べた後にお休みを言って別れる。

 ずっと大好きな剣作りができていないのではないか、と澪は不安になる。ガルドはそんな澪の頭をよしよしと撫でて、安心させるように笑った。


「良いんだよ、今まで馬鹿みたいに剣を鍛え続けて来たからな。今は澪の道具作りをやってみたいし、安心して澪が一人でも動き回れるくらいここに慣れてもらわねえと、心配で仕事が手に付かんしな」


 優しい言葉に、澪はじんわり溢れて来た涙を拭ってガルドの大きな体に抱きついた。感謝と親しみを込めたハグだったが、ガルドは顔を赤く染めて慌てて澪を引き剥がす。


「こらこら、嫁入り前の女性が男にいきなりくっついたらダメだぞ」


 道ゆく人や、店をやっている人もガルドのことを知っているのだろう、驚いた表情で二人を見ている。兎に角二人に沢山の視線が集中するので、ガルドは噴き出て来た冷や汗を拭った。


(そりゃそういう仲なら良いけど、変な噂だけ広がって澪の耳に入ってもなぁ)


 困ったものだ、とガルドは頭を掻いた。悩ましい事に、二人の関係が前にも後ろにも進めなくなっている。

 と、ふと不揃いの石畳が整然と整えられた城下町の道が見えて来た頃、その建物がガルドの目に入った。


 下町の多くの建物が石造り、しかも鼠色の切出岩を使っているのに対して、その建物だけは白い石が一階部分に使われている。硬白石だろう、切出岩よりも価値のある石が綺麗に並べられ、その上には明るい白煙木で2階部分が組み上げられている。建物自体は、眠る仔羊亭と比べれば小ぶりだが、澪にとってはその方が都合が良い。あまり大きいと家賃も高くなるだろうし、澪一人では広さを持て余す可能性があるからだ。


 澪は建物に歩み寄ると、硬白石で作られた建物の壁に触れた。ほぼ同じ大きさに切り出された石が、煉瓦造りのように丁寧に積まれている。隙間もきちんとセメントのようなもので接着されている。

 見上げればやや白みを帯びた木で建てられた二階部分、バルコニーは無いが出窓があり、そこに可愛らしい小鳥が止まっているのが見えた。

 小鳥を含めたその景色がまるで、物語の一ページに出てくる挿絵のようで。


「……素敵な建物ですね」


 澪が正直な感想を言う。ガルドも隣で建物を見つめながら、頷いた。オデリーのイチオシというのは気に食わないが、良い物件というのは間違いない。こんな良い物件にまだ何の店舗も入っていないという事実が、信じられない。


(オデリーの事だ。一番金になりそうな店が現れるまで、ギリギリ待つつもりだったんだな。そこへ澪が現れた、と)


「あぁ、そうだな。今日は中身は見れんから、ここから眠る仔羊亭まで歩いてみるか?」


「あっ、良いですね。通勤距離の確認は大事ですよね。ところで、中身を見るにはどうしたらいいんですか?」


「それはな、まーた商業ギルドに行ってな、内覧の申込をする。だが、今日のオデリーの反応だと、手続きみんなすっ飛ばして鍵を渡されそうだな」


 ガルドさんのお陰だなあ、と澪はにっこり。澪はガルドが本当にオデリーに関心が無いどころか、煙たがっている事をイマイチ理解していないのだ。寧ろ二人の間を裂くような立ち位置になっていないか、そのことを心配しているというズレ具合。


 気持ちはややすれ違う二人だが、仲良く眠る仔羊亭に向かって歩き始めた。澪は方向が分からないので、ガルドを少し前に、自分は一歩下がって着いていく。ヴァルクとルーチェも仲良く二匹でじゃれながら着いてくる。


 だんだんと夕方が近づいてくる。

 町行く人々の足元にいる、従魔達に自然と目が向く。


「……やっぱり、毛玉とかもつれとか、魔力回路の乱れ、気になるなぁ」


 澪が呟いた。澪の感覚で「綺麗」と思える従魔が一匹も居ないのだ。そしてスキルを通して見て「健康」な子も居ないように感じてしまう。澪の理想が高すぎるのかもしれないが。


(早くお店出して、片っ端からみんなをトリミングしたい!!)


 心の中で叫ぶ澪だった。

お店を持つ道筋がだんだんとできてきました。


次回、オデリーを尋ねて店舗建物の値段交渉するガルドと、

レオンハルトの侯爵邸に招かれた澪の、

別行動が展開して行きます。

ガルド着いていくつもりが行けず!!!

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