47.どうなる澪のサロンのお店の場所!
第四十七話「どうなる澪のサロンのお店の場所!」
「話は済んだんだろうな?」
澪と話す時間は充分やっただろう、と言わんばかりにガルドはレオンハルトを睨み付ける。レオンハルトは今までの氷のような硬い表情から、どこか雰囲気が変わって、穏やかな空気が流れている。ガルドはそれが余計気に食わない、と思った。
「ああ、我が侯爵家が後援する事は伝えた」
何故か、ガルドとレオンハルトは立ったままお互いをじぃっと見つめ、まるで睨み合うかのようにしている。澪はおろおろしつつも、(二人は友人なんだから、まぁいっか……)と思うことにした。
「澪の店の候補地の一つ目が決まったぞ。オデリーが提案してきた。城下町と下町のちょうど境目にある、一番新しい建物だってよ」
ガルドの言葉に、澪の顔がぱぁっと輝いた。
「行ってみたいです!」
自分のお店を出すなら、一番優先すべき事は――――トリミングサロンなら、まず立地!! それはブラックトリミングサロンで働いていた頃、よくオーナーが口にしていた台詞だ。オーナーは他の業種の店舗も経営しているらしく、経営者としては優秀で、サロンも含め会社全体の売上も上々だった。だがそれは、澪のようなトリマーを使い倒して得た結果だったが。
働く人たちの環境を整えるところまではしてくれない経営者ではあったが、そんなオーナーがたまに店に来て言っていたのは、「立地が良いと勝手に客が増える」だった。
この世界では人間一人に従魔(こと犬)が一匹いる、とはいえ、その主(飼い主)すべてがお金を払ってまで従魔をトリミングに出すとは限らない。だから、お金を払ってくれそう、払う価値があると分かってくれそう、そして払うお金がある、そんな人々が多いエリア、を選ばなくてはならないだろう。
「もっと城下町の中心部、店が多い地域が良いんじゃないか? それか、貴族街でも」
レオンハルトが声を上げる。お貴族様だから、下町に店を構えるというのが、納得できないようだ。彼の言う通り、澪がワンピースを買いに行った城下町のショッピングエリアは、お金を使うために町に繰り出して来た人々が大勢訪れる場所で、サロンを出すのも悪くはないかもしれない。
だが、下町の人にも来て欲しい、澪はそう強く思っていた。下町の人は従魔と共に日々仕事をしているので、そんな従魔にこそ、魔力回路が良くなり元気が出る澪のトリミングを受けて欲しい。
「貴族街はダメだ。貴族お抱えの私兵や、お前んとこの騎士団員、それに治安隊の上の連中、軍部だって来るかも知れない。城下町もそういう意味では客層が危険だ」
結局、戦闘系の従魔はお断りするしかない。まだ始めてもいないお店で客を選ばなければならないと言うのは、澪にとって納得の行かない部分もあるが、自分が従魔のような道具にされない為……仕方ないことだ。
「私、下町の人の従魔もトリミングしたいです。でも、金銭的に難しいとか、ありますか?」
澪はこの世界の、イングロンの人々の経済状況を知らない。だからガルドとレオンハルトに聞くしかない。だが、この場合はガルドに、が正しいだろう。レオンハルトは所謂、侯爵家に生まれた貴族のお坊ちゃまだ。下町に住む人々の懐事情を知るする術も無く育ってきて今に至る。
ガルドは腕を組んでうーむと悩み、しばらくして口を開いた。
「俺が最初下町に店を構えた時な、下町の連中は、魔道具なんて貴族様が使うモンは自分達には縁がねぇから売れないぞ、って言ってたんだよ。けどな、俺の方から世話になった〈眠る仔羊亭〉に魔道具ランプや魔道桶を見せて、値段も安くしたら、こんな便利なものがあるのかって大喜びしてな。この下町商業ギルドにも俺が納品した魔道具がたくさん使われてるし、それを見たやつが欲しがって俺に注文してくる。最初はみんな疑ったり金を出し渋ってもな、本当に価値があるモノ、便利なモノ、そういうモノには弱いんだ、人間は」
ガルドは、この世界にはあったが、一部の層が独占していたモノを沢山の人に広めたのだ。そういう意味では、澪がこれからお店を始めようとする事に対して、大きな力になってくれる存在である。
澪のトリミングは、この世界には存在しなかったサービスだ。それをどう人々に広め、価値を認めてもらい、お金を払ってもらう仕組みを作るか。
ガルドの話してくれた、魔道具と下町の人の話はとても参考になる、と澪は思った。
「待ってくれ。下町だって、傭兵や冒険者が来たりするかもしれない。それこそ、澪嬢の〈とりみんぐ〉の凄さが露呈してしまうのではないか? そんなリスクを負うくらいなら、貴族、しかも戦闘系でない優雅な貴族向けの店として出した方が良いのではないか?」
傭兵や冒険者! ファンタジーあるあるの二大職業ではないか。澪は聞いてワクワクしてしまった。冒険者にも一人に一匹必ず従魔(こと犬)がいて、共に冒険を繰り広げたいるとしたら……それってすごく、犬好きにはたまらない構図だ。
しかも、その冒険者の従魔までトリミングできたら、どれほど楽しいだろう。
いつかは、戦闘系とか関係無しにトリミングしたい。全ての従魔をトリミングによって幸せにしたい。
「私は下町の人の従魔もトリミングしたいんですってば。ちょっと、魔力回路をよくしすぎないようにできないか、聞いてみます!」
澪はそう言うと、「何を始めるんだ?」と不思議がる男二人を前に、足元にいたルーチェを抱っこした。
ギリギリ夜遅くの更新ですみません!




