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46.オデリーとガルド

第四十六話「オデリーとガルド」





 少し時間は戻り。下町地区商業ギルド〈虹硬貨〉ギルド長オデリーと、ガルド、二人はしばらく言葉を発する事なく、その場に居た。

 澪とレオンハルトが隣の部屋に行って、明らかにガルドはそちらが気になっている。オデリーはそんなガルドを切なそうに、だが諦めの表情で見つめている。


「……ねぇ、ガルド。私達が結婚していたら、今頃どうなってたかしら」


 本来、求婚は男性側が行うもの、それがイングロン王國では常識だ。だが、その常識を破ってでも、オデリーはこの無頼漢と結婚したかった。


「はぁ、お前もしつこいなあ。俺は稼ぎのため、それと遊び半分で魔道具造りをしてるが、本業は鍛治屋だ。後世に残るモノを造りたい、それが俺の生き方だって言ったろ。結婚なんて無理だ、無理! 特にお前みたいな、仕事命の立場のある女と結婚なんて、やっていけるわけがねえ」


 ガルドはそう言い放つ。オデリーのような美人はなかなか居ないのに、そこに惹かれる要素は全く無いようだ。オデリーは悲しげに目を伏せる。


「じゃあ、あの子供みたいな異民族のお嬢さんとなら、結婚しても良いって言うの?」


 オデリーのしつこい問いかけに、ガルドは大きな溜息をついて頭をかきむしった。


「いい加減にしろ、お前の立場と俺のやりたい事が相容れない事くらい、分かってるだろ? 第一、俺がお前の事が全然好きじゃない。だからって、別に澪のことが好きで結婚したいとか思ってる訳じゃない。あいつは、お前が思ってる以上に色々事情を抱えてるんだよ」


 ガルドはこの時、嘘を吐いた。ヴァルクはそれを感じ取り、呆れたように後ろ足で耳を掻いている。これ以上オデリーに話題にされるのが嫌だからとはいえ、ガルドは内心で自分に気分が悪くなるのを感じていた。


 そんなガルドの胸中を知らないオデリーはガルドの台詞に満足したようで、ふぅと息を吐くと、今度は真面目なギルド長モードの表情になる。


「……じゃあ、仕事の話をしましょ。あの子、ハナモリミオ、すごいスキルと技術だったわ。今もテスラから届く魔力が、すごく上質で良いものになった感じがするの。ずっと執務室で実技や面接ばかりしていたから、テスラも外に出られなくて体が鈍っていたみたい。今はそれが嘘のように魔力回路の流れが良くなっているのを感じる。私は特にテスラと魔力交換する機会が多いから、感じ取りやすい方だとは思うけれど。それを抜きにしても、見た目の愛らしさも、こんな風にハサミでカットするなんて、すごく素敵じゃない? 臭いも取れて、毛艶も出て、見た目も中身の魔力さえも良くなった。まるで従魔に奇跡を起こしたみたい」


 やや早口になりながら、オデリーは澪のトリミングについて率直な感想を吐き出した。

 ガルドとの関係抜きに、この才能は、イングロン王国には存在しない、全く新しい、そして非常に有益なものだ、そう確信している。ギルド長の勘が告げている、ハナモリミオが店を出せば、下町をより価値ある場にすることができる、と。


「だから、彼女が店を出すことは賛成よ。合格ってこと。場所は……そうね、城下町との境界にある、一番新しい建物を貸し出してあげるわ。どう? 最高の条件じゃない?」


 ガルドは澪の価値が伝わったことは嬉しいと思ったが、オデリーに「ちょっと待て」と釘を刺す。


「澪が居ないこの場で、俺とお前だけで決めていい話じゃない。お前は澪を子供扱いしてるが、あいつはあれでも二十一、もう大人なんだよ。イングロンの常識に疎いとはいえ、子供扱いして良い年齢じゃねえんだ。それと、ここに立ち寄りはしたが、澪はベルディス侯爵家の後援も受けてる。だから、店を出す事については、侯爵家の意向も聞かないと、な」


「なんですって!」


 価値のある店を出したいのは、どこの地区の商業ギルドも同じだ。澪のトリミングのように、新しく、有益な店ならば猶更。オデリーはギルド長として何としてでも下町エリアに彼女の店を出したいと思っていたのに、ガルドの言葉が現実となって重く圧し掛かる。

 イングロン王国はその名の通り、絶対王政を敷いている。身分制度は厳しく、能力よりも生まれで人生を左右される。そんな中で、女でありながらギルド長まで成り上がったオデリーだ。澪の店が下町にあれば、下町がより賑わい、町としての価値が上がる事を強く感じている。だが、侯爵家の後ろ盾と言われると、オデリーの意見は勿論、澪自身の意向よりも、侯爵家の意向が優先されるのが目に見えている。


「あの見た目と気の弱さで、二十一? あんなので、よく生き残ってこれたわね」


「あぁ、五尾の神さんが守ってるからな」


「なんですって!?」


 二度目の、オデリーの叫びがあまりにうるさくて、ガルドは肩を竦めた。澪が五尾神のにこの世界に連れて来られた、という話は荒唐無稽に聞こえるだろうが、「守っている」と表現すると、途端にみんな信じるようになる。

 何故なら、聖教の上位聖職者も、王族も皆、五尾神の守りをそれぞれ色々な形で受けているからなのだ。特殊な従魔、神獣や幻獣を連れていたり、聖なる祈りの力で色々な奇跡をもたらす、そんな守りである。


「あの子、平民だと思っていたのに、違うの?」


「いや、平民みたいなもんさ。それでも、特別な守りを受けてる。そんな子だから、お前が利用しようと思っても、無駄だからな」


 ガルドがそう言うと、オデリーは苛々した様子で息を吐いた。


「何一つ、思い通りに行かないじゃない。あなたは私の事なんて眼中に無くて、隣の部屋に行きたくてそわそわしてるし」


 図星を刺され、ガルドはぽりぽりと頭を掻いた。


「分かってるなら、行かせてもらうぞ」


 オデリーはガルドを睨み付け「好きにして」と言い放った。

 ガルドは早速ドアに向かって歩き出したが、ドアを上げる直前で足を止める。


「……悪かったな、オデリー。お前とこんな険悪になるつもりじゃなかった。澪がさっき言ってくれた物件で店を出したい、と言えば、そうなると思うから、その時は世話になるぞ」


 言うだけ言って、ガルドは部屋を後にした。

 オデリーは滲み出て来た涙を、そっと拭う。慰めるように、テスラがそっと足元に寄り添った。


「……ありがとう、テスラ。あんな無頼漢を好きになった私が馬鹿なのよ。もっと、優しくて事務仕事がバリバリできて、私の言う事は何でも聞いてくれる、そんな男性を婿に迎えることにするわ」


 オデリーの呟きを聞いて、テスラは主に寄り添いつつ、内心思った。


(うちの主は、理想の男性と、好きになる男性のタイプが全然違うわ。そりゃ、上手く行かないよ)


 ――――この場に澪が居なくて、幸いである。

揺れるガルドの気持ち。

そして、店舗の第一候補となった下町と城下町の境目にある新築物件!

まだ澪は知らないけれど、楽しみですね。


今日は猫のトリミングでした!

なんとか合間を縫って更新できてホっとしています。

励みになるので、ポチっと何でも押してもらえたら幸いです!

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