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45.レオンハルトの真実

第四十五話「レオンハルトの真実」





 隣に座った超美形騎士団長から、何故か薔薇の花のような良い香りがほんのり漂ってくる。この世界にも香水があるのだろう、きっと。澪はそう思う事にした。そうでなければ、自然と薔薇の香りがする男なんて絶対おかしい。

 そんな風に考えて、目先の深刻な問題から気を逸らしていると、何故か隣のレオンハルトが体を捻って澪のことをじっと見てくる。


「……エレクトラは、私の事を恨んでいませんか。沢山の従魔を犠牲にした、重罪人だと」


 ひたすらに深刻な様子で、話しかけてくる。澪は困ってエレクトラの方を見た。エレクトラは首を左右に振る。


(澪が嫌じゃ無かったら、公爵邸の、主が作ったお墓に来て欲しいの。それが、私の願いかしら。そして、主には、もっと素直になったら? って伝えて。私は何も恨んで無いわ。だって、私は主に相応しい、強くて美しい従魔だもの。主の如何なる命令も華麗にこなす、それが私よ。勿論、澪が〈とりみんぐ〉してくれないと本気が出せないから、これからもよろしくね)


 うわぁ、オトナな反応だなぁ。エレクトラは人で考えると精神年齢は一体いくつなんだろうと澪は頭を抱えた。隣に座っている美男子よりずっと大人な考え方をしている。こんな素晴らしい思考を持つエレクトラを、何も考えていない生き物だと思い込んでいたレオンハルトの方が、よっぽど頭が悪いのでは、ととても失礼な考えが頭をよぎった。


「エレクトラは何と……」


 真横から、かなり近い距離ですがるような目をして、レオンハルトは澪に恐る恐る聞いてみる。答えを知りたく無いと思っている反面、気になって仕方ないという気持ち、それに、自分が今までしてきた事を考えたら知らなければならない、という責任感。色々な感情で、レオンハルトの心は人生で一番ぐちゃぐちゃになっていた。


 澪は苦笑いして、エレクトラの言葉を伝えるか悩む。侯爵家のお墓の話は、彼以外知らないという事は、皆に秘密にしているのだろう。それを口にして良いものか、そして「もっと素直になったら?」という台詞は、どう考えても、澪が彼に言うのは……難しい。親しいどころか、どちらかといえば犬猿の仲に近い関係だと澪は思っているので、そんな中で言える台詞ではない。


「ええと……エレクトラさんは、侯爵邸にまた来て欲しいと。そこで、私に見せたい場所があるそうです。レオンハルトさんは秘密にしている場所だと言ってます。……行く時は、お花を持って行きますね。それから、エレクトラさんは、あなたに相応しい従魔なのは自分だから、恨んでなんかないって。どんな命令でも華麗にこなす、それが自分だと、すごく格好良い事を言ってくれてますよ」


 かなり言葉を選んで、澪はエレクトラの言葉を伝えた。レオンハルトの碧眼がハッとして、エレクトラの方を見る。

 それまでずっと澪のそばにいたエレクトラが、その時初めてレオンハルトの隣に歩み寄って、甘えるように頬を擦り寄せた。レオンハルトはおずおずと手を伸ばし、銀糸がサラサラと流れるように美しい、己の従魔を優しく撫でた。何度も、何度も。


「エレクトラ、お前は皆の墓標に、澪嬢を連れて行きたいんだな……ずっと分かっていたのか……ずっと私を見ていてくれたのか。今まで、感情が無い生き物だと決めつけ、過酷な命令ばかりして、すまなかった。これからは、大切にする」


 レオンハルトはソファから立ち上がると、エレクトラの横にしゃがみ込み、その大きな体を抱き締めた。サラサラの被毛が美しく輝く。

 澪の目には、エレクトラが嬉しそうにしている姿と、その体の中心に渦巻く魔力回路がレオンハルトの心臓辺りにぼんやり光りながら繋がってゆくのが見えた。

 従魔と主の気持ちが繋がった、その瞬間が可視化できたような不思議な感覚で、澪は「良かった……」と笑顔になった。


「また、トリミングするからね、エレクトラさん」


 嬉しくて、ぽろっと口をついて出た言葉。その言葉に、バッとレオンハルトが反応して澪を見た。真剣な顔で、エレクトラから手を離すと、今度は澪の手を取り、恭しく口付ける。


「わぁっ!!」


 手の甲に口付けられて、澪は思わず声を上げて手を引っ込めた。

 垂れた金髪を耳に掛けながら、レオンハルトは慌てて澪に謝る。


「すまない、思わず……またエレクトラの〈とりみんぐ〉をしてもらえると思ったら、嬉しくなってしまいました。今まで、女性に敬意や感謝を示す時はこのようにしていたのですが、ご不快でしたか?」


 嫌がられた事など、過去に一度も無かったのだろう。どうしていいか分からない様子で、レオンハルトは困惑している。


「あの、私がいた世界ではこういう挨拶は無かったので」


 澪が恥ずかしがってもじもじしていると、レオンハルトはほんの少し、口角を上げて笑顔を浮かべた。澪に向き合い、再びそっと澪の手を取る。


「それでは、この世界の慣習に慣れていただきましょう」


 そう言って、もう一度、そっと口付けた。


(ひっ、ひえぇ!)


 声にならない叫びを、心の中で上がる。犬猿の仲と思っていたとはいえ、嫌悪感があるとかではない、こんな美形男子に手の甲に口付けされたら、誰だって困惑すると思う。


 ちょうどその時、扉がゴンゴン、と強くノックされ、同時にガチャ! と開けられた。ノックの意味が全く無い扉の開け方だ。


「澪!」


 ガルドの大きな体から発せられる、大きな声が、部屋中に響き渡る。

 ガルドと、その影のようにヴァルクが部屋に入って来て、まず先に気付いたのはヴァルクの方だ。


「ガウゥ!!」


 ヴァルクは何かを見つけ、レオンハルトに真っ直ぐ突進しようとする。それを防ぐため、ひらりと飛び出たのはエレクトラ。二人は唸り声を上げながら、じゃれ合い? にしてはやや過激な取っ組み合いを始める。


 そして、ガルドも気付いた。レオンハルトが澪の手を取り、キスしていただろう事に。


「なぁーにやってんだ!!」


 ドスドスと二人に歩み寄り、バッとレオンハルトの手を跳ね除ける。心外だ、という顔でむっとするレオンハルトに、ガルドは意外な事を言い放った。


「レオンハルト! お前みたいな顔の良い奴がそういう真似をすると、女性は勘違いしちまうから止めろ!!」


 ガルドの言う事はもっともなのかも知れない、けれど、澪は苦笑いしながら、ガルドの肩を叩いた。


「大丈夫ですよ、ガルドさん。勘違いするなんて、有り得ませんから、はは」


 苦笑いする澪の言葉に、ガルドは「澪はそうだよな! 良かった!」と嬉しそうだが、一人静かに内心ショックを受けているレオンハルトだった。


(勘違い、ではなく私の気持ちは……)

澪への気持ちを少しずつ意識し始めたレオンハルトと、

彼への理解は深まったものの、恋愛としては全く見ていない澪、

そして寄りつく悪い虫を追い払おうとするガルドでした。

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