29.ヴァルクとガルド、二人の絆――そして出会う二人――
第二十九話「ヴァルクとガルド、二人の絆――そして出会う二人――」
俺が王立騎士団に入団したあの夜から、三年が過ぎた。
王都に着いて、その洗練された巨大な都市に驚きつつも、騎士宿舎を与えられて、騎士の叙任を受けた。
通常は騎士見習いの時間があるらしい。だが俺はヘルミンド団長の補佐という名の見習い期間を持つことで、騎士見習いをすっ飛ばして叙任を受けた。
国境付近の田舎町から来た、乱暴者の平民。それが騎士五人――後から聞いたら、騎士と言っても戦闘ではなく調査を得意とする者達だったそうで、かなり弱い部類に入るらしい――を俺一人でも倒した。俺は、通りで勝てたわけだ、と思ったが、五対一で勝つこと自体、実力を示したことになっている。
俺が連れていた従魔は、あの後、王都に着く前に死んだ。初めて、従魔の死に心が痛いと感じた。あれ以来、俺は従魔を大切に扱うようになった。その事を他の騎士に嘲笑されることもあるが、それは陰でのこと。ヘルミンド隊長が誰より従魔を大事にしているから、彼の目の光る所で従魔を雑に扱えば、恐ろしい罰が待っている。
そして、この年にレオンハルトが「地位も見た目も実力も備えた、最高の騎士候補」として入団してきた。貴族の中でも格段に高い爵位を持つ彼には、実力主義の騎士団でも流石に新人いびりや洗礼を行う団員は居なかった。
返り討ちに合うイメージしか浮かばない、と思うほどに洗練された実力を持つ若い騎士候補。
だが、ヘルミンド隊長とレオンハルトはよく意見の不一致で衝突していた。従魔の扱いについて、だ。貴族として幼少期から従魔の扱いを徹底的に仕込まれていたレオンハルトは、国境で常に戦闘で従魔を消費していた頃の俺と、違う点はあれど、「従魔は消費物」という考えが染みついている部類の人間だった。
大型野生動物の駆除や、モンスターが発生して討伐に出た際に、レオンハルトは隊長の意向を完全に無視して、従魔を真っ先に消費する戦い方をしていた。
それについて、いつも説教を食らっている姿を、覚えている。
「馬鹿野郎、お前があの時前に出れば、従魔があそこまで傷つく必要は無かった。従魔は補充が利くとはいえ、貴重な種類をあてがわれている身分だということを、忘れるな」
「お言葉ですが、ヘルミンド隊長。そうしてたら、私が負傷していたかも知れません。その危険を限りなくゼロにするために従魔がいるのではないですか」
まるで、かつての俺を見ているようだった。
ヘルミンド隊長と二人きりになった時、ふと彼がこぼした言葉がある。
「ガルド、お前は自分で気付いたんだ、従魔が人を一心に思って生きているということを。俺は、その事をこいつに教えてもらったんだ、こいつは他の従魔とはちと違う。幻獣の血を引いているからな。時々、俺に偉そうに話しかけてくるんだよ。信じがたいだろうが、事実なんだ。従魔の中でも、五尾神に近い存在なんだろう。俺はこいつのお陰で従魔が生きているって理解したが、レオンハルトは、自分で気付けない限りは、永遠にあのままだろうな……」
暗い表情で、ヘルミンドは言った。
「従魔は単なる道具じゃない。人間の良き仲間、半身だと言っても過言じゃない。共に戦うなら分かるが、死にに行かせるのは、間違ってる」
俺は黙ってその話を聞いていた。俺も同意したかったが、言わずともこの人はそれを見抜いていたからだ。
そうしてしばらく衝突しつつも、二年くらいしてレオンハルトは功績を上げて行き、俺も同時に異例の速さで副隊長に任命された。もうその頃には隊員のほぼ全員をのした事がある状況で、俺の実力は騎士団のナンバー二で間違いないと皆が思っていた。
レオンハルトは平民出身の俺を差別するでも、突っかかってくるでもなく、距離を取ってたので、絡むことも無かった。あの日までは。
俺は従魔を戦闘で亡くし、新しい従魔と契約したばかりだった。それが、ヴァルクだ。副隊長に相応しい従魔として、優秀な種類が送られてきた。初めてヴァルクと会った時、俺は奴の瞳からかつてないほどの「知性」を感じた。
俺を見つめてじっと離れない、その金色の瞳は、まるで人間の眼のようで。強靭な肉体を持つ種類で、複雑な指示も理解して動いてくれた。他の従魔以上に、常に俺に寄り添い、俺だけを見つめるその姿は、俺の心を苦しめた。
こいつを――ヴァルクを危険に晒したくない。大切にしたい、ヘルミンド隊長のように。彼の従魔は幻獣の血を引いているからか、とても長命で、出会った頃から今も老けていない。普通の従魔はとっくに老けて死ぬか引退する歳なのに。それも羨ましかった。
新しく契約したヴァルクを、俺は自分の半身だと感じるようになっていたから。そしてそう思うよう仕向けたのは、外ならぬヴァルク自身なのだろうな、と思う。昔の俺だったら「馬鹿げてる」と一蹴しただろうが、今なら分かる。ヴァルクは直接は話せずとも、俺を観察し、俺という人間を把握し、俺の役に立つにはどうしたらいいか、俺に求めれらるにはどうしたらいいか、常にそういう事を考えているんだと。
「余所見をするな! 副隊長!!」
レオンハルトの声で我に返る。副団長の俺に敬語を使わないのは奴だけだから、分かりやすい。
そう、その日はモンスターが郊外に出没したため、騎士団で遠征に出ていた。
ヘルミンド隊長は事情があって王都の警護のため残っており、俺が団員十五名を率いて遠征に出た。先発で行かせた調査部隊によれば、モンスターの種類は狂牙大熊で、巨大化した個体を含め五体が確認されていた。
大熊系モンスターの対処が得意な従魔の種類がおり、それらを連れた騎士を中心に部隊を編成した。
だが、天候に恵まれず、夜闇が迫る雨の中、奴らはまるで奇襲のように襲ってきた。雨になると従魔達の気配察知能力が著しく低下する。それが分かっているから、安全な野営地点を選んでそこで小休止しようとしたところを――――突然、巨大化個体を含む五体が、一気に襲ってきたのだ。
狂牙大熊は野生動物の熊よりずっと、動きが速い。それに、その名の通り狂ったように気性が荒く、大きな二本の牙で咬まれれば、従魔も人間も簡単に死んでしまう。
ついにヴァルクと出会いました。
今まで従魔に名前を付けていなかったガルドが、「俺が守る」と思って、
名前もつけました。




