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28.ヴァルクとガルド、二人の絆――理解――

第二十八話「ヴァルクとガルド、二人の絆――理解――





「おい、今日は自分から殴られに来たのか?」


 焚き火を囲む五人の先輩騎士達。否、先輩などとは欠片も思いたく無い。クズども、それにやられっぱなしの俺もクズだ。今からクズから少しはマシな奴になるんだ、俺は。

 騎士の一人が俺に従魔が付いていない事に気付き、声を出して笑う。


「お前のあの薄汚い従魔、ついに死んだか!」


 俺はそいつの汚い口に向かって、そのまま早足で距離を詰め、予備動作無しに殴ってやった。殴ると同時に、そいつの従魔が危険を察知して俺の腕にかぶりついて来たが、俺の拳がそいつの顎を割る方がわずかに早かった。


 バキン、と音を上げて顎が割れ、そいつはおかしな悲鳴を上げた。


「うるせえ」


 今まで大人しくやられてた俺が、突然やり返したから、奴らみんなが唖然としてる。だが、従魔達はそうはいかない。


(主がどんなにクズな奴でも、一途に仕えて命すら投げ打つしかねえなんて……おかしいだろ!)


 従魔達が俺の殺気に反応して、主の指示を待たずに飛びかかってくる。俺は鼻を狙って殴りつけてから、一瞬怯んだ隙を狙って首を絞めた。

 できれば、落としてやりたい。致命傷を与えずに済むにはそれしかない。だが俺一人に五頭の従魔。幸運だったのは、敵国の精鋭の調査に来たから、全員が戦闘系従魔では無い、という点くらいか。


 一頭は腕と脇で締め上げ、もう一頭は片手で首を絞める。他の三頭は襲ってくるところを出来るだけ遠くに蹴飛ばした。腕の中の従魔がぐったりして力を抜いた瞬間、手を離して他の従魔が襲って来たらまた首を絞める。


「自分が何やってんのか分かってんのか! 先輩に手を上げやがって! 無事に騎士になれると思うなよ!!」


 我に帰った騎士達が、鞘ごと剣で殴りかかってくる。鞘が付いたままの剣でも、殴られれば骨折するし、頭を殴られれば最悪、死ぬ事もあるだろう。


 俺は意識のある最後の一頭に向けて雄叫びを上げた。それに従魔も騎士も怯む。


「頭がおかしくなったか!!」


 従魔はついに怯え、俺と距離を取るようにして固まっている。だが、騎士達は全員が武器を手に俺を取り囲み、俺を逃すまいとする。

 俺も腰に下げた剣を、鞘が付いたままで引っ掴むと、正面の騎士の懐に一気に飛び込んだ。


 抜き身の剣だったら、死ぬ気で無ければ懐に飛び込むなどという芸当は、できん。だが、鞘付きなら容易な事だ。恐怖心を捨てて相手と密着するように、剣筋をギリギリで避けて飛び込むだけだ。

 俺がそいつに近すぎて、他の騎士は剣を振り下ろせなくなる。その隙に騎士の後ろに回り込むと、腕で首を絞める。こいつも、従魔と同じように落としてやる。


「くそっ、離せ!!!」


「うるせえ、誰が離すか! あの世に行けクソ野郎!」


 半ば本気で、腕に力を込める。その間にも背後を取られないよう、騎士の体を引きずるように後ろに下がる。騎士はガタガタ震えだし、泡を吹いてガクッと脱力した。その体を離し、倒れるところを全力で他の騎士に向かって蹴飛ばしてやる。


 騎士達が一斉に飛びかかって来る。四対一、しかも王都の騎士と、僻地の兵士。だが、そんな事はどうでもいい、俺は燃えるような怒りを抱えていて、それをぶつける相手がこいつらだって事、それが全てだ。


「お前らがっ、下らないプライドで俺と従魔をいたぶりやがったから、俺の従魔はもうボロボロなんだよっ!! どうしてくれんだよ、あぁ!?」


 俺は自分が支離滅裂な事を言ってると分かっていたが、叫ばずにはいられなかった。

 振り下ろされる剣筋四つ、見切れるかと言われたら自信は無い。が、当たりどころに気をつけて、一人ずつ倒すだけだ。

 

 こいつらも、ボロボロにしてやる!!!!


 ガン! と背中に激しい衝撃があったが、気に留めず、一人を剣でブン殴ってやった。そいつは腕でガードしたが、その腕が変な形にひしゃげて折れるのが見えた。そのまま次の騎士には、腰を低くして突っ込んで行く。


 ぶっ倒してやる、そう思い、力の限りぶつかって、一人を地面に倒す。そのまま剣の柄で鼻を潰してやった。嫌な音とバキバキという骨が砕ける感触がして、俺はそれに満足する。


 あと二人。背中が痛い、息する度に刺すような痛みが走る。


「お前、やりすぎたな。騎士をこんなに怪我をさせて、自分は無事でいられると思うなよ。手足の一本くらいは、無くしてもらわないとなあ。――騎士になれずに田舎に帰るがいい」


 そう言って、二人とも鞘から剣を抜いた。

 ハハッ、俺は笑い声を上げた。俺も鞘から剣を抜く。倍返ししに来たんだ、今までやられた分も、これから奴らがやろうとしてることも、全部やり返してやる。


 そして、俺は二対一の真剣勝負を、実力で勝った。剣で打ち合い、受け流し、二対一でも引けを取らなかった。俺が国境付近でどれだけ多くの実戦経験を積んでいたか、今になってよく分かった。そしてこいつらは、ただ安全な王都でのうのうと騎士様ゴッコをしていただけの、弱い連中だった。

 二人の剣を強く打ち、持ち手の力が逃げる方向目掛けて振り切ると、奴らはいとも簡単に剣を落とした。丸腰になったところを、拳で殴ってやった。本当に大した事なかった、あんなに痛くて辛い思いしたのが嘘みたいだ。

 バカバカしい。自分より弱い奴らに殴られて我慢してたのか、俺は。


 しばらく、二人の騎士を殴る蹴るして、地面に伸びるまで攻撃を続けた。俺の拳は折れたかもしれない、血で真っ赤にもなっていたが、殴るのはやめなかった。


 最後には、特に俺と従魔をいたぶりやがった奴の上に馬乗りになって、殴り続けた。


「いだぁっ、やめっ、やめて……」


「嫌だね。ほら見てみろ、俺のスキル【超高熱溶接】だ。剣じゃなく、これでお前の腕を切り落としてやるよ。じっくり高熱で溶かされるからな、痛いなんてもんじゃねえぞ、ほら、歯ぁ食いしばれよ」


 俺はスキルを発動した指先をチラつかせてやった。指先がオレンジ色の超高熱状態になるこのスキルは、使い方によっちゃ、最低最悪の拷問道具にもなるだろう。

 騎士は涙を流して必死に首を横に振る。


「す、すまなかった! お願いだから、やめてくれ、頼む、たのむうぅ!!」


 俺は無視して、オレンジ色の指先を騎士の肩に近付ける。その時、怯えて固まっていたはずの従魔が、俺の背後から唸り声を上げて襲いかかって来た。

 文字通り、主のために命を賭けて俺と戦いに来たのだ。恐怖で竦む体を必死に奮い立たせ。


「くそがぁああ!!」


 間に合わない、俺は振り向きながら従魔を抑え込もうとし、スキル解除が間に合わず――俺のオレンジ色の指先がその従魔の瞳を貫いた。

 その時の悲痛な叫びが――――今も脳裏にこびりついて、離れない。こんな声を上げさせて、今まで何頭の従魔を苦しませ、死なせてしまったんだ。

 その従魔は、それでも主を守ろうと、震えながら俺に飛び掛かってくる。俺はもう、その従魔に手を上げることはできなかった。例え俺が咬まれるとしても。


「……時間だ。派手にやったな」


 暗闇の中から、大きな獣を従えて、大男が現れた。ヘルミンドだ。その表情は、暗くてよく見えない。それから、俺に咬みついたままの従魔を、突然横から首を狙って飛びついてきたのは、待たせていた俺の従魔だった。弱り切った体で、それでも俺を守ろうとしている。


 ヘルミンドが地面に伸びている騎士達に、静かに言った。


「従魔を止めろ。そして、早く立て。団長の前で恥を晒すな」


「……はい。おい、やめろ、こっちに来い」


 俺のせいで片眼が潰れた従魔が、主の声で渋々戻って行く。俺の従魔はまだ唸り声を上げ、臨戦態勢のままだ。


 ボロボロの騎士五人。腕が折れている者、鼻が砕けている者、意識が無い者、殴られ過ぎて顔が変形している者は二名。そいつらの従魔達も、ふらふらしている。


 俺は無意識に、俺の隣で唸る従魔を、撫でた。従魔を撫でたのは、その時が初めてだった。不思議な事に、従魔は唸るのを止めて、俺に寄り添ってほっとしたように息を吐いた。

 ふわふわした従魔の毛触りが、不思議と心地良かった。


 ヘルミンドは辛うじて立っている騎士五人を、つま先からてっぺんまでじぃっと見てから、口を開いた。


「お前ら、騎士とは何たるか分かるか?」


 問われ、騎士達は互いに動ける範囲でだが、敬礼しながら声を上げる。


「強くあること! 優れていること! です」


「そうだ。だが、今のお前らの姿は、どうだ? まだ入団もしていない新人を、散々五人でいびった挙句、従魔も居ない一人に負けたんだ。それがどれだけ弱く、情けないことか、分かるか?」


「…………」


 騎士達は、ただ沈黙している。こういう奴らは皆そうだ。自分に都合が悪くなるとすぐ黙り込む。こんな連中が同僚になるのか? 俺はそんなところでやっていけるのか?

 俺の心中を見透かしたように、ヘルミンドが今度は俺を見て口を開いた。


「単身で従魔を連れた騎士五人を倒したのは、強い証拠だ。だが、お前は狂暴すぎる。狂暴なのに、悲しげでもある。従魔を見る目がな。俺と同じ目をしている。――――ようこそ、王立騎士団へ。正式に、入団を認める。今後、お前を団員として対等に扱わない奴が居たら、実力行使でねじ伏せてやれ。それが、俺の騎士団のやり方だ」


 ヘルミンドの言葉に、騎士の一人が声を上げた。


「流石に横暴すぎませんか!? 腕を折られたミングと鼻を砕かれたハッセは治療院で治療を受けないと、騎士を続けられるかも分からない状況です。俺達もこんなになるまでやられたのに、そうですかと受け入れる訳には……」


「では、お前達が騎士を辞めるか。強い者が騎士になる、それが王国の鉄則だ。敗者の言葉には価値が無い。辞めるのが嫌なら、治療して戻って、死に物狂いで自分を鍛え直せ」


 この団長は、恐ろしい怪物だな。こいつの下で騎士になるってのは、騎士というより、ただひたすらに強い者になる、そんな生き方を強要されるんだな。

 俺は自分が笑っていることに気付いて、不思議な気分になった。


「いいぜ、先輩方よ、いつでも俺の手足の一本でも、切り落としに来てみろよ。俺はいつでも待ってるぜ」


 俺は指先をオレンジ色に染め上げながら、宣戦布告した。こういう阿呆共なんて、いくらでも痛めつけてやる。

 そう息巻いていたら、ヘルミンドの巨大な頭がガシッと俺の頭を掴んで、ぐしゃぐしゃと髪をかき乱した。


「少し落ち着け。敵を作りすぎるなよ、ガルド。いつかそれで足元を掬われるかもしれん」

いつも読んで下さり、誠にありがとうございます。

ついにガルドの過去、騎士団入団の経緯まで書けました。

彼の雑な生き様は、生い立ちのせいでした。ですが、ヘルミンド団長はガルドが従魔の思いに気付いたことを見抜いており、自分と同じと言っています。

イングロンでは良しとはされない、従魔を大切にするという生き方。

これからガルドが、その生き方ができるようになる姿を書きます。


応援のポチ、ありがとうございます。

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