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27.ヴァルクとガルド、二人の絆――始まり――

第二十七話「ヴァルクとガルド、二人の絆――始まり――」





 俺とヴァルクの話をするんなら、そうだな――――あれから、十五年くらいは経っちまったんだな。


 今となっちゃ、誰も信じられないだろうが、俺は王国騎士団の副団長だった。あの頃は、背丈に恵まれ、ガタイも今より良かったからな。万年隣国と睨み合ってるイングロン王国は、平民や貴族っていう身分に関係無く、魔力の強さ、剣の腕で兵士を集めてる。俺はその中でも、一番の成り上がりだった。


 物心ついた時には、少年兵をやってた。なぜかって? なんの後ろ盾も無い、地位も低い、ただ子供が多いだけの一族に生まれたからだ。しかも国境近くの町で。女でも兵士になる、それが当たり前の町で、兵士にならないのは、生活を支えるためのスキルを持ってる奴、それに農家や牧場主、鍛冶屋みたいな必要とされる仕事のある一族だけだ。


 俺の生家は、代々強い兵士が生まれる事で有名だった。だから十一人いる兄弟みんな、兵士になるのが当たり前。ただ、俺は戦闘だけでなく、貴重な魔道具造りと、鍛冶に活かせるスキルを複数持ってたから、兄弟の中でも唯一、特殊な存在では、あった。


 生まれた時から従魔は居たが、少年兵になった時には、より戦闘向きの種類の従魔を与えられた。だが、まだ大人よりも小さな体で、戦闘の経験も浅い少年兵にとって従魔は――己の命の代わりに、消費される生きた盾、そんな扱いだった。


 目の前で、自分を庇って命を落とす従魔達。自分だけでは無い、兵士達の従魔も皆、そうだ。お陰で人間は死なずに済む。だが、それは「当たり前」の事であって、そこに感謝も、憐憫も、悲しみも、同情すらも、何も無かった。

 その事実を当然と思いながら戦い続け、成長し、体も大きくなり、スキルも磨かれて強くなってきた頃、俺は大きな戦果を挙げた。国境を越えて侵入していた敵国の、精鋭部隊を撃破したのだ。当時俺は兄弟を含めた町の兵士の兵士長になっており、俺の従魔は敵の気配察知にも優れた能力を発揮する種類だった。


 本当のところ、その従魔が居なければ、敵部隊を発見する事すら、できなかっただろう。奴らは王都に潜入する予定で、俺の町を迂回しようとしていたが、従魔が奴らに気付いて、作戦を立ててこちらから先手を打つ事が出来た。


 その先手というのも、従魔を囮にした作戦だった。

 敵国の人間も従魔を持っているが、盛んに戦闘に繰り出させているのはイングロンくらいなのだ。

 何故か? それは、この世界の神、五尾の主の分身こそが、従魔だと考えられているからなのだが……他国はそれ故、従魔を大切にする。


 せっせと戦わせて死なせてるのは、イングロンだけ。だから、五尾聖教は唯一、ケガや病気の治療ができる司祭がいるのに、神の使いや分身である従魔を大切にしないイングロンを見限った。最後の治療院は王都に一つだけで、それもいつ無くなるか。

 だからこそ、戦う者はケガを余計に恐れ、従魔を戦わせる。自分がケガをしても、治療してもらえないから。従魔を戦わせる程に、治療してくれる聖教との溝も深くなるばかりなのに、だ。


 兎に角、俺が率いる兵士達は、従魔を犠牲にする事で敵国の精鋭部隊を倒した。その時犠牲になった従魔の中には、当時の俺の従魔も、勿論居る。激戦だったため、人間側でも死傷者が出た。それだけ、厳しい戦いだった。その時から、俺の心に小さな棘のようなものが刺さり始めた。


 結果、俺達の町に王都から労いの品々や、騎士や文官達がやって来た。敵国の連中は皆死んで、生け捕りにはできなかったが、それでも調査しに来たのだ。

 その中に、今の騎士団長レオンハルトの前任者、ヘルミンド騎士団長が、居た。俺と同じような背丈で、体躯は筋肉質で大柄。遠目でも分かる、他に見ない程の大男だ。彼が従える従魔も、彼と同じく異様に大きな種類で、俺はあの一頭以外、あの種類を目にしたことが無い。俺達が連れている従魔とは、どこか違う生き物のような、野生動物を彷彿とさせる種類だった。


「お前は良い目をしているな。体格も良い。スキルもどれも役立つものばかり。よし、お前を王立騎士団に招集する」


 これが、ヘルミンドが俺に初めて話しかけた言葉だった。

 多くの従魔を無残に死なせ、激しい戦闘によって死傷者も出し、それでも栄誉な事だと言われ、当時の俺は少し疲れていた。だから、戦闘の多い国境近くの町を離れ、華やかな王都に行けることが、俺にとっては救いのように感じた――――その時は。


 ヘルミンドは自分の従魔を非常に大切にしていた。彼の口癖は、


「こいつの代わりは居ない。だから絶対失いたくないんだ」


 今まで、替えの利く種類の従魔しか知らなかった俺にとって、その考えはとても新鮮だったが、納得せざるを得ないほど、圧倒的なパワー、賢さを持つ従魔だった。


 生まれた町から、ヘルミンド率いる騎士達五名と王都へ向かう道のりでは、俺の希望を簡単に打ち砕く、酷い洗礼が待っていた。王都へ行くのは救いなんかじゃなかった。執拗で、陰湿な嫌がらせが始まったのだ。

 ヘルミンドが見ていない所で、必ずと言っていいほど、騎士達に絡まれた。彼らの従魔をけしかけられ、数で不利だった俺と従魔は、やり返していいのかも分からず、ただ耐え続けた。


 ある時、騎士達から直接殴られそうになり、従魔が必死でその身を挺して俺を守った。

 それを見て、俺の心に刺さっている棘が、どんどん大きくなり始めた。


「なぁ、俺の味方はお前だけだが、その四本の足で、逃げたっていいんだ。当たり前に、俺の代わりにやられて、お前もう……」


 町から連れて来た俺の従魔は、ボロボロになってしまった。俺は自分でも馬鹿な事を言っていると思った。俺の代わりに何頭の従魔が死んだ? それなのに、こいつに逃げろと言っている。そんな事言っても、こいつは逃げ方すら知らないのに。逃げられない、そんな生き方しかできないのに。契約を解除すれば、弱って死ぬ。契約を続けたら、俺に消費されて死ぬ。


 王都に入る前夜、野営をしていると、ヘルミンドに話しかけられた。


「新入り。お前の従魔は、もうダメだな、ひどく弱っているぞ。こんなになるまで、お前は何をしていた?」


 何をしていたか――「あなたの部下に、毎日殴る蹴るの暴力を受けてました」なんて、言えるわけが無い。だが、俺の顔にそう書いてあったのか、ヘルミンドは片方の口角をくっと上げ、俺を見た。


「お前を命がけで守った生き物に、お前も敬意を示すんだ。いいか、今から一刻、時間をやろう。その間は、好きなだけ暴れていい。団長の俺が、許可する。但し、」


 俺は耳を疑った。こいつは、ヘルミンドは、俺が新人いびりの洗礼で連日やられていた事を、知っていたのか。もしかしたら、こいつの指示だったのか? 一瞬、その考えが頭をよぎったが、俺の従魔を見つめる彼の瞳が酷く悲し気で、違うとすぐ分かった。


「但し! 従魔はここで待たせて、お前一人でやるんだ。分かったか?」


 自分は従魔無しで、従魔を連れた五人の先輩騎士と戦え。それが、ヘルミンドが俺に出した、騎士団に入る条件だと、後になって気付いた。その時はただこう思った。


(従魔無しでも関係無い。今までずっとやられっぱなしだったんだ、時間が許す限り、死ぬまででも、あいつらに食らいついてやる!!)


 全身が燃え滾るような気分で、俺はヘルミンドに頷いて見せた。それから、俺をずっと庇ってきた従魔を見た。金色の瞳が、心配そうに、不安そうに揺れていた。


(そうか。こいつにとって、俺は、世界そのもの、自分の存在している理由そのものだったんだな……そんな大切なことに、今更気付いて、すまかった)


「待ってろ、お前がやられた分、倍返しにしてやるから」


 俺がそう言うと、従魔は「ヴァァウ」と何か言いたげに返事をした。自分も行く、と言っているような気がしたが、「絶対にここで待つんだ。俺に何かあっても、だ」と再度、念押しした。


 そして、俺はヘルミンドの視線を背に、騎士達が集まっている焚火に向かって歩き出した。

最新話、更新が遅い時間帯で申し訳ないです。

やっと、二人の話が書けました! 書いているうち、思いの他、話が膨らんでしまい、何話か分かれてしまいそうです。若き日のガルドがどんな男だったのか、そして従魔の目から見た世界と、自分の主を見つめる彼らの瞳の意味に気付いたガルドの今後を、楽しんでもらえたら幸いです。


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