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25.意識する男と、違う事で頭がいっぱいな澪

第二十五話「意識する男と、違う事で頭がいっぱいな澪」





 澪の明るい表情、声のトーン、そして笑顔に、ガルドは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、「お、おう」と変な返事をする。本人は落ち着かなげに視線を左右にきょろきょろさせたり、立ち上がろうとして机に太ももをぶつけてガタン! と言わせては慌てて座ったり。


 何をそんなに動揺しているのかーー普通なら、そこに気付いて質問する人の方が多いだろう。だが、今日の澪はルーチェと話したことをガルドに伝えたくて仕方なくて、それどころではなかった。なので、彼の不自然な挙動を全てスルーして、向かいの席にスッと座った。


「あー、昨日のことだが……」


「そう! 昨日のことなんですけど、私……じゃなくてルーチェなんですけど、良い事を思いついたんです!!」


 ガルドは澪の明るいテンションと話にビクッとし、珍しく澪の顔色を伺っている。ガルドが口を開きかけたところを澪が遮った形になるのだが、それで何を言われるのかドキドキしているようで、片手で心臓の辺りを押さえている。


「私、トリミングサロンやります! この国で、ここに住む従魔たちのために」


 ガルドはそれを聞いてズルッと半分椅子から落ちそうになった。彼が想像していたのと全く違う話だったからだ。思わずこめかみに手を当てる。


「とりみんぐさろん、ってのはなんだ?」


 あっ、そうか、と澪は呟いた。何故かこの世界に来て、日本語を喋っているつもりで居ても会話がちゃんも成立するのに、カタカナ言葉や専門用語になると途端に伝わらないことが多い。

 きっともふもふの神様が、澪が言葉に困らないように自動翻訳能力を付けてくらたんだ、と勝手に思う。けどその翻訳に限界があったり、この世界には存在していないモノやコトになると、言葉にしても伝わらないのだろう。


「あの、トリミングサロンっていうのは、ガルドさんの工房みたいなもので。ガルドさんは工房で魔道具を作って売ったり、鍛治で作ったものを売ったりと、そこで作業と商売をしてますよね? トリミングサロンも同じで、お店です。従魔にトリミングをする作業場と、お客さんからお金を頂くための会計や接客をする場所がある、そのためのお店なんです」


「なるほどな。俺の工房と同じようなもんか。とはいえ、店を出すのは……うーん」


 ガルドは難しい顔をする。澪は不安になって、ガルドの次の言葉をドキドキしながら待つ。そこに、女将が二人のための朝食を運んできた。


「澪ちゃん、昨日は疲れたみたいだったね。お貴族様と付き合うなんて、私たちには大変な事だからねえ、頑張ってきたのよね。ガルドさんは、ふふっ、さっきから話が聞こえてたけど、残念ね! 男ならはっきり言わなきゃダメよ。うちの旦那だって、私に求婚した時はねぇーーーー」


 女将の言葉を、ガルドは「ああぁぁあーーーー!!」と突然大声を出して遮った。そして半ば奪い取るように朝食の皿を受け取り、「もう下がってくれ! 頼むから」と必死の形相で追い返す。


 澪は突然の出来事にきょとんとするしかなかった。


「どうしたんですか、ガルドさん?」


 澪は、昨日の馬車の中での出来事を、何とも思っていないのだろうかーーそんな思いが、ガルドの中でぐるぐる渦巻く。あの華奢な澪の体が抱きついて来た時、ガルドの心臓は口から飛び出そうなほど激しく跳ねていた。

 甘えたいのだな、ということは分かった。支えが必要なことも。だから下心など無しに、男女という事も意識せずに、抱き合った。それでも、昨夜はそのことが何度も何度も思い出されてしまい、よく眠れなかったのだ。

 澪の方が、恥ずかしがって会ってくれないかもしれない。それに下心があるとか誤解でもされたらどうしようと思い、どう話すかを必死に悩みながら眠る仔羊亭へやって来たというのに。


 当の本人、澪は抱き合ったことすら忘れたのか、それとも気にするほどのことでもないのか……ケロッとしている。

 ハァ、とガルドからため息が漏れた。ずっと見守りながらそばにいてやろう、と思っているが、いつまでその考えが続くだろうか。大人である自分の立場を忘れないようにしなくては、とガルドは気を引き締めた。


「澪、ここが王都ってのがちと厄介でな。この下町か、城下町の商業地区か、それとも別の地区にするか、どこに店を出すにしても、その地下の商業ギルドを通して、自分の価値を証明しないと、ここでは店を出せない」


 王都ではなく、少し離れた町であれば、店を出すのは好き勝手にできる。それに、露店なら王都でもそこまで厳しい決まりはない。

 だが、ここはイングロン王国お膝元、王城もある王都。限られた場所に住まう人々にとって、不安要素のある店や、王都の人々に不要な店は許可が降りない。


「自分の価値、ですか? トリミングの技術を、お店を出す場所を管轄する商業ギルドさん? に見てもらって判断してもらう感じですか?」


 思いの外、話が早い。ガルドはそう思った。

 それは澪の世界でも、トリミングサロンは行政の認可を受けないと開業できないから、澪にとっては予想の範囲内だから。無許可で始められるとは思っていないし、何よりこの世界の住人になったばかりの澪が、サロンをやる物件を借りるのも難しいのではないか、と予想はしている。

 でも、努力はいくらでもする。その覚悟はある。


「私、トリミングの技術なら、従魔のお手入れなら、自信あります。もちろん、今よりももっと上手くなるよう、努力も惜しみません。お店を出せるのかとか、そういうのはガルドさんや女将さんに聞いてみないと分からないけれど、あの、私も精一杯努力しますし、恩返しもするので、力になってもらえませんか」


 澪の真っ直ぐな瞳に、ガルドは射抜かれる。

 漆黒石に琥珀が差したような瞳からは、熱意が溢れている。


(ああ、なんて綺麗なんだ。鍛治で鉱石を打っている時に、奇跡のように美しい輝きを見つけた時みたいだ。こんな綺麗な金属は見た事がないが、な)


 ガルドはもう認めるしかないな、と思った。澪と出会い、時間を共にするようになって、何度もこの感情に襲われる。

だが、彼女に気付かれたくはないし、自分から伝えたくもない。今の関係を、ずっと続ける、その方が何よりも価値のある事だと、ガルドは思う。


「分かった。任せろ、澪。店の立地も一緒に考えるし、空いている物件も商業ギルドが紹介してくれる。お前なら、お前の〈とりみんぐ〉なら、誰でも驚くし価値があるって分かるはずだ」


「本当ですか!! 嬉しい!!」


(やったね、みお!!)


 澪の頭の中で、ルーチェも喜んでくれる。何やらルーチェとヴァルクは朝食後に話をしていたようだが、どちらの声も澪には聞こえてこなかった。二人のナイショ話、といった感じで可愛いので、澪はあえて気にしないようにしていたのだ。


 向かいのガルドはニヤッと笑い、


「そうと決まれば。レオンハルトの後援ってのが強い後押しになるからな。その証明を貰ってから、商業ギルドを回るぞ。奴に連絡するから、証明が届くまで、俺の工房で例の道具を完成させるか!」


 レオンハルト、という名前が出て澪の表情が一瞬不満そうになったが、すぐ消えて「爪切り!」と笑顔になった。


 内心、ガルドの魔道具の機能がついたあの痺れる靴で、レオンハルトに一発食らわせてやりたい気持ちは、今もある。

だが、そんな大人げない考えは置いておこう。もう顔を合わせることもないのだから。


 二人は朝食を食べ終えると、ガルドの工房に向かって歩き出した。この二人が連れ立って歩く姿が、最初は人々にとって好奇の対象だったが、それでもガルドは国全体から一目置かれている名匠だ。表立って見つめて来たり、何かを話しかけて来たり、変な雰囲気を出すような人は居なかった。


 そして今は、気のせいか、周りの視線が当初より温かくなって、受け入れられて来た感じがする。とはいえ澪に対してはまだ珍しいものを見るような目つきの人の方が多いが。

 それでも、この世界で生きてくんだ。それに、人々よりも、気になるのは従魔たち。こんなに犬だらけの町があっていいのか、と思うくらい。見ているだけで楽しい。

 澪は軽やかな足取りで、ルーチェと共に慣れて来た道を歩いて行く。それを少し後ろからついていくガルドの目は、とても優しかった。

遅くなりました!すみません。なんとか書き終えました。もうストックゼロです。やるしかない!


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