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24.異世界で、世界初のペットサロンをやるぞ!

第二十四話「異世界で、世界初のペットサロンをやるぞ!」





 そうだ、自分のお店を出そう――それがどんなに困難な道でも、それを目標にして動くんだ!

 澪はルーチェのアイデアのお陰で、一気に世界が開けたような気がした。自分のお店を持てば、来店するお客様を選ぶことも、上手くやればできるかもしれない。

 昨日ガルドと話した、戦闘系従魔を強くしてしまう澪のスキル。これを知られないためには、戦闘系の従魔を避けてトリミングするか――若しくは、「強くならないようなトリミング」をするか。前に働いていたブラックトリミングサロンのように、短時間の雑なトリミングだったり、あえて魔力回路の流れを整えなければ、それは可能かもしれない。


 でも、それは澪がやりたいトリミングじゃない。

 澪ははっきり思った。自分が腕を振るうならば、絶対に手抜きはしない。一頭一頭を、最高の仕上がりにする。それなら、やはり戦闘系の従魔は、お断りのサロンにするしか、今のところは無い。

 本当は、どんな子も綺麗にして幸せにしてあげたい。でも、今の澪ができるところから、始めて行けば、きっといつかは答えが見つかるかもしれない。


「ルーチェ、ありがとうね。あなたのお陰で、頑張ろうってまた勇気持てた!」


(良かったのよ。るーちぇは、みおのニコニコが大好きなのよ。悲しいにさせるアイツ大嫌い! もう会わないのよ。エレクトラおねえさまは好きだけど、アイツは大嫌いなのよ! おっさんは許すのよ)


 ここで分かってしまった、「ルーチェ的おっさん」の正体。これはどう考えてもガルドのことだ。ガルドに言ったら悲しむ……だろうか。あまり気にしないか、「なんだとお~!?」とルーチェに怒るフリをしそうな気がする。

 そしてルーチェの大嫌いは、言わずもがな、レオンハルトだろう。だが意外だったのは、エレクトラをお姉様と呼んで慕っていることだ。一緒に遊んで楽しかったのか、すっかり仲良しらしい。


 澪はベッドから起き上がり、お出かけ着のワンピースのまま寝ていたことに気付いた。それをそそくさと脱いで、他に買っておいたこの国の服と、ジーパンを合わせる。本当は上下どちらもこの国の物が好ましいのだろうけれど、どうしても動き回るのに膝下丈のスカートというのが、落ち着かないし動きづらい。上着は左右を合わせて紐で結んだり、ボタンで留める前合わせの物が主流で、生地自体の品質や、何種類の生地を使っているか、また、刺繍のあるなしやその複雑さで値段が大きく異なっていた。

 澪はシンプルなもので構わない、と言ったけれど、ガルドは上質なものを選んで頑なに譲らなかった。理由が「職人の仕事着にもなるんなら、それなりに良く見えなきゃダメなんだ」とのこと。その言葉は間違っていないと思う。ガルドはいつも同じ服だし、一見高そうには見えないが、鍛冶にも耐える魔道具のような機能性を持った服を着ているのだそうだ。


 ブラックトリミングサロンではTシャツの上にくたくたのトリミングジャケットを着ていた。くたくたすぎて、プリントは剥げていたし、サイズも大きすぎてだらしなく見えていたかもしれない。

 澪は、本当はもっときちんとした洋服で仕事がしたかった。犬の美容に携わるのだから、美容をお願いしたいと思うような、清潔感があり、おしゃれさも感じられる服装。そんなユニフォームを着たかった。一度、先輩に話したら「自分のやりたいことばっかり言って、わがまま! このジャケットだってお金がかかってるんだからね? 着させてもらえるだけ感謝しなさいよ!」と怒鳴られた。

 嫌な思い出は、忘れてしまおう。澪はぶんぶんを頭を振って、昔の事を追い出した。


 澪の上着には女性らしい草花の刺繍があって、紐で前合わせになっている。前合わせの重なり合う分、生地は少し多く使うが、パターンが単純で縫い合わせるのが簡単なのだろう。立体裁断やプリーツなどの技術が使われているのは、ドレスだけ、庶民の服はひたすらに平たかった。


 澪はベッドの上にワンピースを広げ、魔力ブロワーを取り出す。魔力をじんわり流して、風を当ててワンピースの汚れを落とすように撫でてみる。

 侯爵邸の訓練場が砂埃がひどかったからか、ワンピースがくすんでいたようで、ブローしたらみるみるうちに白さが際立って行った。


(すごい、これクリーニング屋さんの効果まである!)


 本当に万能だ。澪は改めてもふもふの神様に感謝した。治療院では祈りを捧げるって言って何やらやっていたけれど、澪はそういうのは知らないので、両手を合わせて「日本人らしい」祈り方でやってみる。特に何か起こるわけではないけれど、感謝の気持ちが届くといいな、と思った。


 着替えも終わり、ワンピースも綺麗にして衣掛けに置いて、靴もその足元に揃えて置く。

 何も無かった、知らない世界の小さな宿屋さんの一室。そこに、自分の物が少しずつ増えている。それを見るだけで、澪の心も何だか満たされていくような気持ちになる。


(みお、まだんおじちゃん来たよ、ドアあけてなのよ)


 マダンおじちゃん、とは眠る仔羊亭の旦那さんの、セントバーナード風従魔のことだろう。澪の知らないところで、「おじちゃん」と呼ぶくらいの仲になっていたらしい。どうもルーチェは主と違って社交的なようだ。

 澪はルーチェの言葉に従って、すぐに部屋の扉を開けた。ちょうど階段を上がりきったマダンの巨体が、ユサユサと歩いて来るのが見える。さすがは犬(従魔)の聴覚、人間には到底敵わない。


 マダンは水の入ったバケツの取っ手を咥えて、器用に水をこぼさずに毎朝持ってきてくれた。それだけでも澪にとっては拍手喝采モノなのだが、他にも薪運び、重い物の運搬から、酔い潰れた人を家まで乗せて送る、など様々な仕事を受け持っているらしい。

 澪のいた世界の犬より、知能が高く、器用さもある。澪にはとても不思議で新鮮だけど、同時に夢が叶ったような気持ちにもなる。


(前の世界の、三歳から五歳時くらいの知能、って言われてる犬たちももちろん可愛かったよ? でも、人間とおしゃべりできて、仕事の手伝いもできるなんて、本当にすごい! 夢の世界みたい)


 だからこそ、余計に気になるのが、従魔たちの汚れた姿だ。あれだけ考える力があって、仕事もしているなら、余計に綺麗にしたいのではないか。しかも魔力回路は体調のパラメーターのようにも見て取れる。整っているほど、生き生きするのだから、日々の生活のためにも魔力回路が綺麗に渦巻いているに越したことはない。


 そんなことを考えつつマダンを見ていると、昨日の夜のうちに女将が片付けたのか、部屋のバケツが無くなっていて、マダンは自分が運んできたバケツをそこに置いて、澪を見た。

 そして、お座りして尻尾を大きく振ってくれる。


「ありがとう、マダン。せっかくだから、魔力ブローして行って」


 感謝の気持ちを込めて、澪は魔力ブロワーをマダンのそばに持って行き、いつもより強めの風を出した。片手はブロワーのノズルを持ち、空いた手でハンドブローをしてみる。少し抜け毛が部屋の中に舞っているが、まぁ、気にするのはやめよう。マダンがうっとり気持ち良さそうに風を浴びているので、少しの抜け毛くらいはどうでもいいのだ。

 全身にざっくりブローの風を当ててあげると、明らかに瞳の輝きが違う。生き生きした表情で、足取り軽やかに部屋を出ていく。すれ違う時、ありがとう、と言わんばかりに澪に頭を擦り寄せてくれて、澪は嬉しさで胸がギュッとなった。


(まだんおじちゃん! ごはんある?)


 ルーチェはというと、マダンの足元にちょこちょこと寄って行き、大きなセントバーナードの顔を見上げている。二人で鼻と鼻を合わせて、何かコミュニケーションを取っているらしい。ルーチェの声は全部聞こえるようになったけれど、他の子はそうではないようで、澪は少しがっかりした。やっぱり契約を交わし、絆があるルーチェだけが特別なのだろうか。


(みお! ごはんあるから食べてくるのよ)


 ルーチェは尻尾を背負うほど高く上げ、フリフリしながらマダンと共に下の階の食堂に向かって行ってしまった。


 澪はバケツの水を魔力で温めると、それで顔を洗う。タオルで拭いた後、タオルを濡らしてそれで体を少し拭いた。

 この世界には、人間用のお風呂はあるんだろうか……そんな疑問が頭をよぎるが、少なくとも眠る仔羊亭には、ない。贅沢なんて言えない、ガルドが澪のためにお金を払ってここに住まわせてくれているのだ。

 魔力ブロワーのおかげで、体の汚れや臭いの心配をする必要がないので、興味本位でお風呂のことは聞いてみよう、と思う。

 一階にあるトイレは、最初見た感じは汲み取り式というか、落とし式便所って感じだったんだけど、ある時見たら綺麗になってて。バキュームカーが来るわけでも無いよなあと不思議に思っていたら、ある程度溜まったら、魔力を流すと水が流れて下水にし尿が流れていく仕組みらしい。


 だから、魔力は生活に必須で、その魔力を補える従魔という存在は、人々の生活には絶対欠かせない、ということらしい。

 単純に、労働力としてだけではなく、魔力を貯めたり引き出したりできる、生きた蓄電池みたいなもの、だろうか。


 澪は身支度を終えると、部屋に鍵をかけて軽やかに一階に降りて行った。

 食堂のテーブルを見渡すと、ぎこちない表情のガルドが座っているのが見えた。


「ガルドさん、おはようございます! 昨日はありがとうございました」

更新が遅い時間になってしまってすみません。

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