40
真里菜と俺は腹の虫を抑えるため、大型ショッピングモールで昼食を取っていた。
「直人は美味しそうにご飯を食べるわよね」
「実際、うまいからな」
それに今の時間は昼食時から少しはずれている。遅めの食事なのだ。だから、お腹がペコペコだったというのもあるだろう。空腹時は何を食べても美味いもんだ。
「私のうどん、ちょっと食べてみる?」
目の前に座る彼女のトレーには肉うどんが乗っている。ちなみに俺は定食だ。それぞれ好きなものを食べられるからと、フードコートでランチを取っている。
「じゃあ、いただきます」
せっかくの申し出。受けなければ損だ。
「あーんしてあげる」
「麺類であーんはやりにくいだろ」
「文句言わないの」
近づけられる箸に、俺からも顔を近づけ、口にする。
「どう?おいしい?」
「あぁ」
「間接キスだからって照れてんの?」
「いや、全く」
「ちょっと照れなさいよね」
そう言う彼女は、うどんと一緒に箸をパクリと口に入れると俯いてる。耳が真っ赤だ。
「俺のも食べてみるか」
「別にお腹が空いているわけじゃないけど、直人がそこまで言うなら食べさせてもらうわね」
「そこまで言ってないんだが……じゃあほら、食え」
皿を差し出す。
「あーんは?」
「しないぞ」
「……だったらいらない」
「……そうか」
その後、お互い無言で箸を進めるのだった。
◇◇◇
「適当に散策するわよ」
昼食を取り終えた俺達は、この大型ショッピングモールを見て回ることにした。
洋服を見たり、ゲーセンで遊んだり、カフェでお茶をしたり、ありきたりなデートをする。
気がつくと、もう夕方になっていた。でも、日が長いので、まだ昼という感じがする。そのせいで想像以上に時間が経っているように感じる。
「そろそろ帰るか」
「もうそんな時間?楽しいとあっという間ね」
俺と同じく時の経過に驚きながらも、俺とは違う理由で驚いているようだ。
「……そうだな」
思考停止の肯定。よく使う手法だ。何となく、隣を歩く彼女をジッと見る。
「なによ」
さっきまで笑みを浮かべていた顔が少し険しくなる。その表情がコロコロと変わる様は見ていて飽きない。
「なんでもない」
「あっそ」
こちらに向けていた顔は進行方向へ。ついでに険しい顔もおだやかなものに変わった。デパートには魅力的な店がたくさんある。しかし、今は彼女の横顔を見ている方が面白かった。
笑顔。笑顔。驚き。笑顔……驚き、疑い、確信、恐怖、恐怖。
真里菜がそっと腕を組んできて、顔を伏せる。不思議に思い、さっきまでの彼女の視線を辿る。そこには俺達と同い年くらいの男女のグループがいた。俺の見知った奴はいない。真里菜の知り合いなのだろう。
「真里菜、どうかしたのか?」
「……なんでもない。早く行くわよ」
デパートを後にし、沈黙のまま歩く。しばらくして、俺が口を開きかけたその時、彼女の声が先に届いた。
「今日は楽しかったわ。ありがとう」
笑みを浮かべているが、それが嘘だと分かる。ただ、それを指摘していいのか迷ってしまった。なぜなら壁を感じたからだ。踏み込まないで欲しいという訴えをしているように見えたのだ。
なんだか昔の真里菜に戻ったみたいだった。感情を隠し、鎧を纏っていた頃の西遊真里菜に。
「……ああ」
問いただす勇気は出なかった。下手にほじくり返して、俺に背負いきれないものだったらどうする。無責任な行動は控えるべきだ。それを、父のことから俺は学んだ。だから、今回は違和感を見逃そう。必死に自己を正当化しながら、俺達のデートは幕を閉じた。
◇◇◇
帰宅後、就寝前。毎日の日課であるストレッチをする。
「結局休めなかったなぁ」
かと言って、何もしない一日を過ごすと自己嫌悪で眠りにつきにくくなることもある。だから良かったのかもしれない。ただ、真里菜とのデートは不完全燃焼で終わった。
彼女の最後の様子もそうだが、俺のクラス内の立ち位置から関係の見直しを相談することを忘れていた。真里菜は今のままでいいのだろうか。俺はこのままでいいのだろうか。
「はぁぁぁ。めんどくせぇ」
深く息を吐き、考えることを放棄した。先延ばしにした。とりあえず、真里菜から水族館で貰ったイルカのキーホルダーを筆箱に付けて、羊の数を数え始める。
その日は、421を超えたあたりで意識を手放した。




