表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
保健室登校が最高なワケ  作者: 車屋旗魚
再名生直人 編
24/44

24

「おはよう直人くん」


「おはようございます、透子先生」


 保健室の朝は早い。というのも、俺が他の生徒となるべく会わないようにするため、人の多い時間を避けて学校に向かうからだ。つまり、ただ俺が早く登校しているだけなのである。以前は、少し遅れて学校に行っていたが、透子先生に怒られてしまった。だから、こうして早い時間に来ている。


「最近はずいぶん暑くなってきたね」


 わざとらしく服をパタパタさせ、胸元を見せつけるような動きをする変態教師。


「痴女ですね」


「せっかく早く学校来てくれたんだから、御褒美だよ」


「インターネットで十分かなぁ」


「それはかなり危ない兆候だよ。私が治してあげなきゃね」


 そう言ってノロノロと近づいてくる透子先生。


「生徒に手を出したら、先生続けられなくなりますよ」


 手を突き出して彼女に「近づくな」と合図を送ると、足を止めた。


「それは困ってしまう。せめて君の卒業までは続けないと……約束したからね」


「約束…ですか。ちょうど一年前くらいでしたっけ?」


「まだ一年は経ってないよ」


 それは俺がこの保健室に通うようになった理由にも繋がっている。


◇◇◇


 高校に入学してから最初の数か月は、充実していたように思う。友達にも恵まれ、彼女だっていた。あと、野球部に所属していて、そっちでも上手くいっていた。


「じゃあな直人!」


「またね、直人くん」


「ああ、また明日な!」


 放課後、何人かの友人と挨拶を交わす。すると一人の女子生徒、もとい彼女が俺の席に近づいてきた。


「直人、一緒に帰る?」


「いや、今日は用事がある。悪いな真里菜」


 西遊(さいゆう)真里菜(まりな)。最近お付き合いを始めたガールフレンドである。女友達というわけではない。彼女、恋人、ハニー、パートナーといった呼び方もできる相手だ。こんな俺のどこがいいと思ったのか分からないが、告白された。好きというわけではなかったのだが、告白されて舞い上がった俺は即OKした。


「なんで?今日は部活ないでしょ?」


「自主練しようと思って」


「この前、試合で投げたばっかなのに……」


「投げたって言っても少しだけだしな」


 それにほぼ勝ちが決まったような試合で、エースを温存するために投げただけだ。もっと競った場面で任されるようにならなければ。


「でも、すごいわよね。うちの高校って県内じゃそこそこ強いでしょ。なのに、一年でベンチメンバーに入れるなんてさ」


「まあ、俺だからな!」


 胸に手をおき、冗談めかしてそう言った。褒められた時は大体このように対応していた。変に謙遜するのも悪いと思ったからだ。


「ほどほどにしなさいよ。怪我したら意味ないんだから。バイバイ」


 手を振って去っていく彼女を見届けて、立ち上がる。


「さてと、俺も行きますか」


 俺は足早にグラウンドへと向かった。


◇◇◇


 まずは、準備体操だ。


 実のところ、俺はかなり体が柔らかい。その柔軟性が、ピッチャーとして活躍する土台を作っている。


「今日は誰もいないから、伸び伸び練習できるぞー」


「直人、今日はオフのはずだよ」


「げっ!林道先輩」


 林道(りんどう)仁志(ひとし)。俺より一つ上の二年生であり、うちのチームの二番手ピッチャーだ。とはいえ、3年生がエースの今、次期エースの座は彼の手にある。


 爽やかな見た目とは裏腹にそのスタイルは意外と脳筋。速いストレートを武器に相手打者をねじ伏せるのだ。変化球やコントロールが強みの俺とは真逆のタイプである。


 林道先輩はイケメンで背が高く、勉強もできる。だから、他の生徒や先生からの評価も高い。憧れの先輩ランキングなるものが存在すれば、上位に入るのは間違いなしだ。


「直人、せっかくだから一緒に練習しようか」


「え、叱りに来たんじゃないんですか?」


「いいや、実は僕も練習しに来たんだよ」


「林道先輩って意外と悪い人なんですね」


「結果を出せばいいんだよ。結果さえ良ければ許されるんだ……ルールを破ったとしてもね」


 そう語る林道先輩に少しだけ恐怖を感じた。それだけの凄みがあるというわけだ。


 こうして2人で部内のルールを破り、練習をした。


◇◇◇


「だいぶ遅くなっちまったな」


 練習終わり。帰路に着いた俺は、誰に聞かせるでもない独り言を呟いた。


 辺りはすでに闇に染まっている。季節は夏であり、日が長くなっているというのに、こんな時間まで自主練をしてしまった。だが、収穫はあった。林道先輩の練習する姿を見て、何か良いきっかけを掴めた気がしたからだ。


「腹減ったぁ。今日は夕飯は何かな~」


 腹の虫が鳴る。家では夕飯が俺を待っていることだろう。両親も待っているかもしないが…。いや、最近の父は帰りが遅いから、母だけか。


 心を躍らせながら、歩いていく。


 夜道というのは日中とは違い、若干の非日常感を味わえる。それがいい。

 

 空を見上げれば、星々が輝いているのもいい。


 今日という日を振り返り、ノスタルジックな気持ちになるのもいい。


 ふと、夜道を歩く二つの人影が目に入った。その距離感からカップルなのではないか、と推察できる。二人は別れを惜しむように身を寄せ合っていた。


 これもまた、夜の醍醐味だ。別れたくないけど、帰らなければいけない。その相反する感情がより2人の愛情を深めて──


「……父さん?」


 発した声は自分でも驚くほどに小さかった。


 嘘だ。ありえない。父さんには母さんがいるんだぞ。最近帰りが遅いのはこれが原因なのか。いつからだ。今まで俺たちを騙しながら、生活していたのか。


 そんな考えが頭の中を巡る。


 しかし、見間違いという可能性もあり得る。彼らとは距離があるし、辺りも暗い。だから、眼を擦って再度見る。





 父ではなかった。






 そう思えたらどれほど良かったことか。はっきりと肉眼で捉えてしまった。確信してしまった。







 あれは父である、と。






「いや、でも、待てよ。単に親しくしているだけなら大丈夫なんじゃないか?」


 アウトよりのセーフ、またはグレーゾーンというやつだ。


「別に不倫というわけじゃな──」


 思った矢先、唇を重ねた。


 何度も何度も。時間をかけてゆっくりと。


「……っ」


 たまらず俺は、その場から走り去る。


 目を逸らしたとて、現実が変わるわけではない。そんなことは分かっている。でも、あそこから離れたくてしかたなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ