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あれから一週間が過ぎた。
俺は今日も変わらず、いつものコンビニでバイトをしている。
しかし、世の中に変わらないものなんて、そうあるわけではないだろう。
だから、いつものコンビニバイトとは言えど、変化は訪れていた。
「らぁっしゃいませー」
「いらっしゃいませ!」
客が来たので挨拶をした。そして、俺の言葉に重ねられたもう一人の店員の声。それは、より大きく、より元気で、よりハキハキしたものだった。
「……もうお前に教えることは何もないようだな、笠井」
「いや、まだ早いだろ!私、バイト始めて一週間も経ってないぞ」
笠井天。金髪をなびかせた目つきが鋭い少女は、このコンビニでアルバイトを始めていた。
「そんなことはないぞ。お前は一人前だ。だから、俺はもう笠井に対して何も言わない。まぁ、後輩の指導とかめんどいしな」
「それが本音だろ!」
実際、笠井の飲み込みは早い。一度言ったら大抵の仕事はすぐに覚えてしまう。そして、本人にやる気もあるため、店長からは大変気に入られている。俺とは大違いである。また、彼女は学校にも毎日きちんと行き、真面目に授業を受けているそうだ。その点もまた、俺とは大違いである。
「直人先輩?どうしたんだ?」
「少し劣等感に苛まれていただけ」
「大丈夫か?私じゃ頼りないかもだけど、なんかあったら言ってくれ」
笠井はずいぶんと優しい娘に育ったようだ。親御さんも鼻が高いだろう。
「お気遣いありがとう。だけど、俺が劣っているのは当然のことだから、今更どうということもない」
「…それはそれでどうなんだよ」
何故か笠井は呆れたような顔をした。それに突っ込もうと思ったのだが、お客さんが来たようだ。
「いらっしゃいませ……ってなんだ、真かよ」
「なんだとはなんだ!こちとら客だぞ!……まあいいや。よぉ、直人。そして天ちゃん」
金色の髪と、耳に着けたいくつものピアスが特徴の鍵屋真。俺の友人である。
「この前は、助けてくれてありがとうございました」
笠井が深々と頭を下げて、お礼を言った。
真は廃工場で俺達を助けてくれた。詳しいことは教えてくれなかったが、あのガラ悪い集団をシメて、奴らが持っていた今までの被害者の写真や動画を削除させたらしい。恐るべき手腕である。
「いいってことよ。直人の頼みだったしな。あの時の直人と言ったら、すげぇ焦り様で面白かった」
「うるせぇ」
笠井がこっちを見て驚いた様子を見せた後、もの凄い笑顔になった。
「俺が焦ってたの、そんなに面白いかよ」
「違う!……嬉しかったんだ!」
俺が焦ると笠井は嬉しがるらしい。こいつ、もしかすると性格が悪いのかもしれない。
「とりあえず、アメリカンドッグ貰ってもいいか?」
真はいつも通りアメリカンドッグを注文する。商品を受け取ると「用事があるから」と足早に去っていった。
そして、入れ違いに新たな客が入店する。人数は二人。一人は女子高生でもう一人は幼稚園児の女の子。
「いらっしゃいませ。石宮先輩とひよりちゃん」
「こんにちは、再生名くん」
石宮先輩の声の透き通る声が返ってきた。続いて、ひよりちゃんも口を開く。
「こんにちは!はげのお兄ちゃんと金髪のお姉ちゃん」
金髪のお姉ちゃんは笠井のことだろう。つまりハゲのお兄ちゃんとは……俺のことか
「ハゲとらんわ。フサフサだろ」
「でも、はげのときもあったでしょ」
「そりゃあ、産まれてたての時はまだ生えてないかもしれないけど、そんなこと言ったら誰でも当てはまるよな」
それか坊主頭のことを言いたいのか?坊主頭の時期はあったけど、その頃にひよりちゃんとの面識はない。だいたい坊主はハゲじゃないし。坊主にしてたらハゲって言ってくる奴はいたけど、ハゲではないと声を大にして言いたい。だが、祖父はハゲているから将来的には俺もハゲるだろうな。
「あの……石宮先輩!直人先輩から聞きました。あなたが私の連れていかれた場所を伝えてくれたって。ありがとうございました」
本日二度目の深いお辞儀。
「別に……迷子のひよりを助けてくれた恩があるから」
感謝に対して、バツに悪そうに答える石宮先輩。
「なんであの場所だって分かったんですか?」
それについては俺も疑問を持っていた。この前はその質問をしているほど余裕がなかったため、聞きそびれてしまった。だが、とても気になるところだ。
「確証があったわけじゃない。……まぁ、ただの勘よ」
これ以上は話す気がないと暗に言っているようだった。笠井もそれを察したようで、もう踏み込むことはしない。
「そうですか……でも、あの、とにかくありがとうございました!」
「私は場所を教えただけよ。実際にあなたを助けようと一番最初に動いたのは、その隣の人でしょ?」
笠井と目が合う。鋭いはずなのにどこか柔らかさを感じる瞳。
「直人先輩もありがとう」
「俺は大したことしてないぞ」
石宮先輩が居なければ、場所さえ分からなかった。真が居なければ、あそこに着いたとしても負けていた。
「そんなことない。直人先輩には、たくさん助けてもらった。あの時だけじゃなくて、もっと色々なことでも」
「そうか?」
「そうだよ。これからさ、そーゆう恩を返していけるよう頑張る。だから、これからもよろしくな!直人先輩!!」
はじめは未成年喫煙を企てる迷惑客だった彼女。今では優秀なアルバイト店員、笠井天である。




