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保健室登校が最高なワケ  作者: 車屋旗魚
笠井天 編
12/24

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「お前、暇なのか?」


 放課後、今日も俺はコンビニでアルバイトをしている。すると、女の金髪ヤンキーもとい笠井天(かさいてん)が尋ねてきた。


「暇じゃねーよ!」


 強い口調でそう言い返され、少しビビる自分が恥ずかしい。俺はどうやら小心者のようだ。


「それじゃあ、昼間は何してんの?」


 ビビっていることを悟られぬよう平然と質問を続ける。


「……ゴロゴロしてるか、アイツらと一緒にいるか、だ」


 アイツらとは、先日コンビニ前をたむろしていたヤンキー集団だろう。しかし、彼女は見た目こそ寄せているが、彼らの中で浮いている。なんとなく雰囲気的にそう感じた。そして、おそらく笠井自身もそれを自覚している。それならば、代替案を出してみよう。


「ママの手伝いでもしてた方が有意義なんじゃないか?」



「…いねぇよ」


 しまった。これはどう考えても俺がいけないな。自分の当たり前を相手にも押しつけてしまった。それに俺だって父親はいないしな。


「じゃあ父親の手伝いをしろ」 


「家には…居づらいんだよ」


 なるほどな。気持ちはわかる。


「だったら、モップかけといてくれ」


 俺はモップを持ってきて、笠井に手渡す。拒否されると思ったが、意外にもあっさりと受け取る。そして、彼女は少し眉をひそめながら言う。


「私にやらせていいのかよ」


 気にするのはそこなのか。てっきり文句でも言われると思っていたが、まさか“やっていいか”の確認をされるとは。


「店長にバレたら怒られる。でも、俺は忙しいんだよ」


「じゃ、じゃあ仕方ねーな。やってやる」


 頬を少し赤くして言うその声には、どこか照れくささが混じっているように聞こえた。


「さて、休むか」


「忙しいんじゃねーのかよ!」


「赤ちゃんは泣くのが仕事っていうだろ。だから、俺は休むのが仕事だ」


 俺は椅子に腰を下ろしてやる気のない顔をしてみせる。笠井は呆れたようにため息をついた。


「休んで時給発生とはいいご身分だな」


 なんだかんだ言いながらも律儀に手を動かしていた。


◇◇


 掃除を終えた笠井はコンビニのイートインスペースで休んでいる。机に突っ伏し、かなり疲れた様子だった。


「ほいっと」


 その机にこの店で売ってるシュークリームを乗せる。彼女が気づくよう少しだけ投げるように置いたため、ビニール包装の音がクシャッと鳴った。


 顔を上げてこちらを見る笠井。その目つきは相変わらず鋭い。


「何だよこれ」


「やるよ、それ。モップかけてる時、シュークリームちらちら見てたんもんな」


「う、うるせぇ」


「まあバイト代だと思って貰ってくれ」


「私の賃金は187円かよ。訴えてやる」


 訴訟をチラつかせて美味しそうにシュークリームも頬張っている。ほっぺのクリームにつけてるし。


「ほっぺ、ついてるぞ」


「うっせぇ」


 笠井は手の甲で頬をぬぐう。だが、拭き取れていない。むしろ、少し伸びて白い線になっていた。


「いや、逆に広がってるし」


 照れ隠しのように顔を背ける笠井。その耳まで赤いのが、なんとも分かりやすい。


「見るな!」


「はいはい、悪かったよ」


 俺は店のティッシュを差し出す。笠井は俺の手を見つめ、少しだけためらってから受け取った。


「……ありがと」


 ぼそっと小声で言って、今度はちゃんと拭く。


 コンビニから見える空は、日が沈み始め青から橙色へと変わっていた。

 ガラス越しに見える街灯が一つ、また一つと灯っていく。


「……なあ、直人先輩」


 初めて名前を呼ばれ、少し虚をつかれる。


「…ん?」


「その、暇なとき、また来ていいか?」


 その発言でまた虚をつかれた。彼女の瞳は、いつもの鋭さが少しだけやわらいでいる。


「……暇なときって、暇じゃねーんだろ」


「ちげぇよ、それは言葉の綾みたいなやつで……」


 焦る笠井の言葉に、思わず笑いがこぼれる。


「冗談だよ。別にいいぞ、また来いよ。どうせ俺も暇……じゃなくて、忙しいし」


「どっちだよ」


 笠井が苦笑する。表情は、いつもよりずっと自然に見えた。


 電子音が鳴る。客が入ってきたようだ。俺は立ち上がって制服の襟を整える。


「じゃ、バイト戻るから。笠井は暗くなる前に帰れよ」


「……あぁ」


 笠井は小さく頷き、残りのシュークリームを一口で食べきった。


 その姿を横目で見ながら、俺は少しだけ笑った。


 ヤンキーだなんだと見た目で判断してたけど、案外、普通に人懐っこいところもあるんだな。まあ、本人に言ったらドスの効いた声でキレられるだろうが。


「じゃあな、コンビニ店員」


「ああ。気をつけてな。変な奴に絡まれんなよ」


「心配すんな。絡まれたら、逆に絡み返す」


 意味不明なことを言いながら、ニヤッと笑って去っていく笠井。


 自動ドアの向こうから夜の冷たい風が吹き込んできて、店内の空気が揺れた。背中を見送りながら、俺はふと、胸の奥がくすぐったくなるような感覚を覚える。

 なんだろうなこれ。別に恋とか、そういうんじゃない。ただ、あの強気な金髪が、少しだけ柔らかく見えた。俺にとってはモップがけを任せただけだが、彼女には大きな意味があったのかもしれない。



 




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