第56章 卒業文集
卒業文集です。
そう言えば、由美子と通子、名字って出てきていないような・・・。
第56章 卒業文集
最近、大きな事件を起こした人の写真や卒業文集がマスコミで報道されることがある。私的に言えば、『だから、なんだっていうんだよ(激怒)!』てな感じ。ちなみに私は通子。いよいよ卒業文集を書いている。同時にお世話になった先生方にも寄稿していただくために担当を決めてお願いに回る。当然、アタシは村上ちゃんだ。由美子は小林さんの担当となった。本位だよ、まったく・・・。
卒業文集のテーマは何を書こうが勝手だが、文集委員からは「現在・過去・未来」というテーマをいただいている。とはいえ、それはスタート地点であって文の構成や内容に影響してもしなくてもいいという、実にあいまいなものだ。じゃぁ最初からテーマなんかなくたっていいだろってことになるんだけど、頭のワルーイ男子の一部から、決めてくれーてな要望が出ているからだ。おまえら、村上塾で何学んだんだよ!で、結局、アタシも題名に入れちゃった・・・。
「通子の過去・現在・未来」 田中通子
アタシって何をやっていても冷めた子だった。(真逆だっていうやつ、表に出ろ!)ピアノも水泳もそれなりには面白かったけど、親から言われてただ何となくやっているに過ぎなかった。
ところが、高学年となって村上塾に入り、由美子という親友が出来、読書会ってやつに毒されたやつがアタシだ。真逆だって言って表に出なきゃならないのはアタシだ。昔からコンピュータオタクだったけど、おおっぴらには出来なかった。でも、今はみんなも認めてくれるし、自分のその力がみんなの役に立っていて、普通にみんなが頼ってくれるのは最高だ。
親友の由美子とは読書会を通じてまるで姉妹、いや双子のように一心同体となっている。二人は真逆なんだけれど、深部を流れるDNAは同じものがあるって感じている。出会えてよかった。きっと死ぬまで親友でいるんだろうな。
そして、アタシは初恋をした。男子の目も女子の目も関係なかった。先生に恋をするのは鉄板のシチュエーションで、実らぬ恋の典型だけど、私の初恋は幸せだったと思う。先生は私のことを無視しながらもとっても大切にしてくれた・・と思う。教え子だからと言ってしまえばそれだけど、クラスの一人一人がそうなんだ。みんなが十分な愛をいただいた。
アタシは女優になりたいと思った。それは読書に出会い、作品の中で思いっきり、作品と私をつなぐ世界、そして私の世界を表現したいと思ったから。・・・一応、通子様は容姿端麗ですし、熱い心も村上ちゃんから引き継いだ。人たらしの奥義も村上ちゃんから学んだし、アタシは絶対世界的な女優になってみせる!村上ちゃん、覚悟ね!」
むらかみは原稿を見て、大きなため息。でも、目はきらきらとしている。
「通子、これボツだわ。まず、最初のほう、『アタシ』を『私』に。それから初恋の段はなし。昔だったらOKだけど、今はNG。疑念だけで真偽はともかくアウトだから。おれはまだ村上塾を続けたい。(もちろん家族も養わなければ!)でも、お前は女優は確かに良いかも。それはこの卒業文集とは別に、オーデションを受けたらいいと思う。」
「私の過去・現在・未来」 佐藤由美子
私は一人で黙々と本を読んでいる子でした。うちは貧乏でしたから我慢することが当然とは思っていました。でも、お金持ちの家の通子さんとなぜか仲良くなり、いつの間にか読書会でお互いに自分をぶつけ合って、素敵な時間を過ごすうちにどんどん二人の距離がゼロに近づいていきました。今では通子さんは私にとって家族同様に大切な人となっています。彼女は全体を俯瞰し、コンパクトに意見をまとめることに長けています。つまり、彼女は全体を見渡し、その本質を見抜く力を持っているのです。
私はただ、読書をしながら、自分の想像した世界にひたって満足している子でした。でも、通子さんが、そして読書感想文をすすめてくださった村上先生が私に『表現すること』の素晴らしさに目覚めさせてくれました。それは対話にあります。ひとりでもんもんと(楽しかったですけど)本と向き合っている私に、現実の世界と、それが自分と関わりのあることなんだと刺激し、気付かせてくれたのです。
今の私は幸せ過ぎるくらい幸せです。先生にも親友にも恵まれるなんて。そして今父の工場も祖父の代からのリニューアル中。
そして、今まで読書の中で自分の世界を作って満足していた私に、そうではない世界があることを気付かせてくれた通子さんはやっぱり本物の親友です。
私が今まで自分の頭の中で創り上げていた自己満足の世界から、プロの人たちが解釈し、リアルな映像や音楽、役者の演技で、見る人のために表現していく世界を知ったのです。
私もそうなりたいと考えが変わりました。では、それが実現できる立場は?プロデューサー、監督?そう、私は映画をあまり観ないくせに、映画監督のような道に進みたいと思うようになりました。世界中の人々に原作者の世界を、映像や音楽として具体的に届ける・・・私はそんな未来にしたいです。そして、私の創るその世界観を一番理解出来る通子さんに出演してほしいと思っています。(彼女、女優になりたいって言ってたし)
(由美子、俺はお前のその世界観、お前のお母さんのように教員としてかなえるものだと勝手に思いこんでた。でも、お前の望むそれなら40人とか100人というレベルじゃなく、日本中、いや世界中を確かに巻き込むことは可能だな。村上塾の卒業生として同僚として働ける日を想像していたんだけど、これはあきらめなけりゃあな。でも、それは確かにありの選択だ。スケールはずっと大きい。世界は広いぞ。飛び出せ!)
文集委員のお題は「現在・過去・未来」ですか。渡辺さんの歌にあったようなテーマですね。
ただ文集をながめる限り、二人とも影響を与え合っているようですね。からんでいるだけのようですが、友情の本質はそこにあるのかもしれません。私は分かりませんが。




