第55章 由美子の父と工場の秘密と夢
父の工場の建設にイラソへの軍事攻撃のニュースが。
由美子は・・・。
第55章 由美子の父と工場の秘密と夢
外見だけ見ると一見普通の工場ではある。今までの錆びたトタン張りのオンボロ工場ではなく、小綺麗で今までの工場の何倍もの大きさに見える。もう少し工場として早く出来てもよいのだが、やたら地中深く穴を掘ったり、なんだろうと思うくらい分厚いコンクリートで囲まれた部分があったり。
最新鋭の3Dプリンターとなる。いや3Dというよりは4D、5Dといってよいかもしれない。なんといっても材質を複合的にプリント出来るので場所によって材質を変化させたり、複合材質を使いながらも複雑な形態を作成出来るというのだ。強力なレーザーで金属などの部分を硬化させたり、CMCマシンのようにしかも複雑に削ったり出来るという。また、炭素繊維の原料を3Dプリンターで打ち出し、巨大な釜で焼成する装置も導入される。
実はこの高出力レーザーや大型焼成装置、これらは膨大な電力を要する。これを地元の電力会社からまかなおうとすると大変なことになる。大袈裟だが、周辺地域が大停電を起こしかねない。そこで、秘密裏に設置されるのが、原子炉である。つまり、小型の原子力発電所、原発である。ただ原子力発電発電所といってもにある巨大なものではなく、原子力潜水艦に搭載されるものをさらに小型にしたものである。それでも出力は大きすぎるが、将来的な余力も将来にむかって残しておく必要がある。しかも実証実験を兼ねて設置されることになった。ただし、もちろん極秘事項である。将来的に原子力潜水艦の保有に備え、アメリカ海軍に出向し、原子力潜水艦の原子炉運用について学んできた技官が複数、工場に常駐することになる。氾濫を起こすような流量豊富な川が市内には流れており、冷却水には問題はない。非常用の巨大地下プールもすでに完成している。
工場の周りには多くのセンサーが設置されている。由美子はただの工場にしては不思議な気がしている。軍需産業に関連するので、それなりに必要なのかも知れないが民間工場にしては不釣り合いなほどである。しかも普通には分からないように丁寧に擬装しているから、なお怪しい。確かに最新鋭の技術なので昨今の事情からその秘密が漏れること、特に外国にだが、それは国家規模の危機になりかねない。私服の武官が勤務するようになったし、背広の背後から除くマシンピストルがちらりと見えた時には姥貝校長先生のエジプトでの話を思い出してしまった。外国ならいざ知らず、古来から刀狩りの文化があるここは日本だ。父はいったいどんなものを作っているのだろう。由美子にはそれが原子炉を使った発電設備のためであることは知らなかった。これだけは由美子にも絶対の秘密だ。もちろん住民にも・・・。
こことは別にもう少し離れた山の中にも実験施設が建設されている。石川県にある重機メーカーの施設となっている。ここでは由美子の父親の工場で試作された部品を使い、それを組み込んだ機械が製作され、テストされている。まあ、重要度からいうと父のパーツは30%程度でしかない。極秘で開発された“トロン仕様のAIチップ"がメイン、いやそのプログラムもだが、これが核心である。ちなみに“トロン仕様のAIチップ"の製作とそのプログラムの開発は場所を含めて完全に極秘である。それらの運搬と扱いは核燃料の扱いよりも厳重かもしれない。
父の携わっているドローンはハイ・ローミックスのハイの部分であり、対戦闘機・対戦闘艦・対戦車はもちろん、兵站を革新するゲームチェンジャ-である。対して、ローの部分がこのプログラムの部分である。今誰もが持っているスマートフォンと身近にある段ボールや木材、建材などを組み合わせ、飽和攻撃を仕掛けてくる相手のドローン等を国内どこであってもくまなく無力化するのが目的なのだ。今起きている戦争で明らかになったのは、やっぱり民間人が多く犠牲になっているということだ。国が防衛できる範囲は残念ながら限られている。しかも、非常に限定的である。少し前までならミサイルや攻撃機を迎撃することで被害をある程度押さえることが出来たが、近年のドローンは何百機という単位で飛来するため、従来の方法では迎撃できない。また、精度の低い物も多く、民間施設に着弾するものが多いのだ。欧米のピンポイント攻撃でも大量の犠牲者が生まれているのに(※犠牲を計算した上で攻撃している可能性が高いし、もちろん、誤爆も少なくない)大雑把な狙いで攻撃してくれば当然被害も拡大する。しかも、インフラに向けての攻撃が多いため、結果的に民間人が迷惑するのだ。
そうとなれば自分自身でそれらの攻撃を排除するしかない。それがこのプランの肝である。国民の生命と財産を守る・・・現代戦ではもはや自衛隊だけでは不可能だ。自分の頭の上に飛来する自爆ドローンに全て対処出来る軍隊はおそらく今のところ世界にはないだろう。手をこまねいて見ているだけではみすみす愛する家族や大切な財産を破壊されてしまう。それぞれで最低限の自衛が出来る準備を整えておこうというのだ。当たり前のことなのだが、これが知れると理由もなく感情的に世論が炎上していくだろう。結局後で恩恵を被るのだが、今は極秘だ。
具体的には、現役を退き家庭で眠っているスマホを迎撃ドローンのブレインとして活用しようというのだ。民間防衛である。
AIを搭載したスマホならいいのだが、これからは増えるにしても今は単純なスマホで対応するしかない。とはいえ、今のスマホは退役を迎えている戦闘機に搭載してあるコンピュータより遙かに能力が高いし、センサーについてはオンパレードで少しも不足はない。そして、それらをコントロールする。そのアプリを開発しているのだ。
筐体はいろいろなものが使われている。各地に支給される予定の機体は、段ボールが主たる素材である。段ボールはレーザーで切れ込みが入れられ、スナップオンのプラモデル並みに簡単に組み立てが出来る。またプロペラなどは別の素材となっているが、大量生産が可能となっている。かなり雑なつくりではあるが、使い捨て(自爆?)なのでそれほど問題ではない。爆薬等は自衛隊から配布される予定であるが、相手のドローンの制圧だけなら有機プラスチック(自然に分解される)の糸を散布することでプロペラに絡みつかせたり、ジェットエンジンの吸い込み口から入って異常燃焼を引き起こしたりすることでよい。それらは標準キットに含まれている。
それから廃材やポリバケツなどの家庭にありそうなものを利用して作る方法も紹介されており、模型飛行機用のエンジンやモーターでなくとも、家庭にある電化製品のモーターや廃車となったバイクのエンジンなんかの利用方法も紹介されている。
日本が戦争をすることはあるのだろうか?現時点ではどう考えても昔のような侵略的な戦争は出来ないだろう。世論は必ず反対に動くはずだし、その良識はまだ国民の中に根強く残っている。だとすると、日本が戦争になる場合は二つ。一つは侵略される場合である。この可能性は皆無ではない。尖閣諸島の占拠ならトカゲの尻尾切りもあるだろうが、アジアの某国が沖縄を独立させ、自国に取り込もうとするなどの場合だ。これは自衛隊も動かざるを得ないだろう。また、昔からユーラシア大陸の某国は北海道を手中に収めたいとと考えているのは知られていることである。凍らない港(軍港)が欲しいのである。ウラジオストクやナホトカなどもとりあえず凍らない港ではあるが・・・。
もう一つの場合は、昔から懸念されていることだ。日米安全保障条約である。それこそ日本が太平洋戦争に負け、武装解除され、平和憲法をかかげ、軍隊を持たない国家として出発したのだが。そうなると安全保障が必要ということでアメリカが日本を守ってやろうというのが、そもそもなのだ。
しかし、そんなことはたった5年後に起きた朝鮮戦争で吹っ飛んでしまう。日本の再軍備化が始まり、今の自衛隊とつながるのだ。その時は「せめて自分の国は多少なりとも自分でなんとか出来るように」とか「すぐにやられてしまわないように」とかのレベルだったかもしれない。しかし、その一方通行が、だんだん相互に・・・集団安全保障とは本来そういうものだが・・・どちらがやられそうになったら助けにいくというように変化してきた。まあ本来そういうものなので、当たり前に近づいてきただけのこととも言える。しかし、いざそうなった時、自国が直接関係ないことでも相手が戦争となったら助けに行かなければならなくなり、つまりは「戦争に巻き込まれる」という場合が生じるのだ。
その点、似ているようで全く違った国、何度も言うが、スイスである。スイスは『永世中立国』といって集団安全保障に頼らない国である。でも戦争をしない国ではない。最近は緩んできたようにも聞いているが、国民皆兵の軍事国家である。有事から三日以内に兵を整えることが出来ると聞いているし、町内には当たり前のように武器庫があり、核シェルターの普及率は100%を超える。スイスを我が物にしようとしても無理だと思わせる・・・つまり、戦争をしないためには、抑止力としてしっかりと戦争が出来る体制を整えているのである。
村上の険しい顔つきがこちらを見た。こわい。なんで先生、私をにらむの?突如けたたましいサイレンが鳴る。(この前のイラソへの攻撃と同じサイレン・・・空襲警報?Jアラート?)由美子は思わず手を伸ばす。丸い形の上に突き出たボタンを押す。
目覚まし時計のけたたましい音が鳴り止む。
胸までパジャマがずり落ち、肩が飛び出ている。そうとううなされた?
「夢かぁ・・・。昨晩のイラソへの軍事攻撃のニュースと父の工場の内覧が重なったため?びっくりしたぁ。」
由美子の夢オチにはかなり村上の影響があるんだろうなぁ。子供たちを怖がらせちゃいけないよ。でも、春分の日明けの頃には・・・。
夢オチ・・・
これもありでしょうか?




