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第53章 ミチヒト、なんてたって仲間だよ!(その5)

子ども同士の遊びって、方言で言えば『がっと』なのです。

2限も頑張ったミチヒト。

さて、ショートの休み時間を迎えますが・・・。


第53章 ミチヒト、なんてたって仲間だよ!(その5)




1限の算数の授業が終わりに近づく中で村上はミチヒトを立たせると教室を出ようとした。すると、ミチヒトの母親が近づいてきて制止する。

「次は理科のテストでしょ。お手紙に時間割が書いてありました。ミチヒトは『新研ゼミ』でやってますから。学習権を奪わないで欲しいです。」

キッという視線がきつい。ミチヒトは席にもどってしまった。


(教材を与えておけば、それでOK?・・・そんな勘違いをミチヒトのお母さんもしているのか?学習権を一番論じて欲しくない人ほど、持ち出すんだよなぁ。)

村上は一瞬思案をするような仕草しぐさをしたが、その意見を承認した。

(でも『それ』を言われたら、誰も抵抗出来なくなってしまうじゃないか。最近、ホントそういうのが増えたよな。言葉が一人歩きというか、中身が空っぽのまま言葉がまるで水戸黄門様の印籠いんろうのように全能の神となってしまう・・・ううん)

市販のテストは20分もあれば終わってしまう。終わったものは静かにiPadを取り出しドリルなどをやっている。また、総合的な学習の時間の成果をプレゼンアプリでまとめたり、卒業文集に載せるマイページ(※作文とは違い、自分のプロフィールやアピールを装飾豊かにデザインしたページ)などを制作したりしている。この時期くらいになると新たに学ぶ項目はかなり少なくなる。

2限が終わる頃になってやっとミチヒトは鉛筆をおいた。ざっとみたところ、まとめのテストにもかかわらず6~7割くらいは出来ている。まあたいしたものだ。地頭は悪くないし、そこそこ学習してきているんだ。知識主体であっても無よりはずっといい。母親は微動だにせず、2限もミチヒトを見ていた。



2限のあとは少々長い休み時間が入る。男子は真っ先にトイレに駆け込むと用を足し、体育館にすっとんでいく。ミチヒトはチラチラと気になる後ろを見る。

由美子と通子がミチヒトの席を囲む。

「ねえ、私たちも男子のポートボールに加わるんだけど、いっしょにやらない?」


(本来はサッカーがメインなんだけど運動場=グラウンドが雪で埋まっているので、外でサッカーは出来ない。体育館でフットサルという手もあるが、なんせ足は手の5倍もの力ある。体育館の半分は低学年も混じって縄跳びや鬼ごっこ、フラフープなんかしているので、当たったら危ない。そこでポートボールだ。ミニバスという選択肢もあるが、ボールが重くて堅いのでフットサルと同様に男子は自主的に避けている。まあ、運がよければこの時期になるとグラウンドが使えるようになることもあるのだが、地球温暖化の影響か、今年のドカ雪のなごりが未だにグランドを厚くおおっている。)


由美子と通子はミチヒトを連れ立って体育館に移動した。チーム分けを三人で行い、それぞれがゲームを中断せずに仲間に入る。誰ともなく、増えたメンバーを伝え合う。


通子はフリフリのスカートのまま駆けていく。よく転ばないものだと感心するが、もともとスポーツも嫌いじゃない。ただ、ピアノのために突き指をしないように細心の注意を払ってゲームをしている。由美子はズボンだけあって動きは機敏である。男子の動きにピタリとついていっている。味方の男子が由美子にパスしたボールがインターセプトされ、相手チームが攻めに入る。由美子がすかさずブロックに回る。通子は相手チームだ。ミチヒトも相手チームだ。インターセプトした男子は腕いっぱいに伸ばした両手のボールで大きなを描きながら周りを見渡す。ミチヒトの前からゴールまでがら空きだ。由美子にフェイントをかまし、ボールをパスしながら叫ぶ!

「ミチヒト、チャンスだ!いけ!」

ミチヒトがその言葉に反応して意識した瞬間、ボールはミチヒトの顔面中央にヒットした。ミチヒトはそのまま2歩ほどよろよろと後退し、ドンとしりもちをついた。ボールは跳ね上がっていたが、それが落ちる間もなくみんながミチヒトのところに駆け寄る。

「おい、ぼやっとしてると危ないぞ!」

と声を掛けたのは、ボールをパスした本人だ。

「大丈夫か?」

それは二言目だった。

ミチヒトの赤くなった鼻から血がスーと垂れてきた。

通子が駆け寄ってテッシュでミチヒトの鼻を押さえる。

ボールはミチヒトの鼻の左から左頬の間を直撃したらしい。

「あたしたちミチヒトを保健室に連れて行くから、あんた、村上ちゃんに連絡して!」

「ミチヒト、ワリイ、ごめんな・・・。俺、村上先生に連絡したら、すぐ保健室に行くから。」

ゲームは中断となる。縄跳びをしていた低学年の子まで何事かと集まってくる。

ポートボールで使っているボールはミニバスで使うボールより二回りほど小さく、比較的軽いし、ボールの肉厚もそれほどないので、堅さもそれほどではない。またパスしようと投げたボールなので、ドッチボールのように当てようと投げたボールほどの威力はない。彼らの言う『がっと(=本気で強い)』なものではなかった。


江崎先生はミチヒトの顔面を念入りに調べ、額を押さえたながら首をいろいろさわっていた。

「打撲ね。鼻血はそう、その眉間みけんの下あたりの鼻の付け根を押さえて。そうそう、上手。もっと力を入れて。それから姿勢は良くしてね。ソファの背もたれに寄りかかってもいいけど。・・・首も心配なさそうね。」

いつの間にか、ミチヒトのお母さんも村上先生も来ている。


結局ミチヒトはそのまま帰宅することになった。学用品はランドセルに詰め、由美子と通子が保健室まで届けた。

給食はリクエスト献立のココア揚げパンだった。クラス全員で「へんなおじさん(故志村けん)」をやりたかったのに・・・。




次の日。村上の機嫌はあまりよくないように見えた。昨日ミチヒトにボールをぶつけた男子もだ。そして、由美子も通子も。登校時、ミチヒトの家を訪ねたが、門算払いに等しい対応に右フックを食らっていた。


どうもあの後、放課後になってミチヒトの家から学校に電話があったらしい。

休み時間にミチヒトを交えてポートボールをやっていた時のことだ。そう、あのパスされたボールがミチヒトの顔面にヒットした「あの時のこと」である。

母親の言い分はこうだ。ボールをぶつけた(※意図的ではないので「ボールがぶつかってしまった」が妥当な表現だろう)男子がミチヒトにすぐ謝らず、先ず最初に文句を言ったというのだ。『学校で』どういう教育をしているんだっていうことらしい。村上本人を飛び越え、クラスを飛び越え、学校全体を相手にするという宣誓だ。ボールをぶつけた男子の家にも「お宅ではどういう躾けをしているんだ」っていう電話があって困り果てた家族がこれも学校に電話してきたらしい。


詳しい状況は由美子や通子が村上や江崎に事細かに話していたので、それは校長にもしっかり伝わっていた。校長は丁寧に順を追ってボールを投げた男子に悪意はなかったし、「チャンス!」と叫んでいるからミチヒトに活躍して欲しいという願いもあったということも説明したという。このような事例の場合、普通は先ず教頭が対応するのだが、トップの校長を出せということで、結局村上、教頭、校長の三人で家庭訪問することになったらしい。この場合、お出でいただくのが正しい対応なのだが、呼びつけるような剣幕に押されたという。この手の場合、市教委を巻き込むことも往々にしてあるのだが、そうならなかったのはラッキーだった。

教育委員会は絶対に学校の保護には回らない。市教委自体が叩かれると、にっちもさっちもいかなくなるからである。きっと。さらにマスコミを利用されるのは最悪である。彼らはストーリーではなく、一言の断片を切り取って報道する(ことが多い)からだ。放送時間や紙面の限界がある以上、断片こそが彼らの真実なのだ。そしてブームには逆らわない。教員は権力者であり、権力者は悪である。よって教員は悪である・・・というような三段論法によって悪のイメージがもたらされたらそれは絶対なのである。むしろ報道の0良心に従おうと下手なことをしたら、それを報道したマスコミ自体が叩かれかねない。要は真実とは別のところで結論は決まっているのである。すでに。


そう。結論はすでに決まっているのである。そこから外れる事実は当人にとって事実としての価値がない・・・だから、何を言ってもそれは空しく宙を切るだけなのだ。そんな現象を「バカの壁」と名付けた学者がいる。答えはすでに決まっている以上、論はどうでもよい。その結論が出てくれは正解でそれ以外は不正解なのである。村上がよくなげいている『合ってる・合ってないシンドローム』と言って正解と不正解だけにこだわっている子どもたち(・・・結局、親がそうなのだろうが)がいるように、今までそれを至上としてきた学校教育におおいに問題があったのだろう。学校教育は少し変わり始めたと思うが、時間差で社会にはどんどん蔓延まんえんしているようだ。何を言っても無駄である。発端と結論の間には何もなく空っぽなのである。


校長は順を追いながら筋道立て丁寧に説明したが、先にも触れたとおり、それはどうでもよいのである。むしろ火に油を注ぐようなものだ。正しいか正しくないとかではなく、感情の問題なのだ。自分の大切にしている所有物がないがしろにされたのである。どうしてくれるんだの世界である。ある意味ヤクザの思考と似ているのかもしれない。

だからと言って相手の思考に合わせてしまえば、元も子もない。ところが、今の社会は元も子もなくなっているのである。だからいろいろなことが狂ってくる。


結局、ミチヒトはそれ以後またパッタリと学校には来なくなった。

それでも通子は忙しい習い事の合間を縫ってフォースナイトにアクセスしミートに声を掛けている。授業はたまに見ているようだが、この時期はほとんどが復習で自習のような授業形態が増えている。その様子はだんだん尻つぼみとなっているようだ。ホワイトデーのクッキー作りまであと3日。通子は献身的に誘いを掛ける。由美子や男子のメッセージも伝える。

「おいでよ!」

だが、あと1日という時にフォースナイトからミチヒトのアバター、ミートが消えた。深夜まで待ってみたし、チームの募集も駆けてみたが、反応はなし。


当日の朝、由美子と通子がミチヒトの家を訪ねたが反応はなかった。家には人の気配がない。カーポートには大型のバン(自家用車)の姿もなかった。どこかに出かけたのだろう。


香ばしい匂いが漂う家庭室。みんなでワイワイがやがや楽しそうである。でも、結局なんか物足りない。そう、このお楽しみ会の目的はミチヒトの参加が大条件なのだ。男子がクッキーを作っている間、女子は会食会場の飾り付けをしている。百均で購入したキラキラしたバルーンや紙で作った花、鮮やかで色とりどりのモール。パーティ会場だ。でも大事なものが一つ欠けている。しかも会食の始まりはいきなり起立した男子が、

「ボールをぶつけた俺のせいだ。みんなゴメン。」

と謝ったので、みんなシンとしてしまった。それでも、通子たちキラキラ女子が、

「こうなったら、ミチヒトの分まで楽しもうよ!」

と声を掛けたので、表面上はそれなりに楽しんだ。しかし、いつものように小骨がのどに刺さったままの感じは抜けない。

「これは卒業式も危ないかも・・・」とつぶやいた男子の一人はみんなからボコボコにされていた。きっとみんなもそんな不安を抱えていて、それを打ち消そうと必死だったのかもしれない。村上は何も言わなかった。

卒業式まで残り1ヶ月をとうに切り、あと1週間とちょっと。

会場の後片付けはみんなが黙々と行った。いつもは後片付けもお祭り騒ぎなのに・・・。

ボールがぶつかって鼻血ブー!遊んでいればそれなりにあります。


あるときは傷付け、またある時は傷付けられ、結構スリル満点な中で『お互い様』ってことを学んでいくはずなんですが、子供たちが『商品』となった以上、車のバンパーのようにちょっとでもキズ付けられたら容赦はなくなったのですね。


『おおらか』の対義語ってなんでしょう?

もちろん、昔?は学校生活の中で大けがや死亡事故もありました。緩やかな反面、起きてはならない事故が起きていたのも事実です。でも、お爺さまやお婆さまにきいてご覧なさい。今の学校には無いたくさんの楽しい遊具があふれていましたよ。確かにそんなものは無くても冬季オリンピックの競技のように昔では考えられないような3D技が出現してきています。でもね、それってオリンピックの競技のため?

なんか、ちょっと大人の(子供も?)考え方の方向がずれると違ってくるように思えてならないのですが。


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