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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
3巻 修学旅行編
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第1話 ①

「……で、い、一体、ど、どういうことか、な、納得できる、せ、説明を、し、しろ!」

「いやいやだからな? 目の前に美味しそうな食べ物があったら食べたくなるだろ? 食欲は人間の三大生理的欲求のうちの一つなんだからよ」

「た、食べたくなっても、ふ、普通は、た、他人のは、かっ、勝手に食べないよね? き、君、り、理性のない、げ、げげ原始人?」

「俺様は高校球児だから食べねばいくさができんのだよ。温室根暗ヒキオタボーイのお前と違ってな!」

「く、空腹なら、た、他人の食べ物を、かっ、勝手に食べてもいい道理は、な、ないだろ! ほ、法律が、な、なんのために、そ、存在しているのか、り、理解してないのか?」

「法律だろうと縛ることのできない物事がこの世にはごまんとあるんだよ」

「そ、それを世間では、む、無法地帯と、よ、呼ぶんだぞ! そ、そもそも、え、偉そうにほざくなら、レ、レギュラー、とっ、取ってからにしな」

「言ってくれるじゃねーの。夏の大会ではスタメン張ってやらぁ試合応援しに来いよ!」


 ………………。

(俺は無関係。俺は無関係。俺は無関係……)

 俺には関係のないことだ。今、真横で展開されている小学生レベルの言い争いなんて知ったことじゃない。

 俺こと高坂こうさか宏彰ひろあきは隣で口論する二人を無視してWebライトノベルを読んでいる。この作品、書籍化が決まった話題作なんだよね。

 貴重な昼休みは有効活用しないと。


「おい宏彰! こいつになんとか言ってやれよ」

「せっ、誠司!? きっさまぁー!」


 無関係を装ってるのになんでわざわざ絡んでくるのさ! 小説読んでるのが分からないの? 空気読めよ! 嫌がらせか!?

「こ、高坂君は、ぼ、僕のみ、味方だよね? あ、明らかに、ひっ、被害者だし」

「この程度のことでグダグダ言ってっから女の子にモテないんだよ。金持ちに見合ったハートの器を用意しろよな。あっ、まず図体が貧相で小さかったわ」

「モ、モテない、き、貴様に、い、言われたくない。せ、成績いいくせに、の、脳が筋肉でできてるから、じ、実用できて、な、ないな……!」

 話を聞いたところ、ハイテンション野球部員で俺が所属する2年6組の学級委員を務める谷田たにだ誠司せいじが理科系男子、豊原とよはらたかしのポテトチップスをつまみ食いしたらしい。それも未開封の一袋丸々。

 この二人、対極な性格なのに妙に仲良いよなぁ……。

「こ、購買に行って、か、買い直して、き、きてくれよ」

「なに、お前友達をパシリに使うの?」

「む、無銭飲食だから、と、当然だろ」

「いやいや待ちな! 今日財布持ってきてないぜ? 買い直すのは物理的に無理だわーあー残念だなぁ! 買い直したくて仕方なかったんだがなぁ!」

「あ、明日でも、か、か、構わないけど」

「………………」

 あ、誠司が呼吸を止めて固まったぞ。すべがなくなったようだ。

「ふっざっけんなよー。今月金ピンチなんだぞ? どうしてくれるんだよ~!」

 逆ギレ状態の誠司は太い腕で豊原の首にヘッドロックを決める。

「ふっ! ふふふふざけんなっていうのは、こ、こっちの台詞だっつーの! ぎゃ、逆切れしてんじゃねーよ! し、しばくぜ!?」

 誠司があまりにも身勝手な物言いを続けるものだから豊原もキレている。見た目こそ貧弱だけど豊原には炎を作り出す超能力が備わっている。舐めてかかれば大やけどだぞ、誠司。

「誠司、いざという時のために多少は貯金くらいしておかないと」

「貴様はバイトをしてるから貯金があるだろうがな、こちとら部活で忙しくてバイトしてる余裕なんざねーんだよ! そもそも無駄遣いしてないし」

「ならなんで金欠なのさ?」

 気になっていたことを誠司にいてみる。

「お土産代だよ。再来週は修学旅行だろ? 色々買おうと思って貯めてんのよ。八つ橋もいっぱい食べたいしな」

「「…………は?」」

 素っ頓狂とんきょうな声を発したのは豊原も同じだった。

「……見事にハモったな、おい。息ピッタリか」

「修学旅行って、どゆこと?」

 俺と豊原がポカンとしていると、今まで俺の後ろの席で漫画を読んでいた男子生徒が俺の机の前に回り込んで、

「――修学旅行。生徒間の絆を深め、また、ご当地の知識を身に付けることを目的とした学校行事、いわば社会科見学の一種だね」

 したり顔で修学旅行の解説をはじめやがった。

「こりはこりは、ご丁寧な説明をどーも」

 俺は棒読みで礼を述べた。

 そんなことは知っとるわ。そういう意味で聞いたんじゃないわ。修学旅行があることをすっかり忘れてたよ。

 得意げに修学旅行という熟語を熱弁したのは俺の相棒的存在である佐藤さとう太一たいち。冷静沈着な司令塔キャラだ。

「太一、修学旅行がそんなに楽しみか?」

「待ち遠しいほどではないけど、多少は楽しみだね」

 俺がたずねると太一は涼しい微笑を浮かべた。こいつが素直に楽しみにしてるなんて珍しいな。

 ちなみに場所は修学旅行では定番の一つとされている地、奈良京都だ。俺と太一が中学時代に行った沖縄と比べると近場の旅行にはなるけれど、はじめて行く場所だ。俺も少し楽しみだったりする。

 ところで奈良京都ってメジャーな観光地だけど小学校、中学校の修学旅行と被る生徒も出たんじゃないか?

「三浦さんから聞いた話だけど」

 過去の修学旅行で奈良京都を経験済の生徒を気の毒に思っていると、太一が再び口を開いた。

 三浦さん――三浦みうら真澄ますみさんは3年生の2科男子だ。俺、太一、豊原が所属しているパソコン部の部長を務めている。イジられキャラだけど人望が厚い人なんだ。

「学科合同で修学旅行に行くのは今年からなんだって。去年1科は沖縄、三浦さんたち2科は北海道だったらしいよ」

「修学旅行まで学科で分断されてたんだ……」

 太一の解説を聞いて引く。同じ学園の生徒同士なのに別世界の住人だな。

 それがどうして今年から合同になったんだろ? ついでに行き先が近場になってるし。

 俺たちが通う貴津たかつ学園がくえんは1科、2科の二つの学科に分かれて学園生活を送っている。男女共学で普通の雰囲気の1科とは異なり、我々2科は理系男子校のような異様な雰囲気を放っている。

 男子校のようだと表現したけど実際2科には女子生徒は存在しない。なので実質男子校そのもの。男女の青春? ナニソレ状態。

 おまけに学科間の仲は悪い。基本的にはお互い不干渉だけど一部の1科の生徒、特に男子にはやたらと2科を攻撃してくる卑劣な輩もいる。

 その代表格が5組の辻堂つじどう晴生はるきだ。報いを受けてから多少は大人しくなったけど、未だエンカウントする度に俺にウザ絡んでくる。

「ぼ、僕は、い、1科と違う行き先で、よ、よかったのにな」

「確かにね。旅行先でまで因縁つけられたくないよね」

 豊原の意見に同調する。1科と2科が混ざり合ってもいいことなど一つもない。お互い嫌悪しているのだから別旅行のままでよかったのに。せっかくの思い出が台無しになる懸念もある。

 学科合同に対して文句を垂れる俺と豊原を交互に見た誠司は眉をぴくりと押し上げた。

「お前らマジ? 女子の私服が拝める貴重なイベントだぞ? テンションが上がらずして何をする?」

「旅行ですけど?」

 誠司は修学旅行をなんだと思ってるんだろう。遠足の時もそうだったけど何を履き違えてるのか。

「誠司のがっつきが女子との縁を遠ざけてるとしか思えないや……」

 鼻息荒く己の欲望を吐き散らす誠司を眺めて溜息が漏れる。

「宏彰お前はいいよなぁ」

 呆れ半分でいると、ジロリと睨まれた。

「なにがさ?」

「とぼけんな! 星川、遠藤と仲いいじゃねーか!」

 誠司が口にしたのは星川さんと遠藤さんだった。二人とも同学年の1科女子でとびきりの美少女。本来ならば俺なんかが関わることなどない。

 ……はずなんだけど――なんの因果か懇意こんいにしている。

「田中もいるしね」

「あっ宏彰ガンバ☆」

 誠司は秒でてのひらを返しやがった。そんな乱暴に返すとてのひらが熱くなるぞ。

 太一が名前を出したのは4組の田中さんだ。ボクシング部期待の星。なお性別は女性。

「それはそうと豊原、お前金持ちならポテチ一袋くらい水に流したらどうなんだ?」

「み、水に流すかどうかは、こっ、こっちが決めるんだよ。か、金持ちだから、お、奢れって傲慢ごうまんだろ! た、谷田君みたいな、こ、乞食こじきが調子に乗るから、ふ、ふ、富裕層が金の捻出ねんしゅつを、しっ、渋るんだよ」

「ナニ言ってんのか分かりかねるなー」

「つ、都合の悪い話は、す、全て無視。せ、政治家かよ」

 ……誠司の奴め、せっかく話題が逸れたのに蒸し返しやがった!

 とはいえよ……どう考えても誠司の言い分が身勝手で寸分すんぶんたがわぬ悪としか思えない。

「誠司……君が悪いよ。勝手に人の食べ物を食べるなんて。しかもお行儀よく残さず完食。豊原も言ってたけど無銭飲食じゃん」

「うおおお宏彰ィ!? 貴様裏切りやがるのか!?」

「痛い痛い痛い……!」

 誠司は血走った目で俺のネクタイを引っ張ってきた。苦しんですけど。そして裏切るもなにも、はたから味方ですらないんだけど。

「た、太一! お前は俺の味方だろ? 首を縦に振ってくれ!」

 今度は太一に懇願こんがんするも、太一は首を縦には振らない。

「残念ながら豊原の肩を持つよ。君の肩よりも豊原の肩の方が華奢きゃしゃだ。弱い方の味方をするよ」

「どんな判断理由よ!?」

 まさかの罪状ではなく肩の作りで豊原の味方になりやがった。太一はこういう訳が分からない時があるのでいまいちつかみどころがないんだよね。

「三対一だね。こういう場合、民主主義ではどうするか分かるかい?」

「……僕が悪かったですごめんなさい今すぐポテチ買ってきます」

 太一にさとされた誠司は肩を落として教室から出ていった。購買に向かったのだろう。

 まもなく授業がはじまるんだけど、彼の頭の片隅にはそのことが残っているのだろうか?

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