エピローグ
学園長から帰宅号令が出てすぐのこと。
「……ふん。どうだ高坂宏彰。学園長の威を借りて俺たちを打ち負かした心境は?」
メンタルが回復したのか、立ち上がった沢口君は憎まれ口を叩いてくる。
「威を借りたつもりはないけど……」
学園長の方から来たんだし。打ち負かしてもないし。無効試合になっただけだし。
「はぁ? 徒党を組んだ揚げ句先生に頼りやがってダッセぇ真似して言い訳までするのか!? 男らしくないな! 一方で沢口さんはなぁ! 言い訳する脳みそすら持ち合わせていないから何一つ言い訳しないんだぞ!」
いやいや、学園長の迫力にビビって黙ってただけでは……?
「あなたにはいずれ必ず天罰が下ります。沢口さんを困らせたこと、これ即ち神を冒涜するに等しい――いえ、それ以上の愚行です」
富田君がなにやらカルトじみたことを口走ってるけど深くは考えまい。
「俺は貴様を決して赦しはせん。これからも徹底的に監視して、必ずや退学に追い込んでやる……!」
「あぁそう……」
監視ってさぁ。自分も学園長からマークされる立場になったことをもう既に忘れてるのか?
「無知なお前に教えてやる! 沢口さんはなぁ! 強気を助け弱気を挫く、今後の世界を担うにふさわしいお方なんだよ! そんな沢口さんを前にお前は屈服する運命にある! 恐れ入ったか!」
「悪は必ず滅びゆく運命にあります! あなたが天狗になっていられる時間も多くはないですよ!」
「おい、さっさと帰れっつったのが理解できなかったか?」
「分かってます。――高坂宏彰よ、今日のところはこれにてドロン。しかし貴様の悪行を正すまで俺は立ち止まらないのだ。せいぜい震えていることだ」
学園長に注意された沢口一派はベタかつげんなりする捨て台詞を残して公園を去った。
「これからも彼らから粘着されるのか……」
厄介な相手がまた一人――いや三人も増えてしまうとは。辻堂だけでも手を焼いててお腹いっぱいだってのにさ。
「もう彼らは対処のしようがないよ」
深く嘆息する太一は側頭部を掻いた。
「いくら言葉をぶつけたって、水をやったって、根っこが腐ってたらうんともすんともいわないでしょう」
「まぁ、ね……」
彼らの耳に念仏。辻堂はまだ話が通じる――一抹の希望がある気がするけど、沢口一派には話が全く通じない。
幸いなのは学園長の計らいで俺に直接的な干渉ができなくなったことか。
「でも、今回の沢口騒動では俺にも思うところはあったんだよ」
太一は腰に右手を当てて俺を見つめてくる。
「宏彰は2科だけども星川、遠藤、松本、高沢……1科でもカーストが高い面々と仲が良い」
太一の見解はもっともなので言葉が出ない。
「君はオタクだけど根っからの陰キャではないから格差是正主張の説得力が薄まるんだよ。2科に限ればカーストが高い君の主張じゃね。今は他の面々はその真実を知らないからいいけれど、ばれた際にどう対処するかも課題だね」
「そう、だね」
忠告を受けて確かにな……って思った。
「違うだろ。宏彰は自分から行動したからその恩恵を手にできたんだよ。何もしない連中にとやかくイチャモンつける資格なんてねーよ」
ここで誠司が俺をフォローしてくれた。
「それもそうだね。宏彰が得たものと格差主張は別物で捉えないと、だね」
太一は一つ頷いて続ける。
「宏彰。学科総会で分かったと思うけど、同じ学科でも皆が同じ考えじゃない。信念が違うからこそ、当然すれ違いは起こる。沢口のような手合いの発言をコロッと信じて君に敵意を向ける人たちもいる」
言葉の力はすごい。言い方次第で簡単に他人を丸め込むことができてしまうのだから。
「でも、だからこそ困難を跳ねのけたその時、栄光への道へと足を踏み入れることができるんだよ」
言い切る太一は輝いて見える。もちろん表情はいつもどおりの微笑しか浮かべてないんだけど、なんというか――強固な意志を感じる。
「あぁ、足を踏み入れよう」
必ずみんなで笑顔になれる日が訪れるようやれることをやろう。
「歩夢も、ありがとう。妙なことに付き合ってもらってごめん。最近は君に助けられてばかりだ。虎の威を借る狐だね」
純粋に感謝の気持ちを口にしただけなんだけど歩夢は不満顔だ。
「なぜ謝る? 俺が勝手に割り込んだだけだよ。だいたい君が俺の力を使って何が悪い? 虎の威を借る狐? 虎の威を借りれるのも君の実力でしょ。これからもどんどん使ってやってくれ」
歩夢は親指を立てて一つウインクした。それ絶対女の子の前でやったらダメだよ。失神必至だからね。
「高沢君も……ありがとう」
「気にしなくていいぞ」
高沢君はさらりと言ってのけた。さっぱりしてるところも彼の魅力の一つだね。
彼の能力は気にかかるけれど積極的に詮索することじゃない。高沢君にもまた、思い出すだけで気分を悪くする過去があるのだから。そこをほじくり返すのは非礼だ。
「帰ろうか」
「あぁ」
「全員気をつけて帰れよ~」
太一の合図で学園長を残して俺たちは連れ立って駅へと歩を進めたのだった。
沢口君との件で知った。
一致団結など、不可能だということを。
同士でも意見が合わなかったり、足を引っ張ったりする存在は必ず現れるということを。同士でも同志になる保証はないのだと。
今後はそれらも踏まえて行動しないと。
ただ今回、学科裁判にかけられたことで俺の考えを2科全体に伝えることができた。今後はよほどのことがない限りは2科から俺に対する排他運動は発生しないだろう。
2科からの強い反発は起こらない――それが今回俺たちが戦って手にした成果なのだ。
「月が綺麗だね、ヒロ」
「歩夢それ意味分かってて言ってる!?」
俺の幼馴染が怖い。
五月も終盤に差しかかり、春が去ってほどなくして梅雨の時期に入る。
そして学園一大イベントの一つ――修学旅行が俺たちを待ち受けている。
果たしてどんな展開になることやら。
きっと平穏には行かないのだろう。辻堂との因縁は続いているし、沢口君とも遺恨を残したまま収束する気配などないのだから。
それでも時間は止まっちゃくれない。流れゆく時からは逃げられないのだ。何か起きたらその時に考えるしかない。
修学旅行では騒がしくも刺激のある非日常が俺を呼んでいる気がする――
今宵の風は暖かくて気持ちよかった。
これにて2巻分は完結です。
読んでくださった方は誠にありがとうございました!
1巻に比べて話が全体的にとっ散らかって、また登場人物がやたらと増えてしまい申し訳ありませんでしたm(__)m
3巻ではレギュラー格の新キャラは出さないのでご安心ください(?)
2巻は新たな試みに挑戦したことによる弊害、同士でも衝突することもあると宏彰に認識させるお話でした。
からのいきなりの修学旅行で1科との衝突どこ行った状態ですが……きっとどこかでやりあうんでしょうね。
以上です。




