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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
76/83

第13話 ②

「この状況を好転させる手段はないのか――!?」

 絶望的な状況を前にどうしようかと焦っていると――


「――ヒロがいるところにこの松本歩夢あり!」

「まったく、とんだ展開だな」


 ふいに二つの声が全員の意識を引き寄せた。

 声の主は――歩夢と、球技大会で対戦した3組の美男子、高沢椋たかざわりょう君だった。

「どうしてここが?」

「ヒロのスマホのGPSから辿りつ――たまたまだよ」

「今とんでもないこと言ってなかった?」

「? 変なヒロだなぁ」

 GPS……? ヤダやっぱりそれ以上追及するのが怖い。

 笑顔ですっとぼける幼馴染が末恐ろしいです。

「次から次へと鬱陶しいな……!」

「もはや倍じゃねーか!」

「多勢が無勢をいびって楽しいんですか!」

 君たちがそれを――以下略。

「だが能力も使えないお前らに何ができる!? ただ高坂宏彰の足を引っ張りにきたのか?」

「……高沢」

「……おう」

 歩夢と高沢君のイケメンコンビがアイコンタクトを取った。おお、学園トップ2イケメン同士の視線の交錯こうさく。この場に女子がいたら卒倒そっとうしちゃうね。特に高沢女子は熱狂的だからね。球技大会の時はすごかった。

 意外に思われるかもだけど歩夢は円形光線を操る能力者だ。俺との過去が歩夢を超能力者にした。

 高沢君は能力こそ持たない代わりに持ち前の身体能力を生かすのだろう。

「いたたたたっ」

「…………へ?」

 富田君の唸り声が響く中、沢口君が間の抜けた声を出した。

「能力ってこれのこと?」

 歩夢は例の光線を沢口君に向けて放った。当てるつもりは毛頭ないようだ。

 驚いた沢口君はうんていから滑り落ちた。

「俺らがなぜ使えないと断言できた?」

 二人は不敵な笑みを浮かべる。

 歩夢は知ってたけど――……高沢君までもが能力者だったとは……! 勝手に無能力者だと思い込んでた俺は浅はかだったと思い知らされる。

 高沢君の能力は高速移動だった。まばたき一つしただけで既に富田君をヘッドロックしている状態だった。

「な、なぜお前らまでもが能力者なんだ!? 1科の人間なのに!?」

「能力発現の原理は沢口、お前の方が詳しいんじゃないのか?」

「っ、ふん……」

 高沢君からニヒルな笑みで問いかけられた沢口君は表情を歪める。

 七対三。更にこちらは能力者が一人多い。形勢は完全に逆転した。

「こしゃくな――!」

「ふん――!」

 沢口君がビームを作る間、俺も球電を作り出す――

「あっ、調節ミスった」

 想定よりも大きく作ってしまったけど……作ったものは投げるしかない!

 俺が放った球電は沢口君一直線に飛んでゆき――

「ぐわああああっ!!」

 沢口君の右腕に直撃した。ジャージが一部破れたものの、本人に怪我はなかった。

「高坂宏彰いいいぃぃ!! 貴様ああぁーー!! 許さん許さん許さーん!! 覚悟はできてるんだろうなぁ!?」

 怒りに打ち震える沢口君の手から作られるビームは直径五センチほどから大きくならない。

「ちいっ……もうビームが作れん……!」

「俺もです、沢口さん……」

「同じく……」

 ここで三人同時にMPが底をついた。呼吸荒くへばっている。

「……もはやこれまでか……俺たちの負け、か。煮るなり焼くなり好きにしろ」

 燃え尽きたかのように沢口君は砂場の上に座り込んであぐらをかいた。他の二人もならって座った。

「その代わりどうかこれまでの俺の所業しょぎょうを水に流してはもらえないだろうか」

「反省して考えを改めると?」

「あぁ。俺が悪かった」

 どういう風の吹き回し? 沢口君は頭を下げて投降してきた。

 けどまぁ降服して反省するのならこれ以上攻める必要もないか。

「反省してるみたいだし、水に流すよ」

「おお、許してくれるのか。俺も真剣に心を入れ替える必要があるな」

 俺が言葉を返すと顔を上げた沢口君が救いを見つけたような安堵あんどした表情になった。

「おいおい、マジで許すの!? お人好しにも程があるだろ!? ひょっとしなくてもお前バカ?」

 誠司が信じられないとばかりに両手を開いて抗議してきた。

「本気で更生しようとしてる人の道を塞ぐなんてできないよ」

「本気でっておま……はぁ。心底バカな奴だな……」

 誠司はこめかみに手を置いて溜息をいた。

「ヒロが許すなら従うけどさぁ、こいつらヒロを殺そうとしたじゃん」

 歩夢も誠司と同じく釈然しゃくぜんとしない様子で文句を言う。その隣では高沢君が腕を組んで無言で俺を見つめている。無表情なので何を思っているのかは全く想像できない。

「とにもかくにも、今回の騒動も収束だね」

「気の抜ける終わり方だけどな」

「お、終わりよければ、す、全て、よ、よし」

 豊原の言うとおりだ。エンドがよければそれ以上遺恨(いこん)を残す必要もない。これ以上彼らとは関わり合いにならなければそれでよし。

「ねね、帰りに二人でコンビニでも寄ろうか? ねぇヒロ?」

「なぜそこはみんなでと言えないのか……」

 俺の幼馴染が俺をライクすぎて困ってます。

 すっかり戦闘モードを解いていると――


「――なぁーんてな!」


 油断していた俺に向かって沢口君が駆け寄ってきたと思ったら――

「いたっ――!?」

 目に大量の砂をかけられた!

「沢口君……君って奴は……っ!」

 反省の弁は真っ赤な嘘だったのかよ……どこまで性根が腐ってるんだ……!

「これも目的を果たすためだ! 悪く思うなよ――!」

「あぶな……!」

 なんとかまぶたをこじ開けると沢口君が砂場から掘り出したトンカチを俺に振りかぶってきた。事前に埋めていたのか。どこまでも他人を攻撃するための手回しは用意周到しゅうとうだ。

 かろうじてトンカチを避ける。

「なぜ俺が磯口公園を指定したと思う? ここなら能力がばれる心配がない。それだけじゃない。ここには砂や木の枝、石――地味ながらも使いようによっては便利なアイテムが転がっているからだよ!」

 なるほど。だから沢口君はギミックが多い磯口公園を選んだのだ。さっきもうんていを駆使してビームの速度を上げていた。使える物はとことん使う。彼らしい手法だ。

 能力がばれる心配がないという点については疑問が残るけど。

「さすがは沢口さんです!」

「それでこそ勝利が確約されているお方です!」

 高畑君たちは未だに親分に心酔しんすいしている。

「こんの――! やっぱこんな連中、多少怪我させてでも折檻せっかんするべきだ!」

「同感。情が抜けきらないヒロに代わって一撃かましてしまおう!」

 報復に燃える誠司に歩夢も同調した。歩夢も沢口君の悪行に怒っているようだ。

 沢口君はトンカチ一つで誠司とお互い距離を詰めてゆく。誠司の横では歩夢が光線を作っている。腰巾着二人は太一と豊原に囲まれているので無抵抗だ。

 ここで勝負が決まる――――というところで。


「おーっす。今回もあたしの出番がやってきたぜー」


 気の抜けた声と同時にやおら姿を見せた人物によって一同の動きが止まった。

「学園長。またあなたですか」

 学科紛争の時も決着がついた瞬間に現れた。毎回絶妙なタイミングで登場するなぁ。

「またとはご挨拶だな高坂。火遊びは感心しねーなぁ。ガキは家でまったりしてる時間だろうが」

「遊びじゃないですけどね」

 命がけの遊びとはなんぞや……? あと俺が主犯みたいな言い方はやめてください。

「今回も派手にドンパチやってくれやがってからに。光やら雷やらで目がチカチカしやがるぜ。お前ら若気の至りにも限度があるだろ」

「これ、普通にまずいですよね……?」

 これだけ光り物を飛ばし合ってしまったんだ。誰かに見られてしまったのでは……。

 慌てる俺に対して学園長はふっと笑った。

「心配するな。沢口が事前に特殊な魔導具で結界を張ったから、さっきまでのドンパチが一般人に目撃されてる可能性はゼロだ」

 学園長の言葉に安堵あんどするも、なぜそんなことまでご存知なのか疑問は尽きない。魔導具とはなんぞや……?

「な、なぜ学園長がここに……?」

 ビビり気味の沢口君が恐る恐るたずねると、学園長は彼をジト目で睨んだ。

「おイタしてるバカタレどもを制止するのも教師の責務なんでな。ったく余計な仕事増やすんじゃねーよ」

 学園長は細めた目でこの場の一人一人を睨み、再び沢口君のところで視線が止まった。

「沢口、聞け。今から話す内容は全て現実だ。真摯に受け止めな」

「な、なんですか……?」

 学園長から唐突に硬い表情を向けられた沢口君は生唾を飲み込んだ。

「お前、指定校推薦で河嵜かわさき理科大学に入りたいらしいな」

「ええ」

 沢口君が言ってた理科大学って河嵜かわさき理科大だったんだ。あそこは私立理科大学の最高峰さいこうほう。指定校推薦ならいざ知らず、貴津学園から一般入試で挑むのは結構な冒険だ。

「評点平均って知ってるか?」

「もちろんですとも」

 評定平均。全科目の評点から平均点を出した数値だ。一般的に指定校推薦をもらうには最低でもこの評定平均が3.5は必要だと言われている。

「なら話が早い。お前の成績は評定平均に全く届いてない。かすってすらないぞ。評定平均はA~Eランクに分けられるが、お前の成績だと堂々のDランクだ。1年の時に積み重ねた成績不振がかせになっててこれからオール9以上の評価を取らないと巻き返しは絶望的な状況だ」

「……バッ! バカなッ!?」

「いやそりゃこっちの台詞じゃバカタレ」

 信じられないとばかりに口を大きく開ける沢口君を見る学園長の目はジトっとしていた。

「そもそもお情けで仮進級させてもらってる時点で推薦できるわけねーだろ? 進級時に説明したよな。忘れちまうならメモ取れメモ」

 入学だけじゃなくて進級時にもお情けをかけられていたのか……。逆に学園は沢口君に激甘すぎない? 一番甘やかしちゃいけないタイプの危険人物だと思うんですけど。

 沢口君の周りには彼の行動をとがめてくれる存在がいなかったのか。ある意味気の毒だ。

「し、しかしですね! 俺は努力もしてます! 漢検三級の勉強をしてて――!」

「理系の大学で漢検の資格をどう活用するんだよ。しかも三級は中学校レベルだ。下位文系大学ですら評価せんよ」

「な、なん、と……!」

 自身のアピールポイントをあっさり完全否定された沢口君は唖然あぜんとする。うん、知ってた。俺もはじめて聞いた時全く同じツッコミを心中でしたよね。頑張るところが根本的にずれているんだよ。

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