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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
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第12話 ④

強者きょうしゃが生き残り、弱者は淘汰とうたされるのが自然界の常。ここで俺たちに始末される貴様は弱者なんだよ」

 俺が弱者だと言うのなら、俺を狙う沢口君はただの弱い者いじめの加害者だな。

「俺は恵まれた環境下で育っている。俺だけじゃない、勇太郎や祐介も同様だ。貴様ら下々(しもじも)の者とは家柄の格から違うんだよ。学園の格差なんかよりも家柄の方がずっとずっと重要で影響力が強い。家柄は高校を卒業しても有効なんでね。まっ、特権階級に生まれなかった己の運命を呪うんだな」

 自分の手柄でもないくせにずいぶんと得意げだな。しかも俺の両親まで遠回しにけなしている。まぁ最近は親ガチャという言葉もある。運も実力のうち的なやつだ。

「俺は高坂家に生まれてよかったと思ってるよ」

 苦し紛れの発言ではなく心からそう思っている。不自由なく、ある程度俺の意思を尊重してくれる両親にチャラくてウザいけど心根は優しく関係も良好な弟。俺も沢口君たちとはベクトルこそ違えど恵まれた環境に身を置けている。

「負け惜しみを……」

 沢口君はさげすんだ表情で俺を睨む。

 けどそんなことよりも俺には先ほどから気にかかることがあった。

(沢口君たちの能力、違和感があるなぁ)

 まるで過去の辛い記憶による超能力ではない、もっと超越ちょうえつした得体の知れない別の何か――そんな不気味な不安がよぎる。

 そもそも話を聞いてる感じ、彼らは挫折やトラウマなどとは無縁の人生を過ごしてるように見受けられる。いわゆる温室育ちの子息しそく。お坊ちゃま。

 予想でしかないけど、記憶による能力とは思えないんだよね。

 だとすれば――恐らく持久戦に持ち込むことこそが勝利への道だと予想する。

(けど……三対一はさすがにキツい)

 サンコイチとか言ってたけどれっきとした戦闘員三名じゃないか。しかも全員が能力者。はじめは俺だけが能力者の算段だったけど見事に崩された。

「貴様はありとあらゆる選択肢を誤った」

 俺に対して憐みの目を向けてくる沢口君。

「無駄な行為に走らずに効率的に生きていれば死なずに済んだものを」

 辻堂は自らの意思思想を信じていた分まだ信念があった。俺からしたら到底受け入れられるものではないけれど、それでも奴なりの矜持きょうじがあった。

 けど沢口君は違う。表向きには2科の風紀が~学園の評判が~と声高こわだかに叫んでるけど本質は利己りこしか考えていない。やたらと気にしているのは学園の、ひいては自身の評判だけだ。そういった面では辻堂よりもタチが悪い。

 今回だって自分の指定校推薦のために俺たちのような1科に異を唱える2科の面々を抑圧して1科との余計ないさかいが起こらないように立ち回った。更には2科全体に俺への批判的な空気を作り出して出るくいを打とうと画策かくさくしてきた。

 それだけだと学園の秩序を守ってるように聞こえるけど実際にやってることは気に食わない俺をめて2科内部の仲違なかたがいを引き起こし、さも自分が取り締まったように見せかけてゆくゆく学園から志望大学の推薦状をもらおうって魂胆だった。

 2科のことなど、これっぽっちも考えていないのだ。自身の損益こそが彼の行動の全て。


「沢口君の家庭は裕福なんでしょ? 親御さんも沢口君のためにあれこれしてくれたんじゃないの?」

 塾に通わせたり、家庭教師を雇ったり。裕福な環境ほど選択肢は増える。より成功に近づけるオプションを選択する権利が与えられる。

「したさ。中学時代は塾に通わせたり通信教育教材を買ったりしたな」

 自分のためにしてくれた親の厚意なのに、当人は他人事のように話した。

「だが面倒で全部すぐやめたよ。苦労せずに済む裏道があるなら最大限活用したくなるじゃないか。バカ正直に偏差値を上げて試験を受けるなど愚行だよ、愚行」

 面倒、愚行、ね。

 両親がいい職業に就いていて、恵まれた環境で育ちながら努力を一切せずにあぐらをかき続けてきておいて、指定校推薦で大学進学を目論もくろむ姿勢にも首を傾げざるをえない。推薦が取れない場合も想定して公募推薦やランクを落とした大学の一般受験の対策もして、筆記でも勝負できる状態を作り上げておくべきではないのか?

 それを楽な方法で、しかも手段を選ばずに俺のような目障りな邪魔者を陥れようと画策かくさくしてくる。とんだ食わせ者だ。

 まぁ、俺を陥れたり楽な方法を模索して自分の進路を確かなものにできるよう動くことも一種の努力とも呼べるのかもしれないけど、俺はそれに対してノーを突きつけるよ。

「みんな面倒でも苦しくても頑張ってきたから今があるんだよ。この学園の生徒だって大半が頑張ってきたからここに入れたんだ」

 貴津学園の偏差値は60を越えていて決して低い数値ではない。ある程度の努力をしてこなければ普通は入学できない。

「そんなのは裏道を知らない弱者の言い訳なんだって」

 しかし沢口君にその意見は通用しない。台詞のとおり正規の方法以外で入学したのが容易に想像できる。そういえば土下座して教師の同情を買って入学を果たしたとか言ってたな……本当にそれだけなのか?

「1科との格差の件だってそうだ。我慢さえすれば将来にリターンを得られていたものを……」

 沢口君の話すとおり、俺は彼に比べて考えが幼稚なのかもしれない。けど、そこまで割り切れるほど大人にはなれない。所詮しょせんはクソガキなんだ。

「勝ち組とはいかにして狡猾こうかつに抜け道を探して近道するかだ」

 裕福な家庭に生を受けただけでも勝ち組なのにストイックなことで。方向性は完全に間違ってるけどね。

「君が塾や通信教育を諦めたことに対して親御さんはどう思ってるのさ?」

「勝手にしろと呆れたね。だから俺は言った。結果なら出してやるってな。宣言どおり俺は貴津学園に合格した。大学も合格してやるよ。結果さえ出せば周囲は黙る」

 親の支援を突っぱねて結果を出すと宣言したのは殊勝なことだけど、手段が小狡こずるいことこの上ない。

 沢口君たちは恵まれた環境下で挑戦をしない人生を送っているので長いものに巻かれ、卑怯な手口を行使したり媚びを売ったりすることで目的を果たしてきた。ゆえに俺が格差をなくそうと模索する姿をくだらない、無駄、それどころかマイナスでしかないと否定的な考えを持っているんだな。

「無理な事柄にエネルギーを割くのは無謀なんだよ」

「無理、ねぇ……」

 無理と放棄は別物だ。沢口君は少し勉強をした程度で諦めたんだろうけど、それは無理だったとは言わない。

 胸を張って、堂々と「無理だった」と断言できるのか? 本当に打つ手はなかったのか? 他に手立てがあったんじゃないのか?

(そう、かつての俺自身も――)

 俺より後からはじめた歩夢にテニスの実力で負けたことで練習量を増やした。

 けれど、それでも差は縮まらなくて。

 俺には無理だと投げ出したけど、本当に無理だったのだろうか?

 もし、もしもだ。実は打つ手が隠れていたのなら、その可能性に自ら蓋をしてしまったのだ。自身のポテンシャルを、可能性を己の手で封じ込めてしまったのだ。

 幼馴染に劣ってる現実が恥ずかしくて情けなくて、彼に背を向けて同じステージから逃げるように降りた。

 じゃあ歩夢がいなかったら? と考えても、俺は同年代のテニス経験者よりも下手くそだったと思う。

 過去の俺と同じで、大した足掻きもせずに楽な道へと流れようとして、更に沢口君はそのためならば他人を利用し気に入らない人間を平気で蹴落とす。

 そんなやり口を黙って使わせてたまるかってんだ!

 頑張ることを放棄した人間に未来などない!

「沢口君、君は最高にダサいよ! 恥を知れっ!」

「言うじゃないか……高坂宏彰……!」

 まんまと挑発に乗ってくれた沢口君は何度もビームを発射してきた。苛立っているためか精度が悪く、避けずとも俺に当たることはなかった。

「貴様一人死のうが、俺の未来に比べれば軽いことよ! 貴様の命など、俺の進路よりも軽い!」

 自分のためなら他人の命すらちりのような扱いだもんな。

(イカれてるよ……)

 沢口君には人としての最低限の情すらない。どうしたらそうなってしまうんだ。

「……うわっ、当たる――!」

 余計なことを考えてる場合じゃなかった! ビームが俺のすぐそこまで迫ってきた……もう避けきれない!

「くっ!」

 反射的に木の枝を盾代わりに前に出し、ビームにぶつけた。

「……あれ?」

 すると、ビームが消滅した。この木の枝、強すぎない? 最強の武具を手に入れた気分。

「高坂宏彰め……しぶといな。無闇にビームを使ったらもったいない」

 沢口君の台詞ではっとなった。

(もったいない――やっぱりそうかっ……!)

 そうか――彼らの超能力は俺たちのものとは一線をかくしている。先ほど感じた違和感の正体が分かったぞ。

 彼らの超能力の源は記憶ではない。つまり――

「くそっ、息切れしてきた……」

 ――MP(マジックポイント)は無限ではないってことだ!

 いうなれば魔法。魔法を使うには魔力を要する。魔力は魔法を使う度に減少する。

 なぜ魔法が実在して、なぜ彼らが魔法を使えるのかは分からないけど――ひょっとしたらそれも満さんが話していた組織が関係しているのかも。

「逃がすかよ!」

「おっと――うわっ」

 事前に用意していたのだろう、高畑君が握るホースから水が飛び出し、俺を襲う。富田君が水道の蛇口をひねったのだ。本当念入りだな。

「いかがかな? 我らのコンビネーションは」

 水が目に入って視界が見えない俺は再度転倒してしまい、彼らの姿が目前もくぜんまで来てしまった。

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