第12話 ③
「――高坂め! 今日こそお前の最期だ!」
「年貢の納め時ですよ、覚悟してください!」
どこで待機していたのか、沢口君の腰巾着二人が現れた。
「三対一は卑怯では?」
えっと? サシの対決じゃなかったんですか? 一人でこいと手紙で指定したのはどこの誰だよ。
「ふ。俺たちは三人で一人、サンコイチなのだよ。ゆえになんら問題はない!」
どんな理屈だよ……そういえば誠司も同じことを言ってたな。
「そもそも誰も一騎打ちなんて言ってないんだが? 高坂宏彰一人で公園に来い、俺はそれしか貴様に指示していないはずだが?」
きったねぇ! 確かにそうだけども……。
「唖然としてるお前に教えてやろう! 沢口さんはなぁ! 学級委員の立場を濫用して、こうやって常に目障りな奴を排除しているんだよ! どうだ!? 恐怖に恐れ慄け!」
「普通に最低だ……」
学園はすぐさま沢口君のリコール運動をするべきでしょう。学級委員の風上にもおけない。俺を糾弾してる場合じゃないでしょう。
「貴様を亡き者にするためならばありとあらゆる手段を使う! 勝率を上げるためならばなんだってする! それが人生を成功させる秘訣! 大体の奴が恐れをなして手段を選ぶが、それじゃあのし上がれない! 綺麗事に惑わされず偽善を捨て冷酷になれる逸材こそが上に立つ器を持つ者なのだ!」
ダメだ。なにからなにまで相容れない。話にならない。
心のどこかでは沢口君が本気でこちらの意見に耳を傾けてくれるのではないかという甘い願望を抱いていたけどそう甘くはなかった。話し合いどころか三人がかりで俺をどうにかするつもりだ。
とはいえ、この二人は沢口君と違って腕力的に大したことはできないだろう。妙な飛び道具を隠し持ってないかさえ警戒しておけば取るに足らない。
「おや? おやおやおや?? もしや勇太郎と祐介を侮ってはいないか?」
沢口君は目ざとく俺の微妙な表情の変化に感づいた。辻堂といい、俺と敵対する人物はどうして妙なところで勘が鋭いのか。
「よしお前たち! ならば見せてやろうか! 我らの隠し玉をな!」
「見せてやりましょう、沢口さん!」
「高坂め、度肝を抜きやがれっ!」
沢口君たちは左手を突き出して三人で並べた。
やがてそこから三つの光の塊が生まれ、大きくなってゆく。
やがて一つの大きな塊となって俺へと飛んできた! その大きさ、直径約一メートル。
「――ぐっ!」
なんとか避けられたけど――今のは――超能力……!
「ふっ……どうだ高坂宏彰? 我らの三位一体攻撃は?」
「分かったか! 腕力がなくとも戦う手段は持ってるんだぞ!」
「今は一つにまとめましたが、三人バラバラに発射することも当然できますよ」
三人とも余裕の笑みで俺と対峙してくる。
(能力者……だって……?)
彼らにも備わっていたとは。ということは過去に辛い記憶が?
(…………本当に??)
疑問しか抱かないけど、現にビームを作り出した以上は認めるしかない。
「何考えてるか知らんが、無駄に思考を巡らせてる場合ではないんじゃないか?」
三人は三角形を描く形でそれぞれ俺を囲む形で距離を取る。彼らの超能力は全て射程攻撃なのでこの戦法は妥当だ。
「覚悟! 高坂宏彰!」
「っ!」
三方向から同時にビームが飛んできたけど転がって避けた。
「ほう。しかしいつまで避けきれるかな?」
次はバラバラのタイミングで次々と直径三十センチ程度のビームが飛んでくる。
「あっ待て高坂ぁ!」
「逃がしません!」
俺は攻撃を避けつつ高畑君と富田君の間をすり抜けることに成功し彼らから距離を取るが、当然ながら彼らも追いかけてくる。
「逃げても無駄だ――まだ出し惜しみするか」
「出し惜しみ?」
「そろそろ貴様も超能力を発動させたらどうなんだ? ん?」
「………………」
しらを切る俺を見て沢口君はほくそ笑んだ。
「知ってるんだぞ。2科の中で超能力を手にした連中がいることくらいな。そして貴様が対象者ということもな」
6組だけでなく2科の7組と8組でも超能力騒動が起きたと聞いている。対象全員がひた隠ししているので現段階では公では発覚してないけど。
しかし、今の沢口君の言葉に言い知れぬ違和感を覚えた。
「さっさと当たれよ高坂!」
違和感の正体を考える僅かな時間すら与えちゃくれない沢口一派は俺を追いかけて次々とビームを放ってくる。
「しぶとい輩め」
「そう簡単にやられちゃ面白くないでしょう」
「面白さなんぞ不要だ。さっさと終わった方が余計な手間が減る」
沢口君は心底面倒そうに俺を追い回して攻撃してくる。
一つ気がついた。三人ともビーム発射後に二秒ほどのインターバルがあるんだ。つまり、俺や歩夢のように連射ができない。更には塊が出来上がるまでにも数秒かかっている。
三人がかりで連射されていたらひとたまりもなかったけど――ツキはまだ俺を見離していないようだ。
「――っと、おわっ!?」
ジャングルジムの前で転倒してしまった。
「――さようなら、憐れな高坂宏彰。惜しい人材を失くしたな」
失くそうとしている張本人が何言ってんだか。
「うわっ――セ~フぅ……」
咄嗟にジャングルジムの中に退避した瞬間、ビームがジャングルジムのパイプに直撃したことで消滅したため助かった。
「遊具を利用したか……やるではないか」
利用というかたまたま防いでくれたんだけどね。
「だが俺たちは長期戦を望んじゃいないのさ!」
さっきから早く終わらせたがってるけど、この後用事でもあるのだろうか?
彼らは俺めがけてビームを投じてくる。俺めがけて飛ばしてきたり、俺の逃げる方向を予測して投げてきたりで避け続けるのに一苦労だ。
「はははは! 高坂宏彰! 死ねぇい!」
身をかがめた俺の真上をビームが通過した。あっぶな……。
「なーに、案ずるな。貴様は不慮の事故で命を落とした。その瞬間を目の当たりにしながらも止められなかった沢口は心に深い傷を負うも高坂宏彰の分まで人生を全うする。ということにしてやるから。綺麗なシナリオだろう」
夜の公園で不慮の事故ってどんな事故だよ。事件性しかないじゃないか。加害者なのに悲劇の主人公気取りなところも鼻につく。
「星川を蔑んだ俺がさぞかし憎かろう。さぁ! 存分に能力を発揮してくれていいんだぞ」
沢口君は両腕をミュージカル俳優のように広げてくるけど挑発には乗らないよ。
「そう易々と使う代物じゃないって分からないか?」
「ふん。せっかくの能力を使わないとは」
使わないんじゃなくて使うに使えないんだよ。下手したら相手を殺してしまうからね。むしろそんな危険物を躊躇いなく乱射する君らがどうかしてるんだっつーの。
「宝の持ち腐れだぞ。それに能力を使わなければ貴様は――」
沢口君は再度手でビームを作り、
「――間もなく、死ぬ」
俺に向かってぶん投げてきた。
「……っ!」
徐々に距離を詰められてしまえば避け続けるのもキツい。逃げてばかりで体力が減ってきた。飛び道具を持つ彼ら相手では肉弾戦に持ち込むこともできない。右手で握り続ける木の枝がもったいない。
……さすがに能力なしではもう限界だ。
(指先に神経を集中して……)
歩夢の時と同様に相手の攻撃を避けつつ雷塊を作り出す。相手が死なない程度の大きさに調整しなければならない。相当神経を集中しないといけない。どれか一つでも失敗したら俺の命はない。
ビームを避けた瞬間、沢口君に向かって雷塊を投げ飛ばす!
「……ほう。雷使いか」
雷塊は沢口君の横を通過した。気絶する程度の威力で作ったつもりなので当たってくれてもよかったけどね。
「――!」
俺は威嚇の意味も込めて極小のプラズマを無作為に乱射した。
「うっ、ビリッと来るな」
プラズマはちょくちょく彼らに直撃するも、威力が弱すぎて多少痺れる程度のダメージしか与えられない。
「超能力の使い心地はいかがかな? 能力者殿。憎しみは貴様にパワーをもたらしてくれる。そうつまりは! 他者への攻撃意志こそが力の源なのだ!」
満さんも前に同じことを言ってたっけ。魔法は敵を攻撃する手段って。それは超能力も同じで、強い厭悪がより攻撃性を高めるんだ。
「だが能力を使ってもなお貴様に勝算はない。今ここで死ね」
勝算ね……確かに依然として俺は劣勢だ。こっちは俺一人なのに対して向こうは能力者が三人もいるのだから。
「死ぬ前に訊きたいことがある」
だけど――こんな抗争に時間を割いてるんだから報酬くらい要求してもいいよね。
「なんだ? 内容にもよるが教えてやってもいい」
意外にも沢口君は攻撃の手を止めて俺の話に耳を傾けた。
「超能力が覚醒するドリンクを作った組織の存在は知ってる?」
俺の質問に一瞬眉を上げた沢口君は軽い口調で答える。
「あぁ、知ってるとも。だが貴様に教える詳細な情報などなに一つもない!」
それじゃ肝心な情報が一切開示されてないじゃん。
「ドリンクを学園に手配した人物の正体も知ってるの?」
「それは知らんな」
沢口君の表情を見ても嘘か本当か判断つかない。
今のところ何一つ有力な情報が得られていないんですけど……。沢口君ほどのクレイジーな人なら組織に関与していたとしても今更驚かないし。
「どうせ冥土へと向かうんだ。今更あれこれ探っても疲れるだけで終わるからやめておけよ」
冥土の土産すらくれないのか。ドケチだなぁ。




