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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
72/83

第12話 ②

「くくっ、面白い――実に面白い! 笑止千万しょうしせんばん!」

 右手を押さえる沢口君は顔を闇に覆われる空へと上げて高笑いしはじめた。しかし目はまったく笑っていない。不気味極まりない。

「やるではないか高坂宏彰。だが貴様は愚か。実に愚かだ。学科の待遇にとらわれすぎだ」

 使えないことを確認したスタンガンを放り投げる沢口君。

「1科にやられっぱなしで我慢できるほど俺の器は大きくないんでね」

 弱肉強食だかなんだか知らないけど、強いくせに弱い者に噛みつく? それのどこが強者きょうしゃなんだよ。

「1科の奴らには好きに言わせておけばいいじゃないか。なにを張り合う必要がある?」

 沢口君は両手を開いてなぜ? のポーズを作った。

「仮に下剋上を達成したとして、たかが数年の天下だろ。俺たちの高校生活はもう二年と残されてないんだよ。リターンよりもリスクの方が圧倒的に多いと分かり切ってるのに、果たして余計かつ無駄なエネルギーを消費する意義はあるのか?」

 確かに俺の野望が達成できたとしても留年や休学でもしない限りは数年もしないで卒業してしまう。俺の次の舞台がどんな環境なのか分からないし、俺たちが卒業して格差が復活してしまう可能性だってないとは言い難い。

「たった三年間耐えれば、その先に素晴らしい進路が待っているんだぞ。人生における三年なんて、たかが知れてるだろ」

 たった三年間とは言うけれど、日数にすると休日を差し引いても七百日を超える。高校生活は決して短い期間ではない。

「俺は今の学園に不満はない。志望大学へのゴールが近づけばそれでいい――だが、貴様の存在が俺にとって最大の障害なんだよ……! 貴様が学園で揉める度に俺は自分の進路が危ぶまれそうで気が気ではない!」

 沢口君は親の仇でも見るかのように俺を睨む。

「今のままで問題ない人はそれでいいかもしれないけど、1科のせいでトラウマになって仮にいい大学に行けたとしても人間関係が上手く構築できなくなる恐れもあるんじゃないか?」

 割り切れる人ばかりなら我慢すれば済むけど、俺をはじめ我慢ならない人もいるわけで、そういった層にも目を向けてほしい。

「その程度で潰れる奴はいずれにしてもどこかでドロップアウトする。むしろ社会不適合者をあぶり出すのにうってつけの試練じゃないか」

「いじめや嫌がらせを試練って……」

 弱者を切り捨てる思想は賛同できるわけがない。沢口君も辻堂も選民思想がたいそう強いな。

「上手く行ってるように見える人たちだってそうだ。みんな才能と楽な選択だけでここまで来たわけじゃない」

 表向きには輝いて見える人だって裏では悩み苦しんでいることだってままある。露骨に表に出さないだけで。

「俺の知る限り、歩夢、遠藤さん、そして星川さんは苦労しながらもそれぞれの想いを胸に毎日を必死に生きている。誰も楽な選択なんてしてないんだよ」

 今挙げた三人は多くの人を引きつける華やかさを持っているものの、人知れず苦悩している事情がある。

 強いて言えば過去の俺は楽な道を選んだ。テニスごと歩夢から逃げ出したことがある。

 と、ここで突如沢口君の情緒じょうちょに異変が起こる。

「ほし、かわぁ……っ!」

 星川さんの名を出したせいか、沢口君の表情が激しく歪む。歯が欠けるんじゃないかというくらいに歯ぎしりの音がする。

「どんなに品行方正で容姿端麗だろうとも、この俺のアプローチを拒絶し、掌に収まらないモノ(、、)なんぞに価値などない……! 一円玉の方がまだ俺の役に立つ」

「えっ、星川さんに告白したの……?」

 恐れ知らずもいいところだ。一部では歩夢とお似合いのペアだとささやかれてるほどなのにどこから告白する勇気がわいたのだろうか。

「あぁ。一分足らずでフラれたぞ」

「そ、そうなんだ……」

 これで沢口君は悪夢の告白三十六連敗になったのか。大型連敗が止まる兆しは見えないな。もはや一クラス分の人数じゃないの。

「たとえ皆が羨むブランド商品だろうと、自分のモノにならないならば――そんなモノは不良品……ゴミ同然よ。俺になんの利益も生まない産業廃棄物なんだよ!」

 沢口君はかかとで地面を叩きつけて吐き捨てた。

「いや違うな……ゴミはまだリサイクルで再利用できる可能性が残されているが星川のような輩はそれすらできない! 不要品だなぁ、はははは!」

 さっきからモノとか商品とかゴミとか――フラれた腹いせなのか、星川さんへの表現が大変下劣だ。とても本人には聞かせられない。

「星川さんはモノじゃない! 感情がある人間じゃないか! 獣医を志す素敵な女の子なんだ!」

「獣医……? ――フッ。無理無理」

 俺の大声を意に介さない沢口君は鼻から息を吐いた。

「だってアイツ、志望してここに入ったんじゃなく、本命で滑ってここに流れ着いた負け犬じゃん。たかだか高校受験程度で失敗してるポンコツ欠陥女が医学界に入れるわけないだろ」

 沢口君は表情を歪ませてわらう。

「顔だけで成功させられるほど人生は甘くないんだよ」

「顔……? 顔ってなんだ? 星川さんは学力で勝負に臨んだんだぞ!」

 どこまでも外見や外面の評価しか見てないんだな。ここまで偏った考えじゃこっちも手のつけようがないじゃないか。

「だからさ、貴様も星川もやり方が愚直なんだって。少しくらい頭を使え? 想像力を働かせろ。王道を行こうと息巻くから無意味に苦しんだ揚げ句失敗するんだ。星川が確たる例だ。いや、アレは愚直なんかじゃない。ただのバカだ、バカ。アホだね」

「……星川さんになんて言い草だ……!」

 それがかつて好きだった相手に吐き捨てる言葉か!? 自分の彼女に――恋人になってくれなかったあてつけか!?

 星川さんがどんな思いで頑張っているかは俺にも分からない。けど――挫折を味わい、それでも将来の夢に向かって悩み苦しみながらもひたむきに努力を続ける彼女にケチをつける資格なんて君には一ミリたりともない!

 ましてや――無意味な努力があってたまるかってんだ! 努力が報われるとは限らないけれど、努力が無駄ってことはない! 血となり肉となって、着実に力はついてくるんだ。

 勉学に限らずなんでもそうだ。たとえ失敗して転落したってそこから元の場所――ひいては更なる高みを目指して這い上がることの何がカッコ悪い? 本当にカッコ悪いのは失敗でもあがくことでもない。一切の努力を放棄して楽な道に逃げることだ!

 ……まぁ、沢口君はあくまでも星川さんと付き合うことで得られるメリットに惹かれたに過ぎないのだろう。本気で星川さんという一人の女の子に恋焦がれ、惚れていたとは到底思えない。

「手元に置くことが叶わない宝石と道端に落ちてる一円玉、どっちに価値を見い出せるかって話よ。結局は俺のモノにならない高級品よりも俺のモノになる廉価れんか品の方が俺の役に立ってくれるのさ」

 彼の主張は、自分に利益をもたらさないものはゴミクズ以下だと言っている。

 果たして、そうか?

 ――そんなわけ、あろうはずがない!

「自分にとって使えるか使えないかじゃない。人はモノとは違う。自分に合うかそうでないかでしょう」

 友達、親友、恋人、結婚相手……それらは合うモノがあるから出来上がるんだ。使える使えないで判断していいものじゃない。

「そぐわないんだからやむをえないだろう。なぜ使えない不要品にわざわざ気を回さないといけない?」

「全ての命に良品も不良品もあるものか……生き物は足りないものがあれば互いに補い合って今まで繁栄してきてるんだ」

 俺の主張に沢口君は口角を吊り上げた。

「綺麗事を抜かすんじゃない。動物とは本来我が身が生き延びるためだけに行動するものだ。それが人間だけに倫理って余計な感情が湧くからブレーキになってるんだ。嘆かわしい限りだ」

「倫理観があるから人間はここまで進歩できたとも言えるんじゃないか? 他の動物にはないかけがえのないものを持ってるからこそ! ここまで進歩したんじゃないのか!?」

「はっ、戯言ざれごとを……」

 俺ばかりが熱くなって温度差がある上に主張が沢口君の心に響くわけがないと思いつつもつい反論してしまう。

「未だに理解できていないようだな。偉そうにあれこれほざいてるが、当の貴様がやってるのは、学園の秩序を乱してるだけなんだよ! 学園の評判を落として楽しいか? 学園を潰そうとしているのか? 学園は喧嘩する場所じゃないだろ」

 多少は学園の秩序を乱している側面はある。けど、その分みんなにはリターンするつもりだ。

「だいたい一部の2科の連中がたまたま1科に勝ったところでそいつらだけが見直されるだけで2科全体まで広がらないだろうに」

「そんなことはない! 2科をバカにできない空気――雰囲気はやがて学園全体に浸透する!」

 口コミじゃないけど、流布るふされればやがては1科の2科全体を見る目に変化が訪れると信じている。

「……はぁ。貴様も少しは今ばかりではなく未来に目を向けてみたらどうだ? 1科相手に下らない対抗心を燃やす今よりも将来自分がどうしたい、どうなりたいかを考えた方がよほど生産性があるとは思わないか? 今やってることが本当に貴様のこれからの人生において重要で必須な事柄なのか?」

 未来も大事だけど俺は今を変えたいんだ。どうなるか分からない未来以上に、既に確定してしまっている不遇な現状を変えたいんだよ。

 ……どこまでも話は平行線だな。沢口君も同感らしく、息をいた。

「……ま、今更だな。貴様の人生はここでおしまい、ジ・エンドだからな――出てこい!」

 沢口君がパン、パンと手を二回叩くと――

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