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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
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第11話 ④

 俺は太一と入れ替わる形で演台の前に立ってマイクの取っ手を掴む。

「――皆さん、2年6組の高坂宏彰です。先日と今日に渡り貴重な授業時間を潰してしまいすみませんでした」

 みんなの視線が俺へと注がれている。視線のシャワーは俺に緊張感を与えてくる。

「今回は俺の行いが今回の騒ぎを招いてしまい大変申し訳なく思っています。沢口君の主張にももっともな箇所がありました。反省しています。ですが、僕たち――僕は、打倒1科の悲願を達成することこそが、2科の幸せに繋がると信じ続けています。希望的観測ですが、2科を見下す層の考えが変えられれば学園も変わると思っています」

 みんなの表情は様々だ。ステージから大勢を眺めることでたくさんの顔を目にできてしまう。敵意のこもった視線を送る生徒も少なからずいるけれどビビるわけにはいかない。

「もちろん僕の意見に納得がいかない、反対の人もいるでしょう。僕にできることは結果を出して反対派の人たちに新たな世界を見せることです」

 俺の想いはみんなに正しく届いているだろうか。こんなつたない、身勝手で駄々をこねただけの理想論、論ずるに値しない。

 だけど、今この時は確実なデータを提示したり説得力を持たせたりするよりもありのままを伝えるべき、伝えたいと思ったんだ。

「僕はできることを続けます。1科と戦い続けます。野望が叶うか、卒業するその日まで。太一の言うとおり何が正解かは分からないですけど、どうか走り続けさせてください。……今日は本当にすいませんでした。また、最後に僕の話を聞いてくれてありがとうございました」

 言葉を締め、深く頭を下げた。今の俺にできる誠意はこのくらいしかない。真の誠意は俺の目的を達成した時に返すことになる。

 言いたいことは全て言った。俺の処遇をどうしたいか、あとはみんな次第だ。

 おもむろに一人の生徒が立ち上がって拍手をした。三浦さんだった。

 それに続くように最後方さいこうほうから総会を見守っていた歩夢も拍手をし――あちらこちらから座ったままとはいえ拍手の音が聞こえはじめ、


 やがて館内中から拍手が沸き起こった。


「――さて、沢口。保留にしていた宏彰の判決をみんなにいてみたら?」

 太一が沢口君にバトンタッチする。元々は彼が起案した総会だ。

「……では……高坂宏彰を有罪とし、執行猶予つきの退学処分が妥当だと思う者は、起立してください……」

 敗北を確信しているのか、沢口君の声は震えており、怒りににじんでいた。

 立ち上がった生徒はごくごく少数だった。

「……ご覧のとおり……反対多数により、高坂宏彰への、処分は……不問とします……っ!」

 沢口君は悔しげに、憎々しげに俺を睨んだ。マイクを握りしめた手は強く震えている。こめかみには血管が浮かび上がってきそうな勢いだ。

 既に今年度二回も臨時で学科総会を開いてしまったんだ。今後沢口君が俺の弱みを掴んだとしても今回のような大規模な場を設けるのはほぼ不可能となった。沢口君からしてみれば、俺を叩く絶好の道具を失った形となる。

 沢口君はそそくさとステージから降り、足早に入り口へと向かっていく。その後ろ姿を取り巻き二人が慌てて追いかけていった。

 学科総会が閉幕し、生徒たちがぞろぞろと教室へと向かう中、

「やぁヒロ。お疲れ」

 歩夢が俺に声をかけてきた。自分の授業は平気なのだろうか?

「歩夢。さっきはありがとう」

 歩夢の助太刀があってこその逆転劇だった。

「君はいつも傷ついてばかりだ。あの時だって、学科紛争の時だって、そう、今だって……。むざむざ自ら痛手を負いに突っ込む必要があるのか?」

 歩夢は一転して眉根を寄せる。俺の身を案じてくれているのは分かる。

「今回みたいに叩かれて傷つくヒロの姿は見たくないんだよ」

 俺を本気でおもんばかってくれているんだ。

「君が報われないのがもどかしいし、悔しいよ」

 歩夢にそんな思いをさせてしまったことを申し訳なく思いつつも、

「飛び出しちゃった以上、もう傷ついても止まれないんだ」

 ミサイルのように。自らさいを投げてしまった今、爆発するまで止まることはできない。後戻りなんてできないんだ。

「それに傷なら去年から受けてるよ。未だに平気ではないけど、少しは慣れたんだ」

 1科に喧嘩を吹っかける前から奴らから一方的に因縁をつけられ暴言を吐かれバカにされてきたんだ。致命傷でない限り、いくつ増えようがもう変わらない。

「……そっか」

 強張った歩夢の表情が柔らかくなった。

「――佐藤たちだけでなく、俺や高沢みたいな1科の奴らも君が受ける傷を軽くできるのなら、それほど嬉しいことはないよ」

 嫌味の欠片もないイケメンの自然な苦笑は苦笑ですら爽やかだなぁ。

「それにしてもホント……」

 しみじみとした様子で息を吐き出した歩夢は続ける。

「ヒロはたくさんの人から慕われてるんだな。今日の総会を見て改めて感動しちゃった」

 どうなんだろうか。少なくとも、見てくれている人はいる。評価してくれる人は評価してくれていると、世の中捨てたものではないと感じたかな。

「でも嫉妬もするよ。老若男女関係なく他の人がヒロに絡むたびに俺との交流機会が失われるんだからね」

「お、おう……」

 同性の幼馴染が他の人と話すだけで嫉妬するんかい。

 改めて歩夢の底なしの恐ろしさを痛感したのだった。俺、いつかメンヘラ化した歩夢に刺されたりしないよね?


「まったく、君は遠足の日も他人に手を貸していたのか」

 歩夢と別れたあと、俺を待っててくれた太一とともに教室へと向かう。

「呆れるよね」

「いや。それでこそ宏彰さ。君らしいよ」

 てっきりいつもの皮肉と思いきや、太一の表情から嫌味さは感じなかった。

「君は、ずっと君らしくいてくれよ」

「……? うん」

 何やら言葉に重みを感じたけど、それ以上この話題が続くことはなかった。


    ☆


「高坂君、おはよう」

「おはよう。今日も授業頑張るとしますかね」


 沢口君の論難ろんなんが消え去ってからというもの。俺の日常は戻ってきた。

 しかしこれはスタートでもゴールでもない。外れた道から軌道修正しただけなんだ。

 ――けれど、変わったこともある。


「君の思い、確かに伝わったよ。今後は君を応援する」


 球技大会でバレーや卓球を選んだクラスメイトで俺を応援すると言ってくれた人が何人か現れたことだ。

 それだけじゃない。

「俺たちの犠牲を無駄にしないでくれよな」

「もちろんだとも!」

 以前俺を糾弾きゅうだんした1科女子といい雰囲気だった男子からも激励をもらえた。彼の想いも新たに背負ってこれからも戦うぞ。


 俺の、俺たちの目的と想いが2科全体の場で伝えられた。

 そういった意味では学科総会が開催されてよかったと思うのだった。



 ――――しかし、物語とはそう簡単に終わっちゃくれないのだ。


    ★


「ハ……フハ……フハハ……ハーッハッハッハーッ! ――いよいよって感じだな」

 現状があまりにも不愉快すぎて逆に笑いがとめどなく込み上げ続けている。実に不快不愉快! 図らずも握りしめた右手には過剰なくらいに力がこもる。

 放課後の2年8組の教室には俺しか残っていないため、笑い声は広範囲に拡散された。

「この俺を公共の面前でコケにしてくれやがって……」

 高坂宏彰……貴様はことごとく俺の人生の邪魔をしてきやがるな。お前はこの俺が優秀な家庭の子息だって分かってるのか? 分かってないよな。

「この俺にたてついた罪はあまりにも甚大で取り返しがつかない。――あの手段だけは準備や後始末が面倒だから使いたくなかったんだがな……」

 退学で済ませてやろうとしたのが甘っちょろかったな――そっちがそのつもりならこっちも最終手段を行使するまでよ。

「両親の力で貴様を社会的に始末することもできるが――それじゃあ生ぬるいわな」

 仮に奴を学園から追放したところで、奴は別の場所で同じ過ちを繰り返すに決まってる。それが巡り巡ってまた俺に不利益をこうむらせる危険性は否定できない。発生元を完全に断ち切らなければ意味がない。

「もう手加減はしない。貴様をあの世へと送ってやるよ」

 ならば俺に課せられた使命はただ一つ。

 高坂宏彰に、正義の鉄槌てっついを下すことだ。悪い人間には死をもって償ってもらわないとな。

「なにも知らぬ高坂宏彰。今頃はさぞかし気分がいいことだろう」

 公共の面前で俺を論破し、恥をかかせて満足か? だが人生いいことばかりではないんだよ。

 俺の力をもって、奴の息の根を止めてやる!

「最後に笑うのはこの俺だと知らしめるとしよう」

 貴様がいる限り、俺の人生は思い描いたシナリオどおりに事が運ばないと確信したからな。

「これで終わったつもりでいるなよ。真の大団円はこれからだぞ……」

 目障りな奴は消すに限る。


「く……はは……ふははは……」

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