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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
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第11話 ③

「取り込み中のところ失礼。このお方からお話がある」


 再び入り口の扉が開かれ、教頭先生が高齢男性とともに館内へと足を踏み入れた。続々と新たな人物が乱入してきて一周回ってワクワクするね。

「失礼するよ」

「…………あーっ!」

 はじめは知らないおじいさんだと思って気にも留めなかったものの、見覚えのある穏やかな笑顔が俺の記憶を呼び起こす。

 今まさに沢口君が話題を出したおじいさん本人なんだもの、そりゃ大声も上げちゃうよ。

「このお方は貴津学園に多額の寄付をしてくださっている資産家だ。この人のご協力なしにこの学園の運営は成り立たない。とってもとーっても偉いお方だ」

 教頭先生がごますり感満載の紹介をしたものだから、おじいさんは苦笑した。

「教頭先生。そんな紹介は結構ですよ。生徒さんたちが委縮してしまいます」

 おじいさんは優しく言ったものの、教頭先生は頭を綺麗に九十度下げた。

「――おや。みっけ」

 俺と目が合うと、おじいさんはにこりと微笑んでこちらまで歩みを進める。

「その節はどうもありがとうね」


『この人、高坂君に手を肩に置かれてたおじいさんじゃないか』

『本当だ!』


 生徒たちは続々とおじいさんが例の映像に映っていた人物だと気づいてざわめきはじめた。

「い、いえいえ」

「君の善行は素晴らしかった。私一人ではあの歩道橋はつらかった。君のような若い子がいる日本はまだ明るいねぇ」

 俺の肩を優しく叩いたおじいさんは自身へと歩み寄ってきた教頭先生に微笑みかける。

「教頭先生。貴津学園にはよい生徒さんがおられるようで。これからもよろしく頼みますよ」

「は、はいぃっ! 粉骨砕身ふんこつさいしん励むであります!」

 おじいさんの激励げきれいを受けた教頭先生はピーンと背筋を伸ばした。


『つまり、高坂君はおじいさんを突き放していたわけじゃなく……』

『むしろ歩道橋を上るのを手伝っていた……』

『俺たちは完全に沢口の印象操作に騙されていたのか』


 まさか、おじいさんが学園に多大な影響力を及ぼす有力者だったなんて……こんなご都合主義が許されていいのだろうか??

 けど、最強の味方だ。教頭先生がこの人から念押しされたことで俺を退学にする動きは阻まれることだろう。

「ぐぐぐっぐぎぎぎ……!」

「さ、沢口さん! 顔がすごいことになってますよ!」

「人前で見せてはいけない表情です……」

 ステージ脇に佇む沢口君からは漆黒のオーラが禍々(まがまが)しく解き放たれていた。

 おじいさんと教頭先生が体育館から出ていった時、すっと一人の人物が立ち上がった。

「僕はパソコン部で高坂君とずっと一緒にやってるけど、彼はいたって真面目に取り組んでます。学科紛争の話は詳しく知りませんけど、日頃の彼を見て、退学というのはやりすぎだと思いますよ」

 俺を擁護してくれたのは、三浦さんだった。

「よくない部分もあるとは思いますが、どうか寛大な気持ちで彼を許してあげてほしいです。そして、できれば応援してあげてください。お願いします」


『まさかの三浦ターンとな』

『でもまぁ三浦君が言うなら信用できるな』


 頭を下げた三浦さんに対する面々の反応は好意的だった。これも三浦さんの人徳のおかげだろう。

 一時はどうなることかと思ったけど、これで俺を糾弾きゅうだんする舞台は幕を下ろし、俺ヘの悪評も多少なりとも改善されるだろう。よかったよかった――


「ヒロがなにをしたって言うんだ!! 球技大会で奮闘しただけだろ!!」


 終幕気分だった俺を含めたこの場にいる全員を驚かせる人物が現れた。

 乱暴に入り口の扉を開け放って入ってきたのは歩夢だった。俺は協力をあおいではいない。

 今日は授業の中抜けが多いなぁ。

「学科紛争の発案者は俺なんだ! 学科紛争の件でヒロに悪い点はない! ただのいち参加者だったんだから! 学科紛争で学科間の仲が悪くなったなら――俺が元凶だ! ヒロに直接的な責任はない!」


『おいおい、どうなってるんだ』

『あのアッパーなイケメンが高坂のためにわざわざ……高坂って一体何者なんだよ』


 学園屈指のモテ男の必死な形相ぎょうそうに館内は騒然とする。学内地位が高い歩夢の言葉には非常に影響力がある。味方だと本当心強い男だよ。


「松本さん……どうして……どうして俺じゃなくてよりにもよってアイツなんですか……? あんなヤツのどこがいいって言うんですか……? 俺じゃダメなんですか……?」

 なぜか歩夢を見る高畑君の表情がゾンビ化している。態度もだいぶしおらしい。

「1科の生徒を立て続けに買収したのか!? おのれ、卑劣な高坂宏彰……!」

「沢口君がそれを言うの……?」

 この期に及んでまだ俺を一方的に叩く沢口君を見る周囲の目は冷ややかだ。前回沢口君が作り上げた求心力はもはやそこにはなかった。

「仕方ないね。ここらで最終兵器を使うかね」

「は、最終兵器……?」

 ニヤリとする太一を見て沢口君は眉根まゆねを寄せる。

「豊原、よろしく」

 豊原は頷くとノートパソコンのデスクトップ画面にあるMP4ファイルをダブルクリックした。

 再生された動画。それは――


『エビデンスとしては静止画はうってつけだからな。一部分で第三者へ印象を与えられるのだから』

『まさに! 生徒たちは高坂への嫌悪感から沢口さんの主張を妄信してましたね!』


 沢口君がポロッと本音を漏らしている瞬間だった。ストーカー返しした太一がスマホで動画を撮っていたのだ。音声だけならまだしも、姿が映し出されている以上言い逃れはできない。毎度ストーキング行為で活躍してくれるおとこ、佐藤太一。

「な……!」

 スクリーンに映る自分の姿に視線を送る沢口君は呆気に取られている。


『あの証拠映像の中では俺の指摘は事実だ。嘘などいてない。真実などどうだっていい』


「…………なぁぁああーーっ!?」

 我に返った沢口君の叫び声が館内中にとどろいた。


『愚かな連中が一部の画像に躍らされ騙されさえすれば十分。事実っぽいものを真実だと思わせればそれでいいのだ』


「おおぉぉーいぃっ!! 今すぐふざけた映像を止めろ!! 早くしろよぉーっ!!」

 焦りからか本性を現した沢口君は俺たちに向かって怒号を上げた。

「おい豊原さっさと――どわぁっ!」

「人の証明タイムを邪魔すんなよな」

 豊原を止めようとした腰巾着二人を誠司が取り押さえた。

 最初からこの映像を使っておけば一撃で、はじめから沢口君の敗北は出来レースだった。

 けれど沢口君の指摘は他の生徒も感じていたこと。それらを一つ一つ誠実に回答することこそが俺たちなりの誠意だと思ったんだ。


『うっわ、これが沢口の本性か』

『僕は去年同じクラスだったから驚かないけどね』

『これでよく高坂を断罪しようとしたな。メンタルえぐい』


 はてさて。状況は一気に変わり、沢口君は四面楚歌に陥る羽目に。

「黙れ……黙れ黙れ黙れぇえ! なんの才能も持たない下々の凡才どもめ! 貴様らこそ、俺のフェイクにまんまと引っかかり、一緒に高坂宏彰を責め立てたクソだろうが! 自分のことを棚上げして好き勝手のたまうとはいい度胸してるじゃないか! そういう受け身で他人事な姿勢だから貴様らは1科にやられ放題なんだよ! このヘタレどもが!」

 あろうことか、太一を突き飛ばして演台前に立った沢口君は総会に参加している生徒たちに罵詈ばり雑言ぞうごんを吐きはじめた。これで完全に彼の負けが確定したな。俺の処遇に対する判定を下す生徒たちを敵に回してしまっては元も子もない。

 沢口君がこっちをナメ腐って前回の学科総会で判決を強行決定しなかったために矛盾点を散々突かれる形となった。球技大会の3組戦もそうだけど、最大の敵は相手よりも慢心する自身の心ってね。

「そうだ! お前ら全員立って沢口さんにこうべを垂れやがれっ!」

 高畑君がステージの下へと怒鳴り散らすも、命令に従う生徒は誰一人としていなかった。完全に白けムードだ。

「よし、そろそろ終幕へと向かおうか」

 沢口一派が2科生徒たちと舌戦ぜっせんを繰り広げてる横で太一が俺に耳打ちしてくる。

「了解」

 沢口君を演台前から押し退けた太一がマイクに向かって声を発した。

「みんな。確かに宏彰――いや、俺たちがやってることは賛否ある。絶対的な正義でも正解でもない。むしろ間違いの方が多いのかもしれない」

 生徒たちは無言で太一の言葉に耳を傾けてくれている。

「けど答えは誰にも分からない。分からないなりに動くしかないんだ。その先にあるのが成功か失敗か見届けるために」


『……確かに、話を聞いてる限り高坂君は真っ当な理由で辻堂たちと争ってるみたいだね』

『悪者扱いしちゃって申し訳なかったな』

『彼の活動を制限する理由はないのかもね……』

『飛び火するのは勘弁だけどな』


 場の空気が完全に変わった。

 相変わらず俺に不満を抱く層はいるけど、声を大にして主張する生徒はいない。いや、発言できる雰囲気じゃなくなったんだ。

「さてと――宏彰」

 太一は演台から退いて俺の方を向いた。

「俺たちの見せ場はここまでだ。最後は君が締めくくってくれ。君の嘘偽りのない――心からの言葉をみんなにぶつけてくれ」

「――だね。俺もそうしたいと思ってたところだよ」

 今回もみんなに救ってもらっちゃったな。本当にたくさんの人たちが力を貸してくれた。

 しかし助けられてばかりではいられない。

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