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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
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第10話 ③

「よぉ高坂ぁ。聞いたぜ。ザマァねぇなぁ」

 ……からの辻堂出現である。南条さんに癒してもらった俺の心は瞬時にすさんだよ。どうしてくれる。まったく、空気読んでくれよな。

 ジュースを買いに昇降口に着くなり、自販機で炭酸ジュースを買った辻堂と鉢合わせしてしまった。

 奴は俺の惨状を嗅ぎつけたようでニヤニヤしている。ご機嫌だな。

「……お前に構ってる場合じゃないんだよ」

「ジュース買いに昇降口まで来る余裕があるってのに?」

「………………」

「テメェ等よぉ――」

 お目当てのスポーツドリンクを買って、辻堂の脇を通り抜けたと同時に浴びせられた言葉で足を止める。

「2科同士で足の引っ張り合いたぁ、ずいぶんと低レベルで平和なこった。せいぜい底辺同士低みで潰し合っとけや」

「………………」

 未だ学科紛争の件を根に持ってるようで、これでもかと煽ってくる。

「そんなことじゃあテメェの悲願はいつまで経っても叶わねぇなぁ、ヒャハハ。俺等に突っかかる前に2科連中の妨害を受けてりゃ世話ねぇぜ」

 辻堂がプシュッと缶ジュースのプルトップを開ける音が響き、ゴクゴクと乱暴に炭酸を喉へと流す音が聞こえてくる。

 コイツの言うとおりではある。沢口君たちの妨害を受け、2科が空中分解した状態では対1科どころではない。

「ま、せいぜい収拾つけるこった」

 もちろんそうするさ。南条さんパワーを受け取った今の俺は簡単には折れないぞ。

「テメェ自身の学科の始末もできねぇで1科うんちゃらは片腹痛ぇからよ」

 分かってる、分かってるよ。お前に言われずとも。

「テメェがどうなんのか、楽しみにしてんぜ。あぁ気分いいわー」

 コイツ、なんだかんだ俺との勝負を楽しんでる節があるよね。

「一つ言い返しておくと、2科は底辺じゃない。勝手に決めつけるな」

 1科の方が上だと思ってられるのも今のうちだぞ――って、この表現なんか悪役じゃない? それもかませ犬キャラ。うげぇ……。

 ようやく俺が口を開くと、辻堂は満足げに口角を吊り上げた。

「ヒャハハ、せいぜい四苦八苦しやがれ」

 好き放題言い放った辻堂は下駄箱へと向かった。中庭にでも行くのだろう。

「やってやろうじゃないの。再び1科と戦う状態に戻してやる」

 決意を新たにした俺は自分の教室へと戻った。

 これ以上のエンカウントはなかった。ほっ。


    ☆


「遅かったね。また沢口か田中辺りにでも絡まれたかい?」

 自分の席に戻ると、後ろの席でラノベを読んでいた太一が声をかけてきた。

 誠司は自席で突っ伏して寝ており、豊原も自席でノートパソコンをいじっている。耳にはヘッドホンが装着されており、完全に自分の世界に入っていた。

「いや、ちょっと辻堂とね……」

 南条さんとの一件は気恥ずかしいので伏せておく。

「君は人気者だな」

「露骨な皮肉をどーも」

 太一節を聞いて安心感が湧いた。いかなる状況になってもコイツは変わらないでいてくれる。そこが太一のいいところの一つだ。

 辻堂との一件を話し終えると太一は薄く笑った。

「そっか。ははっ、燃えてくる展開じゃないか」

 この状況をも楽しむ前向きな姿勢は感心する。いや、ただ当事者じゃないからこその余裕ってだけなのかもしれないけど。

「一番下まで落ちてから再上昇する。スポ根漫画の王道だね」

「いや、これ現実なんですけど……」

 現実世界はフィクションのようにはいかないから世知辛いわけでして。混同されても、ねぇ。

 とはいえ、このまま沢口君に潰されるのもしゃくなのは間違いない。

「君なりの正義をみんなに証明してやればいいさ。君の行動原理に悪意はないでしょう? 胸を張りなよ」

 太一は俺の胸部きょうぶを軽くグーパンチした。

「それに――」

 と、ここで下げた声のトーンとともに表情も引き締まったものに変わった。

「この程度の逆境で潰れるようじゃ、君の野望は一生叶わないよ。断言しよう」

 誠司みたいなこと言ってくれるなぁ。厳しい言葉だけど正論だ。

「もちろん。這い上がって――いや。乗り越えてみせるさ」

 俺に対して良くない感情を抱く生徒は多いけど、そんな中でも南条さんや太一たちのように俺を鼓舞こぶし支えてくれる存在もいる。それだけでも救われるんだ。

 俺一人だったらとうに潰れていた。けど、こんな俺に温かい言葉をかけてくれる人たちがいる。寄り添い続けてくれる人たちがいる。その人たちの想いを無碍むげになんてできるものか。

 厚意に報いるためにも立ち止まってはいられない。やられっぱなしではいられない。

 俺の返事を聞いた太一は満足そうに頷いた。

「うん、それでこそ宏彰だ。じゃあみんなで放課後にでも沢口が提示してきた宏彰の罪状について一つずつ潰していこうか」

「あぁ、手伝ってくれ」

 放課後、いつもの四人で沢口君の主張に反論する方法を洗い出したのだった。

 各々(おのおの)予定がある中で感謝しかないよ、本当に。


    ★


「さて。高坂宏彰に致命傷を与えたところで次なるステップに移るとしよう」

「次なるステップ、ですか?」

「そうだ。俺は――星川に告白する!」

「おおっ! ついにその時が来ましたか!」

「学園で有名な生徒同士のカップルが誕生するのですね!」

「機は熟した。告れば間違いなくOKの返事が来る。むしろ遅すぎるとまで言われるだろうな」

「さすがは沢口さん! 一切喋ったこともなければ根拠もないのにOKが貰えると信じて疑わない過剰な自信、尊敬します!」

「ふっ。卑屈な男では女を引き寄せることなど到底叶わないんだよな」

「自信に満ち溢れる沢口さんは神々(こうごう)しいです……あぁ、僕は神と学園一のアイドルが交際をはじめる歴史的快挙の瞬間をの当たりにできるんですね……!」

「いやいや祐介よ。感極まってるところ悪いがさすがに告白現場までは来るなよ」

「す、すみません! つい前のめりになってしまいました!」

「せっかくだ。勇太郎、祐介。流れでお前たちも想い人に告白してみせよ。絶対に成功する」

「お、俺たちもですか!?」

「僕は沢口さんと違って自信がないですね……」

「安心しろ。俺とともにあるお前たちには俺と同等の成功率がある。大船に乗ったつもりでアクションを起こすといい」

「ほ、本当ですか!? 泥船じゃないですよね!? 信じちゃいますよ!?」

「あぁ、僕は沢口さんと巡り会えて本当に幸せな人生です……こんなに恵まれてていいのか逆に不安になります……!」

「おいおい、だから感極まるのは告白が終わってからにしようぜ」

「そ、そうですね!」

「じゃあ一丁決めてやろうぜ。それではまたあとで全員笑顔で会おう」

「「はいっ!」」


「えっと……沢口君、だっけ……?」

「俺のオーラが尋常ではないからといってそうおびえることはないぞ星川」

「あ、うん。それで、屋上まで連れてきてどうしたの?」

「うむ。放課後にすまんな」

「それは大丈夫だけど……」

「――単刀直入に言おうか。お前さ、そろそろ俺の女になろうか」

「………………へ?」

「そうだよな。突然すぎて唖然あぜんとなるよな。素っ頓狂とんきょうな声が出てしまうのも無理はない。俺はお前が好きなんだ」

「………………」

「長いこと待たせてしまって悪かったな。だがようやく俺はお前を彼女にする決心がついた。だから特別に俺の女にしてやる」

「………………」

「で、どうだ? 直感で答えてくれ」

「…………気持ちは受け取ったよ。ありがとう」

「……! では――」

「――けど、ごめんなさい」

「まあ当然だな。この俺と付き合える――――へっ? ごめん、なさい……?」

「私ね……高坂君のことが、気になってるの……」

「……は?」

「高坂君にはね、他の男の子にはない特別なものを感じるの。形が分からなくて曖昧な表現になっちゃうんだけど――魅力を感じるんだ」

「…………そう、か」

「そういうわけだから……ごめんなさい。――私、部活行くね」


「――高坂宏彰の話をする星川の顔はまさに恋する乙女だった……。だが俺の女にならないとは愚かな……まぁいいさ。どのみち星川と高坂宏彰がくっつくことは絶対にない」


「――というわけで遠藤さん! ぼ、僕とっ! お、お付き合いしてください……!」

「……ごめんなさい、富田さん」

「あ……」

「私――高坂さんが好きなんです」

「こ、高坂……さんが……」

「いつも私を助けてくれて、私の肩書きばかりでなくちゃんと内面も見てくれて……そんな高坂さんが、す……好き、なんです……」

「………………」

「ですので――富田さんのお気持ちは嬉しいのですけれど、応えられません。ごめんなさい」

「あ……あぁ……はぁ……」


「――悪いけど、俺はヒロにしか興味ないんだ。ごめんね」

「……松本、しゃん……」


「くそっ!! どいつもこいつも高坂宏彰高坂宏彰高坂宏彰ぃ……っ!!」

「結局誰一人として笑顔になれませんでしたね……はぁ……」

「そりゃそうだろ! 全員ものの見事にフラれたんだからよ! しかもよりにもよって仇敵きゅうてき高坂に負けたんだぞ! あんな人間のクズに! これ以上の屈辱があるかよ!」

「高坂宏彰は星川に好かれやがって……!」

「高坂は松本さんに好かれやがって……!」

「高坂さんは遠藤さんに好かれています……!」

「うむ、俺たちの共通の敵への認識は今もなお一致しているな」

「はい! やはり我らは一蓮托生いちれんたくしょう、一心同体です!」

「にっくき高坂宏彰を……!」

「必ずや……!」

「退学させてやりましょう……!」

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