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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
58/83

第8話 ②

「あと三つだな……」

 滞りなく橋を渡った小島にあるC、公園内にあるD地点のスタンプも押印できた。

「ここから一番近いのはE地点だけど……」

 それぞれの最短ルートを考慮するとE→F→Gの順番に回るところだけど、モノレールの待ち時間が十五分ほどもあるので先にF地点のスタンプを押した。

 そして今、モノレールの発車時刻ギリギリのタイミングで駅まで向かっている。

「辻堂は今頃何個スタンプを押したかな……」

 って、あかん。これじゃまるで俺が辻堂に思いをせる男みたいじゃないか。

 顔を左右に振って悪魔のような爬虫類のような奴の顔ごと雑念を脳内から消し去り、モノレールに間に合うことだけを考えて駆け足で移動する。

「よしっ、ギリギリ間に――」

「――合ったぜぇ!」

 俺の隣で同時に車内へと駆け込み乗車した男がいた――って、え?

「辻堂!?」

「高坂、テメェ……!」

 その男こそ、宿敵辻堂だった。

「テメェ、俺のストーカーか?」

「そんなわけないだろ。発車ギリギリの時間を計算して駆け込み乗車したまでだ」

 コイツのストーカーとか金を積まれたって冗談じゃない。悪趣味にも限度がある。

 ……自分で語っておいてアレだけど、俺のやったことって普通に迷惑行為だったわ。

「ケッ、考えることは一緒か」

 辻堂が眉根を寄せて舌を出した。お前と一緒は心外だけどまぁこの考えに至るよね。

「で、テメェのスタンプカードはどんな状況よ?」

 揺れる車内の中で、探りを入れるように問うてくる辻堂。

「ほら。五つまで押した。残り二つだ」

 特に守秘する内容でもないので素直にスタンプカードを提示すると、

「――なっ、この俺より一つ多いだとぉ……!?」

 俺の状況を知って余裕を失った辻堂は狼狽ろうばいした表情で自身のスタンプカードを見せてきた。

 やはり最初のスタートダッシュで体力を浪費して、中盤から移動速度が落ちたみたいだ。

「テンメェ、佐藤等の力は使ってねぇだろうな?」

 疑心全開のまなざしを向けられる。はなはだ心外だ。

「当然。同じスタンプカードで七つ押せないと意味ないし。一人で動いてる」

 最短ルートのナビをお願いする手とかもあるけど結局歩くのは俺自身の足なんだ。小賢しい手段を用いてもしょうがない。

「そっちこそ、隠し玉なんて用意してないだろうな?」

 基本的に単純だけど要所要所で汚い辻堂こそ疑わしいんだよ。

「ハッ、バカ言え。こちとら学科紛争のせいで浮いてて仲間なんざいねぇっての」

「そ、そうか……」

 悲しい現状を偉そうに語らないでくれないかな。敵ながら俺まで悲しい気持ちになってくる。

「おい、なんだその面は」

「別に……」

 顔に出てしまったらしい。不快そうな表情で睨まれた。


『まもなくお台場中央駅、お台場中央駅でございます。お出口は――』


 辻堂と状況確認をしているうちに降車駅が近づいてきた。

 モノレールで移動といってもたった一つ隣の駅なのだ。移動時間は数分で終わる。

「まぁ結局最後に笑うのは俺だからよ。今から敗戦時のシミュレーションでもしとけや。クソ2科に負けるなんざありえねぇ」

「それはこっちの台詞だよ」

 お互い挑発し合っているうちに、


『お台場中央、お台場中央――』


 モノレールが駅に到着した。

 よしっ、スタートダッシュで――

「テメェはまだまだモノレールの長旅でも楽しんでろやバーカ! ヒャハハ!」

「なっ、おい――っ!?」

 扉が開いた瞬間、降車しようとした俺の身体を辻堂が思いっきり押してきた。そのせいでバランスを崩した俺は車内で転倒し、痛みですぐには動けなかった。

 他の乗客たちが何事かといぶかしげに見つめてくる。


『扉が閉まります、ご注意ください。扉が――』


「ヒャハハ、あばよヘボ2科野郎!」

 ゲスな笑みを浮かべた辻堂は俺に敬礼して早足で改札に続く階段へと向かった。どこまでも人をおちょくってくるよな。

 くそ、卑怯者め――!

「くっ……!」

 ひざが痛い。痛いけど怪我したわけじゃない。耐えてホームに出るんだ! そうすればまだまだ勝負は分からない――!

 逆にここで降りられなければ大幅なタイムロスで俺の敗北は濃厚となってしまう。

「やっ――!」

 かろうじて扉が閉まる寸前でモノレールから出ることに成功。でも乱暴に飛び出したせいでホームの地面に転がる形となってしまった。

 すると扉が再び開かれ、閉じることはなかった。

「――君っ! 大丈夫かい!? 怪我は!?」

 すぐさま駅員がすっ飛んできて、俺の身を心配してくれた。

「あ、はい、大丈夫です、すいませんでした」

「そうか。よかった」

 その後駅員によるホームとモノレールの軽い安全確認が行われ、モノレールは発車した。

 のだけれど――


『お台場中央駅および車内安全確認による影響により、電車に一分程度の遅れが発生しております――』


 うっわぁ。やってしまった。

 元凶こそ辻堂だけど、俺がモノレールを遅延させる直接の原因を作り出してしまった。

「沢口君が知ったらご立腹になる案件だな……」

 そう考えると一気に気が重くなる。

 しかし今は彼のことは頭の隅に置いておこう。まずは残る二つのスタンプを押して辻堂よりも早くスタンプカードを完成させるんだ!

「やってやろうじゃないか……!」


    ☆


 ひと悶着もんちゃくあったけどなんとかE地点のスタンプを押せたので、あと一つでスタンプカードが完成となる。

「体力もまだ残ってるし、駆け足で移動しよう」

 G地点まではそこまで距離はない。ゴールまであと少しだ。歩き続けて多少は疲労がたまってきたけどまだ辛いってほどではない。

 辻堂の状況が一切分からないのが変な焦燥感しょうそうかんを生み出してくるけどぐっとこらえる。

「――あれっ?」

 道端に何かが落ちていることに気づいたので近づいてみると――

「財布じゃないか……」

 二つ折りの財布が落ちていた。

 普段の俺なら警察に届けるところだけど……。

「交番を探してる時間が惜しい……」

 今は僅かな寄り道に費やす時間すらもったいない。財布を落とした人が悪いと自分に言い聞かせて歩を進めるけれど、すぐに足が止まる。

 ――本当にそれでいいのか、高坂宏彰?

 お前は確かに勝利を求めている。

 けれど人として最低限の部分までないがしろにしてまで掴み取りたい代物か?

 脳内で天秤にかけてみるも、見事に均等のバランスを保った。

「……ああもう!」

 きびすを返して財布を拾い上げる。

 均等なら財布を届けたっていいじゃないか。

 現状ではまだ俺のリードでかつ辻堂は体力が落ちているのでまだ大丈夫だろう。

 近場の交番目指してダッシュした。


「よろしくお願いします」

 交番を出た俺は改めてG地点へと歩きはじめる。近くに交番があってよかったよ。

 チャットを確認したところ辻堂からの連絡はなかった。奴もまだコンプリートしていないということだ。

「ペースを上げよう」

 これ以上悠長に回り道してる余裕はなくなった。緊張感をもって臨まなくては。

 ……しかし、俺の決意を揺るがす光景が視界に映り込んだ。

 お年を召したおじいさんが歩道橋を上るのに悪戦苦闘していた。足が悪いのか、杖を駆使しながらゆっくりと上ろうとしてるけど、このままでは膨大な時間がかかってしまう。

 ここまでおじいさんを苦しめている要因は階段の段差の高さにあった。ニ十センチはあるであろう高低差は高齢者の足に大きな負荷を与えるのは間違いなかった。

「運動がてら自力で頑張ってもらうしか……」

 けれどおじいさんが気になってその場を離れることができない。

 ちらっとおじいさんに目を向けると、プルプルと足を動かして危なっかしい挙動をしている。

 ……やっぱり放ってはおけないよな!

「エレベーターもない歩道橋なんて!」

 あんな段差が高い歩道橋こそバリアフリーを重視するべきでは!?

 つい口からぼやきが零れてしまいつつもおじいさんのもとへと向かった。まったくもう、次から次へとさぁ。

「あの、すみません」

「ん? なんだい?」

 横から声をかけられたおじいさんは若干戸惑いの色を映した表情で顔を向けてきた。

「階段上るの辛そうに見えたので僕がおんぶしますよ」

「いいっていいって。こんな老いぼれ放っておきなさい」

 おじいさんは申し訳なさそうに遠慮するけど、だからってはい分かりましたと納得したフリして突き放すなんてできないよ。

「借りれる力は借りましょう。ね?」

 俺はおじいさんの両肩に優しく手を置いた。

「悪いね……それじゃあ甘えちゃおうかな」

 俺はおじいさんをおんぶして歩道橋を上り下りする。

 おじいさんの身体は想像以上に軽く、華奢きゃしゃだった。この身体でこの歩道橋は苦行だよ。

「ありがとうなぁ」

「いえいえ、お役に立ててなによりです」

 おじいさんが何度もペコペコと頭を下げてお礼の言葉を口にするので、俺の方が委縮してしまった。

「物腰の柔らかいおじいさんだったなぁ……」

 いいことをして気分が良いけどここからまた気を引き締めなければ。

 またも寄り道を選んだけどまだセーフだ。辻堂からチャットは来ていない。

「今こそ温存していた体力を全開させる時だな……!」

 G地点到着と同時に力尽きる勢いで、全速力でお台場の街並みを駆け抜ける。

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