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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
57/83

第8話 ①

    ☆


 沢口君たちの魔の手から逃れることに成功した俺は合流した太一たちと行動をともにしていた。

「へぇ、スタンプラリーか」

 とある娯楽施設の入り口でスタンプラリーのカードとスタンプが置かれている台座を発見した俺たちは近くまで寄ってみた。

「なになに……『お台場を散策しながら七つのスタンプを集めよう。全て集め終わった方にはささやかな景品を用意しているぞ!』――ほほう」

 太一がカード裏面の説明文を読み上げた。

 スタンプラリーはお台場近辺のエリアを舞台としていた。

「面白そうだな!」

「コ、コンプリート目指して、あ、歩いてもいいかも、し、しれないね」

 みんな乗り気だ。身体を動かすのが好きではない豊原も賛同した。自由行動の内容はスタンプラリーで決まったな。

「そうだね。さっそく――」


「ヒャッハハッハァーッ! 高坂ぁ! こんな日に会うたぁなぁ!」


 スタンプラリーにワクワク感をつのらせていると、ろくでもない輩とエンカウントしてしまった。

「うげ、辻堂……」

 今日の遠足どうなってるのよ。社会見学中が一番平穏だったよ。これなら午後も社会見学がよかったわ。

 お台場の開放的な雰囲気ぶち壊し。お前の下劣な高笑いで近場にいた鳥たちが驚いて逃げてしまったじゃないか。

「おう晴生!」

「うーす谷田」

 運動部同士が挨拶を交わした。この二人の仲に関しては普通なんだな。

 あとコイツ一人なのね。学科紛争で徒党を組んでた仲間とも空中分解したっぽいし、クラスでも浮いてるのかな?

「ほう。スタンプラリーか」

 辻堂は俺の手にあるスタンプカードを覗き見て不敵な笑みを浮かべた。まるで肉食獣だ。

「――ひらめいたぜ。高坂ぁ、俺とスタンプラリーで勝負しろ」

「は? スタンプラリーで?」

 藪から棒になんだよ。

「そうよ。先に全部のスタンプを押してスタンプカードを完成させた方の勝ちで、な」

 スタンプラリー早抜け的なルールだな。

 沢口君たちだけでも手を焼いてる状況なのに、ここでコイツと絡んでいてはトラブル一直線なのではないか?

「どうやって先にスタンプカードを完成させたと証明するんだ?」

 申告制ならいたる部分に穴がある。いくらでもでっちあげられてしまうんじゃないのか。

 俺の懸念を聞いた辻堂は分かりやすく嘆息たんそくしてみせた。

「ガリ勉2科ならちったぁ頭使えや。チャットで写メ撮って送りゃあ証跡しょうせきになんだろうが」

 確かに写メをチャットで送れば送信日時も記録されるので証明としてはうってつけだけれど――

「まさかお前と連絡先を交換しろと? 冗談でしょ?」

 なにが悲しくて宿敵とチャットを交換しないといけないのさ。

「別に勝負が済んだらブロックなり削除なりすりゃあいいだろ」

 呆れたように細い眉をひそめる辻堂。

 証跡しょうせきを残すためなら敵対する俺とも連絡先の交換をいとわないとは結構ドライな奴だな。

 ここで辻堂は太一たちを一瞥いちべつしてから再び俺に睨みを利かせてきた。

「はじめに断っとくが、この勝負は一対一のタイマンだ。佐藤等の手助けは禁止な」

「サシの勝負か」

 まぁ一対四というのもリンチっぽくて気が進まないからそれでいいけど。それに複数人でスタンプを手分けして集めるにしても同じカードでコンプリートしないといけないので大して旨味はない。

「当然勝利の報酬はあるんだろ?」

 トラブルを招く危険性もあるけどそれでも辻堂との話し合いを切り上げない理由はここにあった。勝った際のご褒美。ある程度のリターンがあるのならばリスクを背負う覚悟で臨むのもアリだと考えている。

「当ったり前だろぉ? でねぇと張り合いねぇだろうが」

 辻堂は待ってましたとばかりに意気揚々と俺の質問に答える。

「俺が勝ったらテメェは俺に屈したと2科の連中に報告しろ。そして二度と俺等1科に歯向かうんじゃねぇ」

 辻堂が勝った時のペナルティは俺が2科の面々に敗北宣言をすること。事実上俺の1科への挑戦に終止符が打たれることになる。

「俺が勝ったら?」

「そうだな……テメェの要求を一つだけ受け入れてやるよ」

 自分の条件がそこそこの内容だからか、辻堂は抽象的で自由度が高い対価を提示してきた。

 当然、俺の要求なんて決まっている。

「――その勝負、乗った」

 大きなトラブルを起こさず、かつ勝てれば辻堂には二度と2科に因縁がつけられないようにできる。低俗な嫌がらせも封印してもらう。

 その事実が噂となって広まれば1科全体への牽制けんせいになるし、2科差別の抑止にも繋がる。このチャンスを掴み取る絶好の機会をみすみす逃す手はない。

「ヒャハハ、そうでねぇとなぁ! シラけずに済むぜぇ!」

 辻堂は満足げに吠えると獰猛どうもうな表情を作り、

「じゃ、さっそく今からゲームスタートだ!」

 一方的にゲーム開始の合図を告げて俺たちを横切って走り出した。

「本当に一人で平気かい?」

 太一が念を押してきた。純粋に俺を心配してくれているのが分かる。

「俺たちがしれっと宏彰を支援しても辻堂は気づかないし、疑ってきても証拠がない。本気で勝ちに行くなら手助けはするよ。勝って辻堂に要求を突きつけたいんでしょう?」

 そうだ。辻堂が2科に干渉できなくなれば多少なりとも1科生徒たちの目の色は変わると踏んでいる。この勝負、是が非でも勝ちたい!

 ……だけれども。

「――ありがと、太一。でも今回は俺一人で頑張るよ」

 先の学科紛争もそうだったけど、俺は太一たちみんなからおんぶにだっこされてばかりいる。下剋上の野望を果たすためには、俺一人でも連中に立ち向かえないと説得力もなければ求心力も影響力も生まれない。

「君がやる気だからもうなにも言わないけど無理はしないようにね」

「宏彰の底力、晴生に見せてやれ!」

「が、頑張れ、よ! お、応援、し、してる」

「ありがとう、みんな」

 みんなを代表して必ず勝利を持ち帰るよ。笑顔で今日の遠足を締めくくろう。


 かくして、俺と辻堂のガチンコスタンプラリーゲームが開幕したのだった。


 スタンプは全部で七箇所。当然押す場所は全て異なる。

 勝負を分けるポイントは二つ。移動時間、それと効率。

 当然スタンプ早集めの勝負なのでいかにして早く各スタンプを押していくか、スタンプ場所までの移動がキーとなる。

 そしてこれらに繋がるのが効率。無駄な移動や道に迷うなどのタイムロスはできる限り避けたい。

「要注意スポットはここか……」

 スタンプカードに印刷されたとある箇所を見つめる。

 ここは距離的にモノレールで移動しないとかなり厳しい。しかし発車待ち時間を消費してしまうとその分辻堂におくれを取る懸念がある。事前に時刻表を調べておいて最小限の待ち時間にしたいところ。

 効率的に探したい。複数のスポット間で行ったり来たりを繰り返せば繰り返すほど時間のロスは大きくなってしまう。

 楕円だえん形を描くルートで各スタンプスポットを目指すとするかな。

 既に押したスタンプがある地点をAとし、残りのスタンプがある地点をB~Hとしよう。ちなみに先ほどの要注意スポットはE地点だ。

「じゃあさっそく早歩きで出発だ」

 俺は競歩さながらの足取りでB地点まで向かうのだった。


    ☆


「よしっ、二つ目のスタンプゲット、と」

 トラブルもなくB地点に辿り着き、スタンプを押した。滑り出しは順調だな。

「――ん?」

 スマホのバイブレーションでズボンのポケットが揺れた。

「誰から……って辻堂?」

 スマホのディスプレイを確認すると、さきほど連絡先を交換したばかりの相手からチャット通知が届いていた。


『早くも三つ目のスタンプを押したぜ! テメェも早く俺に追いついてこいや!』


 ……ただの煽りトークだった。俺が引き離されてること前提の文面なのが腹立たしいけど今のところ事実なので返信する気も起きない。

 しかしやることがとことん小さい輩だな――じゃなくて。

「もう三つ目……?」

 さすがに早くないか? なにか裏が――しかし1科でも浮いた存在の今、辻堂に徒党を組んでいる仲間がいるとは考えにくい。

「全力疾走でスタンプをかき集めてるのか……?」

 球技大会の時もそうだったけど勝負の時はスタミナを生かした直球勝負が多いな。冷酷かつ狡猾こうかつな面もあるけど根本は脳筋スタイルのようだ。

「そうだとすれば、時間経過とともに奴のペースは落ちてくるはず」

 スタートダッシュこそ快調だけど徐々に失速してゆくことだろう。奴も現役サッカー部のレギュラー格なだけあってスタミナはあるけど決して無尽蔵むじんぞうではない。てか球技大会での出来事からいい加減にペース配分を覚えたらどうなんだろうか?

 奴がどんなルートで回ってるかは知らないけど、もし非効率な移動をしていたら俺にも希望はある。さすがの奴でもあまりにも無駄な行為はしないと思ってるけど。

「こっちも負けちゃいられないよな」

 辻堂にそのつもりはなかったのだろうけど、奴からの煽りチャットを見て俄然がぜんやる気がみなぎってきた。

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