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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
56/83

第7話 ②

「あの、お二人はお付き合いされてるんですか……?」

 遠藤さんまで俺と田中さんの仲に懐疑かいぎの目を向けてくる。いやいやマジで待ってくれ。完全に俺と田中さんが付き合ってるムーブが出来上がってますやん。

「付き合ってないよ」

 俺が毅然きぜんとした態度で即座に否定すると、

「はっ、ははっ!? あちきとの日々は火遊びだったの!?」

「いつ遊んだんでしょうねぇ……」

 田中さんは目をひん剝いて驚愕の感情を前面に出してきた。寝耳に水なのはこっちだよ。一切記憶にございませんが。

「『今は』、まだ付き合ってないんだよね!? そうだよねダーリン!?」

「あ、うん、そうだね……」

 まぁ、未来には無限の可能性が秘められているからね。そうなる可能性もゼロではない……と思う。多分。もしかすれば。

「どっこいショットガン!」

 冗談か本気か分からないやりとりがひと段落すると、田中さんは俺の正面に大きな腰を下ろした。

「絵梨奈はもうご飯食べ終わったの?」

「なーに言ってるさね。これから食すのよ」

 しかし田中さんは手ぶらだ。食物の類はおろか、飲料すら持っていない。

「あちきがこれから食べるのは――ダーリンに決まってるジャンジャン☆」

「え? なんすかその料理名??」

 ダーリンなる食べ物があるのか? 初耳だぞ。

「とぼけちゃうダーリンもシャイかわゆす~☆ アッシがいただくのは、ア・ナ・タ・デ・ス」

「ほ、ほほぉ……」

 田中ワールドまだ終わっちゃいなかったーっ!!

「――っと、しまった! 今日はまだ鍛錬してなかったわ! 砂浜で全力ランニングじゃい!」

 座ったばかりだというのに、田中さんは乱暴な動作で立ち上がると全力疾走で走り出した。せわしないなぁ。

 遠足の日でも鍛錬を怠らないストイックさは素直に尊敬するというかなんというか。

 こうして嵐のように現れた田中さんは嵐のように去っていったのだった。

 田中さんの功績は遠藤さんたちのあーんをなあなあにしてくれたことだ。その点については感謝しかない。少しもったいない気もしてしまうけど……。

 気を取り直して三人でとりとめのない雑談を交えながら和やかな昼食をとっていると――


「あーっ! 宏彰!」


 景観にそぐわない下品な大声が辺り一面にとどろく。次々と賑やかしが現れるものだね。

「うわ、誠司」

 聞き慣れた声の主は振り向かずとも分かった。誠司だ。

「人の顔見て『うわ』っておま。いくら俺が非イケメンだとしてもだな、さすがに失礼じゃないか?」

「ごめんごめん」

 ずかずか歩きながらこちらに近づいてきた誠司を少々怯えた面持ちで見つめる二人の美少女。

「おほん。これはこれは星川に遠藤。ごきげんよう」

 誠司が満面スマイル高校球児Verで二人に挨拶すると、

「あ、はい。こんにちはー」

「こんにちは。あなた、元気だね」

 二人は感嘆かんたんしてるような困惑してるような微妙なまなざしを誠司に向けている。

 なにがごきげんようだよ。普段そんな上品な挨拶絶対にしないじゃないか。「うーす」「ちーす」じゃないか。

「あっ、もうお昼休憩が終わっちゃう。自分のクラスのところに戻らないと」

「私もですー。それではみなさん、また今度です」

 スマホのディスプレイを見た星川さんの言葉を皮切りに、二人ともその場から立ち上がった。

「な、な、な、な、な……」

 あらら。せっかく誠司が二人にお近づきになれる好機こうきだったのに時間は残酷だ。

 誠司は背を向けて駆け足で去ってゆく二人に手を振っている。その表情はうつろだ。

「……なんでいっつもこうなんだ!! 恋愛の神様よ! あなたはどんだけ俺が嫌いなんですか!?」

 感情を取り戻すと晴れ渡る青空に向かって叫びはじめた。神様のせいにしてる時点で誠司の春は遠そうだ。今の季節は春だけど。

「せっかくはじめて二人に話しかけれたっていうのにーーっ!!」

 泣き叫ぶ誠司を無視して俺も6組の生徒が集まっているスペースまで戻ったのだった。


    ☆


「緊張もしたけど華やかだったなぁ……」

 二人の美少女に囲まれての昼のひと時だった。

 実は今が俺の人生で一番のモテ期なんじゃないか? と甘い考えが脳裏に浮かんでくる。

「――これはこれは。A級犯罪者、高坂宏彰」

 自由行動の時間となり、太一たちと決めておいた待ち合わせ場所に向かう途中。

「……沢口君」

 沢口一派と遭遇して一気にテンションが下がった。最近やたらエンカウント率高くない?

「なんだその反応は? まるで俺たちに出会ったのが不運だとでも言いたげだなぁ!」

 まぁ、そうですけども?

「ふん! 未来の死刑囚のお前が堂々と遠足に来るとはおめでたいな! 面の厚さだけは褒めてやるよ! それでもお前はクズカス人間だがな!!」

「お褒めに預かり光栄でございます……」

 A級犯罪者から死刑囚への昇格速度が半端ないな。

 高畑君の当たりがいっそう強いけど――そうだ。高畑君は歩夢のことが好きなんだよな。さっきのアレで彼に余計なヘイトを与えてしまった。

「……なんだ? その視線ムカつくなぁ!」

「ご、ごめん」

 おっと、思いっきり顔に出てしまっていたか。

「今日はどの面下げて来たのかお聞きしても?」

 今度は腕を組んでふんぞり返った富田君が丁寧口調で言いつつも高圧的にいてきた。

「学園行事だし、嘘()いて欠席するのも、ねぇ?」

「ねぇ? じゃねーだろ! 貴様が欠席しなかったせいで貴様がトラブルを引き起こすリスクが消えてないだろうが!」

 高畑君は地団駄を踏んで俺に食ってかかる。え~。正論でしょ、俺の意見。

「来てしまったものはもう天災と諦める他ない。だが――」

 沢口君は目を細めて俺を見つめる。俺が遠足に参加しただけで天災扱いかい。

「くれぐれも、騒動を起こすなよ。今は自由行動だから特に注意しろ」

「分かってるよ」

 頭をかきながら返答する俺の態度に満足できなかった沢口君は、

「ふむ、信用ならんな」

 首を振って俺の返事を切り捨てた。

「どうしましょう? 監視の意味を込めてコイツと行動をともにしますか?」

 ちょっと高畑君? 余計な提案は自重していただけませんかね!?

「俺としては気が進まないが……背に腹は代えられないか」

 沢口君は顎に手を添えて苦渋くじゅうの決断をした表情を作った。

 マジでやめてください。後生ごしょうですから。俺だって嫌だし背に腹代えられるでしょ。

「それだと沢口君たちも自由行動楽しめないでしょ。やめておこうよ、ね?」

「……うーむ、そうだな」

 沢口君はまぶたに力を込めて唸っている。

「――決めた。自由行動ではお前を監視する。一秒たりとも無用な揉め事は起こさせない」

「なーんーでー!?」

 どうしてそうなる!? せっかくの遠足なんだから今日しかできない経験をしようよ。自由行動なのに俺も沢口君たちも一切自由なくない!?

「いやいや、そこまでしなくても……」

 俺は愛想笑いを浮かべつつも沢口君たちから距離を取る。

「………………」

 すると、俺が離れた分だけ彼らは距離を詰めてきた。本気で付きまとう気なの!?

「監視程度で済ませてやってるんだ。感謝してほしいものだな」

「沢口さんの言う通りだぞ! 本来であればお前は豚箱行きのところを、懐の深い沢口さんのご恩赦おんしゃがあってシャバで暮らせるんだぞ! 少しは沢口さんに感謝の気持ちを持ったらどうなんだ!?」

「あ、そりゃどうも」

 果たして沢口君にどれだけの権力があるのだろうか。

 それはともかく、かくなる上は……。

「あーっ! あそこに超絶美人の水着ギャルが!」

 俺は沢口君の背後を指差して叫んだ。

「なにっ!? 見目麗しい美女だと!? どこだ!? お前たちも探せ!」

「はい沢口さん!」

「必ずや見つけ出してみせます!」

 すると三人は俺の存在を忘れたかのように周囲をキョロキョロしはじめた。

 ついでに俺の叫びを聞いた他の人々も周辺を見回していた。みんな美男美女が好きなんだね。かくいう俺もだけど。

「この俺を求めてる水着美女はどこだ!?」

「沢口さんはここにいるぞー! 出てこーい!」

「沢口さんの肉体に抱かれたい女性、この指とーまれ!」

 沢口一派はせわしなく周囲を詮索せんさくしながら声を張り上げ続けている。

 ……あの人たちと同じ学園なのが恥ずかしくなってきた。

 五月中旬という時期に加えてここは海水浴スポットではないので水着ギャルなどいるはずもないんだけど、彼らは気持ちいいくらいがっつり食いついてくれた。

 この隙に逃げるぞっ! 監視されたままの自由行動なんてまっぴらゴメンだ!


「水着ギャルなんていないじゃないか――ああっ! 高坂宏彰はどこへ消えた!?」

「高坂め! パチこいて逃亡を図りやがったな! どこまでも卑劣な野郎だ!」

「卑怯な手段を考えつく時だけは頭が回るようですね、高坂さんは」


 離れてもあの場に留まる彼らの大声が聞こえてくる。俺の名前をフルに出してネガキャンされるのも大概だけどあのまま絡まれ続けるよりかは幾分いくぶんマシだ。

 こうして地獄から命からがらの脱出に成功したのだった。

 ……はぁ、疲れたぁ。

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