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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
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第4話 ②

 ってか部活動の選択は本人の自由でしょう!? あたかも俺が南条さんストーリーのラスボスみたいに話さないでほしいのですが。なぜもなにも、あんなオリエンテーションを見せられた日にゃ、ねぇ?

「更に先々週の2年学科紛争を引き起こした張本人で、学園の平和をおびやかす悪代官みたいな一番見習っちゃいけない先輩と思いたくないけど一応先輩なのがこの人よ。最要注意人物ね」

「蓮見さん!? その説明は半分合ってるけど半分間違ってるよ!?」

 いや、半分どころか八割は間違えてる気がしてきたぞ。

 確かに1科生徒からすれば俺は悪党だ。

 けど先々週のあれを引き起こしたのは俺の幼馴染のハイスペックイケメン松本まつもと歩夢あゆむだし、俺以上に見習っちゃいけない先輩はいると思うんだ。辻堂とか晴生とか辻堂晴生とか。

 ってか、この前の一件は『2年学科紛争』などと大それた名称で呼ばれてるの? ネットの百科事典にページができそうな名称だ。

「雫ちゃん。先輩にそんなこと言ったらダメでしょう~? 高坂先輩は仲間想いの素敵な人なんだよ? 学科対決だって同じ2科の人たちのことを思っての行動なんだからね?」

「………………!」

 俺は今、猛烈に感動している。ほとんど面識がないにも関わらず、俺や2科に慈愛の気持ちたっぷりで寄り添ってくれるこの子はまさに女神が擬人化した存在に違いない――って、富田君と同じこと言ってないか? いかんいかん。

「もう、しおりんは誰に対しても優しすぎるんだから! 優しいのは良いことだけど、優しくする必要がない人だっているんだからね! そこらへん見極めないと!」

 ぶんぶんと手を動かして俺の全身を指差す蓮見さん。君はもう少し優しくしてくれてもいいんだよ?

 同じ後輩でもここまで俺に対する態度が違うとは、いやはや。

 それにしてもしおりん、か。二人は仲がいいようで。

「ううん、先輩はまっすぐでとても良い人。私は知ってるんだから」

「ありがとう、南条さん」

 俺を全面的に肯定してくれる南条さんの言葉はとてもとても嬉しい。

 ――けれど、その言葉に説得力は感じられない。

 ――私は知ってるんだから。

 今まで面識すらなかったのにどうしてそこまで言い切ることができるのか。捻くれた俺にはただの社交辞令としか受け取れなかった。

「ういうい、異文化交流はその辺にしておいて、そろそろ試合をはじめるぞー。二人ともコートに入ってくれー」

 柴山先生の一言により俺たちの会話は終わった。異文化交流って。まぁそうなんだけどさ。

「高坂、相手が女子だからって手加減するんじゃないぞ」

「いいんですか?」

「あぁ。じゃないとお前を呼び出した意味がないからな」

「分っかりました」

 ブランクがあるとはいえ、俺も一応は中学時代にバドミントンをやっていたんだ。

 いくら南条さんが現役のバドミントン選手だとしても俺にだって男としての最低限のプライドはある。女子相手に簡単に負けるわけにはいかない。接戦には持ち込みたい!

「では高坂せんぱーいっ、行きますねっ」

 南条さんが控えめな合図とともにサーブを打ち放った。

「――っとと」

 難なくレシーブ……できたけど、想定よりも羽が全然重かった。決して高速なサーブではなかったのに。

 当然ながら羽自体が重いわけではない。彼女から放たれる一撃が羽に重さを与えているんだ。

(これは……俺も本気の本気で行かないとだな)

 柴山先生の言う通りだった。女子だから手加減するのは失礼な実力を南条さんは持っている。ならば相手にとって不足なし!

 体育館内にいる他の女子はみんな無言で俺たちのラリーを見守っている。そのため俺と南条さんがコートを駆ける音とラケットにボールを当てる音、ボールが地面を叩く音だけが響く。

 しばしラリーは続く。

 俺なりにレシーブしづらいと思われるところに返してるんだけど、南条さんはなんてことなさそうにラケットでボールを返してくる。しかも俺が返しにくい場所へと。

 先ほど会話していた時のほわほわしていた子とは思えぬしなやかな動き。

 女子としては長身にも関わらず軽い身のこなし。前後もそうだけど、特に左右の動作が素早く、軽やかだ。腕や脚のコントロールも完璧ときた。

 敏捷びんしょうさだけではない。サーブやスマッシュ、レシーブの威力も強く、ブランクつきとはいえ、経験者の俺をも手こずらせる腕前だ。

 これは――

「ありがとうございましたー!」

 ゲームが終わり、南条さんと握手を交わした。

 結果はかろうじて俺の勝利。

 けど南条さんにはとんでもないポテンシャルを秘めていることが分かった。

 お互いに良い汗かいたな。

「ありがとうございましたー。さすが高坂先輩、経験者だけあってとてもお上手でした」

 君の社交辞令もお上手だよ。

「南条さんこそ1年生にしてこの実力。先が楽しみだよ」

 俺の方はお世辞ではなく真面目に南条さんは将来有望だと考えている。柴山先生が目をかけるのも頷ける。貴重な人材、手塩にかけて育てたい意思は伝わってくる……特定の生徒を優遇する行為の是非はともかく。

「ありがとうございます~! 高坂先輩にそう言っていただけると力になります!」

 彼女が礼儀正しくお辞儀すると、ほのかに石鹸と汗が混じった香りが俺の嗅覚を刺激してきた。こ、これはなんかエロいぞ……。

「こ、これからも頑張ってね」

「はいっ」

 俺の心の内などつゆ知らず快活な返事。外見とは裏腹に本当に純朴な子だ。

 俺と南条さんのやりとりを他の女子の面々が不思議そうに眺めている。

「………………」

 ただ一つだけ敵意のこもった視線が――見なくても分かる。蓮見さんだ。

「高坂、よくやったぞ。南条にいい経験を積ませられた」

「それはなによりです」

 柴山先生も満足げに笑っている。これで少しは俺のこと見直してくれたでしょ?

「お前の今学期の関心意欲態度を1点プラスしてやる」

「1点だけですか!?」

 まさかの1点だけかーい。全く持って恩恵享受(きょうじゅ)できてないし。関心意欲態度は30点満点なんですけど。先生はニカッと笑って述べたけど内容はさっぱり見合ってないよね。

「なんだ、不満か? 細かいことにうるさいみみっちい奴は器が小さい」

「みみっちいのはどっちなんですかね!?」

 おっと、心の中でツッコむ予定が口から漏れてしまった。これはいかんね。

「高坂先輩」

 柴山先生の暴君っぷりに辟易へきえきしていると、再度南条さんが優しい声音こわねで俺を呼んだ。

「またお会いしたら、色々お話ししてくださいね」

「こ、こちらこそ」

「今体育の授業中なのが残念です……スマホが使えませんから、連絡先が交換できません」

「そ、そうだね……」

 南条さんはしょんぼりとうつむいたものの、

「私はもっと高坂さんと仲良くなりたいので」

 すぐさまニッコリと微笑んで自分の持ち場へと戻っていった。

「南条さん、か……良い子だなぁ」

 こんなに優しい女の子ははじめてかもしれない。星川さんや遠藤さん、豊原先輩も優しいけど、南条さんは――慈愛じあいに満ち満ちている。そんな印象。蓮見さん? はて。

 少なくとも女子から嫌われていない。それだけでも2科在籍の俺の心は温かくなり、同時にほのかに幸せな気分になれた。

「高坂先輩ー? 用が済んだならさっさと出てってくれませんかぁ~。邪魔なんですけどぉ?」

「あっ、うん……」

 ……蓮見さんからの嫌味がたっぷり乗せられた冷淡な言葉を浴びせられるまでは。


    ★


「なぜ高坂宏彰が1年の女子集団に交じってるんだ?」

「アイツは星川や遠藤じゃ飽き足らず、とことん女のケツを追いかける輩だな」

「女性であれば誰でも構わない、ということでしょう。やれやれ、風紀を著しく乱す行為です。はなはだ問題ですね。彼に規律という概念はないのでしょうか。猿でももう少し見境ありますよ」

「だがこれもいい光景ではないか。当然活用する」

「了解です! 沢口さんのためならばありとあらゆるサポートをいたしますよ!」

「ふははは、いいぞ! ――それにしても高坂宏彰のくせに羨ましい展開だよな」

「それが沢口さんの本音――ゴホン、まったくです! 俺も混ざりたいですよ!」

「まぁ仕方ない。本来ならあの場にいたのは俺のはずだったが、消去法でやむなく高坂宏彰に白羽の矢が立ったのだろう」

「でしょうね。沢口さんの代理としては役不足ですがしょうがありません。人材難の昨今には嘆きの感情しか沸いてきません」

「おい祐介! 役不足ってそういう意味だったか? あと白羽の矢の使い方も……」

「さぁ。多分合ってるんじゃないですかね」

「勇太郎、祐介。この際役不足や白羽の矢の定義など些細な問題だ。それよりも、だ。この俺がこの場に来た以上、代理の高坂宏彰には退場してもらって、俺が女子に囲まれるのが本来求められる展開だ」

「その通りです沢口さん! 沢口ハーレムが形成されればこの学園の華もより華美かびとなります!」

「そうだろうそうだろう。そうと決まれば突撃をば――」


「おいお前ら。授業はどうした?」


「やべっ、体育の野金のがね先生だ!」

「何がやばいんだ、高畑?」

「いえっ! な、なななんでもありません!」

「挙動不審で余計怪しいんだよ。授業サボって女子のストーカーか? 低俗なことしてんな」

「ち、違いますよっ!」

「ほう? じゃ説明してみろ、沢口」

「ボディガードですよ。学園の治安を守るこの俺が体育に打ち込む女子たちを不審者から守っているんです」

「ほう。俺がいるのに、か? そんなに頼りなかったかな?」

「い、いいえ滅相もない! ですが、俺がいれば更に安全です。人員は多ければ多いだけプラスに働きます」

「そもそも誰もお前らにそうしろと頼んだ覚えはないんだが?」

「そ、そうでしたか! どうやら勘違いしてしまったようです!」

「おう、ボディガードご苦労さん」

「そ、それでは自分の教室に戻りますですはい!」

「あっ、おいお前ら――!」


「……なんだったんだ、あいつら……生活指導の先生に突き出すべきだったか?」

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