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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
49/83

第4話 ①

    ☆


「よっ高坂、話いいか」

 今日の世界史の授業は担当教師が出張で休みのため自習時間となっている。

 世界史の成績がイマイチな俺としては、この時間を有効活用して少しでも知識を追いつけたいところだ。

「中世に起こった出来事は国と人物、それに年号もあわせて覚えるのに苦労するなぁ」

「分かりやすく俺の呼びかけを無視するんじゃない」

 中間試験が近い今、自習時間は貴重だ。この時間を有効活用してこそ万全の状態で本番を迎えられるというものだ。

「暗記モノはどうしてこうも面倒なんだろうなぁ」

「ようし分かった。お前の今学期の物理は成績1をつける」

「我が担任の柴山先生、何かご用でしょうか?」

 成績を盾に無理矢理従わせようだなんて、教師の所業とは到底思えないな!

 物理は俺の得意科目で10段階評価で8は当たり前なんだ。この科目で1なんてついたら親になんて言えばいいんだ。評定平均にも響くから是が非でも阻止したい。

「ったく、恐ろしいくらいに変わり身が早いなお前は……」

 先生はあきれ顔でぼやいたけど、やり方が汚いあなたにそんな顔を作る資格はないでしょう。

「今からジャージに着替えて体育館に行ってくれ。体育の授業で手伝ってもらいたいことがある」

 はて。なぜに体育? 柴山先生は体育教師でもないのに。

「俺にですか? 手伝いなら学級委員の誠司の方が適任なんじゃ?」

 能力的な面でも信頼度の面でもね。

 誠司は休み時間や放課後はおかしなテンションで周りをドン引きさせることもあるけど、授業中は優等生と呼べる真面目っぷりだ。部活だって日々真面目に打ち込んでいる。

「うむ。俺もまったく持って同意見だが、今回の件だけはお前が一番適任でな」

「そこまで言われるとは、俺も捨てたもんじゃないですね」

 だけってところは引っかかるけど、見出みいだされるのは悪い気はしないな。

「この件でなければ絶対にお前になんか頼まないんだがな。豊原に頼んだ方がまだ成果を出してくれるだろう。今回だけは致し方ないが消去法でお前に頼むことにした。苦渋くじゅうの決断だ」

「試験前の自習時間を潰してまで手伝う生徒にその言い草はあんまりじゃ!?」

 しかも豊原まで巻き込み事故でディスられてるし。

「自習はどの科目を学習しても構わないというのがこの学園で定められている学則の一つだからな。自習時間を体育にあてたところで問題はないさ」

 いや、試験に体育はないんだから世界史と同列に語るのはおかしくないですか……?

「じゃあ先に体育館で待ってるから、よろしくな」

 柴山先生は俺の文句をスルーして言いたいことだけ伝え終えると颯爽と教室から去っていった。

「これはまた災難だね。せっかくの自習が体育に変わっちゃうなんて」

 俺と先生のやりとりを後ろの席から聞いていた太一が哀れみの声音こわねを出してきた。

「世界史の勉強を進めるつもりだったんだけどなぁ。体育は別に嫌いじゃないからいいんだけどさ……」

 一方的に俺の自習科目の選択権が奪われたのは腑に落ちないけど仕方がない。悲しいかな、人生とは理不尽の連続だからね。

「せ、戦場へとおもむくのか。い、生きて、か、帰ってきてくれ」

「必ず勝って帰ってくるよ」

 体育が超苦手な豊原にとって体育とは拷問同然。心配そうに俺を応援してくれた。

 誠司は俺たちの会話には交じらず、一心不乱に持参の問題集を解いていた。真面目だ。


「ちょ……マジすか」

 体育館に入った瞬間、思わず後ずさりした。

 体育の授業は男子と女子で分かれ、更にそれぞれ二つのグループに分かれている。体育館では女子が二つのコートを使ってバドミントンをしていた。

 体育館履きの色を見るに、ここにいるのは1年生だ。更にエンジ色のジャージ、そして女子しかいないということは、言わずもがなここにいるのは1科の生徒ということになる。

 2科の体育では絶対にお目にかかることはない女子生徒たち。

 心なしか体育館に甘い香りが漂っている気がするけど、女の子に縁がない俺の勘違いだろう。

「完全に場違いだな……」

 近くにいる女子からの視線光線を浴びて縮こまる俺。

 柴山先生はステージの上に座っていた。俺に気づくと「こっちに来い」と手でジェスチャーしてきた。

(はぁ……ナチュラルに溜息ためいきが出るよ)

 ステージまで向かう俺を女子たちの怪訝けげんな視線が襲う。言葉は凶器と成り得るけれど、視線の集中砲火にも同じことが言えると思うんだよね。

 女子たちは俺を見るなりヒソヒソ話をしている。

 誰? なんで2年生が? なんで2科が? 様々な声が聞こえてくる。

 当然だけど警戒されているし、歓迎されていないことも伝わってくる。

 こんな時だけ耳が悪ければ――なんて思ってしまう自分が情けない。やっぱりラノベの鈍感系主人公は偉大なんだな――ってそれは話が違うか。

「来たかー。ははっ、さすがに一人黄緑色のジャージだと派手に目立つなおい」

 そう言って俺の肩を叩く柴山先生。派手に悪目立ちしても嬉しくないんですが。

「で、俺を呼んだ理由はなんですか」

「おう、ちょっと待っててくれ」

 さっさと手伝ってほしいこととやらを済ませてアウェーの場から立ち去ろう。

 ここにいる女子全員が動きを止めてこちらを凝視している。恐ろしすぎる。

 斜め後ろからひときわ鋭い視線を感じる。

 いや、視線というより殺気と言った方が適切か。

「――――げっ」

 殺気の主を見てもう後ずさり。

 そこには失礼ながら高校生には見えない、華奢きゃしゃで可愛らしい顔立ちをした女の子が見た目不相応(ふそうおう)なものすごい表情で俺を睨みつけていた。目力強すぎ。

「先輩とはいえ、『げっ』は失礼じゃないですか?」

「や、やぁ蓮見さん。ごめんね」

 俺が頭を下げると、蓮見さんはツインテールの髪をかき上げた。

「どうしてここにいるんですか?」

「俺にも分からないよ。柴山先生に来いって言われて来たんだけど……」

「そうですか。女子に交じって体育に参加するのはやめてくださいね。雰囲気を壊すんで」

「ははは……」

 俺はプレイボーイじゃないからそんな度胸ないわ。

 相変わらずの辛辣しんらつな物言いに苦笑するしかなかった。

 先日の一件以来、俺への態度がますます硬化したのは言うまでもない。元貴ともども、俺たち高坂兄弟は彼女の中で明確な「敵」扱いとなってしまった。

「待たせたな」

 気まずい雰囲気の中、柴山先生が戻ってきた。一人の女子生徒を連れて。

「――あれ。君は……」

 その女子生徒には見覚えがあった。

 当たり前だ。つい先日の早朝に会ったのだから。

 モデルのようにすらりとした長身に、手入れが行き届いているロングヘアー。とても大人びた雰囲気をかもし出しているけど、どこか女の子らしい儚さも兼ね備えている。その体躯たいくはまるで、もろい芸術作品のように美しい。

「あなたは先日の……?」

 相手も先日の出来事を思い出したようだ。俺を見るなりくりっとした瞳をいっそう大きく見開いた。

「なんだ知り合いか?」

 柴山先生が俺と女子生徒を交互に見る。

「知り合いってほどでもないんですけど以前すれ違ったんですよ」

「それはマジで知り合いですらないな」

 貴津学園の生徒だとは分かってたけど、まさかこんなに早く再会するとは思わなかった。

「あなたが対戦相手をしてくださる方ですか? よろしくお願いします~」

 俺に深く一礼する女子生徒。

 対戦相手、って――

「柴山先生、まさか用件って……」

「察しがいいな。おうよ、この子とバドミントンで勝負してくれ」

「やっぱり!」

 ……ってか先生、俺の自習時間を完全に私的な目的で奪ってません? あなた体育教師じゃないでしょう。

「先輩、よろしくご教授願います~。あ、自己紹介がまだでしたね。私は南条栞なんじょうしおりと言いますです。1年1組でバドミントン部に所属しています~」

 俺の目を見たまま天使の微笑みで自己紹介をしてくれる南条さん。

 第一印象とは違い、高い声や話し方からはふわふわと柔らかい印象を受ける。蓮見さんとは対極の性格の持ち主らしい。

「俺は――」

「こいつは俺のクラス一の問題児と悪名高い2年6組の高坂宏彰。バドミントン経験者だが、な・ぜ・か、高校では入部しなかった裏切り者のカスだ。いわばお前の仇敵きゅうてきだ」

「あんまりな紹介ですね!?」

 俺の自己紹介を柴山先生に奪われた。しかも捏造ねつぞう混じり。いい加減にしてくださいよ。

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