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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
41/83

第1話 ③

「高坂ぁ! ここにいたか! 話はまだ終わっちゃいねぇんだよぉ!」


 現れたのは辻堂だった。

 って、よりにもよってコイツかよ!

 ダメだ、状況は最悪の方向に転がり続けている。

 よく分からない三人組に暴走する辻堂。あぁ、なんだか立ちくらみが。

「どうしてお前がいるんだ? ここは2科側の廊下だぞ。道にでも迷ったのか?」

 沢口君は言い方はともかくとして、至極真っ当な疑問を投げかけた。

「あぁ? 誰だテメェ? 俺は高坂に用があんだよ。テメェ等はすっ込んでろ」

「俺たちが先約なんだけど……ぷっ、それにしても、見事なツルツルだなぁ。お似合いだよ」

 沢口君が丸裸となった辻堂の頭皮を指差して取り巻き二人とともに嘲笑う。

 ああ、そんな煽ると――――


「死ねオラァ!」

「ぐおおおおおおっ!」


 辻堂が沢口君に拳や蹴りを連発でおみまいし、トドメにその身体を放り投げた。

「さ、沢口さーーん!?」

「お、おおおおおい、なんてことしてんだよ! か、神である沢口さんに暴力だなんて……!」

「神だぁ? 紙クズの間違いだろ。自分は短いながらも髪があるからって自慢か、あぁ?」

 二人が親分である沢口君のところに行き身を案じる。が、今は自分たちの心配をした方が賢明な判断だと思うんだけどなぁ。

「そういやテメェ等も笑ってたよなぁ……ヒャハハ、ちょっくらこっち来いや」

 辻堂は人差し指でくいくいと自分の方に来るように促すが、二人はむしろ距離を離していく。

「ケッ、意気地なしが。なら俺の方から行くぜぇ」

 辻堂はじりじりと二人との距離を縮めていく。

 二人は身体を震わせ、目に涙を浮かべて、

「と、とりあえず今回のところは撤収だ! ――高坂め、お、おお覚えてろよ! い、行くぞ祐介!」

「は、ははははい勇太郎さん! 沢口さん、す、すぐに保健室に運びますから少しの間我慢してくださいね!」

 床に仰向けで白目をむいてのびている沢口君を引きずりながら全速力で逃げ出した。

「待てゴルァ! 一本でいいから指の骨を折らせろぉ!」

 こうして沢口軍団アンド穏やかじゃない台詞を叫ぶ辻堂の姿は廊下の向こう側へと消えて行った。

「ふぅ、疲れた……」

 結果的に辻堂に助けられた形になったのは腑に落ちないが。


    ☆


「遅かったね。トイレが長引いたのかい?」

 教室に戻った俺に声をかけてきたのは中学時代からの友達の佐藤さとう太一たいち

 どんなに周りから引かれようが意に介さず二次元という趣味に生きる男で、頭もそれなりにキレる。

 肝心なところで度々やらかす癖さえなければハイスペックな男だ。

 おまけに可愛い女の子の幼馴染がいるときたもんだ! 羨ましくなんかないからな!

「んーと、沢口君とかいう人とその取り巻き二人に絡まれてて時間を食った」

「沢口? ……あぁ、あいつらか」

 うんざりした顔で会話に交じったのは我がクラスの学級委員をしてくれている谷田たにだ誠司せいじ。高校球児でもある。ルックスは微妙。

 沢口一派って学内では結構有名なのかな?

「きょ、去年同じクラスだった。あ、あいつらに絡まれるなんて、ふ、不運だったね」

 俺に対して同情の視線を向けてくれたのは対1科専用の最終兵器、豊原とよはらたかしだ。

 彼のリア充や女性に対する憎しみの心は時として強大なパワーを発揮する。

「奴らは三人全員、思考回路がぶっ壊れているからな。隆と同じで頭に重い病気を患ってる」

「……た、谷田君。そ、それはどういう意味だ?」

 豊原の凍てつく視線を豪快に無視した誠司は話を続ける。

「少し会話をしたんなら分かっただろうが、奴らは奇跡的なバカだ」

「ぼ、僕の! ど、どこがびょ、病気だっていうんだ! い、一文字以内で説明しろ!」

「を」

「……せ、説明になってないだろ!」

「一文字でどう説明しろと? そんなのは常識的に考えて不可能だ! てか、世界を征服しようと本気で考えてる時点で、お前は十分ネタキャラだろ!」

 そう、なにを隠そう豊原は世界征服の野望を抱いている。

「ひ、人が本気になってる夢を笑う奴はしょ、将来、そ、そいつに、笑われるぞ!」

 横で誠司と豊原が不毛な言い争いをしているが、参戦などという命知らずな真似はしない。

 俺は豊原の世界征服の夢を笑ったりしてないからね。良いと思うよ、世界征服。

 と、太一が思い出したかのように顎に手を当てる。

「沢口か――そういえば去年、地味にあちこちで名前が出てたような……どれも良い噂ではなかったけど」

 だろうね。あんな変な漫才を聞かされて良い気分になる人はいない。しかも俺まで巻き込んでくる破天荒漫才。タチが悪すぎる。

「まぁ彼らが根拠のないイチャモンをつけてきても流せばいいさ。ところで」

 太一が俺の頬を怪訝そうに見る。

「朝、宏彰がHRギリギリで教室に飛び込んできた時から思ってたんだけど、その顔はどうしたの?」

「女の子の愛情を全力で受け止めた結果、こうなった」

 俺は自分の頬を指で撫でた。

「…………田中か」

 これだけで察してもらえるほど、田中さんの存在、そして愛情拳のインパクトは強い。

「なんで田中の愛情表現は暴力なんだろうね」

 それは俺が知りたいよ。田中さん曰く「辻堂への拳には憎しみを込めているが、ダーリンへのパンチには愛情と母性がふんだんに詰まっている」らしいが。

 ところでなぜパンチに母性を込める??

「愛されるというのは大変だね」

 太一がポンと俺の肩に手を置いて言った。おい、なんで笑ってやがるんだよ。

「そ、そういえば、つ、辻堂の髪の毛が、な、なくなったらしいよ」

「噂は聞いてるぞ。実物はまだ見てないけどな」

「ふっふーん、俺はもう見たよ。それはもうお坊さんばりのツルツルだったよ」

 その後にタイマンをけしかけられた件は伏せておく。

「どうせいずれは見るだろうに、なぜ君はそこまで得意げなんだ」

「………………」

 太一の冷めた反応は極力スルーする。でなければ自分でもスベった恥ずかしさで死んでしまう。

 下らないマウント取りは身を滅ぼすんだと改めて実感したのだった。


    ★


「いてて……辻堂め、ずいぶんと笑えないショーを催してくれたじゃないか」

「でも沢口さんが打撲だけで済んで良かったです。不幸中の幸いですね」

「んなわけあるか! 祐介、お前分かってるのか? あいつは神である沢口さんのお身体に傷をつけたんだぞ!? 許される所業であるはずがないだろ! 報復すべきだっ!」

「しかし、辻堂君じゃどうしようもないですよ。彼は強すぎます」

「お前ら少し、いやかなり落ち着け。辻堂に罪はないだろ? 元々奴が俺たちと遭遇したのは高坂宏彰を探してたが故の偶然なんだからな。となれば、やはり高坂宏彰が元凶って結論になるだろ?」

「確かに……! おのれ高坂、あの疫病神が! 死ね!」

「損害賠償を請求してみてはどうでしょう? こちらには裁判で勝利する要因があるはずです」

「勇太郎、祐介。気持ちは分かるがたった数回の過ちで怒っていては大人げないぞ。少しだけ猶予をやろうじゃないか。奴が改心してくれることを信じてみようぜ」

「さ、さすがです! なんというお心の広さ! あんな仕打ちを受けてもなお、高坂に汚名返上のチャンスを与えるなんて! あぁ、俺は沢口さんとこの広い地球上で巡り合えて本当に幸せな人間です! 生まれてきて良かった!」

「なんて大きい器を持ったお方でしょうか……眩しすぎる。これが神のオーラなのですね」

「ふはははは! もっと崇め、もっとたたえろ! ――――ところで、なぜ教室には誰もいないんだ?」

「そういえばそうですね…………って、次の時間は移動教室ですよ!」

「なんだと!? てかあと一分でチャイムが鳴っちまうじゃないか! 急げ、遅刻なんてしてみろ! 俺の推薦が、未来の大学生活が泡となって消えてしまうかもしれないじゃないか!」

「それは忌々(ゆゆ)しき事態です! 急ぎましょう! くそっ、それもこれもあれもどれも全部高坂のせいだ……!」


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