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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
42/83

第2話 ①

    ☆


 いつからだろう。小さい頃に使えるようになりたくて仕方がなかった魔法や特殊能力をリアルな世界で使えるはずがない、と気づきはじめたのは。その事実に気がついた時はたいそう意気消沈した記憶がある。

 しかし実際に使えるようになった今ではその価値観は大幅に塗り変わった。

 自身に備わってしまった雷塊らいかいを生み出す力は人を傷つけるだけに留まらず、あやめることすらできてしまう、とてもとても恐ろしいものだ。

 そう、今や俺はただの人間ではない。

 そんなことを考えながら向かう先は図書室。

 物理で調べ物が必要なレポート課題が出たので参考資料を探しに行くところだ。ネットで調べてもいいんだけど、たまにはね。

 俺のクラス担任の柴山裕五しばやまゆうご先生は長期休暇でもないのに度々こういう課題を出してくる曲者くせものだ。レポート作成であれこれ調べると嫌でも物理の知識が増える。そこも織り込み済っぽい。


「あっ、高坂君……」


 2科側と反対にある1科側の階段から二人の女子生徒が姿を見せた。力のない声で俺の名前を呼んだのは、才色兼備で学園のアイドルである星川ほしかわ真夏まなつさんだった。

 その隣で星川さんの友人であり、純真なお嬢様でもある遠藤えんどう佳菜かなさんが俺にペコリと一礼した。俺もつられて返す。これはもはや日常的な挨拶になりかけている。

 でもなぜか星川さんの表情はどこか影がある。視線は俺から逸らしたままだ。

「え、えっと、二人はもう昼食をとり終えたの?」

「はい。それでちょうど図書室に行こうと思っていたところですー」

「俺も図書室に用があるんだ。物理のレポートで本が必要になってさ」

「2科の方はお勉強、難しそうですね」

「1科とそこまで変わらないと思うよ」

 2科は1科に比べて試験の平均点が高いことから、特に理系科目の難易度が高めに設定されているんだって。反対に1科は文系科目の難易度が2科よりも高いとか。

 1科の文系科目がどのくらい難しいのかは知らないけど。ただ、俺は2科の文系科目ですら平均点以下だし、太一に至っては赤点ギリギリ回避の成績だ。

「ですが、理系科目が苦手な私からすれば高坂さんはすごいと思いますよ」

「はは、俺は理系科目だって平均程度だよ」

 俺と遠藤さんの会話を星川さんがちらちらと何度か視線を送りながら耳を傾けている。

「それにしても二人は仲良いよね」

 球技大会の時もこうやって二人でいたよな。クラスを超えた友情ってやつかな。

「去年同じクラスでしたのでー」

「そういえばそうだったね」

 綺麗な二人が揃っていると本当に華がある。学園の単なる平凡な廊下も明るいスポットに様変わりだ。

「…………? 真夏ちゃん? どうかしましたか?」

 先ほどから無言の星川さんに違和感を感じたのか、遠藤さんが首を傾げて声をかけると、

「えっ? ううん、私はほら、いつも通りだよー」

 突然話を振られた星川さんは一瞬戸惑っていた気がする。

「星川さん、なんか元気ないね?」

 俺が星川さんを見つめると、彼女は乱暴に視線を逸らした。長いまつ毛がまばたきで何度も揺れた。

「そんなこと、な、ないよっ。高坂君の気のせい気のせい!」

 めっちゃ動揺してるけど本当に気のせいか?

「ならいいんだけどさ……」

 星川さんは俺と目が合うと視線を逸らし、またちらちら見ては逸らしを繰り返していた。

「あっ、もしかして実は急いでた? ごめんね」

 実は二人には急用があるのかもしれない。それならば星川さんの態度も納得できる。

 俺ごときが会話を振ったりなんかして、悪いことをしたなぁ。

「そんなことはないですよー。のんびり図書室で過ごそうかなーって思ってるだけですから」

「そ、そうそう。静かな場所で落ち着きたいなぁってだけだから」

「そっかぁ」

 会話はそこで終わり、俺は二人と一緒に図書室へと向かった。

 結局星川さんは終始ぎこちない様子だったけど、深く切り込む真似はできなかった。


    ★


「おいおいおいおい、おいおいおいおいおい! お前ら、今のありえない光景を見ていたか? しかと目に焼き付けたか?」

「はい、バッチリ見ました沢口さん! 危うくあと少しで血ヘドを吐くところでした!」

「学園でも人気が高く、ビジュアルも完璧な二人があの高坂さんと会話してましたね」

「あぁ、だが星川の顔はどうにも晴れたものではなかったな」

「高坂と出会ってしまったことで気を悪くしたのでしょう! 気持ちは分かります!」

「勇太郎、身も蓋もないことを言ってくれるな。俺も同じことを考えてたが、口には出さなかっただろう? 事実とはいえ、それを言ってしまうといくらなんでも高坂宏彰が無様すぎるだろ」

「す、すみません! 俺は大馬鹿野郎でした!」

「大体、高坂宏彰に星川や遠藤と会話する権限なんてないんだよ。他でもないこの俺が認めん。アイドルとゴキブリは普通会話しないだろ? なんてありえない光景だったんだろうか。あぁ、世界はまもなく破滅か」

「そ、そんな! どうすれば破滅を防げるのですか!?」

「簡単な話さ。この俺が星川と付き合えばいいんだよ。俺は高坂宏彰とは違い、学級委員を務めている。それだけじゃない。将来は理科大学を卒業し、大手の一流企業に就職して巨額の富と地位、名声を得る。俺は星川に幸福を提供できる唯一無二の男なんだよ」

「その通りです沢口さん! 星川は沢口さんにこそふさわしいです!」

「一方、遠藤の方は高坂宏彰と会話していて案外まんざらでもないように見えたな」

「そ、そんな、そんなバカな……」

「遠藤はゲテモノが好みなのか――っと、そうか。祐介は遠藤のことが好きなんだよな」

「は、はい。だって、綺麗じゃないですか。男の本能には逆らえません」

「理由はそれだけか? ははは、俺もそうだよ。星川は可愛いから付き合えば自慢になる。実に良いブランド商品だ。身につければ俺のステータスが更に上がり、大学の推薦もグッと近づくに違いない」

「さすがは沢口さんです! 女を選ぶ基準も打算的で素晴らしいです!」

「当たり前だろう。ブランド力が高く、更に頭もスタイルも性格も良いという最高のオプション付きの女は、今のご時世なかなかいない。まさに星川は俺のために誕生した女だね」

「遠藤さんは、高坂さんのことが……」

「安心しろ祐介。遠藤もすぐに高坂宏彰の愚かさ、バカさ、ゲスさ、キモさに気づくだろう」

「ほ、本当ですか? よかったです……」

「どうやら本来ならばありえない奇跡がなぜか立て続けに起こっているみたいだが、幸せは長くは続かんよ、にっくき高坂宏彰!」

「その通りです! ゴミクズ高坂め、今に地獄へ叩き落としてやる!」

「で、勇太郎。首尾しゅびはどうだ?」

「バッチリです、ご安心ください!」

「よーしいいぞ。ふははは、高坂宏彰。自らこちら側に武器を提供してくれるとはずいぶんと余裕じゃないか。その油断が命取りになるとも知らずに、馬鹿な男よ」

「……遠藤さんは誰が好きなんでしょうか……」

「ま、まだ言ってるのか。心配するなって。実は遠藤は既にお前の魅力にメロメロだぞ?」

「ほ、本当ですか!? ま、まぁ、なんせ僕の父親はパイロット、母親は弁護士ですからね!」

「そんな祐介に遠藤も釘づけというわけだ。だが素直に自分の気持ちを表現できないがゆえに、高坂宏彰に話しかけるって血迷った手段で自分自身を制御しているんだよ! いずれは自分が本来いるべき場所、つまりはお前の元へと戻ってくるだろう!」

「ほ、本当ですか!? あぁ、僕は沢口さんとともにあって本当によかったです! おかげで幸福をいただけます!」

「さ、さすがは沢口さん! 沢口さんにはなにもかもがお見通しなのですね!」

「うむうむ――――で、さっきチャイムが鳴った気がするんだが、今何時だ?」

「えーっと……ああっ、もう授業がはじまってますよ!」

「それはどう考えてもいけないだろ! 急げ、今なら半裸で土下座すれば許してもらえる!」

「は、はい沢口さん! くそっ、高坂め! アイツはどこまで疫病神のカスなんだ! 制服を脱いで土下座し、すぐにまた着直す作業の大変さがなぜ奴には想像できないんだっ!」

「遠藤さん……早く目を覚ましてください……」

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