表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
1巻 学内格差編
21/83

第7話 ②

    ☆


 翌日の昼休み。

 遠藤さんとの約束の時間なので弁当を片手に屋上へと向かっている。

 これがギャルゲーだったら、ヒロインが主人公にお弁当をおもてなしする展開が待っているんだろうけど、現実世界ではそんな嬉し恥ずかしイベントが発生するはずもなく。

 階段を昇り、屋上へ出る扉を開く。

 すると、水色に染まった広大な空と、新緑の香りを乗せた風が俺の視覚と嗅覚を刺激した。

 屋上は普段来ないけど、悪くないな。


「高坂さん。来てくださってありがとうございます」


 声がする方を向くと、先に来ていた遠藤さんが一礼した。

 俺も軽く一礼を返す。この流れも自然になってきてるなぁ。

「屋上はすごく久しぶりだけど、結構いいもんだね」

「私も普段は来ないんですけど、静かで落ち着きますねー」

 屋上には俺と遠藤さんの二人しかいない。食堂や中庭など、屋上よりも快適な昼食スポットがあるので、あえて屋上を選ぶ生徒は滅多にいないのだ――

 ――ん? つまり、普通に二人きりじゃね?

「どうかされましたか?」

「俺たちしかいないなぁって」

 照れながら答えると、それを聞いた遠藤さんは顔を真っ赤にさせた。

 俺も遠藤さんもただでさえ異性に対する免疫が低いのに、このシチュエーションで平然としろと言われても土台無理な相談だ。

「こ、ここなら二人きりになれるかなって。他の方に見られると恥ずかしいので……」

 遠藤さんの声はどんどん小さくなっていった。可愛らしいなぁ。

 ま、確かに2科の俺と一緒にいるところが誰かに目撃されるのは恥ずべき事案だよね!

「じゃ、じゃあお昼食べようか」

 地面に座り、弁当箱を開ける。

「そ、そうしましょう」

 母さんが作ってくれた弁当の具を口に放り込む。

 うん、今日も美味しい。感謝感謝だ。

 なぜかその様子を遠藤さんがちらちら見ながら自分のお弁当を食べている。

 遠藤さんのお弁当はお嬢様らしからぬ――失礼な感想かもだけど、質素な内容だった。

 卵焼きに緑黄色野菜の数々、そして一個の梅干しを担ぐ白米軍団。野菜の比率が多く、大変ヘルシーなお弁当だ。

「あ、あのー……このお弁当、変でしょうか?」

 自身のお弁当に俺の熱視線が注がれていることに気づいた遠藤さんは首を傾げた。

「美味しそうなお弁当だなって」

 お嬢様が食べていると意外だけど、素直に美味しそうなお弁当だと思った。

「ただお嬢様ともなれば、毎日豪勢な料理を召し上がるものだと思ってたから意外だなぁと」

「もぉ、お嬢様って言うのはやめてください~」

 頬を控えめに膨らませて可愛らしく抗議される。全く怖くはない。

 俺は頭を掻きつつ「ごめん」と謝った。

「お弁当は毎朝自作しているんです」

 これまたお嬢様らしからぬギャップで親しみを感じるな。

「立派だなー。毎朝は大変じゃない?」

「そんなことはないですよー。お料理は好きなので、とても楽しく作っています」

「家庭的だなぁ」

 俺も見習いたいなぁ。

 ……見習いたいけど、面倒臭さが先行して結局は母さん任せにしてしまうな。


 ――あれ?

 遠藤さんの後ろにもう一つ、手がつけられていないお弁当箱が置いてあるぞ。

 これは、もしかして――?


「そっちのお弁当箱は、もしや俺の分?」

 俺がもう一つのお弁当箱について触れると、遠藤さんは口に手を当てた。

「あっ、気づいてしまいました? こ、これはですね、色々と私に親切にしてくれる高坂さんへのお礼に作ってきたものなんです」

「屋上にお呼ばれされたのはそういうことか」

 お礼で女の子のお手製弁当を現実世界で食べられるの? これは夢ですか?

「ごめんなさい。サプライズしたくて黙っていたのですが、そのせいで高坂さんは自分でお弁当を用意してしまいましたね。迂闊でした。猛省……」

 遠藤さんはやっちゃったとばかりにしょんぼりする。そんな顔は似合わないよ。

 自分の弁当で腹八分目だけど、ここは男を見せるべきだ。

「自分のだけだと足りなかったし嬉しいよ。俺なんかが食べちゃっていいの?」

「ど、どうじょ、是非食べちゃってくださいー」

「ではお言葉に甘えまして」

 緊張からか愛らしく噛んでしまった遠藤さんが作ってくれたお弁当箱を開けると、遠藤さんが食べているものと同じおかずが敷き詰められていた。

 どれも美味しそうでどこから箸をつけようか迷った末、卵焼きから口に運ぶ。

「はくっ……めちゃ美味しい!」

 噛むほどに甘みが口の中にじわりと広がっていく。

「ほ、本当ですか? ほっ、よかったですー」

「これはいくらでも食べられるよ」

 特に気の利いた会話を交わすこともなく、黙々と昼食タイムを満喫すると、不思議と気持ちは落ち着いていた。

「美味しかったぁ。ご馳走様でした」

「お粗末様でした」

 遠藤さんも満足してくれたみたいだ。よかった。

「この程度で恩返しできたとは思いませんが、これからもたまに作ってきてもご迷惑ではないですか?」

「むしろすごく申し訳ないけど、余裕がある時にでもまた作ってくれると嬉しいよ」

「わぁい! ありがとうございます!」

 これで遠藤さんが俺へのお礼と納得できるならば、無理に拒否する理由はない。

「…………本当は毎日作って一緒にいたいですけど、さすがに私の気持ちがバレちゃいますからね。今は我慢です」

「ん? 何か言った?」

 遠藤さんが小声でささやいてた気がするけど、内容は聞き取れなかった。

 ……俺って難聴なのかな。

「なんでもないですー」

 彼女はいたずらっぽく笑って、

「――そうです。前々から聞きたかったのですが、連絡先交換しませんか?」

 高沢君同様、スマホを取り出して連絡先の交換を提案してくれた。

「そ、そうだね。その方が気軽にやり取りできるもんね」

 胃袋をパンパンに膨らませた後、遠藤さんと連絡先を交換して昼休みは終わりを告げた。

 不肖高坂宏彰、人生初の女の子の連絡先、ゲットだぜ!


    ☆


 今日は花の金曜日。明日から休みだと思うとテンションが上がってくる。

「そろそろ行くか」

 六時間目の授業開始五分前。

 俺たちいつメン四人はジャージに着替えている。

 他の生徒は既に着替え終えて体育館に向かったけど、体育委員の俺は先に体育館を開け、教室の鍵を閉めるために最後まで残らなければいけない。体育委員って本当に面倒。

 扉が施錠されたことを確認する。

 よし、戸締り完了。

 俺を待ってくれていた太一たちと体育館へゴーだ。


 体育では今バドミントンをやっている。

 俺は中学三年間バドミントン部だったので、一般の生徒よりは実力がある、とは思っている。

 そう、バドミントンだったら――


    ☆ ☆ ☆


 六年前――――

「ヒロくん、どこ行くの?」

 歩夢が俺に声をかけてきた。

「テニススクールだよ」

 小学生の頃の俺はテニススクールに通っていた。

「僕も行ってみたい!」

 当時の歩夢はいつも俺の後ろをついてくる弟分的な存在だった。

「タダじゃないし、まずはマッツーのお父さんお母さんにOKをもらわないとね」

 この頃の俺は歩夢のことをマッツーと呼んでいた。

「じゃあ許可もらってくるよ! 次の練習からは一緒だからね!」

「頑張って許可もらってきなよ」


「ヒロくん、許可もらったよ! 一緒に行こう!」

 許可をもらうと宣言してからすぐさま実現させた歩夢。有言実行だ。

「OK、じゃあ行こうか」

 俺は歩夢を連れてテニススクールへと向かった。


「松本君、すごいねー!」

「ホントホント。まだ三ヶ月しか経ってないのに成長が早い早い」

「そ、そんなことありませんよ」

 歩夢は恥ずかしそうに謙遜するが、スクールの生徒が話す通りだ。

 歩夢の成長は目覚ましいものがある。

「――あっ、ヒロくーん! ひと試合しようよー!」

「あ、あぁ」

 歩夢は俺と目が合うなり、試合を申し込んできた。

「僕サーブで行くねー!」

 お互い一歩も譲らぬ攻防を繰り広げていたが――

「甘い球! っしゃっ! ――やった、勝ったー!」

 俺は僅差で歩夢に負けてしまった。

 負けたこと自体は仕方ないけど、俺の半分以下のキャリアの歩夢に負ける度に、俺の中に芽生えている焦燥感が強くなっていく。

「……レシーブされた球でいきなりスマッシュを打っちゃったよ」

「テニスプレーヤーの卵だな」

「高坂、お前あいつの友達だろ? よく誘ってくれたな」

「え、えぇ。やりたがってたので」

 なんなんだろうな。

 あとからはじめた人に追い抜かれたこの感じ。

 スタートが出遅れた人からすぐさま追い抜かれたこの感じ。

 すごく――もやもやする。


 練習が終わり、各々がロッカールームで着替えをしているさなかでのこと。

「あんなすごい奴と同じスクールで練習できるとはなぁ。あいつから学べることも多いぞ」

「それにあの才能。高坂と同い年とは思えねえな」

「だな。既に高坂よりも松本の方が上手いよな」

「お、おい、お前ら」

「なんだよ――」

 俺と歩夢の話をしていた先輩が俺の存在に気がついた。

「――あ」

「じゃあ、お疲れ様でした」

「お、おう。高坂も、お疲れ」

 着替え終わった俺は平静を装ってロッカールームの出入り口へと向かう。

「…………聞かれちまったか?」

「当たり前だろ。お前らはもっと場所と言葉を選んで喋れ」


 くそっ。

 俺は一年近くやってきたのに、歩夢はたったの三ヶ月で俺と同等の実力を身につけた。

 ――いや、さっきの試合ではっきりと分かった。歩夢は既に俺を超えている。

 歩夢には溢れんばかりの才能がある。

 けど俺には?

 何も、ないよな…………。


「歩夢君すごーい! 今回も通知表オールAだー!」

「イケメンだし、勉強も運動もできるしモテるでしょ?」

「そ、そうでもないよ?」

「えーウソだぁ」

「そういえばさ、歩夢君って高坂と幼馴染なんでしょ?」

 クラスメイトの女子が俺を引き合いに出してきた。

「そうだよ」

「幼馴染でもここまで出来が違うものかねー」

 女子ははぁと感嘆しているような、呆れているような声を漏らした。

「あいつは地味で目立たないし、勉強や運動も特別できるわけでもない。神様って残酷よね」

 女子の言い分を聞いた歩夢は少しムッとした表情を浮かべる。

「ヒロを悪く言わないでよ。僕だってヒロに勝てない部分はあるんだから」

 いいんだ。女子の言う通りだよ。

 俺たちはダイヤの原石と石ころのような間柄だ。

 無限の可能性を秘め、これからも実りのある毎日が待っているであろう君と、バリバリの凡人以下で何の才能も実力もない俺。

 タメの幼馴染なのに、どうしてここまで違うんだろうね。

 歩夢は俺を慕っていつも一緒にいてくれるからいやが応でも意識してしまう。

 君はきっと気にしてないだろうに、どうして俺は幼馴染ってだけで君との対比に囚われてしまうんだろうね。

 君みたいなハイスペックと一緒にいると、自分がすごく惨めな奴に思えて息苦しいよ。


    ☆


 俺だって努力したさ。

 歩夢の幼馴染として恥ずかしくないように、テニスだって、勉強だって。

 けどどんなに練習しても、勉強しても、歩夢からはどんどん離されていく一方で。

 その差に比例するように歩夢の幼馴染であること、親友として隣に並ぶことへのコンプレックスと彼に対する嫉妬心、そして劣等感がだんだんと強まっていった。

 俺はテニススクールを辞めた。

 それを発端に歩夢から距離を置き、彼がいない安全地帯へと逃げ込んでいった。

 中学でもテニス部ではなくバドミントン部に入部したのも歩夢と同じ土俵に上がらずに済むからだ。

 俺は身勝手な理由で幼馴染を避ける最低で心の小さい人間なのだ。

 こちらの態度に歩夢の方はどう思っているかは分からないけど、この頃から人間は平等じゃないと感じはじめていたなぁ。

 でもバドミントンなら……歩夢のいないバドミントンなら、コンプレックスの呪縛なしでのびのび打ち込めると思ったん――だっ!

「うおお、スマッシュ早ぇな。見えなかったわ」

 対戦相手の誠司が俺のスマッシュに反応できなかったので俺の勝利だ。

「宏彰、ずいぶんと力んでいたけどどうしたんだ」

 体育の授業なのに俺が必要以上にムキになっていたことを太一が指摘してきた。

「ふと黒歴史を思い出しちゃってね」

「黒歴史ねぇ」

 歩夢と正面からぶつかることを放棄して逃げ出した過去の自分。現在だって歩夢から距離を置いたまま何も変われちゃいない。

「それはそうと、松本は相変わらずやるよね」

「きゅ、急にどうしたんだい?」

 まさに今しがた考えていた渦中かちゅうの人の名前が飛び出してきて驚いたぞ。

「……なにその、松本が黒歴史の原因なんだけど、と言いたげな反応は」

「い、いや。唐突に知り合いの名前が出てビビっただけだよ」

「ふーん」

 太一はそれ以上俺の反応に深く追求してこなかった。

 こいつのドライな性格は気負いせずにつるめるから助かる。

「彼、中学の時生徒会長だったじゃん」

 俺、太一、歩夢は同じ中学出身だ。

 歩夢は中学時代生徒会長だった。天は何物も与えすぎでは? と思ったね。

「今も生徒会役員で、同じクラスである学級委員の星川と二人三脚で色んな仕事を捌いてるんだって」

 歩夢が、星川さんとね……。

「二人はとてもお似合いで、あの二人なら付き合っていたとしても当然だと1科の人たちは常々話してるんだってさ」

「そ、そうか。その情報はどこから仕入れたの?」

 太一に1科2年生のアテがあるとは思えない。

「誠司の社交性の賜物で構築された学内データベースを舐めてもらっちゃあ困るなぁ」

「君がいばることじゃないでしょう」

 しかし、歩夢はともかく星川さんが学級委員なのは知らなかった。二人で力を合わせて頑張っているのか。

 更に二人はテニス部仲間だし、付き合っていたとしてもなんら不思議はない。

 星川さんほどの才女と付き合うためには男側にも相当なスペックが求められる。歩夢や高沢君クラスの総合力がないと門前払いだろう。

 1科と2科の教室が離れているとどうにも1科側の状況に疎くなるから困るな。改めて学園の構造を恨む。

 歩夢は本当にすごい奴だよ。人望があって、恰好良くて、頭も良くて、運動だってできる。学園のマドンナ星川さんとも親密ときた。

 それに引き替え俺は、歩夢をただ暗い陰から指を咥えて見ていることしかできない醜い人間だ。

「歩夢には天性の才能があるからね。幼馴染の俺が保障するよ」

「君らは幼少時代からの付き合いだっけ?」

「忘れてた?」

「学科も違うし、君とは対極の存在だからすっかり忘れてたよ」

 対極ね。ごもっともだよ。

 高校が同じ以外は全てにおいて俺とは格が違う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ