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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
1巻 学内格差編
20/83

第7話 ①

    ☆


「結局さっきのマジックショーはなんだったんだろう」

 俺は頭を冷やすべく廊下を徘徊していた。

 自分は人間だと思い込んでいたけど、実は地球外生命体だったのか?

 しかしなぜいきなり。

 今から一時間単位で過去の記憶を辿ってくだんの引き金を探してみる。

 今日の出来事には特に心当たりはない。

 次に昨日の出来事を思い起こしてみる。

 昨夜は――待った。俺以外にも能力が使える人はいるんだ。自宅でのことではない。

 だとすれば、あとは学園から配られたドリンクだけど、ドリンクは太一や誠司を含めたクラスメイト全員が飲んでいる。

 ドリンクが起因だとすれば、どうして能力が使える人とそうでない人がいるんだろう。

「高坂じゃないか。こんなところでどうしたんだ」

 床から視線を上げると、球技大会で闘った高沢君が目の前にいた。

 超能力について考えすぎたせいか、いつの間にか1科の教室が並んでいるエリアまで到達してしまったらしい。

「あぁ高沢君。球技大会の時はどうも。ちょっと考え事をしてて」

「あまり思いつめても事はいい方向に進まないと思うぞ」

「うん、気をつけるよ」

 超能力の件は気になるけどそればかり考えて他のことが散漫になるのは避けたい。

「俺でよければいつでも相談に乗るよ」

「ありがとう。その時は頼るかもしれない」

 俺が頷くと高沢君は爽やかに微笑んで、

「せっかくだから連絡先教えてくれよ」

 スマホを取り出して連絡先の交換を求めてきた。

「う、うん。これ、チャットアプリのQRコードだよ」

 ま、まさか学園きっての美男子である高沢君の連絡先をゲットできるとは。

(それにしても――)

 高沢君は本当に恰好良いな。女子たちが騒ぐのもすごく分かる。少女漫画に出てくる美少年そのものだもん。少女漫画を読んだことはないけど! 本当だよ!

「サンキュ――うん、交換完了だ」

 高沢君の連絡先をGET。これで友だちの件数が二桁を超えたぞ。

 ……自分で言ってて悲しくなるな。


「あー! 高沢君はっけーんっ!」

「あっ、本当だ!」

「椋~! お話が~!」


 じょ、女子生徒の大群だー!?

「何かあったら連絡してくれ! じゃあな!」

 そう言い残すと高沢君は女子の大群から逃げていった。

 あそこまでモテると逆に羨ましいと感じないな。気苦労の方が多そうだ。

 高沢君が女子たちからもみくちゃにされて死んでしまわぬよう祈りつつ、身を翻して2科側の廊下に戻ることにする。

 黄緑色のネクタイをまとった生徒がここに長く留まるのは大変危険だ。いつ誰に何を言われるか分かったもんじゃない。


「――こ、高坂さん?」


 その矢先にこれだよ。ったく因縁をつけてくるのはどこの誰だよー……。

 ――と思ったら。

「こ、こんにちはー……」

 声の主は遠藤さんで、ぺこりと丁寧に会釈してくれた。

 俺もつられて会釈をする。本当に礼儀正しい子だなぁ。

 教室の前に立っている様子から、今しがた教室から出てきたようだ。

「あ、あのですね」

 遠藤さんは両手でスカートの裾をきゅっと掴む。

「私、まだ高坂さんにお礼をしていないですよね」

「お礼?」

 彼女からお礼を受けることなんてしたっけ?

「えっと、以前ナンパから助けていただきました。それと球技大会の時にも……」

「あー、そんなこともあったね。いいよお礼なんて。俺が勝手にやったことだし」

「私も好きでお礼がしたいんです」

 お礼がしたいと言い切った遠藤さんの瞳は強い決意の色で燃えているように見える。

「明日のお昼休みは空いていますか? 屋上へ来てほしいのですが」

 ひ、昼休みに屋上へ来い?

 お礼だよね? 屋上でやるお礼って――まさか、お礼参りするつもりか?

 スケバン姿で俺をボコる遠藤さんを思い浮かべる。ボコられたくはないけど、スケバン姿の遠藤さんも新鮮味があるかも。

「……? どうかしましたか?」

 質問の返答もせずに自分の世界に入っている俺を見て、遠藤さんは小首を傾げた。

 お礼参りの妄想が顔に出ていたらしい。急な屋上への誘いで俺の思考回路は壊れたっぽい。

 我ながら想像力がたくましいし、そもそもお礼参りの使い方間違えてたわ。

「な、なんでもないよ! 屋上だね。了解、明日必ず行くよ」

 予定は何もないのでいつも通り太一たちと昼食をとるだけだろうしね。

「あ、ありがとうございますー!」

 すごく嬉しそうな遠藤さん。頬がほんのり朱に染まっているように見えるけど恐らくは気のせいだろう。

 っと、約束をしたタイミングで授業開始のチャイムが鳴り出してしまった。

「休み時間終わっちゃいましたね……」

「だね。じゃあ明日の昼に、屋上で」

「はいっ」

 心なしか名残惜しそうだった遠藤さんと別れ、ダッシュで自分の教室へと向かう。急がないと遅刻する。

 ――――そんな状況なのに俺の下半身が身の程知らずの主張をはじめやがった。

「……トイレに行きたくなってきた」

 無事、俺の遅刻が確定した。


    ☆


 ふぅ、本日も無事に放課後がやってきました。部活の時間だー。

 先日まで球技大会の練習があったから作成途中のチャットツールが全然進んでないんだよね。

「しかぁーし、今日は文字列の送受信までできるようにするぞ」

「いきなり独り言を呟き出してどうした? ついにイカれたか。まぁいつかはこうなる日が来るとは思ってたから驚きはしないけど」

「ちっがーう! 部活ができる喜びを全身で噛み締めてただけ!」

 せっかくテンションが上がってたのにコイツのせいで一気に興醒きょうざめだよ。散れ、太一。

 心中でぼやいていると、普段はあまり絡まないクラスメイトが俺の席までやってきた。

「こ、高坂君高坂君、綺麗なお客様が教室前で待ってるよ!」

「綺麗な客……?」

 綺麗な来訪者が俺に何用だ……?

 怪訝に思いつつ教室から出ると、そこには予想だにしない人物が。


「ごめんね。今、少しだけ時間取れる?」

「ほ、星川さん? こんなところまでどうしたの?」

「高坂君にお話があって」


 星川さんは小声で切り出してきた。

 お、俺に話?

「そ、そっか。今大丈夫だよ。それで話って?」

 あ、あかん。緊張で胸がドクンドクンと高鳴ってやがる。

「あの、ね。GWって空いてる日はある?」

 星川さんは少しもじもじしながら切り出した。

 えっ、これはもしやお誘い――?

「い、今のところ金曜と土曜以外は空いてるよ」

 極力平静を装ってみたものの、俺が出した声は思いきり震えてしまった。

 星川さんの方も緊張しているように見受けられる。

「じゃ、じゃあさ、日曜日に二人で出かけない?」

 や、やっぱりお誘いだったーっ!

「え、えーと」

「ダメ、かな?」

 上目遣いで困ったようにはにかむ星川さん。

 そ、そんな絶妙な色っぽさを出されると、俺の顔は血の色で染まってしまうよ。熱い熱い!

「お、おお、俺なんかでよければ」

「ありがとう!」

 俺の回答にニコッと微笑む星川さんだけど、その笑顔はどこか作り物のように感じた。営業スマイル的な。

「それで、高坂君の家からの最寄り駅ってどこ?」

荒木台あらきだい駅だよ」

 星川さんは顎に手を置いて「うーん」と思案したのち、

「じゃあ、日曜日の午後一時に荒木台あらきだい駅前待ち合わせで平気?」

 待ち合わせ場所と時間を提示してくれた。

「大丈夫だよ」

「了解。日曜日はよろしくね」

 日曜日の約束を交わすと、星川さんは手を振って足早に去っていった。

 教室に戻ると、まだ室内に残っていた全員が俺を凝視してきた。

「お、おぉい宏彰ぃぃ! い、今の星川さんだろ? あの、星川さんだよな?」

 特に反応を示してきたのが異性に多大なる興味を抱いている誠司だった。

「そ、そうだけど」

「ナ、ナニの話をしてたんだ!?」

 常時三大欲求爆発の誠司には上手く誤魔化さないと面倒事は避けられない。

「大した話じゃないよ。俺が休み時間に1科側の廊下をダッシュした件を注意されただけ」

「そ、そうか――だがそれだけでわざわざ2科の教室まで来るものか?」

 誠司が怪訝な顔であれこれ考えはじめた。

 まずい、このままではボロが出る。

「ほ、星川さんはその、気高くて真面目だからね!」

「確かにそうだ。宏彰ぃ、ちったぁ自重しろよ」

 だいぶ無理矢理な言い訳だったけど誠司が深く考えずに納得してくれて助かった。

「じゃあ俺は部活行くわ。また明日な」

 実は遊びに誘われたなどと誠司に知られたら、それはそれはしつこく根掘り葉掘り聞かれそうだし。

(にしてもさぁ……)

 きょ、今日は色々とすごい日だ。

 謎の超能力といい、高沢君との連絡先交換といい、遠藤さんとの約束といい、星川さんからのデ、デートのお誘いといい――

 俺の死期が近いってことか?

 神様がそうメッセージを投げかけているなら、短き余暇を全身全霊で満喫しよう――

「宏彰。さっきの星川との会話だけどさ」

 短命なりに精一杯生きることを決意していると、太一が俺の席までやってきた。

「どこか遊びに行くんでしょう?」

「ナ、ナゼニソウオモイイタッタノカナ?」

 先ほど会話した内容が瞬時に太一にバレた衝撃で、思わず片言で反応してしまう。

「わざわざ6組まで来た星川。それと会話中の君の表情で予想したんだけど、本当にそうだったとはね」

 さすがは中学時代からの悪友。エスパーかよ。

「た、頼む。みんなには内緒にしてくれ」

 噂が噂を呼び、1科男子に知れ渡ったら俺はもう学園に来れなくなる。

「分かってるさ。君と俺、そして何気に今隣にいる豊原だけの秘密ね」

 おぅ、豊原いつの間にいたんだ。太一に図星を突かれた衝撃で気がつかなかった。

「さ、三次元のメスに、きょ、興味はないから、ど、どうでもいいよ」

 豊原は二次元の女の子は大好きだけど三次元の女の子は大嫌いなので、面白おかしく他人に漏らす心配はないだろう。

 とはいえ、豊原は三次元の女の子を憎みすぎな節があるけれど、過去に何かあったのかな?

「あぁ……二人ともありがとう。おかげで寿命が延びたよ」

「………………」

「どうかしたの?」

 ふと太一が眉を歪めて難しそうな表情をする。

「あ、もしかして羨ましいとか?」

「あいにく、俺は幼女にしか興味がないんでね」

 ロリコン宣言を真顔で堂々とするとは。これが開き直り――もとい割り切りか。

 いや、そこはいい。前から知ってたし。

「なぜいきなり星川が君を遊びに誘ったのかが気になってさ」

 確かに変だよな。さっきは緊張のあまり疑念を抱かなかったけどどうにも不可解だ。

「純粋に君と遊びたいならいいけど、どうにも解せないんだよね」

 星川さんともあろう女子生徒が、よりにもよって2科の冴えない俺を誘うか? 遊ぶなら歩夢や高沢君あたりだろう。でないと釣り合いが取れない。

「確かに。展開が出来すぎてる感はあるなぁ」

 誘われた時に理由を聞くべきだったかな。けど疑う気満々で感じ悪い印象を与えてしまいそうで。

「裏がないと願う他ないかな」

 うーん。考えても分からないや。

 理由はどうであれ、遊びに誘ってもらえたんだ。たとえ罠だろうが何だろうが、女の子から誘ってもらえたことに感謝しなくちゃ。

 こんな経験は最初で最後、もう二度と味わえないだろうから。

「ところで、二人はGW空いてる日ある? 遊ばない?」

 俺の予定は今のところ星川さんとのデートとバイト一日のみ。豊原先輩も言ってたけど、自室に引きこもるよりも多少はアクティブに過ごしたいところだ。

「ぼ、僕は、よ、予備校が、あ、あるから」

「悪いね。俺もちょっとした野暮用があって遊べる日はないんだ」

「そ、そっかぁ」

 ちなみに誠司は連休中も部活と自主トレに励むとのこと。

 みんな予定があるんだなぁ。

 ……連休中に予定がほとんどないのは俺くらいなのか? そんなバカな!


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