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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
1巻 学内格差編
19/83

第6話 ③

 校門を抜けたタイミングで空を見上げる。

 太陽が沈んできており、青にオレンジ色が混じっていた。もうすぐ五月か。

「二人で帰るのって何気に初めてじゃない?」

「そ、そうですね」

 俺は何を緊張しているんだ。相手はクラスメイトのお姉さんだぞ。

「そうそうっ、もうすぐGW(ゴールデンウィーク)だね。何して過ごすの?」

 あー、そういや来週はGWだ。すっかり忘れてた。

 といってもバイト以外に予定はないなぁ。

 ちなみにGW明けの翌週には中間試験がある。

「特に予定はないですね。引きこもってゲームでもしつつ、たまにバイトや中間試験の勉強をするくらいですね」

「おいおい、引きこもってたら心身に悪いよー。でも偉いねっ。もう試験勉強するんだ?」

「日頃からちまちまやっておけば、試験直前に慌てて詰め込まずに済むじゃないですか。まぁ偉そうに言えるほど成績はそこまで良くないんですが」

「あはは、私はまだ勉強はいいかな~。タカシは早くも勉強を開始してるけどね」

 豊原は成績優秀だからなぁ。苦手科目ですら80点台なのは俺への嫌味ですかね。

「先輩も受験生なんですから勉強しないと」

「するする! そのうちね」

 ……あー。これは勉強しないお決まり文句ですな。

「バイトは例のパソコンショップ?」

「イエス」

「そっかー」

 俺は週に二日程度、パソコンショップでアルバイトをしている。主な業務内容は接客や在庫管理だ。

「ところで辻堂くんは、なんで高坂くんや2科に執着するのかな?」

 豊原先輩は後ろ手を組み、神妙な面持ちで辻堂の話題を振ってきた。

「存在自体が気に食わないんでしょうね。お互いに相容れることはありませんよ」

「学科は分かれてるけど同じ学園の仲間なんだし、みんなで仲良く手を取り合ってほしいけどなー」

「それが理想ですね」

 しかし、それが叶わないから今に至るのだ。現実世界は綺麗でも優しくもないことをこの一年余りで痛感している身としては、2科(じぶん)のこと以外を考える余裕などない。

 豊原先輩との下校は、特に甘いイベントもなさそうだ。

 ちなみに豊原先輩が隣にいるため、周囲からの視線が針のようだ。

 ほら、背後からも視線が――

「――あ、三浦さん」

 後ろを振り向くと、少し離れてはいるけど三浦さんだとすぐに分かった。

「え……?」

 三浦さんの名前を聞いた瞬間、豊原先輩の声に緊張が走った。

「三浦さーん!」

 が、俺は構わず声を上げて三浦さんに手を振った。

「ちょ、ちょちょっと、こ、こここ高坂君? な、ななななな何をしているのかな?」

 豊原先輩はさっきまでの明るい表情はなく、真っ赤な顔で硬直していた。

「……弟以上にどもってますけど大丈夫ですか?」

「だ、だ大丈夫だよ――あ……」

「やぁ、高坂君。それに、と、豊原さん」

 こちらまでやってきた三浦さんは少しバツが悪そうな顔をして俺たちに挨拶をする。

 そうか。この二人、何があったのかは知らないけど、どうも変な雰囲気なんだよな。声をかけたのは失敗だったか?

「あ……あ、あ……わた、私…………うぅ」

 気まずい沈黙。

 心なしか、豊原先輩が小刻みに震えている気がする。声もかすれてるし。

「ね、ねぇ、豊原さ――」

「ごっ、ごごごごめんなさいぃッ!」

 豊原先輩は三浦さんの台詞を待たずして猛スピードで走り去ってしまった。その影響か一瞬ほんのり強い風が吹いた。

「はは。僕、相当嫌われてるみたいだね」

 三浦さんはお手上げとばかりに項垂れた。

「一体何をやらかしたんですか。あの様子だと相当ご立腹のようですけど」

「そう言われても全く心当たりがないんだよ。うーん、困ったなぁ」

 心底困った顔で頭を掻く三浦さん。

 異性との確執を放置しておくと後々面倒だ。と、前に俺の弟が言っていた。俺にはそんな経験がないので知らんが。

 結局今回も豊原先輩がエスケープしてしまったので三浦さんと二人で帰ることになった。前にも似たようなパターンがなかったか?

「三浦さんは連休どうするんですか?」

「ははは、もちろん勉強だよ。たまにネットやアニメは嗜むけどね」

 ふむふむ。典型的な2科って感じの休日だ。

「1科の方は知らないけど3年の2科はもう各クラス全体が受験ムードになってるよ。休み時間も昼休みも大多数の人が参考書を開いて勉強してる状態なんだ」

 へぇ、さすが3年生は締まってるなぁ。

 同じ3年生でも豊原先輩は連休中これっぽっちも勉強をする気なんてなさそうだったけど。

「あ、そうだ。今日は本屋に行こうと思うのですが」

「行くのはいいけど君に本は買わないからね」

 あ、俺の考えは見事に読まれてましたか。さすがはたかられ王子だ。

 まぁ、冗談だけど。


    ☆


 翌日の昼休み。

「君はどうだったの?」

 昼食を済ませ、机に突っ伏して微睡まどろみと戯れていると、太一が話しかけてきた。

「どうだったって?」

「お前も何もないかー。普通はそうだよな! いやな、突如変な能力に目覚めた奴らがいるんだよ! よっしゃ隆! 宏彰にアレを披露してやれ!」

 誠司のテンションが普段にも増して高いが、アレって何だろう。

「ぼ、僕の力を、と、とくと、み、見るがいい」

 豊原は腕を伸ばし、両手人差し指と親指で三角形を作る。バレーボールのオーバーハンドパスのようなポーズだ――


 ――――え!?

 と、とと、豊原が指で作った三角形から、ビ、ビーム状の炎が表れて――――窓の外まで飛んだところで消滅した。


「今のは新手の手品か!?」

 何やら魔法が発動した気がしたけど気のせいだよね!

「ビビるのも無理ないぞ。俺も初めて見た時は身の毛がよだってパニックになったからな!」

「ぼ、僕も、な、なぜか分からないけど、し、知らない、はずなのに、て、手で三角形を作ることで炎が出せると、し、知ってたんだ……!」

 豊原が突如魔法使いになってしまった!?

 い、いやいや。これはきっと夢だ。そうに違いない。

 魔法? ありえないありえない。

 炎が使える? ちょ、バトルもののライトノベルかよって話だ。

 炎を出す際のポージングが微妙な気がしたけどそんなん些細な問題だ。

 未だに俺の脳は事態を整理できていない。

「誠司、俺の頬を引っ叩いてくれないか。そろそろ夢から覚めるよ」

「了解。お前を現実逃避という名の悪夢から解放してやるよ」

 誠司は手を振り上げて、俺の左頬に向かって振り抜いた。

 ばちん、と小気味よい音がする。

 響きと僅かな時間差で、俺の左頬に鋭い痛みが走った――って。

「痛ってぇ!? え~これ夢じゃなかったの? 夢遊病か何かじゃなかったの?」

 夢オチじゃないのかよ! ということは、これは現実……。

 あまりの衝撃でとても信じられない。魔法使いはこの世に存在した? 科学と魔法は相反する概念じゃないの?

「豊原だけじゃないぞ。他にもクラスの数人に特殊能力が備わった」

「えええ~!?」

 何そのトンデモ超展開。あぁ、立ち眩みが。

「僕のも見てよ。ほっ!」

 刹那、クラスメイトが立っている位置が変わっていた。

「おおっ、瞬間移動ですと!?」

「けど、移動できる距離は二メートルくらいまでが限界なんだ」

「ずいぶんと細かい設定で……」

 いや、ゲームとかならショボイかもだけど、リアルで見る瞬間移動は正味二メートルだろうと、視覚には抜群の破壊力を与えてくる。

 魔法など存在しないという思想が当たり前のこの世界で魔法が存在している実態を目の当たりにしている。なんということだ。

「僕のも見てて。ふんっ!」

「う、浮いてる! 空中浮遊だ! 一メートルくらいだけど」

 突如覚醒したクラスメイトの特殊能力に教室ではどよめきが止まらない。

 あまり騒ぐと他クラスにバレそうだけど、今はそれを気にする余裕などない。

「で、太一や誠司にはどんな力が?」

 食いつき気味で尋ねるけど、

「あー……俺や誠司は何も使えないっぽいんだよね」

 太一は少しバツが悪そうに人差し指で頬を掻きつつそう答えたのだった。

「なんで能力がある人とない人がいるんだろう?」

「それは分からないけど、能力者を見ると共通点がある」

 太一は洞察力に定評がある。早速共通点を発見したのか。

「どんな共通点?」

「全員人生の負け組だね」

「それすっごく失礼じゃない?」

 確かに能力者を見渡すとクラスでも特に大人しく、目立たない人や捻くれた人ばかりだけど、ただの偶然かもしれないじゃないか。それを勝手に負け組だなんて――

「君は本当に何もないのかい?」

「お、俺? 俺も特には――」

 と、言いかけたところで。


 待てよ。

 心なしか両手に痺れる感覚が。

 昨日も同じことがあったな。

 静電気に感電したような感覚。

 もしかして――


 俺は右掌を見つめ、拳を握って力を入れてみる。

 痺れる電気のような物質が掌の中心に集まるよう意識する。


 すると――――


「うおっ! 宏彰の右手に電気の塊のようなモノが出てるじゃねーか!」

「君も能力者だったのか」


 太一と誠司が驚いた表情で薄緑色に染まった電気の塊を見つめている。

 これ、出したはいいけどどうしよう?

 ひとまず――


「くらえ、太一っ!」

「ビビビビビガガガ! ひ、宏彰、貴様……な、んで…………あぁんきもてぃ~」


 太一にぶつけるつもりが、誠司に直撃させてしまった!

 プスプスと音を出しながら失神中の誠司に心の中で謝る。

「せ、誠司は大丈夫かな?」

「気絶してるだけだね」

 ほっ、よかった。心から安堵する。

「しばらくすれば意識を取り戻すだろうけど、普通に危ないから人に投げ飛ばすのは遠慮してほしいな。でも、これで君も晴れて能力者の仲間入りだ」

「すごいでしょ、エヘン」

「やはり、人生の負け組のみの力で間違いないね」

「それものすっっっごく失礼じゃない?」

 確かに俺の人生は絶賛負けてる最中だけどそれと超能力がどう関係してるんだよ。

 文句を言おうとすると、太一が厳しい表情で口を開いた。

「なぜ、一部の人に超能力が使えるようになったのかは分からないけど、これは絶対に公にしては駄目だね。間違えても人前でひけらかすのは御法度だ。この件を他クラスの生徒が知ったら大パニックが起こるのは避けられないからね――それに」

 一呼吸を入れ、太一はいっそう真剣な面持ちになった。

「――能力によっては、命を奪うことすらできてしまうからね」

 その通りだ。俺は、自分は選ばれし人間なんだと、一瞬中学生のような想像をしてしまった。

 けれど、いち生徒には手に余る力を無闇に使えば、他傷することも十分に考えられる。

 現に俺は誠司を気絶させた。よく分からない力を安易に振りかざして友達を傷つけたんだ。

「……だね。それに化け物扱いされるのも嫌だしね」

「能力は俺たちの心の中にしまっておこう。人前であろうと、一人でいようと、絶対に使わないこと。この存在は忘れよう。超能力など、最初からなかったんだ」

 太一の言葉にクラスメイトたちが頷いている。

 本来なら学級委員の誠司が締める場面だけど、俺のせいで気を失っているから仕方がない。


「け、けど、こ、この力があれば、せ、世界を征服できるかも――ふ、ふひひひ」


 ………………今の猟奇的な独り言は聞かなかったことにしておこう。


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