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名もなき神学者の偽書  作者: уТ
第3章 ツァラトゥストラ
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第3章 4節 物域塔占領作戦

 ジークは、ぼくにフェリックスの注射器を渡した。ぼくはそれ受け取って、首に打ち込む。平和の為の戦争。ダブルスピーク・パラドックス。全ての戦争が集結した中、この世に存在するのは"テロ"だけだ。人知が及ぶ全ての地域にモメントによって物域(ものざかい)を飛ばし、電波の代わりに物を飛ばすようになった。この技術を作ったスシャーは、あっという間に世界最強の軍へとなったのだ。婉曲的修辞による精神の支配。情報戦。モメント。列強国の連邦への編入。コスモポリタンが、あっという間に完成してしまった。そこはディストピア。いつも、フェリックスを打ち込むときは、意識が朦朧とする。これくらい別の事を考えていないと。

 夜のように暗かった空は、いまやすっかり青空になっている。遥か遠くに、天空を貫く物域塔。根元は地平線に消えている。先程は黒雲を貫いていたが、今は太陽と同じ高度の青空を貫いている。さっきまでは雨でよく見えなかったが、その細身の塔は数々の紐で支えられているようだ。

「私達が今回実行しようとしていた作戦は、あの電波塔の占領です。メイベル、解説を頼む」

背の高い方のメイベルが前に出てくる。

「あの電波塔の物域システムを破壊、占領して塔を鹵獲し、暫定帝国軍の転送装置を設置することで、三段階防衛構造の最深部、すなわちЛ五三二の爆心地付近まで辿り着くことができます」

 なるほど、……というかヴァルはそもそもこのことについて知ってて戻ってくるように言っていたんだろうか……。続けてメイベルが口を開く。

「しかし治安維持社の兵士は本部に近付く程弱くなりますね。通常、分隊による開けた場所の空対空戦術ドクトリンでは物域有効内で哨戒中に敵と遭遇した場合、通信兵が一人離脱して被害報告及び兵站、人員の補給を行うのが定石なんですが、先程の戦闘では通信兵まで戦闘に参戦し、乱れた陣形の中でまんまと我々に通信兵を攻撃させてしまっていました。多分、増援も来ませんね」

ジークは首をかしげながら言う。

「戦闘中も気になったんだが、数千日前に配備され始めた最新式の自動転送装置が通信兵に装備されてないな。ネフィリムの生産数が間に合わないのか」

「そのようです」

 やれやれ、ぼくは機械や戦術の話は浅くしか知らないから、皆の話は良くわからない。相変わらずだけどね。皆が何やらごたごたと話した後、作戦が決まったようだ。

何やら司令塔であるジークがぼくを絶対的に守り、三人で手前、奥、上空から最大速度で突入するらしい。

「絶対的に守るっていっても……一体どうやって……」

 ひゃぁっ、あっ……。今の声聞こえちゃったかな、ジークは突然ぼくを背負って、ぼくのお尻を片手で持って支えながら自分のハーネスとぼくの治安維持社制服のベルトをカラビナで固定した。

「ご無礼をお許しください」

「ちょっ、一声かけてよ、ばかっ」

ぼくはジークの肩を強く叩く。すると、汗と雨の乾いた匂いが少し舞った。嫌じゃない。

「レイ樣、いざとなったら、私の腰についたナイフでこのベルトを切って、逃げてください」

 そう言うと、ジークは徐々に前方に落下する。ジークが背負っているので、背負われているぼくには風圧が来ない。ケイトは物域塔の表、メイベルは物域塔の上空、ジークとぼくは物域塔の裏からの突入だ。表をあんなに小さなケイトに任せても大丈夫なんだろうか……。先程メイベルによる斥候があり、敷地内には四体のネフィリムがいることが判明した。あの金属ロボット……ネフィリムに、同時多発的に攻撃することで連携の乱れと撹乱を狙うらしい。

 右手の遠方にネフィリムが見える。相変わらず不気味な顔をしている。ぼんやりとしか見えないが、口のような場所にはモジャモジャとした細長い触手のようなものが見える。口はあるのに目はない。この前のネフィリムと違うな。

今もなお前方に急降下するジークは、腰のポーチに手をやる。対ホーミングのフレアとチャフか……。これでフェリックス使用者を追尾するミサイルを撹乱できる。だが、流石に機関銃を無効化させることは不可能だ。ネフィリムに装備される機関銃の射程外にいる必要がある。凄まじい轟音とともにポーチから小さな火の(フレアとチャフ)が放出された。気付かれるか……。

 うっ、ヤバい。警報が響き始めた。流石にフレアやチャフを撒き散らしたことで、何らかのセンサーに感知されたのだ。ぼくは風にかき消され無いよう、大声でジークに叫んだ。

「ねえ!大丈夫なの!?」

「……」

ジークはこちらをむいてなにか言ったが、風の音が大きすぎて聞こえない。でも、口の形で、確かに大丈夫と言っているのが見えた。一体、どういう戦術なんだろう。前方に見える物域塔の根元の施設がどんどんと視覚の中で巨大化する。このままの速度で壁に着地したらミンチになってしまいそうだ……。物域塔とぼくたちの距離は四階建てのビル程度にまで近づいていた。やっとジークは減速し始めた。凄いGが身体にかかる。ぼくもフェリックスを使って反対方向に意識を強める。

 ふう、やっとスピードが下がって、大地に下降していく。

 着地と同時にジークは急いでカラビナを外し、ぼくの手を引っ張りながら物域塔の根元、鉄骨にある発電機のような巨大な機械に向かって走る。ネフィリムは多分、今もこちらを索敵しているだろう。手を引かれ走りながら、ジークのもう片方の手を見ると、親指程の大きさの銀色の塊を持っていた。弾薬?否、まさか、手榴弾……?暫定フウイヌム帝国は、こんなに小型化した手榴弾を作れるのか。チェーカーの資料でも、握り拳より小さな爆弾なんて見たこともない。ジークはそれを物域塔の機械に投げると、ぼくの両腰を正面から掴んで、押すように機械とは反対方向に落下した。途端、投げた手榴弾は爆発。

「ジーク、今爆破した機械は何?」

「あれは我々の物域転送を妨害するジャミング装置です。これを破壊さえしてしまえば、帝国防空軍の師団をここに移転することができます。これこそ、今回の作戦の目的ですよ」

 上空にいたメイベルと、こちらに向かっていたケイトは進行方向を変え、何やら全く違う方向に飛んでいっていまった。まさか……逃げたのか?彼女達は一列になっている。

 するとその直後、目の前に大量のネフィリムが出現した。さっき見かけたネフィリムよりずっと小さい。しかしざっと見る感じ何十体もいる。囲まれた、もう一巻の終わりだ。ネフィリムらが向けている銃口の先は……。

 な、なんだと?ぼくたちのことは狙わずに、辺りを警戒している。

「ジーク、あのネフィリムは何?」

「はは、我々の勝ちですよ。あれはネフィリムではなくてエグゾスーツ、つまり我々フウイヌム帝国防空軍の地対地戦闘機です」

 それは凄い。確かに背中の装甲に、桐を象った帝国の紋章が彫り込まれている。ジークのポーチから電信のツートントンという音が聞こえた後に、メイベルとケイトが近くに転送されてきた。なるほど、ジャミング装置を破壊することで簡易転送装置の使用が可能となったということか。

「じゃあ、さっきメイベルとケイトが一列になって飛んで行ったのは、このエグゾスーツの部隊を簡易転送装置で中継して、ここに飛ばすため?」

 ジークが頷く。このエグゾスーツの規模……。大隊レベルかな。この部隊が先駆けて、後にここに師団の衛戍地が作られるのか。ということはハーネスブルグの奪還は目前……。素晴らしい。

 物域塔の施設内部で爆発音が多々聞こえ、遠方でエグゾスーツが機銃を発砲したりミサイルを撃ち込んだりする音が聞こえる。ネフィリムを掃討しているんだな。

ジークは全体を把握した後言う。「四千秒後、物域塔のアンテナを整備次第、Л五三二に向かいましょう」

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