第3章 2節 転送装置
建物と建物の隙間を走りながら思考する。ベーの五五七か……。座標はきいたからちゃんとわかってるんだ、しかしスシャーの有線転送装置なんて初めて使うが、ぼくは機械音痴だけど、ちゃんと使えるのだろうか……?説明書なんてないよね!?
あっ──
考えながら壁の角を曲がったところ、青い制服の兵士と衝突した。考える暇もなく、一秒以内にぼくは兵士の持っていたライフルの紐をナイフで切って奪い、構えた。
兵士は仰向けに転んですばやく後退りをしながら、目ん玉が取れるんじゃないかと杞憂する程、目をまんまるにしてこちらをみている。
丁度いい、こいつに有線転送装置の使い方をきこう。
「こ、殺さないでくれぇ……」
命乞いとは呆れる……。それでも兵士か。こういう奴が捕虜にされるんだろうな。いや、現になってるじゃないか。もし我々のチェーカーにいたら、こんな足引っ張りは即刻クビだが……。
「お、俺は単なる治安維持社の社員だ、銃を持たされてる社員なんだ。こ、こ、こ、後方支援の仕事でこんなことになるなんて契約ではきいてないぞ」
兵士はみっともなく半泣きになりながらそう言った。
「はいはいわかったから。その腰にある拳銃のマガジンをぬいてぼくの方に投げて。ホールドオープンの状態にしてね。変な気は起こすなよ?もし変な気を起こしたら、その間抜け面に風穴空いちゃうぞ?」
「ホ、ホールドオープン?なんのことだ?」
兵士は拳銃を取り出してスライドをガチャガチャ引きながら銃口を覗いた。
「あーばかばか!トリガーガードに指を入れちゃだめ!覗くのもだめだって。もういい、そのままぼくの方に投げて」
な、なんだこいつ。装備だけはいっちょ前。いや、正規軍以上に豪華なのに、銃の使い方も知らないのか……。民営の軍事会社はこんなものなのか?
「もういいや、ちょっとぼくも寒いからその服と帽子ちょうだい。変装もできるし。まずポーチから外してよ?」
兵士はこくりこくりと頷きながら、服を脱ぎ始める。ぼくはライフルの弾を抜いて、拳銃に持ち替えた。拳銃を構えながら兵士の脱いだ服を着る。こんなにぼくが無防備になってるのに、反撃しないとはなあ……。
よし、変装完了だ。多少背が低いけど……。まあ一見してバレないよな。きっと。ぼくはまたライフルに持ち替えて、拳銃をホルスターにしまう。ポーチに手錠が入っていたので、兵士にかけた。
さあ、堂々と人気の多いところにいけるぞ。そしてこの兵士?は脱獄囚ということにすればいい。立場が逆転だ……。
よし、難なく公衆有線転送装置の前についた。ぼくは、兵士に操作するように命令した。どうやらさっきの操作できないかもというのは心配無用だったようだ。
「ざ、座標は幾つに設定すれば宜しいですか」
「座標、ベーの五五七だ。打ち込んだら消えていいぞ」
兵士は素早く打ち込んだ後、悲鳴をあげてどこかに逃げていった。
さて、転送装置か……インフラも資金もないチェーカーの基地では、こんなものなかったな。鹵獲したフェリックスが数個、それだけだった。
転送装置のここに指をおけと書いてある場所に指を当てると、指が段々と消える。指の感覚は全くなく、指が消えたという不安感も、痛みさえもない。指はもう到着地点についているのだろうか。段々と腕が消え、胸、首、そして頭が消えていく。
暫くして意識が朦朧としていたが、はっきりと大地に広がる地平線が見えた。天気は曇り……鈍色、否、最早黒色の空が唸っている。今にも雲は泣き出しそうだ。はて、後ろを振り向くと遥か遠くに、細長く高い塔が見えた。あそこからぼくはデータとして転送されたのだろうか。有線として飛ばされるのは途中までか……。
というか、スシャーの転送が届く限界地点で、目の前にはスシャーと敵対する組織の野営基地……。ということは、ここってもしかして最前線!?
そう思うと同時に上空から轟音が鳴り響く。落雷、ふり始める雨と同時に上空を大量の人が雨天を飛行していった。目を凝らすと、豆粒のように小さく見える人が衝突したり、銃を撃ったりしている。混戦だ。
うわっ、その中の一人がやられた。失速し、ぼくの近くに落下してくる。ぼくがさっき奪った服と同じ服を着ている。スシャーの兵士か?あっという間に地面にグシャリとぶつかり、こちらをむいた顔は半分が潰れている。血が雨粒と交わり土はそれを吸い込む。スシャーではない方の兵士達は、黒い軍服のような服を身にまとっているように見える。フェリックスを利用した斥候だろうか。ぼくは、目を付けられてはたまらないと思って、制服と装備を脱ぎ捨ててシャツのまま走った。
ぼくは凍った。雨よりも冷たい鉄がシャツ越しに背中に伝わる。手を上げながら後ろを見ると雨に打たれ銃を構えた黒い軍服の兵士が……。そして被っていたフードを外して口を開いた。
「ま、まさか……」
黒い制服の兵士はそう言って銃口を下げると、口を噤んだ。上空では戦闘がおさまったらしく、同じく黒い軍服の兵士が二人、こちらに着地してきた。そのうちの一人はぼくと同じ銀髪の男で、け、結構な眉目秀麗だ。右目と左目の色が違っていた。オッドアイか……。青と黒だ。なにか他の二人とは違う雰囲気が漂っていた。唯一男だから?オッドアイだから?違う。根本的に雰囲気が違う。オッドアイの男は口を開く。
「皇女樣……?」




