第2章 5節 戦闘
「ねえ、ツァラトゥストラ、あの機械の化け物は何?」
「あれは対フェリックス特化型地対空戦闘機、通称ネフィリム。スシャー防空軍が開発、運用している兵器よ。麻薬カルテルごときが……。買えたのか、鹵獲したのか……。わからないけど、とにかくとてつもなく高価な兵器よ」
「対モメントに特化した対空兵器?ということはこのジープみたいな地上目標には、逆に弱いということ?」
「そ、そうだけど……」
「ツァラトゥストラ、戻ってくれ。今ぼくは手榴弾を持っている。最高速度で走行すれば、歩兵とも馬とも認識されないだろう?」
「えっ、そんな……」
「ほら、現にネフィリムはゆっくり走ってる時は機銃でこちらを狙って、はやく走っている時は銃をおろしている。多分あれは兵站的な戦略で、ミサイルを節約する為に、歩兵や馬には機銃を使うように設定してあるんだ。そして、馬よりも速い地上目標は狙えない。なんせ馬を使わない軍隊なんて、ぼく達くらいだから」
ツァラトゥストラは運転しながらネフィリムをちらちらと見て納得した。そして前を向きながら話す。
「やっぱり貴方の洞察力はすごいわね。貴方を拾って、兵士として育ててきたかいがあったわ」
ジープは外側にGをだして急ターンし、ネフィリムに向かって走る。
「良い?手榴弾は一個ね。ということはチャンスは一回、外したらもうネフィリムは倒せない。もう少しでこのジープの電気バッテリーは切れる。ここから基地まで逃げ切れるバッテリーも、さっきの場所、さっきまで運転していた裏切り者のポケットにあるわ……。もちろんモメントなんて持ってない。ということはネフィリムを倒すしかないってこと」
「わかった、必ず仕留めるよ」
ジープは、まるで石油を用いた車のように耳を劈くエンジン音を立てた。
ネフィリムは徐々にぼくの視界の中で大きくなり、次第にその機械の身体の中身さえも見える距離になってきた。青白い光が心臓の位置で光っている。そこに目がけ、ぼくは思いっきり手榴弾を投げ込んだ。カランコロンと機巧の中に入り込む。
三、二、一……。
手榴弾は大爆発を起こし、ネフィリムは強い力を加えられて転げ落ちるやじろべえのようにバランスを崩した。さらに内部の燃料と思われる物体に引火して燃え上がる。
ジープはギアを下げて停止し、
ぼくとツァラトゥストラはジープからおりた。
土に立つと、ネフィリムの煙と混ざる懐かしいような香ばしい匂いが舞った。
「やったわ!」
ツァラトゥストラは僕に抱きついて、胸を顔に押し付ける。
「く、苦しいよツァラトゥストラ」
「ご、ごめんなさい!」
ツァラトゥストラはぼくの肩を持って引き離した。
ぼくたちは、その燃え上がるネフィリムを眺め続けていた。




