第6章 『七夕』
「でさ、やっぱり凄かったよ国立は」
「そうなの?」
「なんていうか、客席全体が真っ青なんだよね」
「へえ〜」
「でも負けちゃって悔しいよなあ。俺があの時出ていれば……」
「もっとひどかっただろうね」
「あっ、ひでえ!」
あれからというもの、僕らは前より仲良くなった。何と言うか、お互いに言いたいことを言うようになって、どんどん打ち解けていっている。
そして、お互いに無理をしなくなった。体調が悪い時は言ってもらうことにし、僕が忙しい時は無理矢理行くということがなくなった。
そのくらいがちょうどいいんだなと、実感する。
ちなみに、期末テストは、見事に前回の借りを返すようにいい感じの成績だった。
「ん?」
カレンダーの7月7日の所に○がされてある。七夕だからかな?
「ねえ、あのカレンダーの○って……」
「え?ああ、あれね。何だと思う?」
「う〜ん……七夕だから?」
「それもあるけど……もう1つあるんだ」
「えっ、何々?」
「わからない?」
「う〜ん……誕生日とか?」
凜は笑う。どうやら当たりだ。
「それでね、その日はこの近くの神社でお祭があるの。それでその日、もし体調が良かったら、特別に行ってもいいよって言われたんだ」
「そうなんだ。それはさ、ご両親と行くの?」
「ううん、一緒に行こうって言われたんだけど、他に行きたい人がいるからって断っちゃった」
「え、それって……」
僕は恐る恐る聞いてみた。凜はニヤリとする。
「悟君、一緒に行ってくれる?」
僕はホッとした。他の誰かでなくてよかった。
「俺で良ければ」
「やった!誕生日にデートだ!」
凜はまるで子供のようにはしゃぐ。
「おいおい、あんまりはしゃぐなって。小学生みたいだぞ?」
「あっ、何よそれ」
「遊園地に行く子供みたいだ」
「ちょっと!さっきから子供扱いして〜」
「え〜?でも背なんかこんなんじゃないか」
僕は立って、腰の辺りに手をかざす。
「そんなに低くないよ!」
顔を赤くして怒る凜。僕はケラケラと笑った。七夕の祭、楽しみだなあ。
「あっ」
僕は授業中だが、思わず声に出してしまった。
「ああ?」
よりによって鬼山の授業だ。
「あ、いえ、何でもないです」
その日は誕生日なんだから、何かプレゼントを渡そうと思ったのだ。でも、こういうのは何を渡せば良いのだろう?
「プレゼントォ?」
僕は剛に聞いてみることにした。こういうことは、アイツはよく知っているからだ。
「実は……」
僕はことの経緯を話した。
「ほぉ〜、それでプレゼントか。でもそんなの、お前が好きに選べば良いんじゃねえ?好きな人からのプレゼントなんて、何だって嬉しいと思うけどな」
「いや、でもさ、具体的にはどういう……」
「そうだなあ……じゃあさ、アクセサリーとかにしたら?ネックレスとか」
「でも、それって高いんじゃ……」
「大丈夫だろ。安いのなら5000円ぐらいのもあるぞ」
5000円……。バイトをしておらず、小遣いを貰っている身としては少々辛いが、仕方あるまい。これも凜へのプレゼントの為だ。
そして翌日の土曜日。僕は近くのデパートへ来てみた。何か彼女に似合いそうなものはないだろうか。と、あるペンダントが目に入った。
「これ……」
銀色で、真ん中に赤いのが埋め込まれている。特に他と比べてどうというのは無かったのだが、何だかそれに惹かれた。
そして、5000円をまるまる使って買った。よし、プレゼントは用意した。あとは、明日だ。
翌日。学校から10分ぐらい歩いた所にある神社。病院からも同じくらいで着く。夜の6時に神社の前に集合である。僕は10分ほど早く着いた。迎えに行ったら良さそうなものだが、彼女曰く、待ち合わせもデートの楽しみなんだとか。
もっとも、凜は来られるかどうか微妙なのだが。というのは、体調が良ければ来られるのだが、もし悪ければ来ることは出来ない。その時はとりあえずプレゼントだけでも持って行こう。そう決めていた。
ふと、視界が何かで覆われる。
「だ〜れだ?」
「……凜?」
「あったり〜」
ニコッと笑う凜がいる。
「体は平気なの?」
「うん。でもね、2時間で帰らないといけないんだって」
「そっか。あんまり無理させられないもんな」
と、凜が浴衣姿だったことに気付いた。思わず見とれてしまう。
「どうしたの?」
不思議そうに尋ねる凜。
「いや、その……か、かわいいよ……浴衣」
僕は照れつつも、何とか褒めることが出来た。が、凜はそれを聞くなり笑いだした。
「なっ、なんだよ、笑うことないだろ?」
「あはは、ごめんなさい、ちょっとね、照れくさそうなのがかわいくて」
「チェーッ」
「あ、ごめんごめん、ありがとう」
「お、おお……」
改めてお礼を言われると照れる。
「これね、お母さんのお下がりなんだ。今日来てくれて、着させて貰ったの」
「そうなんだ」
「ねっ、早く行こ!時間も限られてるんだし」
そう言って凜は後ろを気にしながら走って行く。僕はそれについて行く。
お祭だけあって、色々な出店があった。金魚すくい、ヨーヨー釣り、ベビーカステラ……沢山見て回った。凜ははしゃぎっぱなしだ。本当に病気なのか?と疑ってしまうほどだ。でも、彼女の楽しそうな様子を見ると、こっちも嬉しくなった。
「はあ、疲れた〜」
「色々回ったからね。大丈夫?辛くない?」
「うん、平気。ありがとう」
僕らは石の階段に座って空を見ていた。七夕にふさわしい、満天の星空である。
「きれい……」
「本当に……珍しいな、こんなに見えるなんて」
それはもう本当にきれいで、例えるなら宝石箱の中身をひっくりかえしたように、キラキラと光っている。
(そろそろかな……)
「凜」
「うん?」
「今日はさ、プレゼントがあるんだ」
「え、なあに?」
「これなんだけど」
「ありがとう。開けてみていい?」
「いいよ」
凜は包みを開ける。そしてペンダントを見ると、パアッと明るい顔をした。
「わあ……」
どうやら喜んでくれたようで、胸をなで下ろす。
「嬉しいな、ありがとう!」
凜は早速つける。
「どう、似合う?」
「ああ、似合ってるよ」
「これ、一生の宝物にするね」
「そんな大げさだよ」
「そんなことないよ。だってせっかく悟君が買ってくれたんだもの」
ニッと彼女は笑った。
「実は、私もキミにプレゼントがあるんだ」
意外な言葉だった。
「えっ、何々?」
「これ……」
見るとミサンガだった。切れたら願いが叶うというアレである。
「え、これ、作ったの?」
「うん。コッソリ作ってたんだ。看護婦さんがいい人で、作り方教えてくれて」
僕は凄く嬉しかった。今までに女の子に何かを貰ったことなんて無かった。それだけに喜びもひとしおだ。
「ありがとう。大切にするよ」
「よかった。喜んでもらえて」
そしてまた星を見上げる。本当にきれいだ。ふと凜を見ると、凜もこっちを見ていて、目が合って微笑む。そして、自然と手をつないだ。
凜の手は少し冷たかった。手の冷たい女の人は、心が温かいと聞いたことがあるが、凜もきっとそうだ。
「悟君、手、あったかいね」
「そ、そう?」
「もう少し、そっち行ってもいい?」
「ああ、いいよ」
そう言うと凜は真横に来て僕の肩にもたれかかってきた。僕は動揺を隠せない。が、凜はそのうちにすぐ寝てしまった。
「寝ちゃったか……」
なんだかホッとする。僕は夜空に向かって祈った。神様、どうかこの娘の病気が治りますように。その為なら、僕は何だってします。だから彼女の病気を治してやって下さい。
「ありがとう……」
凜が呟く。どうやら寝言らしい。きっと楽しい夢を見ているのだろう。幸せそうに笑みを浮かべている。もう少しで帰らなければいけなかったが、もうしばらくの間、このままでいたいなと思った。




